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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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おいしいなみだ

作者: 水井時零

「お前は高校生活では童貞喪失どころか恋人も出来ないだろう」

俺に男は言った

「いきなりなんですか。そもそもあなたは誰ですか?ここはどこですか?」

「儂か?儂は神様だよ。お前の中に住むな」


「神?」



「神……」


「え?」


「神様!?」


あああああああああああああ



「神様!!」


剥がれた壁紙、古いポスター、去年のカレンダー、なんだ俺の部屋じゃないか

どうやらさっきのは夢だったらしい。全く迷惑な夢だった。

しかし、何だったんだか。あの助言は……


常一つねかず 〜 起きたの?ご飯片付けちゃうよ〜」


いけない。朝ごはんの時間だった。俺は階段を駆け下りて朝ごはんの場所へ向かった。


朝ごはんは焼き魚だった。茶色い魚に白いご飯、漬物や味噌汁は無い。平凡だ。どこにでもある朝食だ。


「そういえば常一って好きな子とか出来た?」


平凡な朝ごはんを貪る様に食べていた俺に姉である

結莉花ゆりかは聞いたけど


「言うわけないでしょ」


と、言ったら姉は余計嬉しそうに笑った。


「常一の好きそうな女の子かあ……苺ちゃんにのぞみちゃんに愛海あみちゃん、、どれも違いそうね〜」


母は勝手な当てつけを始めた様だ。確かにどの女の子も知り合いだが、今好きな人とは違った。


「私的には蒼生たみちゃんがいいと思うな〜あの子可愛いし優しいじゃん。ちょっと頭が悪いけどさ」


姉は牛乳を持ちながら、言った。それからテレビのリモコンを空いてる手で持ってテレビをつけた


--今日の花は "コスモス" 花言葉は「乙女の真心」「調和」「謙虚」 いや〜それにしても見てください!この花畑!美しいです


あまりのくだらなさか姉はテレビを消し、元のように朝ごはんを食べ始めるのだった。


「さっきの話」

「え?どうしたの?父さん」

「当ててやろうか?」


父は読んでいた文庫本をテーブルに置き、頰杖をつき始めた

父さんに当たるはずは無い。気まぐれだろう。と俺は馬鹿にしながら聞いたのだが


金木霖かねきりんさん……だろう?」


思わず手に持っていた箸を落としてしまうぐらいの衝撃だった。


「たま〜に話をする塾の話が最近可笑しいと思ったんだ。霖さんの話ばかりしていたからな。図星だろ」


急に戸惑った俺は持っていた茶碗をテーブルに叩きつける様に置いてしまった


「ごちそうさま!!じ、塾に行ってくるから!」


逃げる様にその場を後にした。



「って夢を見たんだ。変な夢でしょ?」

「うん。確かに変な夢だ。ところで今日はあの人来るかな?」

「何だよお前。まさか好きになっちゃったとか?」

「それは」


「お前だ!」


俺は指を指されてどきんとした。バレていた事では無いコイツがそんな事をする男とは思ってもいなかったからだ。


「……どうして?」

「最近妙に楽しそうだったから。それと塾に来る回数が多かったしな。大体そんな変な夢を見るって事は確定って事か?」


言葉が出なかった。

恥ずかしくて俺が下を向いたその時であった


「やっほー!あれ?どしたん?二人とも?まさか最近流行りのあれかな?同性愛っての?」


霖だった。霖はバックを机に叩きつけると椅子を引っ張って俺が座っていた椅子の前に持ってきた


「違います!それより勉強しましょうよ。テスト近いんですから」

「え〜気になるじゃん!あ!」


霖はバックから何か取り出した。それはどうやら参考書らしく、俺は勉強か……と溜息をつく


「良かったら使って!私が高一の時使ってたのだけど。てか使え!使えよ!」


はいはい。と参考書を左手で受け取り、バックにしまった。そうしてまた霖の方を向くと何か読んでいた


「間違いだらけじゃないのよ。あなた大丈夫なの?ほら、ここなんて単純な計算ミスばかりして」

「勝手に見ないでください!それより今日は貴女に伝えたい事が……」


いつの間にか盗った俺の問題集をそっと机に置き、手を膝にそうして霖は照れ気味に笑った


「実は……あなたが」


「あ!此処に居たんですか!探しましたよ!」


え?と思った。入ってきたのは全く知らない男だった。でも何をしに?


