アカンやん
学校から帰宅して、自分の部屋のドアを開けた俺の視界に映るのは、いつも見慣れた俺の部屋・・・・の筈だったんだけど・・・。
「・・・・・誰?」
その日は違ってたんだ。
俺の視界に飛び込んできたのは、俺の部屋の中で俺に向かって土下座をする女性の姿。
俺の呟きは、当然だと思う。
「す、すいませんでしたぁっ!!」
何か分からないけど、謝られたし。
「とりあえず、説明プリーズ」
部屋に入ってカバンを置き、ベッドに腰掛けた俺は制服の上着を脱ぐ。
慌てて叫び出さなかった俺を誰か誉めてくれ。
「あ、ハイ。私、マーリニアと申します」
顔を上げて姿勢を正した女性は俺の方に身体を向けた。
ふむ・・・。
金髪美女だ。誰がどう見ても美女だ。
「この度、明様には多大なご迷惑をお掛けした事をお詫びしたいと思い、伺わさせて頂いた次第なのです」
「迷惑?詫び?」
「はい」
そう言うと、彼女・・・マーリニアは少し目を伏せた。
「明様に分かりやすく説明致しますと、私の存在は所謂、神・・・です」
そんな、頬を赤くしてモジモジされてもリアクションに困るんだが・・・。
しかし、神と来ましたか。
いや、まぁ神様っぽい服装だなぁとは思ってたよ?
何て言うの?あのギリシャ神話で良くありがちな、フワッフワした感じの服装だし。
あれ、何て言うの?俺的にはフワッフワとしか表現出来ねぇし。
「では、軽く説明致しますね」
「軽く!?」
「しっかりと説明すると、長くなりますので・・・・」
「はぁ・・・」
状況説明促したら、軽くとか言われたし・・・。
大丈夫なのか?この女神様は・・・。
「明様も住んでいらっしゃいます世界、地球。この地球以外にも、数多の世界が存在致します。各世界は次元の違う所にあるので、交
わる事は決してありません。その数多ある世界の内の1つで私は女神をしている訳なのですが・・・」
「ちょっと質問」
「あ、ハイ」
「この世界以外にも世界があるってのは分かった。所謂、異世界ってヤツだろ?」
「分かりやすく言えば、そうなります」
逆に難しく言ったらどうなるか興味はあるが、聞いても分からんだろうからあえて聞かない方向で。
「その異世界はお互いに認識しあってたりするのか?」
「いえ。この世界では認識されていませんが、他世界では認識している世界はあります。まぁ、それも自分の世界以外にも世界がある
・・・程度の認識であって、どの様な世界なのか・・・という事までは認識出来ていない様ですが」
なるほどねぇ。
「で、今回俺に詫びってーのは?」
「あ、その事なのですが、私の世界の方で頻繁に異世界召喚を行っていた様でして・・・」
「異世界召喚って・・・・」
ネット小説とかで題材になってるアレか?
アレって、リアルで起こってるのか!?
「異世界召喚とは、本来繋がる事のない世界同士を魔法でもって繋ぐ事を指します。術式としては不安定で、一方通行の魔法なのですが、
込める力によって召喚の規模が変わります。小さな物を呼び寄せる位なら、問題は無いのですが人一人を呼び寄せるとなると、
やはり想像以上の負担が世界に・・・そして次元層に掛かります」
「まぁ、そりゃ無理矢理なら負担は掛かるわなぁ・・・」
「その負担が蓄積され、最近まで次元層が不安定になっていました」
「ん?なっていました?」
マーリニアの言葉に俺は首を傾げた。
今、確かにマーリニアは過去形で言った。
「はい。不安定になった次元層の影響で私の世界と、この世界が非常に危うい状態になっていたので、私が力を使い、何とか元の状態に固定し直したのです」
「あ~、ゴメン。今まで説明聞いてきたけど、俺、何も関係してないよね?大変だったのは理解したけど、俺に詫びる事なんてない様な気がするんだけど・・・」
「その事なのですが・・・・大変申し上げ難いのですが・・・今回、力を使い、互いの世界を固定した際に偶然一致した互いの世界の座標が繋がっ
たまま固定されてしまいまして・・・」
本当に申し訳なさそうに顔を伏せるマーリニア。
んん?座標?繋がった??
