商売無情 四
「ねえ鉄さん、あんた本当にやってないの?」
軽い口調で尋ねる小吉。その瞬間、鉄の拳骨が頭に降ってきた。小吉は頭を押さえ、うめき声を上げる。
「痛いよ鉄さん! いきなり殴ることないじゃん!」
「るせえ! 俺が龍牙会の獲物を横取りする訳ねえだろうが! ちっとは考えろ!」
そんな二人のやり取りを見ながら、中村左内も頭を抱えていた。端から見ていれば、鉄と小吉の会話は笑えるものである……普段ならば。
だが、今は笑えない。何せ、三日以内で鉄に濡れ衣を着せた下手人を見つけなくてはならないのだ。もし見つからなかった場合、鉄は処刑されるだろう。
その問題について話し合うため、左内は仕掛屋の面々を隠れ家に呼び出したのだが……小吉は馬鹿、市は無関心、隼人は真面目だが世間知らずと、全く使えない連中ばかりであった。
「おい八丁堀、何かいい知恵はねえのか?」
鉄の言葉に、左内は顔をしかめた。
「いや、俺も調べてはみたんだがな、あの下手人は普通じゃねえぜ。見事に首がへし折れてやがる。あんなこと出来るのは、お前以外にはいねえんだがな」
「いい加減にしろ! お前まで俺を疑うのか!」
吠える鉄。すると、市がようやく口を開いた。
「こうなったら、逃げるんだな。あと三日で下手人を見つけるなんざ、まず無理だろ」
「お前、他人事だと思って――」
「ちょっと待ってくれ。要は、その龍牙会を何とかすればいいのか?」
不意に立ち上がり、口を挟んできた隼人。鉄は、呆気にとられた表情で彼を見つめる。
「あ、ああ。出来るもんなら、何とかしてえよ」
「だったら、俺が龍牙会の元締を殺す。それで解決だろう――」
「馬鹿野郎! それが出来りゃ苦労しねえんだよ!」
怒鳴りつける鉄に、隼人は鳩が豆鉄砲をくらったような表情を向けるだけだ。横で見ている左内は、思わず頭を抱えた。
「まあ、落ち着けよ鉄。処刑されると決まった訳じゃないだろう。お勢は三日経ったら、処分を決めると言ってたんだろうが?」
「ああ。でもな、達二の野郎が息巻いてるんだよ。俺を殺せって、やたらとうるさくてな。あの野郎、俺に恨みでもあんのかね」
頭を掻きながら、鉄はぼやいた。すると、左内の眉間に皺が寄る。
「何だと……達二ってえと、あの夜桜の達二か?」
「ああ、そうだよ。その夜桜の達二が、やたらと俺に突っかかって来てな。もし下手人が見つからなかったら、あいつは真っ先に俺を殺せと言い出すぞ」
その鉄の言葉に、今度は隼人が反応した。
「夜桜の達二? 聞いたことあるな」
「ああ、そりゃあるだろうよ。江戸の裏社会じゃ、ちっとは知られてる男だからな」
言葉を返す左内。すると、隼人の表情が厳しくなった。
「その達二には、柔術家の知り合いがいるはずだ」
「だから何だよ。夜桜の達二はな、縄張りがでかいし顔も広いんだ。知り合いだって、幾らでもいるんだよ。柔術家の知り合いくらい、いても不思議はねえ」
小吉が、顔をしかめながら言った。しかし、左内と鉄と市の表情は、みるみるうちに変化していく。彼らは、隼人の言わんとしていることを即座に理解したのだ。
「おい隼人、柔術家と言ったな。お前、その柔術家を知ってるのか?」
鉄の問いに、隼人は頷いた。
「ああ、渋沢権蔵という名だよ。腕の方も中々のものだった。あいつなら、人の首をへし折るくらいお手のものだろう」
「はあ? 何それ? どういうことよ?」
話を全く理解できていない小吉が口を挟んだ。すると、鉄が彼の頭を思い切りはたく。
