ポンコツ女神
ハァハァと肩で息をしている俺とマーリニア。
怒らないとは言ったが、流石に叫ばないとやってられない状況だった。
「お・・・ヒック。怒らない・・って・・・ヒック。言った・・・じゃっ・・・無い・・ヒック・・・ですかぁ・・・ヒック」
マーリニアの肩を掴み、ガクガク揺さぶりながら叫んだ結果・・・・マーリニアは泣き出した。
「あ~、その・・・すまん」
俺の行動は間違ってはいないと思うのだが、流石に女神様が泣き出すとは思わなかった。
こうなっては、どちらが悪いとかではない。女性が涙を流せば男手が謝るのは自然の摂理なのだ。
決して俺が悪い訳ではないのだが、謝らないといけない気分になってしまう。
古今東西、どんな関係だろうと男は女に弱いのだ。
「とりあえず、落ち着く為にお茶でも持ってくるよ」
叫び続けて喉も乾いたし。
俺は立ち上がりドアへと向かう。
「あ、私、紅茶で」
「テメェ・・・」
泣き止んだマーリニアが真顔で注文つけてきたので、それに対して殺意を覚えたのは俺の心の奥にそっとしまっておこう。
「ったく、紅茶とかウチにあったか?」
2階の部屋から1階のキッチンへとやって来た俺は、律儀にマーリニアのご注文の紅茶を探す。
「あったあった。・・・・ティーパックで良いよな?」
紅茶の葉なんてシャレオツな物は我が家には無いのだ。
つか、アイツにゃコレで充分だろ。
「ただいま~。って、あら?明、紅茶なんて友達でも来てるの?」
キッチンで紅茶を用意していた俺を、買い物から帰って来たのか、スーパーの買い物袋を持った母親が見つけ、聞いてきた。
「まぁ、友達っちゃ友達・・・かな」
女神様を友達呼ばわりして良いのかと一瞬考えたが、他に表現の仕様が無いので友達とした。
「・・・・女の子ね」
「何でだよ」
目をキラキラさせた母は俺にずいっと顔を寄せる。
「だって、男の子なら紅茶なんて出さないでしょ?」
そこから推察してきやがったか。
「母さん、何だか嬉しそうだな?」
「当たり前じゃない!明が女の子を家に連れて来るなんて嬉しいに決まってるでしょ!?」
そんなモンなのか?
良く分からんが、俺は紅茶と自分の分のお茶を持ってキッチンを離れようとする。
「挨拶に行った方が良いかしらっ??」
階段の途中で母にそう言われてしまった。
「アホかっ!んな恥ずかしい事すんなよ!!単なる友達なんだからな!!」
母の言葉に少々大きな声で返事をして部屋に戻る。
「お待たせ」
ドアを開けて部屋に入ると、マーリニアが赤い顔でモジモジしていた。
「?」
何やらブツブツ言っていて、俺が戻ってきた事に気付いてない様なので、飲み物をテーブルに置いて近付いてみる。
「明様とお友達。そう、普通にお友達・・・。でも、お母様にご挨拶を・・・・いえ、まだ早いわマーリニア・・・・。でもでも、お母様がご挨拶に来るって」
・・・・。
「そーゆー事はキチンと順を追って・・・・」
とりあえず俺はマーリニアの額を掴む。
「はぇ!?」
ここで俺が戻ってきた事に気付いたマーリニアだが・・・・。
「俺が!いつ!お前に!フラグを立てた!!」
「いっ!?痛っ!?痛たたたたたたたたっ!!痛い痛い痛い痛いっ!アイアン!?アイアンクローッ!?」
これでもかと締め上げてやりましたよ。
女神様に対しての扱いじゃない?知らんよ!こんな駄女神には、コレで充分だ!!
「うう・・・・。頭の形が変わりました」
「変わる訳ねーだろ」
左右のこめかみを擦るマーリニアに、呆れながら紅茶を差し出す。
差し出された紅茶に口を付け、一息ついたマーリニア。
「フゥ・・・・・。で、お母様へのご挨拶はいつ「それはもう良い」・・・・ぶぅ」
ふくれんなよ。
「話の続きだ。で、魔王の城と扉で繋がったって言ってたが、その扉は何処にあるんだ?」
俺は部屋を見回すが、そんな扉は見当たらない。
部屋にある扉は廊下に出る扉1つだけ。
「それなら・・・・」
マーリニアは立ち上がって移動し、クローゼットの前に立ち止まる。
「こちらです」
カチャリと開けたクローゼットの奥に、今まで無かった扉があった。
「なんつー所に扉を・・・」
俺は呆れながらお茶を飲む。
でも、目立たない所に有るのは有り難い。
普通に壁に扉が増えていたら、それを目撃した家族に対しての説明が上手く出来ない。
「それ、開けたら異世界?」
「ハイ」
「行けるの?」
「行けます」
「来れるの?」
「来れます」
「魔王、来ちゃう?」
「来ちゃうかも・・・です」
「魔王以外も?」
「き・・・来ちゃうかも」
「切り離せぇっ!今すぐ切り離せえぇぇっ!!」
「世界が消し飛んじゃいますって!!」
「アホかっ!魔王来たら、俺の部屋が消し飛ぶわっ!!」
ギャアギャア言い合いながら、俺はマーリニアの肩をガクガク揺らす。
マーリニアはマーリニアで、俺を止めたいのか、俺の頬を両手で挟んできた。
そんな事では、俺は止まらんよっ!
そんなやり取りをしていたら、クローゼットの奥の扉がカチャリと開いた。
その音にハッとして俺は扉の方に目を向ける。
向けるとそこには・・・・。
「あの~。マーリニア?そろそろ、余の紹介を・・・・」
おずおずと顔を出す男性が居た。
申し訳なさそうに顔を出す男性は、一見普通の男性に見えるのだが、決定的に違う部分があった。
それは・・・。
「あ、そうでした。明様、こちらが明様の部屋と繋がったお城の主である魔王です」
マーリニアにサラッと紹介された男性。
その頭には・・・
「余が魔王である」
・・・・・・左右に立派な角が生えてました。