「どゆ事?」
「分かりやすく言いますと、世界の至る所に座標という物が定められています」
「それは、緯度みたいな?」
「そう捉えられて良いと思います。当然、各世界で表現方法は違いますが・・・。今、私が言った座標とは各世界の神が地上の事に関わる為の座標です」
「え?神様って地上の事に関わる事があるのか?」
「この世界では、科学・・・という文明が発達していますが、当然色々な世界があるので、文明の発達の仕方は様々です。
こちらの様に機械文明が発達している世界もあれば、機械文明以外の文明が発達している世界もあります。
私の世界では機械文明ではなく、魔法文明が発達していますので、今でも神・女神・精霊を敬って崇め奉る文化は根強いです。
そんな人々の暮らしに僅かではありますが、我々が介入する事は珍しく有りません」
「確かに、俺らの世界でも昔は神様とかを奉る文化はあったよなぁ・・・。今も地域によっては残っている文化だけど・・・」
と言うか日本はある種、独特な文化だと思う。
正月ありーの、ハロウィンありーの、クリスマスありーの・・・。
神事なんだが、文化がごちゃ混ぜだ。昔から八百万の神々~とか言ってるけど、日本の神様達は他宗教なんかは気にしないのだろうか??
その辺を気にする神様達なら、今の日本は有り得ないから、大丈夫なのかも知れない。
「話が逸れましたが、今回その座標が偶然一致していた私の世界のポイントと、この世界のポイントが繋がったまま固定されてしまいまして、
そのポイントと言うのが・・・・」
マーリニアの目が左右に泳ぐ。
あれ?これ、あまり良くない事なんじゃないかと俺のシックスセンスが告げている。
「明様の部屋なのです」
「えらくピンポイントで来たな!おいっ!!」
「申し訳ありません!!」
ガバッと再度、土下座をするマーリニア。
「それ、切り離せないのか?」
元に戻せるなら、戻して欲しい。
でも、薄々は分かっていた。元に戻せるなら彼女なら戻しているだろう。でも、態々俺に詫びをしに来る位だから・・・。
「戻そうとすれば、何とかなるのですが・・・」
あれ?出来るの?
「不安定になっていた世界を固定し、それを再度切り離して固定する・・・となると・・・・」
「となると?」
「恐らく、どちらかの世界が消し飛ぶかと・・・・」
「アカンやん」
思わず関西弁になってしまった。
消し飛んだらダメだろ。
地球は当然、向こうの世界も消し飛ぶのは寝覚めが悪い。
「はぁ・・・。分かった。マーリニアの詫びは理解したし、状況も飲み込めた。元に戻すのも・・・まぁ無理なんだろう。で、実害はあるのか?主に俺に」
溜め息を吐きながら天井を仰ぐ俺は、マーリニアへと質問を投げ掛ける。
俺への実害が有るか無いか。ココは重要。
「特に実害は有りませんが、その・・・・大変申し上げにくいのですが・・・・」
「もう、大抵の事は受け入れる覚悟は有るから、言ってみんしゃい」
俺、多少は動揺してるのだろうか?良く分からない方言が混じり出した。
「扉1つを隔てて繋がっている状況でして・・・・」
「・・・・?・・・・・・・・!?」
マーリニアの言葉を頭の中で反芻して理解する。で、驚いた。
そりゃ驚くだろ。
「つまりは・・・・扉を開けたら、そこは剣と魔法の素敵な異世界?」
「ハイ・・・・」
「アウチッ」
「でもでもっ!危険は有りません!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・多分」
「おまっ!?今、ボソッと小さい声で多分って言ったろ!?多分って!!」
「い!?いいいいいい言ってません!!」
「正直に言ってみろ!今なら怒らないから言ってみろ!!」
「・・・・本当に怒りませんか?」
涙目になりながら問い掛けてくるマーリニアに、俺は頷く。
「こちらの世界のポイントは明様の部屋・・・この場所なのですが、向こうの世界のポイントが・・・」
「ポイントが?」
ゴクリと喉を鳴らす俺は、マーリニアの言葉を待つ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔王の城でして・・・」
マーリニアの口から出た言葉に俺の脳内は真っ白になった。
え?魔王?居んの?
魔王の城?そこと繋がってんの?
どこが?あ、俺の部屋か。
あれ?ヤバくね?
それ、ヤバくね??
「何て事してくれたんじゃぁぁあああああっ!!」
「怒らないって言ったじゃないですかぁぁあああぁっ!!」
世界の皆様。
今日、俺の部屋は異世界の魔王様の居城と繋がったみたいです。
決して、こんな刺激を求めていた訳では無いのです。