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必殺必滅仕掛屋稼業  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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27/55

無知無情 四

 その日、中村左内は源四郎を引き連れて町を回っていた。もっとも左内には、真面目に見回りをする気など初めからない。十手をちらつかせ、いかにして多くの小銭をせしめるか……彼の頭を占めているのは、その一点である。

 十手をぶらぶらさせながら、町をうろつく左内。彼の目は、いつもより鋭い。

 そう、左内は今、懐が寒いのだ。このところ、何かと物入りが続いている。今日こそは、袖の下を貰わなくてはならない……左内は注意深く、あちこちを見回しながら歩いている。

 だが、その目は違うものを見つけてしまった。


「おらぁ! ちょっと来いや!」

 大男が、一人の若者の襟首を掴み強引に引きずって行く。若者は、怯えた様子で声を発した。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 俺が何したって言うんだよ!」

「るせえ! いいから来いって言ってんだよ!」

 大男はなおも怒鳴りつけ、強引に引きずっていこうとする。背丈は六尺(約百八十センチ)近く、体重の方も三十貫を優に超えているだろう。まるで相撲取りのような巨漢だ。

 左内は、面倒くさそうに顔をしかめた。どうせ、ごろつき同士の揉め事であろう。大した金にはなりそうもない……などと思いながらも、若者の顔をちらりと見る。

 その途端、左内は頭を抱えたまま、その場を立ち去りたい衝動に駆られた。若者は、左内にとって馴染み深い男……仕掛屋の小吉だったからだ。

 こうなると、知らぬ存ぜぬを決め込む訳にもいかない。左内は仕方なく、二人の間に入る。

「おい、お前ら。何やってんだ?」

 十手をちらつかせながら、凄む左内。その後ろには、いかつい源四郎も控えている。大男は状況が不利であることを察したのだろう。舌打ちをしながら、小吉から手を離す。

 しかし、左内はこの程度で済ませる気はない。

「おい、俺はちいとばかし気が短いんだ。喧嘩の原因を教えてくれねえか?」

 言いながら、左内は大男を睨み付ける。しかし、男は無言のまま足早にその場を離れていく。

 それを見た左内は、素早く源四郎に目配せした。源四郎は彼の言わんとしていることを察し、素早い動きで大男の腕を掴む。

「おい、何も逃げることはねえだろ。なあ、ちょいと番屋まで来てくれねえか」

 耳元で囁き、大男を連れていく源四郎。だが、大男は素直に従っている。どうやら、役人と揉める気はないらしい。それを見た左内は、小吉の襟首を掴んだ。

「おい、お前も番屋まで来てもらおうか。じっくり話を聞かせてもらうぜ」

 左内の言葉に、小吉は慌ててうんうんと頷いた。




 しかし、番屋で聞いた話は、左内にとって想定外のものだった。

「何だと……奴は、お前が仕掛屋だと知っていたのか?」

 耳元で尋ねる左内に、小吉は無言のまま首を縦に振る。彼の話によれば、相手の男は一太いちたと名乗り、いきなり襟首を掴んできたのだという。もちろん、小吉とは縁もゆかりもない。

 その話を聞いた左内は、思わず顔をしかめた。いつか、こんな日が来るのではないかと思っていたのだ。小吉は仕掛屋の中でも一番弱い。狙うなら、この男……と、敵対する連中が考えてもおかしくはないのだ。