「馬鹿野郎、お前はこんな簡単な話も分からねえのか! 要は、達二が柔術家に源兵衛を殺させたってことだよ!」
言うと同時に、鉄は立ち上がる。
「あの野郎、背骨をへし折ってやる!」
肩をいからせ、出て行こうとする鉄。だが、左内が止めに入った。
「待て待て。殺したら何もならねえだろうが」
「大丈夫だよ。殺す前に、お勢の前に連れて行って吐かせてやるから」
「お前一人じゃ難しいだろうが。まずは落ち着け」
言いながら、左内は鉄を座らせた。その時、小吉が懲りもせずに口を開く。
「しかし分からないなあ。いくら鉄さんが嫌いだからって、そこまで回りくどいことするなんて、達二も変な奴だね。自分の手下に殺させれば手っ取り早いのにさ」
「達二の手下は雑魚ばかりだ。奴らじゃ、鉄は殺れねえよ。返り討ちに遭うのが関の山だ。だから、龍牙会に殺らせようとしたんだろうな」
冷たい口調で市が言い、左内も頷く。
「ああ、それもあるだろうな。だが、他にも理由はある。奴は、龍牙会と仕掛屋をかち合わせようとしてたんだよ」
「何だと?」
眉間に皺を寄せる鉄。すると、左内が答える。
「達二の本当の狙いは、龍牙会に鉄を殺させ、仕掛屋が龍牙会と戦争状態にすることなんだよ。達二にしてみりゃあ、どっちが潰れても目の上のこぶが消える訳だからな」
「仮に上手くいかなくても、邪魔な鉄を消すことが出来る。どう転んでも、達二は得する訳か」
左内の言葉を補強するかのように、市も珍しく口を挟む。どうやら、この件には個人的に興味を持っているらしい。
だが、鉄としては興味どころではない。
「くそう、達二の野郎め……ふざけた真似しやがって。あいつは俺が殺る」
言うと同時に、鉄は床に転がっていた薪を拾い上げる。そして、凄まじい腕力でへし折ってしまった。
「まあ待てよ鉄。こうなったら、龍牙会から金をふんだくってやろうじゃねえか。達二と、その柔術家を始末する前に……そいつらが殺ったという証拠を掴むんだ」
・・・
「さあ、半方ないか、半方ないか!」
そう言いながら、皆の顔を見回す壺振り師。すると、重々しい声で応じた者がいた。
「では、俺が行こう。半」
声の主は、渋沢権蔵である。木札を、ずいっと前に押し出す。その目は、博打の興奮ゆえか真っ赤に血走っていた。
ここは、夜桜の達二が仕切る賭場である。行われているのは丁半だ。二つのさいころを振り、出た目が偶数(丁)か奇数か(半)を当てる遊びである。
「両方、出揃いました。では、勝負!」
出方が声を上げ、壺振り師が壺を開ける。
「二ぞろの丁! 丁と出ました!」
出方の声と同時に、客の口から発せられた歓声と罵声とが、場に響き渡る。
「くそう、外れか」
忌々しげな声を放ち、立ち上がる渋沢。すると、音も無く近づいて来た者がいた。鋭い目付きで、頬に刀傷のある若者だ。妙に腕の長い体つきは、何となく猿を連想させる。
この男は達二の懐刀の六助だ。まだ若いが、達二は全幅の信頼を置いている。
「渋沢先生、奥で親分がお呼びです。来てもらえませんか」
その声を聞き、渋沢は振り向いた。
「分かった」
「先生、あんたは柔術腕の方は素晴らしいが、博才の方は欠片ほども無いようですな」
奥の部屋で、そう言って高笑いしているのは達二である。一方、渋沢の方は苛ついた表現だ。
「ふん、悪かったな」
「ところで先生、先日うちの子分が失礼な真似をしたそうですが……本当ですかい?」
一応は敬語を使ってはいるものの、達二の態度は砕けたものだ。まるで、友人に対するかのようである。もっとも渋沢の方も、それを不快に思っているようには見えないが。
