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007 月の巫女 3

チマチマ投稿!とりゃっ

「よう!リラ!いるかー??」


 バタンッと盛大に扉を開け、聞き覚えのある嗄れた声。

 その声の主は返事も聞かず、お構い無くドスドスと部屋へと踏み込んでくる。


「お?やっぱりやってやがったか。返事ぐらいしろよなリラ」

「煩いわよソーン。その耳障りな声で話しかけないで」

「本当に相変わらずだなっと」


 彼はわたしの罵倒を気にも留めず、近くにあった椅子を引き寄せそこにどかっと勢いよく座った。


「で、何の用?」


 わたしは手に持っている小剣に魔力を流す片手間に疑問を投げ掛ける。


「貴方の事だから酒場で酒盛りでもしてるのかと思っていたんだけど?」

「そうだな。やろうかと思ってたんだけどよ…」


 彼は言葉を濁し、お手上げという風に両手を上げ首を振る。

 それにわたしは首をかしげる。


 わたしはあの仕事以来外に出ていない。その為今の状勢には疎い。流石にぶっ通しで自身の剣を錬成していたのはやり過ぎたかとは思ったが、どうせやらないといけないことだったのでまあいいかと自分だけで納得する。


「一緒に飲む奴等がいなかったんだよ。アイツらみな遠征部隊に雇われたみたいでな」

「遠征部隊に?何でよ」

「数が足らねぇんだとよ。そらそうだろうな、あんなにやられたんだから」


 彼はわたしの質問に答え、その現状にため息をつく。

 それはそうだ。誰がまさか殺し屋たちを遠征部隊に雇うなんて思うやつがいるだろう。

 遠征部隊は戦闘向きに編成されたものではない。多少の戦闘は出来ないといけないがそれは最小限で生き残ることに特化した者たちが集まった部隊なのだ。どうにかして資源を見つけ、どうにかして持ち帰る。それが遠征部隊の目的であって責務である。殺し専門の奴等なんてお門違いもいいところなのだ。


「完璧に夢魔との戦いから影響受けてるわね…あれだけやられれば仕方のないことなんでしょうけど」

「ここには非戦闘員もたくさんいるだろう。そこからどうにかならなかったのかねぇ」

「いや、非戦闘員は役に立たないでしょ。戦闘したいのはわたしたちのような特殊な奴等だけよ」

「それもそうか」


 彼は椅子の上でふんぞり返り再度大きなため息をついた。

 どうせ彼の事だから仲間とどんちゃん騒ぎでもしたかったのだろう。が、宛が外れ一人では仕方ないのでわたしの所へ来た。そんなところだろう。

 わたしはやれやれと言う風に首を振り、錬成を一旦止めその場から立ち上がる。


「ソーン」

「あ?なんだよ」


 わたしは彼の名を呼び、棚から出したビンを放り投げる。彼はそれを危なげなくキャッチし、こちらに目を向ける。


「煩いからそれでも飲んでなさい。魔冷庫に入ってたから冷えてるでしょ」

「お?付き合ってくれるのか?」

「なわけないでしょ。わたしはこれを片付けないといけないんだから」


 わたしは否定し、床に散乱している武器を指さす。


「いいじゃねぇか少しぐらい。どうせ真面目なお前の事だ。まだストックは多くあるんだろ?」

「ええ。一部屋分ぐらいはあるわよ」

「多いなっ!?なら尚更いいじゃねぇか。女王討伐作戦成功の祝杯としてよ?いいだろ?」

「……。はぁ、少しだけよ。それに常備してる酒はそんなにないから」

「わーってるよ。お前がそんなに酒を飲まないことぐらい。何年一緒にやってきたと思ってんだ」


 彼は親指を立てニヤっと笑う。普通の顔ならまだしも蜥蜴男がそんなことをやればもはやホラーでしかないのだが…。指摘すると拗ねるのでそれはスルーして飲む用の小さい樽を棚から出す。飲みやすいように取手を付けた簡易的な物だ。


「ほら。貴方の分」

「おう、ありがとよ」


 酒。と言っても只の安物のビールだが、二人で並々と注ぎ入れ溢しそうになりながらもそれを手に取る。


「ちょっと入れすぎでしょ。あんまりないって言ったでしょうが」

「いいじゃねぇかこう言うときぐらい。そうそう飲まねぇだろ?」

「ほんとに…」


 彼はニヤニヤと楽しそうに笑いながらそう言う。わたしはそれを見て諦めたようにため息をついた。


「それじゃ」

「おう」


 わたしたちは樽を持ち互いに近づける。

 二人で飲むのも久しぶりだ。わたしたちは知り合って比較的に長く生き残っている部類だった。知り合ってもすぐにどちらかがいつの間にか居なくなっている。それがこの仕事でこの世界の常識だ。こういうこともこれが最後かもしれない。だが───


「乾杯」

「乾杯!」


 わたしたちは『今』ここで生きている。それが何よりも大切で大事な事だ。目の前の彼なら"死ぬ気なんてねぇよ"という言葉でそんな考えなど一蹴してしまうだろう。


「何ニヤけてんだ?もう酔ったのかよ?」

「ふんっ違うわよ」


 わたしは彼の問いに素っ気なく答え、彼は彼で不思議そうに首を捻る。


 わたしたちの祝杯は飲み過ぎて寝入り込むまで続いたのだった。

あ、また新しいのが書きたくなってきました…。いえいえ次書くときはちゃんと貯めてからだしますよ!ええ!

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