「突然ですが、あなたが好きです。私と付き合ってください」


頭が真っ白になった。脳に送られる血液が異常を起こして破裂するかのよう。そうして見えてたモノも見えなくなってゆき、俺は仮死状態となった


「一週間程時間をください。絶対に答えは出しますから。それと受け取ったコレは絶対にお返しします。

それでは失礼します」


霖がゆっくりとドアを閉めると、そこは静寂だった

笑っているのはいきなり入ってきた男だけ。

そうして棒立ちのまま二分程が経った


「あ〜あ、行っちまったな〜 ま、どうにかなんだろうがな。ところで君達の名前は?」


「山崎賢です。それより何ですか?いきなり入ってて」


賢はどうやら怒ってる様だった。俺は自分の名前を言おうとしたが、脳回路がショートして口が動かない

結果としてただ黙ってる事しか出来なかった。


「ああ。悪かった悪かった。お詫びだよほら」


俺達に渡されたのはチョコレートだった。パッケージは白字に赤らしい。一般的だ

賢はそのチョコレートをしばらく眺めて、それから思いっきり男に投げ返した。まるでお断りとでも言わんばかりに


「……ざっけんな。こんなもんで許されると思うな

行こう、常一!」


俺の手をぐいと引きながら乱暴にドアを開けて、賢は塾から出ていった。やっと正気を取り戻し始めたのでちらりと後ろを振り返ったらそこには笑いながらチョコレートを砕く男が見えた。怖いよりもそれは哀れみの顔だった気もする。



「……着いた!」


手を引かれて連れてこられたのは町外れにある小さな橋だった。


「それじゃ」と行って賢は歩いていった。方角は家の方に。俺も帰ろうと思ったんだが


なんだかお腹が減ったのを思い出して

チョコレートを乱雑に破き、齧った


口の中のチョコレートは甘くて少し苦くてでも美味しくて美味しくて……悔しかった。


食べてる内に自然と俺は泣いて

食べかけのチョコレートを汚れた川に捨てる


それから叫んだ。とにかく叫んだ。だけど涙は止まらなくて、止まらなくて……

やがて涙も止まった時には元よりもお腹が空いていた


それからゆっくり帰った。周りの人がまるで俺の涙の跡を笑ってる様で、必死で顔を隠した。

そして、家の側の売り地まで来た時、


「だから!お前とは付き合えないって言ってるでしょう!分かんないかな?やっぱり頭おかしいの?」

「俺はいつだって正気だよ!それに頭がおかしいどころか全国でも数える程になったんだよ?部活だって地区優勝すら精一杯だった部活が今や県大会で準優勝するぐらいにもなったし。これ以上何を望むの?」

「今すぐ消えること!それだけが望み!だから消えて!顔も見たくないから!」


姉だった。それと知らない男の声、多分前に話していた元彼だろう。


「結莉花……」


眺めていた俺は思わず口に出してしまった。その声を聞いた二人は片方はやや疑いの顔をして、片方は溜息をついた 。 そして姉は人差し指を少し曲げてこっちに向けた。 昔からのサイン、来いってサインだ