「失礼、というほどではない。ただ、身の程知らずにも俺に向かって来ただけだ。軽く捻ってやったがな。あんな馬鹿な子分がいては、あんたも苦労するな」
「いやあ、お恥ずかしい。確かに苦労してますよ。ところで先生、物は相談ですがね……」
そう言うと、達二は懐から何かを取り出し、渋沢の前に置く。
紙に包まれた、小判の束だ。
「先生、一つ頼みがあるんですがね……聞いていただけませんか?」
「俺は、親分の頼みなら何でも聞くぞ。で、何をすればいい?」
言いながら、渋沢は差し出された小判の束を懐に入れた。
「前と同じですよ。一人、首をへし折って欲しい奴がいるんです」
「構わんぞ。どこの何者だ?」
即答する渋沢。その表情は、どこか嬉しそうだ。
「拝み屋の呪道っていう生意気な若造がいましてね、明日中に首をへし折っていただきたいんですよ」
「呪道? そいつは確か、龍牙会の幹部ではなかったか?」
「ええ、そうです。ただ、こいつが鉄の野郎を庇ってるんですよ。呪道は発言力もありますからね。呪道さえ殺れば、鉄の味方はもういません。処刑は時間の問題かと」
「なるほど」
「明日、呪道を呼び出す手筈になってます。その時、奴を始末して下さい」
「いいだろう」
頷く渋沢。
だが、その会話を盗み聞きしている者がいようとは、さすがの二人も気づいていなかった。
やがて、賭場の床下から這い出して来た者がいる。
それは隼人だった。彼は堅い表情で、周囲を見回した。誰にも見られていないことを確認すると、直ぐにその場を離れる。
目立たぬよう、足音を忍ばせながら足早に歩いていく隼人。彼の進む先には、とぼけた表情で立っている同心がいた。
中村左内である。
「何だと……明日とは、また急な話だな」
思わず顔をしかめる左内。いくら何でも、話が急すぎる。
「どうするんだ? いっそ、二人とも俺が仕留めるか?」
真顔で隼人が尋ねると、左内は慌てて首を振った。
「馬鹿野郎、そんなことをしたら台無しだ。しかし、達二は呪道を呼び出して殺せと言ったんだな? 間違いないな?」
「ああ、間違いないよ」
「そうか……ちょいと危険だが、そいつを逆に利用させてもらうか」
「えっ? 一体どうするんだ?」
不思議そうな顔をする隼人。一方、左内は口元を歪める。
「一か八かだが、この手でいくか。隼人、お前は鉄を呼んで来い。俺は小吉と市を呼んで来る」
・・・
翌日。
渋沢は、自身の道場の掃除をしていた。かつて、自身がまだ師匠の下で内弟子として生活していた時に叩き込まれた習慣の一つが、常に道場を綺麗にしておくこと、である。渋沢は、はたきを片手に忙しなく道場を動いていた。
だが、その動きがぴたりと止まる。
「お前……ここで何をしている!?」
いつの間にか、音も無く道場に入って来た者がいる。手拭いで頬かむりをして、薄汚い着物を身に着けた小柄な男だ。一見すると、乞食のように思える。
だが、渋沢には分かる。目の前にいるのは、ただの乞食ではない。
「何をしにきた、と聞いているだろうが! さっさと答えろ!」
怒鳴る渋沢。もっとも、何をしにきたのかは既に理解している。男の体から放たれる殺気は、尋常なものではない。
自分を殺しに来たのだ。
男は、顔を覆う手拭いを取った。額に三日月の刺青を入れた素顔を、渋沢の前で露にする。
そして言った。
「渋沢さん、俺と立ち合ってくれ」
「お、お前は……隼人どのか」
渋沢の顔が歪む。一方の隼人は、静かな表情で構えた。
「お前、誰に頼まれた?」
