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005 月の巫女

 ささっと投稿!

 魔族が支配する世界。魔境世界。力によって支配するその世界は混沌を極め、闇に侵食された世界は狂気が渦巻く魔界と何ら変わらない姿に成り果てていた。


 その中で魔族に反抗する者たちがいた。小さな抵抗と揶揄されても、止めることはない。その者たちは魔族たちに反抗勢力(レジスタンス)と呼ばれ、魔族の敵として存在していた。しかし、魔族討伐と謡っている反抗勢力組織も巨大な力を持つ魔族たちに抗う術がなく。世界は蹂躙されつくし、今や彼らの住む生存圏を守ることしか出来ていなかった。


 反抗勢力と一口に言っても種類は様々。今や魔族や魔獣、魔物が蔓延る世界で大きな国を作ることさえも出来るわけがなかった。理由としては種族の違いや生きる環境の違いなどが挙げられる。そういう違いは仕方ないにしても変えることは不可能で、そもそも種族に誇り(プライド)を持っている者たちが多く、意見や見解、主観の違いから手を結ぶことを良しとしなかった。もし仲介役として人間たちがいたならばそれもそこまでの問題には発展しなかったのだろうが、今はそれも過去の話だ。結局、彼らは自分等の生活圏に陣取りそこを守ることで生きていくしか出来ていなかった。


 エルフやドワーフ、獣人や竜人など。種族はいろいろあれどその中で"はぐれ者"は必ずと言ってもいいほどに存在する。数は少ないがたくさんの種族から集まればそれは集団になり群衆となる。そんなはぐれ者ばかりの集団は一人の人物によって纏められ、一つの大きな反抗勢力となった。その人物とはダークエルフの巫女姫。"月詠(つくよみ)"と呼ばれる。魔族の中では裏切り(・・・)の巫女と蔑まれる少女。


「そうっ。私が噂の裏切りの巫女!つっきーだよっ♪」

「……」

「……」


 わたしはダブルピースしながら笑顔で突然叫んだ少女を冷ややかに見詰めた。隣のソーンは我関せずと大きな欠伸をしながらどっかりと畳の上で胡座をかいている。


「唐突に叫ばないでください巫女姫様…」

「うわーんっ。つっきーって呼んでよリラ~」


 ぷくーと頬を風船のように膨らませながら不満げに彼女は言う。


「えーと…疲れているので早く本題に入って欲しいんですが…」


 わたしがそう言うと彼女はブンブンッと頭を振り否定の意を示す。


「言ってやれば?」

「………」


 隣で最早足を伸ばして寛ぎ出したソーンがめんどくさそうに言う。

 無関係を決め込むつもりのこの蜥蜴男をわたしは横目で睨み、諦めたように溜め息をついた。


「…はぁ───なら、巫女姫様の後ろから殺気を放ってくる女性を下げてください」


 わたしは心底嫌そうに睨み付ける。相手はそれに対抗するように睨み返し、必然的に見つめ合う形になった。


「え?殺気?あっ!またシュラだね!やめなさいったらっ」

「あ、痛いです。叩かないでください月詠様」


 月詠と呼ばれた少女はポカポカと効果音が出そうな可愛らしい叩き方で後ろで待機していた女性を叩く。それに表情も変えずに制止の言葉を呟く彼女。それはまるで親に駄々をこねる子供のような…見ていると暖かい気持ちにさせてくれる───


「で。本題は?」

「……zzz 」


 ということもなく。わたしは冷ややかにそう言った。


「………コホンッ。そっそうだね…それじゃ本題に入ろうカナー…。シュラあれを叩き起こして」

「承りました」


 少し羞恥に頬を染めながらも月詠は笑顔で場を取り繕う。その際に礼儀を弁えてない者に鉄槌を下したのは仕方がないことだった。




 ◆◆◆



「ソーン生きてる?」


 わたしの声に一泊置いてから彼は突き破った畳から頭を引き抜く。


「死ぬかと思ったぞ」

「あ、生きてたわね」

「チッ…死にませんでしたか」

「おいこら、聞こえてるぞ陰湿女」


 シュラの容赦ない鉄槌の後、額から血を流しながらも突き破った畳から何でもないように復帰するソーン。

 彼はリザードマンの中でも抜きん出て頑丈なことで知られているので心配はしてなかったが、彼女の放った攻撃が殺す気満々だったのに対して平常運転な彼には素直に感心せざるを得ない。