 左内はさりげなく一太の方を見た。源四郎が険しい表情で取り調べているが、口をつぐんだままだ。

 その様子を見て、左内は考えた。何が起きているのかは知らないが、まずは小吉の身の安全を図らなくてはならない。では、どうするか……。

 無論、自分の屋敷に住まわせるわけにはいかない。そんなことをすれば義母のいとと嫁のきぬに何を言われることか。

 かといって、鉄や市が小吉を守ってくれるとは思えない。

 となると……。


 その時、左内の頭に一人の男の顔が思い浮かんだ。奴なら腕は立つ。しかも、基本的には善人だ……世間知らずではあるが。昔、市を居候させていたこともある。

 隼人と沙羅に頼んでみよう。


「おい小吉、しばらく隼人の所に匿ってもらえ」

「えっ?」

 きょとんとなる小吉。左内は顔を近づけ、耳元で囁いた。

「詳しい話は後だ。まずは満願神社に行け。そこで、隼人と沙羅に会うんだ……いや、念のため俺も一緒に行こう」

 そう言うと、左内は立ち上がった。小吉の襟首を掴み、大げさに騒ぐ。

「お前、さっきから訳の分からねえことばかり言ってんじゃねえ! よし、今から奉行所で可愛がってやる! 来い!」

 怒鳴り、小吉を無理やり引きずって行く左内。すると、源四郎が訝しげな様子で近づいて来た。

「だ、旦那、どうしなさったんで?」

 その時、左内は源四郎の肩に腕を回した。小さな声で囁く。

「後で話す。お前は、一太を解き放て。今は泳がせるんだ」

 その言葉に、源四郎は小さく頷いた。




 左内と小吉は、無言のまま歩いて行った。

 やがて、川のほとりで左内は立ち止まり、辺りを見回す。向こう岸には、河原者の住む掘っ立て小屋が幾つか見えた。ここなら、話を聞かれる心配もないだろう。

 左内は、川のほとりで腰を降ろした。小吉も、隣に座り込む。

「小吉、いったい何があったんだ?」

 左内の問いに、小吉は首を傾げた。

「俺も分からないんだよ。いきなり、お前は仕掛屋の小吉だな? みたいなこと言ってきたから、知らねえよって言ったんだよ。そしたら、いきなり俺の胸ぐら掴んできて……」

 言いながら、小吉は顔をしかめた。

「つまり、奴はお前が仕掛屋だと知ってて、さらおうとしたんだな……何が目的だったんだ?」

 左内は呟くように言った。今のところ、仕掛屋は他の連中と揉めた覚えはない。また、仕掛屋に喧嘩を売ればただでは済まない……ということも知られているはずだった。

 それなのに、小吉が狙われた。

 何が目的であるにせよ、これはもう放っておくわけにはいかないだろう。

「小吉、お前は隼人の家にしばらく身を隠せ。いざとなったら、奴に守ってもらうんだ」

「でも、隼人が承知するかな?」

 案じるような表情の小吉……だが、左内は彼の肩を叩いた。

「大丈夫だよ。あいつらは世間知らずだが、困っている仲間を見捨てるようなことはしねえよ」

 そう、隼人と沙羅は善人である。頼めば、小吉のことも面倒を見てくれるであろう。もっとも、いつかはその人の善さゆえに身を滅ぼすかもしれないが。

「そ、そうか。分かったよ……じゃあ、あいつの家に泊めてもらうから」

 左内と小吉は、さっそく満願神社へと向かった。




 その頃、隼人と沙羅は境内にて握り飯を食べていた。今日は客の入りも良くない。もともと、この場所は人通りは多くない。その分、どこかの親分に場所代を取られる心配もないのだが……。


 そんな中、左内と小吉がつかつか歩いて来る。隼人は二人にいち早く気付き、沙羅に目配せした。沙羅はこくんと頷き、下を向く。


「おい芸人さんよう、ちょっと話があるんだ。来てくれねえか」

 十手をちらつかせながら、居丈高な態度で迫る左内。顔を白く塗った隼人は、素直に立ち上がった。

「へい、何の用でしょうか?」

 だが、左内は首を横に振る。

「悪いんだけどな、そっちの奴も来てくれねえか」

 そう言って、十手で沙羅を指し示す。

 隼人は怪訝そうな表情を浮かべた。

「はい? いったいどういうことでしょう?」

「いいから、二人とも来い。でないと、番屋で話をすることになるぞ」

 そう言って、左内は二人を睨み付ける。これは、ただならぬ事態のようだ……隼人と沙羅は、おとなしく後を付いて行った。




「つまり、小吉を守ればいいんだな」

 隼人の言葉に、左内は頷いた。

「そうだ。とにかく、この件が片付くまで小吉を守ってやってくれ」

「その程度なら、お安い御用だ」

 そう言うと、隼人は小吉の方を向いた。

「小吉、しばらくの間はうちで暮らせ。遠慮はしなくていい」

「わ、分かったよ」

 頭を掻きながら、小吉は頷く。すると、沙羅もにっこり微笑んだ。

「小吉さん、うちの白助も喜ぶわ」

「白助? ああ、あの犬か。あいつ可愛いよね」

 そう言って、小吉はにこにこ笑う。

 そんな三人のやり取りを見て、左内は口元を歪めた。事の重大さが、今一つ分かっていないような気もするが……まあ、小吉だから仕方ない。

「じゃあ、頼んだぞ。俺は鉄と市にも話をしておくから」

 そう言うと、左内は慌ただしく去っていく。鉄や市なら、狙われても大丈夫だろうが……それでも、万が一ということもある。




 次に左内が訪れたのは、鉄の家である。もっとも、ここは診療所も兼ねており「按摩・骨接ぎ」という小さな看板がぶら下がっている。

 本来なら、左内は鉄の家を訪れたりなどしない。二人が会っているところを、他の人間に見られるのはまずいからだ。

 しかし、今回ばかりはそうもいかないのだ。そっと覗いてみると、鉄は懐が寒いらしく、昼間だというのに家で寝転がっていた。表稼業の骨接ぎも、あまり繁盛していないらしい。つまらなさそうに、仰向けになったまま自身の鼻毛を抜いている。

「おい骨接ぎ屋、悪いんだけどな、昨日から腰が痛いんだ。ちょっと診てくれねえかな」

 言いながら、家に入っていく左内。鉄は不景気そうな表情を浮かべていたが、左内の姿を見るや、ぱっと明るい顔つきになる。

「おう八丁堀、いい所に来た! 金貸してくれ!」

「馬鹿野郎、それどころじゃねえんだ。その前に、俺の話を聞け」

 声をひそめながら、左内は語りだした。




 話を聞き終えた鉄は、いかにも不快そうな表情で首を捻る。

「俺たちを狙うとは、いい度胸だな。いったい、どこの馬鹿だ?」

「分からねえ。今、ちょいと泳がせてるところだ。一太って名の、相撲取りみたいにでかい奴だよ。ただし、頭は悪いがな。知ってるか?」

 左内の問いに、鉄はかぶりを振った。

「一太ぁ? よくある名前だな。稼業名かもしれねえが、どのみち裏の世界じゃ聞いたことねえ名だよ」

「そうか。なら、龍牙会とは関係ないんだな?」

「分からんが、たぶん関係ないだろ。だいたい、龍牙会が仕掛屋を潰そうとしたなら、もっとましな連中を使うだろうな。下手すりゃ、呪道と死門が乗り込んでくるかもしれねえよ」

 鉄の言葉を聞き、左内は思わず安堵のため息を洩らした。

「いや、それを聞いて安心したぜ」

「しかしなあ、その一太ってのは何者だろうな……よし、俺もちょっくら調べてみるか」

 そう言うと、鉄は勢いよく立ち上がった。

「そうか。頼んだぜ鉄」

「おう、俺に任せろ。後で呪道の奴に話を聞いてみる。金を借りるついでにな」

「分かった。じゃあ、俺は市の方を当たるぜ。邪魔したな」

 低い声で言うと、左内は外に出ていった。







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