歪んだ笑みを浮かべ、尋ねる渋沢。だが、隼人は首を振った。
「それは言えない。とにかく、あんたには死んでもらう」
「素手で俺を殺す気か? 舐められたものだな……相手になってやろう。身の程を知るがいい!」
言うと同時に、渋沢は飛びかかって行った――
渋沢の手が伸び、隼人の襟首を掴む。相手は小柄だ。投げで道場の床に叩きつけ、一気に仕留める……彼は、そのつもりでいた。
だが、渋沢にとって想定外の事態が起きた。襟首を掴まれた瞬間、隼人は跳躍する。
自らの襟首を掴んでいる渋沢の腕を両手でしっかりと掴みながら、同時に彼の腕の付け根に両足を巻き付けていく。
直後、隼人は全身の力を解放させ、渋沢の肘関節を逆方向にねじ曲げる――
思わず悲鳴を上げる渋沢。隼人の飛びつき腕ひしぎ十字固めで、肘の関節を完全に破壊されたのだ。
だが、隼人の行動には一切の躊躇がない。腕に巻き付けていた足を、今度は首へと巻き付けていく。足を三角の形に極め、首を絞め上げていく――
渋沢は抵抗すら出来ず、その意識は闇へと落ちていった。
「殺ったのか?」
不意に、後ろから聞こえてきた声。誰のものかは、振り向かなくても分かっている。
「ああ、殺ったよ中村さん……」
そう言って、立ち上がる隼人。渋沢は既に死んでいた。隼人の三角絞めで意識を失い、その後も絞め続けられたことにより絶命したのだ。
「いい腕してるな、と言いたいところだが……何で鎖鎌を使わなかった? もっと早く、確実に仕留められたはずだ」
鋭い口調の左内。だが、隼人はそちらを見ようともせずに答える。
「今度から気を付ける。後のことは任せたよ」
ぶっきらぼうに言って、去って行った隼人。
左内は、彼の去り行く後ろ姿をじっと見つめた。隼人という男、確かに腕はいい。だが、妙に甘い部分がある。市の話によれば、隼人はかつて夜魔の一族なる暗殺者の集団にいたらしい。しかし、暗殺者にしては少しお粗末ではないだろうか。
ひょっとしたら、その甘さゆえに夜魔を裏切ったのかもしれない。
・・・
その頃、達二と六助は林の中にいた。彼らのすぐ近くには、穴だらけになった一軒の小屋がある。住み心地はとても悪そうだが、待ち合わせの目印としてなら使えそうだ。
「おい六、先生はまだ来ないのか?」
達二は、傍らに立っている六助に尋ねた。だが、六助は苦い表情で首を振る。
「ええ。何してるんでしょうね、全く……」
「仕方ねえ。いざとなったら、俺たちで呪道を始末するぞ。いいな?」
「へい。あっしに任せて下さい」
言いながら、六助は長どすを指し示し、にやりと笑う。
やがて、林道の中から現れた者がいる。呪道だ。ぼさぼさの縮れっ毛を気にしながら、一人でこちらに歩いて来る。
達二に気づくと、いかにも面倒くさそうな表情で手を振った。
「よう達二さん。こんな所に呼び出して、何の用だい?」
「あんたに会わせたい人がいるんだよ。その人なら、鉄の無実を証明できるんじゃねえかと思ってな。ちょっと待ってくれねえか」
いかにも愛想のいい表情を浮かべる達二。すると、呪道は鼻で笑った。
「柔術家の渋沢権蔵なら、来ねえよ」
「何だと!?」
血相を変える達二。傍らの六助は長どすを抜いた。だが、呪道は平然としている。
「あのなあ、お前の企みは全てお見通しなんだよ。柔術家の渋沢に源兵衛の首をへし折らせ、鉄に罪を着せる……しょうもねえこと考えたもんだな」
「どうやって調べたかは知らんがな、そこまで知られちゃあ仕方ねえ……呪道、死んでもらうぜ!」
言いながら、長どすを抜く達二。同時に、呪道の後ろに回り込む六助。