「お……」

「ざーんねーんでーした!私にはもう彼氏がいるんでーす!分かったらさっさと消えて。早く」


姉は口を片手で塞いで男に向かって笑った。俺が手をもがいてると姉は俺の手を引いてそのまま家に歩いていった。


「……何すんの!結莉花!この馬鹿姉!」

姉が家の玄関前で手を離したので俺はやっと話せた

「良かった〜アイツ常一の事知らなくて。にしても」

不機嫌に帰ろうとしたその時、姉は俺の額を軽く叩いた

「その痕は泣いたのね。で、結果はどうだったの?失恋?それとも出来なかった?」

目を丸くした。そうか、バレてたんだ

「深くは聞かないよ。ん、ま、落ち込んでたら余計次が見つからないからあまり落ち込まない方がいいよ」

その言葉に姉の気遣いが感じられ、また泣きそうになってしまった

が、その時


「嘘じゃないか」


姉と俺が振り向いた先にはさっきの男が居た


「やっぱり弟だったんだ。しかし」

「もう俺は流石に君を諦めるよ」


さっきの男はNormalマガオでポストから勝手に手紙を取り出して姉に渡した。


「じゃあね。でも待ってるから」


そうして男が見えなくなるまで何となく立っていた俺と姉だったが姉の腹が鳴り、顔を赤くして家に入ったのだった。

結局姉が渡された手紙の内容を教えてはくれずにその日は終わった。

それから何日か経ったが姉が手紙の内容を家族に知らせる事はしなかった。しかし、俺はあの男の態度と姉が何故教えてくれないのかでそれが何なのかは分かってしまっていた。


変わらず俺は塾に通い続けたが、あの子は来なかった。なんにもする気が起きなくてずっと空を見ていた

賢は最初、慰めていたがその内に来なくなってしまった。

そんな日々を過ごしていたある日、また同じ様に塾に行こうとしていた俺に父は花をくれた。

「コスモス。造花だが綺麗だろう。どうだい?それを大切な人に渡してみないか?」

と父は言った

それを聞いた時、予感がした!きっときっと今日は居るかもしれない!そんな予感だった!

「行ってきます!」

と、声が枯れるぐらいの叫びで家を出る

「ああ。行ってこい。好きな限り」

父は笑顔で手を振った。

それから走った。もう笑われる事も恥ずかしさも吹き飛ばすかの様に走った。そうして転んだ!何回も何回も。けど、泣かない!もう泣いてる暇はない!ただあそこへだけ、あそこへだけ目指して走った!


「霖さん!賢!」

辿り着いた自習室のドアを力の限り開けた

だが、そこには誰も居なかった。

「ダメだった……」

俺はその場にへたりこんでしまったその時

「常一!久しぶり!」

その声は大好きで大好きでずっと自分だけの宝物にしたかったあの子の声だった。

「霖さんに常一!良かったー!来てくれたんだー!」

遅れて部屋に響いたのはとても優しい俺のBF、賢の声

「あの!今日は二人に伝えたい事があって!その……とりあえず席に座って」

「分かった!」

俺達が席に座ると霖は机に座った。スカートなら見えてしまうが、今日はGパンを履いていた。

「あの突然入ってきた人ね……実は私断っちゃったの。でねしばらく来れなかった訳はね、悩んでたの。

ずっと断る勇気が出なくてずっと悩んでたんだ。それでやっと断れたんだ。ごめんね、心配させちゃって」

霖は平謝りして顔を上げるとまた言った

「それでね。今日は二人に伝えたい事があるの」

「二人?」


二人って事は告白は無いってこと。 でも俺は告白なんてもう興味が無くなっていた。


「実はね……あの……二人と、その……お友達になりたくて!」

「お友達ですか!?てか今迄は友達じゃなかったんですか?」

思わず賢が机を叩くと、机は軽く揺れた。

「だって二人とも敬語だし、お互いのメールアドレスだって知らないじゃん。だからさ、これからお友達として色々知っていこうよ!」


ね 、と言って霖は笑った。いつの間にか手を後ろで組みながら。

そこで何か大切な事を思い出した俺は手に持っていたコスモスを思い出して、霖に渡した


「あの……これ…」

「あら?コスモス?綺麗ね。どうしたの?」

「親友の証だと思って受け取って!」

「ふふ……ありがとう。大切にするね」


霖はコスモスをしばらく眺めていた。そして、突然泣き始めた。泣きながら俺に抱きついて来たのだ。


「ごめん……ほんとっごめんね。気づけなくて。でも私とあなたはもう友達になっちゃったの。だから……」


霖の涙で俺の服は濡れた。そして、霖は暖かく……俺なんかが恋人になってはいけないと思って上を向いた。ああ、涙だ。あの時と同じ様な涙だ。枯れていた俺でもまだ泣けたんだな