「それでは本題に入ります」


 パンッと月詠は自身の目の前で一度合掌するように手を叩き、先程の雰囲気を払拭するような静かな面持ちで言葉を発する。


「先にシュラ。報告をお願い」

「承りました」


 彼女の言葉に月詠の後方に戻っていたシュラが静かに首肯する。


「先日の夢魔との戦闘ですが。こちらが敗退し被害は甚大です。撤退を余儀なくされましたが、夢魔の女王が追撃戦をするために部隊を集めているとの報告がありました」


 彼女は一度言葉を切り、月詠が続けてと促すと彼女は改めて話始める。


「追撃されてしまえばこちらの戦力は全滅するでしょう。そして敵は夢魔の為、こちらの戦力がそのまま敵方に回ってしまいかねません。その為追撃は必ず避けなければならない事柄でした」


 わたしはここまで丁寧に説明しなくてもいいのに…と思いながらも半場、真面目なシュラらしいと諦めたようにその報告を聞いていた。


 状況は切羽詰まっていた。それもかなり。

 "夢魔との戦闘は極力避けること"と決められていた。それを破ることになったのはどうしようもない理由のせいだ。

 突然のこと。こちらの遠征部隊がいくつも消息不明になった。謎の失踪。この世界ではよくある事だが、食糧や生活用品その他諸々を調達してくる役目の部隊が謎の失踪を遂げる。それはこの反抗勢力(レジスタンス)には多大な痛手だった。そしてその真相を確かめる為に編成した部隊までもが消息不明になってしまう。結局、失踪の理由が判明したのは夢魔どもがこちらに攻撃してきてからであった。

 こちらの戦力は削られ、洗脳魔術を持っている彼女らは戦力が増えていく始末。このままでは潰されると判断したリーダーの巫女姫は夢魔討伐部隊を作り、反撃に出た。しかし、結果は惨敗。解りきっていた結果ではあったが、魔族の力は強大で簡単に覆せるものではなかった。


「ターゲットは夢魔の女王。恐怖と狂気で纏めている夢魔の部隊は頭を落とせば烏合の衆。部隊を集めている間に館に潜入し、女王を討つ。それしか方法がありませんでした」

「そして、結果は成功。頭を落とされた夢魔の部隊は逃げるように散り、残存部隊は中継地点の"闇の森"まで逃げれたそうです。ここまでくれば追撃はできないでしょう」


 以上ですと彼女は締めくくり、それを聞いた月詠は満足そうに頷く。


「うん。こちらの戦力はズタボロだけど…。女王を倒せたのは唯一良かった点だね。それを成し遂げた貴女たちには報酬を譲渡します。いつも通り住居の方に送っておくから確認しておいてね」

「あ、巫女姫様。わたしはお金ではなくあれ(・・)にしてもらえると嬉しいです」

「え…ああそう言えばそうだったけ…。本当にリラは変わってるよね…」

「そうですか?今必要なものを優先しているだけですが」


 月詠は何故か肩を落とし、目を合わさずにそう言う。それにわたしは何ら変わりなく思ったことを口に出した。


「リラは現実主義だからなぁ」

「何よソーン。文句ある?」

「なーにもねぇよ。全くな」


 わたしに睨み付けられたソーンはひらひらと手を振り適当にあしらうように言葉を返す。

 それを見ていた巫女姫は取り敢えずとわたしたちに聞こえるように話し出した。


「現状伝えられることは伝えたかな?また仕事があれば呼ぶからその時はよろしくね」


 月詠はそう締め括る。



 常に夜のこの世界には一日という概念がないも同然。しかし、わたしはやっと長かった一日終わったと一度大きく溜め息をついた。


 

 あ、そろそろあちらも書かないといけないな~と思いつつ。

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