だが、呪道はくすりと笑った。
「おい、今の言葉を聞いたよなあ死門」
「ああ、聞いた」
奇妙な発音の声と共に、木の陰から現れた者がいる。お勢の用心棒であり懐刀でもある死門だ。
達二と六助の顔色は、一瞬で真っ青になった。死門の腕は、彼らも知っているのだ……。
「龍牙会を裏切ったな」
冷たい口調で言うと、剣を抜く死門。二人は向きを変え、慌てて逃げ出した。
だが、そんな二人の行く手を遮る者がいる。
鉄と市だ。
「この野郎、随分とふざけた真似してくれたな」
言うと同時に、鉄は襲いかかって行った――
自棄になり、長どすを振り上げる達二。だが、鉄はその手首を掴む。と同時に、一瞬にして手首の関節を外す。
悲鳴を上げる達二。彼の手から、長どすが落ちる。
だが鉄は、それだけで終わらせるつもりは無い。うめき声を上げている達二の首を掴む。腕を喉に巻き付け、一瞬でへし折った――
その横では、市が六助の延髄に竹串を突き刺している。六助は痛みを感じる間もなく、あの世へと旅立って行った。
達二を始末した鉄、そして六助を始末した市。その二人に、呪道はへらへら笑いながら近づいて行った。
「いやあ、お二人さん。さすがだねえ! 今回は助かったよ――」
「幾らだ?」
呪道の言葉を遮り、手のひらを突き出す市。呪道はきょとんとなった。
「へっ?」
「へっ、じゃねえよ。俺たちゃ、あんたら龍牙会の尻拭いをしてやったんだぜ。銭を出すのが、筋ってもんじゃねえのか?」
冷たい口調で言い放つ市。その表情は、冷酷そのものだ。すると、死門が不快そうな様子で口を開いた。
「お前たちがいなくても、俺一人で始末できた」
「んなこと知らねえよ。お前の思惑がどうであれ、形としては仕掛屋が龍牙会の裏切り者を始末したってことになってんだよ。銭をよこすのが筋ってもんだろうが。違うか、死門さんよう?」
市のその言葉に、死門は憤然とした様子で剣を構える。だが市は素早く飛び退き、間合いを離す――
睨み合う市と死門……だが、呪道が両者の間に割って入った。
「待て待て。市、あんたの言うことももっともだ。仕掛屋さんには、俺が三十両払う。それでどうだ?」
呪道の提案を、市は鼻で笑った。
「天下の龍牙会が、たった三十両とはしけた話だな。まあ、今回はそれで手を打とう」
そう言うと、市は向きを変えて去って行った。
「相変わらず、嫌味な野郎だな。ま、何はともあれ良かったなあ、鉄さん」
言いながら、鉄の肩を叩く呪道。だが、鉄は渋い表情だ。
「良かねえよ。俺は危なく殺られるところだったんだぞ」
「これに懲りてさ、人の恨みを買わないよう自重することだね」
・・・
「お帰りなさい」
廃寺に戻った隼人を、優しい声で出迎える沙羅。犬の白助もとことこ歩いて来て、隼人のくるぶしに鼻を押し付ける。
「今日、渋沢の道場に行って来た」
白助を撫でながら、隼人は口を開く。すると、沙羅の表情がぱっと明るくなった。
「本当に? じゃあ、あの人の所で働くの?」
「いや、それは無理だ。渋沢は死んでいたよ」
「えっ?」
愕然となる沙羅。隼人は、淡々とした口調で語る。
「どこかの武術家と、素手の果たし合いの末に敗れたらしい。武術家として、闘いの果てに死んだんだよ……本望だったんじゃないのかな」
「そう……残念だね。あの人のために祈るよ」
そう言うと、沙羅は膝を着いた。胸の前で手を組み、祈り始める。
一方、隼人はそっと白助を抱き抱える。邪魔にならぬよう、奥の部屋へと入って行った。
微かではあるが、心の痛みを覚えた。