「ねぇ?」

「何?」

「キスした事ある?」

「いいえ……」


その時、涙で染まった俺の顔を霖は自分の方へ引っ張った。そして暖かな唇、何とも罪深いこの感触、そうか……これがファーストキスか。


「っぷは!えへ……ファーストキス貰っちゃった。ありがと!」


霖が照れながら、ふらふらして椅子に座る。俺も椅子に座ろうとしたのだが


「常一 !」


それは間違いなく男の唇だった。暖かいというよりは生暖かい。なんと事だ……セカンドキスは男だなんて 俺は少しがっかりした。だけど満更でも無かった


「良かったー!みんな元気になって!ほんとに良かった!常一に霖 、君達はいつまでも大親友だよ!」


「ああ」 「ええ」


その日は日が暮れるまでみんなと勉強して笑いあった。時間は驚くぐらい早く進んで、また会おうね! と言って笑顔でさよなら出来たのだった。


その帰り道ある人物に会った

ある人物とは突然、告白したあの人であった。


「ざまぁないよな。この有様ではな」


と、その人物は言った


「大丈夫です。俺だって同じ様なもんだし」


俺は慰めるつもりで言った。すると、その男は無言で笑った


「あのチョコレート……すいません、実は川に捨ててしまったんです。申し訳ない」

「いや、誤れるだけでも大したもんだよ。そうだ、君と話がしたい。いつか会ったら」


空は真っ黒に染まっていた。ぶちまけた黒い絵の具に間違って白の絵の具を垂らした様な染まり方だ。

正直、苦手な空だったりもする


「じゃあまたあの自習室に来ませんか?そうして仲直りしましょ。そしたらまた友達が増えるだけ」

「そうだな。それが良いかもしれん。じゃあまた会ったらチョコレートを持ってくるよ。もっと美味しいチョコレートをな。それじゃ、また自習室で」


男は去っていった。その姿はとても失恋直後とは思えなかったけど哀愁があって何故か俺にはかっこよく見えた。ぎゅっと手を握りしめたら冷たくなってて笑ったのだった。


家に帰ると既に夕飯が準備されていた。

「ただいまー。あ、お母さん、結莉花 、どうしたの?唐揚げなんか作っちゃって」

「あー常一 実はおねーちゃんね、恋人が出来たんだよ。だからねー今日はお祝いパーティ!」


姉はやけに嬉しそうだった。ヒマワリの様な笑顔をしている


「あとね、元彼居たでしょ。あの手紙渡した男の人。あの人と話してね、10年後に会うことにしたんだ」

「ま、とりあえず食べて食べて〜 おねーちゃんが作った唐揚げだよ〜」


机には既に唐揚げが山盛りで皿に乗せられていた。油の香りが鼻を包むと、自然によだれを垂らししまう


「でさ〜お父さんから聞いたんだけど、どうなったの?告白。コスモス渡したの無くなってるし〜」


姉は勝手に唐揚げに塩をかけながら聞いた。指には絆創膏が巻いてある。どうやら切ったらしい。


「ファーストキスは女の子、セカンドキスは男の子だった」

「はぁ?」


母はキョトンとしながらコップにジュースを半分程注いだ


「ま、最近は色々あるからさ、母さんも分かってあげてよ。告白は聞かないであげてさ」

「そうね……常一が幸せならそれで……」


姉と母は楽しそうに話していた。それを横目に唐揚げを一つほおばると、熱くて口をやけどした。

でも唐揚げはとても美味しくてこれなら彼氏も喜ぶだろうな。と安心した。

二個目を食べようとしたら泣きそうになる。でも唐揚げの美味しい味は残っていて、俺は涙を食べる様に二個目の唐揚げを口に入れるのだった。


間違いなくこれは ’’おいしいなみだ’’ だ


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