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8話:美少女からの軽い尋問は美しくない拷問

「……とまぁ、そういう事情でこうなりました。はい……、深く反省しています……」


 オレはサクラにこうなった状況を問い詰められて、ありのままを全て話した。

 転生者の活躍によってギルドをクビになったこと、その他もろもろ。

 サクラの魔術は、とんでもなく恐ろしかった。嘘を言うものなら、容赦なく鋭い痛みが全身を包み込む。

 おまけに、いくら痛がっても手は絶対に離さないし、屈託のない笑顔でオレの目に視線を向けてくるのがより一層恐怖を引き立たせた。

 本人は尋問というが、これは紛れもなく拷問だ。


 えっ、実は楽しんでたんじゃないのかって?

 全然楽しくない、二度とこんなのはゴメンだ。

 魔術の恐ろしさもそうだが、サクラ・セトという一人の少女の恐ろしさをオレは再認識した。


「事情は分かりましたが、そんなことでそこまでしますか? それにしても、本当に底なしのバカではあるとは……、心配して損しました。それでどうします?」


 限りなく拷問に近いような取り調べ後の二人の間には、さっきまでのよそよそしさはすっかりなくなった。

 今では、主導権はサクラに握られている。


「どうしますって、なんだよ? なんだ、オレを見逃してくれるのか?」

「私の手によって天寿を全うされるか、あなたを恨んでいる方々によって天寿を全うされるかということです。まぁ、私としては自分の手であなたを葬りたいのですが」


 おいおい、どっち道死ぬことは確定しているのな、オレは。


「あんたバカなんじゃないの? どっちを選んでも…、痛てててっ、おひ、やふぇろ!」

「お口がよろしくないですね。まず、バカなのはあなたでしょう!」


 オレの頬を強くつねりながら、サクラはそんなことを言い返した。


「そうじゃなくてだ、なんで死ぬことしか選択肢がないんだよ。生きる選択肢はないのかよ」

「ありますよ。素直に私の取り引きに応じてくれればですけど?」

「取り引き? オレはそんなに金目のものとか持ってないぞ、ましてや魔術もないし」

「いいえ、そういうことではありません。私の部下になること、それが条件です」

「部下になること? 申し訳ないが、オレはあんたのお力になれないな」

「どうして?」

「どうしてって、そりゃ決まってるだろ。今オレは犯罪者だぞ、そっちのメンツを潰すことになるだろう」

「もうすでにホクトさんの活躍のせいで、私のメンツが半分潰れているですけど? 別に断ってもいいですよ。その代わり、ホクトさんを今すぐ殺しますけど」


 サクラはオレにそんなことを冷たく言い放つ。


「おいおい、そんないくら何でも横暴すぎるだろ。そんな重罪してないだろ」 

「道路交通法違反、魔術使用違反、公務執行妨害、器物損壊、何十件も違反を重ねているんですからそうなるでしょう。見てみます、これ? 罪状が全部書いてあります」


 サクラはカバンから逮捕状を取り出し、オレに手渡す。


「げっ、こんなことになってるの。やばっ……」


 確認したオレは書かれている内容に、思わず言葉を失ってしまった。

 ここまで、重罪とは思いもしなかった。


「人をはねてたら、確実に死刑ですよ。それでどうします? 取り引きに応じます?」


 年下の女の子に遣えるのは、気持ち的に負けた気がするが仕方ない……。


「分かった、素直に取り引きに応じるよ」

「はぁ良かった、物分かりが早くて助かります。これで私の処分も何とか……」

「おい、今なんか言わなかったか? 処分がどうとかって」

「気のせいですよ、ちょっと電話しないといけないんで静かにしてもらえます?」

「はいはい」

「もしもし。ええ、はい……いま、打ち合わせ通り、ターゲットを落としました。……はい、……はい、では待機してますのでお願いします。あと、騒動の件ですが……」


 サクラは携帯を取り出して、誰かに連絡を始める。

 なんだよ、ターゲットって……。嫌な予感しかしないんだが……。

 通話を終えたサクラはこちらを見て、


「あと10分ほどでヘリコプターが到着するそうなので、それまでここに待機しててとのことです。詳しい話はヘリコプターの中でしますから」

「もう一つだけ質問させて。オレのWRXはどうなるのさ? まさか、ここに置きっ放し?」

「いえ、後で私の仲間が回収しに来ます。私の車も1キロ後ろに停めてあるので、ついでに。しばらくは、私が預かっておきます」

「えっ?! あんたのものになるかよ」

「まぁ、そういうことになりますね。それと、私からもう1つお願いがあるんですけど」

「車も奪ったらもう十分だろ、まだあるのか?」

「名前で呼んで欲しいんですよね。そのあんたではなくてサクラがいいです」

「はいはい、サクラさんね」

「サクラです」

「分かったよ、サクラ」


 それから、10分ほどすると空からプロペラの轟音が耳に入った。


「到着しましたね。それでは、行きましょう」


 あれ? なんだか、ヘリにしては妙に音が大きくないか?


「それは構わないが……、あのさ、ヘリコプターだよな? 明らかに、オレの知っているヘリコプターの音と全然違う気が……」

「はい? ヘリコプターですよ。痛みのあまり、頭がクルクルしちゃいました?」


 運転席から降りて音がする方の空にホクトは目を向ける。


 おいおい、マジかよ……、あれ、なんだよ!


 着陸灯を光らせながら下に降りてくるヘリコプターは、ホクトの想像をしていたものとは大きくかけ離れていた。

 プロペラは8枚、全長40メートル近くある巨大な物体。


 その姿を見てたじろいでいるホクトに、

「あれがどうかしました?」

「いや……、あの馬鹿でかいヘリコプターって何て言うんだ?」

「あれですか? Mi26という航空機ですよ。最大で150人乗せることが出来ますよ」


 150人! いや、それ小型飛行機かなんかじゃないですかね?

 荒野に着陸したMi26に二人が近づくと、鯨が小魚を捕食するときの口のようにハッチが後ろからゆっくりと開きだした。


「それじゃ、私はコクピットに座るから、ホクトさんはハッチの中に入ってください」

「えっ、オレ、あの中に入るの?」

「そうですが……、何か問題でも?」

「……」


 ダンジョンの入口を彷彿とさせる巨大なハッチに、オレはサクラに言われるがまま一人で乗り込んだ。


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