生死:静止
「まず、生死刀は、「静止刀」、止まる方の静止だな。 そう呼ばれることがある。」
「静止・・・?」
「ああ。この剣の大きな特徴の一つでな、剣を貸してくれ。」
剣を投げて渡すと、イルカはその剣を何度も振った。
「この剣は、文字通り静止する。」
そういうと、急にイルカの手が止まる。
すると、剣から手を放した。しかし剣はそのまま宙に浮いている。
「な・・・」
「どうだ?わかったか。」
その光景に衝撃を受けていると、剣が落ちた。
その剣を拾い上げて、
「この剣は、振ってる間にランダムで静止し、10秒ほどそのままの状態で静止している。
この静止中は、何をされても動くことは無い。 まあ、折れることはあるが、本当に稀な話だ。」
「でも、ランダムで静止したらめっちゃ不便なんじゃ?」
「まあ、普通はな。 ただ、お前のように何も知らずこの剣を選んだものと、この剣に選ばれたもの、総称して「扱える者」と呼んでいるが、そいつらは、自在に静止のタイミング、静止時間を操れる。」
「なるほど。って言いたいですけどそんなに意味無くないですか?」
正直防御的に慣れればどんな強い攻撃でもほとんど防げそうだが、さして重要なことではなさそうな感じがする。
「まあ、そうなるよな。 これはもう一つ、静止中に「念」を込める、まあ剣に意識を集中させることでこの剣内にその念を溜めることができる。」
そういうと、また剣を振り始めた。
「まあ、見ればわかる。」
剣が静止すると、そのまま目を瞑る。
「目瞑る必要あるんですか?」
「いや、特にない。わかりやすいようにな。」
その「念」というものが溜まっていくといっていたが、目に見えるものではないのだろうか、外見上特に変化は起きていない。
「行くぞ。」
静止解除された剣を振る。
すると、その剣先からその振り筋と同じような形をした何かが飛んで行った。
「今のは・・・?」
「今のは、念の塊というのが一番正しいだろうか。まあ、飛ぶ斬撃といったところだ。」
「飛ぶ・・・斬撃」
「静止中に念を溜めれるが、当然その時間を操れる「扱える者」は自在に今の念を調整できる。 ちなみに、込めた念は静止時間と同じ時間をかけてゆっくり消えていく。」
「じゃあやろうと思えば相当強いものも?」
「ああ。もちろんだ。」
「はぁ・・・」
使いようによってはとんでもない兵器にでも成りかねないんじゃないかというレベルの代物だ。
「ほかにも剣が完全静止するのを使ってそこを軸にして身体移動とかもできるな。」
そういうと、走り出し、飛ぶと同時に大きく剣を振る。
「お、ラッキー」
振ってるときに、剣が静止した。それと同時にイルカは自分の体を持ち上げ、そのまま剣を離して飛んだ。
そのまま剣とほぼ同時に落ちてきた。
「私は静止時間を操れないからうまくは出来ないが、飛ぶ瞬間に静止解除をして今のを繰り返せば高く飛ぶこともできるだろ?」
「なるほど。 ってか詳しいですね。」
「常識だ。 聖剣徒を目指してる奴は大体知ってる。聖剣徒内にも生死刀を扱える奴がいることは少なくはないからな。 知識の一環だ。」
「やっぱりいるんですね。」
「まあ、頑張って練習しろ。」
イルカが剣を投げて返してきた。
剣を受け取り、振り始める。
「・・・止まらない。」
何度か振るもののさして変化は無く。
「っ・・・ こりゃ練習けっこう必要かなぁ。」
振ってる途中、イルカの念という言葉を思い出し、止めることをもっと意識するべきなのだろうかと思い、少し丁寧にやってみる。
「止まれっ・・・!」
思いっきり横から振った剣は、腰の真横くらいで静止した。
結構力を入れて振った分、腕へのダメージは大きかった。
「っ痛・・・ でも止まった。」
痛みを感じながら、手から剣を離す。 剣はそのまま浮いている。
イルカの言っていた10秒を過ぎ、20秒、30秒と経っても動くこともない。
「へぇ。すごいなこれ。」
もう一度剣を掴み、解除を念じようと思ったが、念を込めれるという言葉を思い出し、念を込めるとはどういう感じなのか考えながら目を瞑った。 意味がないのは知ってるけども。
「・・・・・・これは溜まってるのか?」
数秒念じてるつもりで放置し、解除を念じた。
「あ、動いた。」
剣が少し動いたのを確認し、大きく剣を振る。
しかし何かが飛んでいくようなこともなかった。
「念を込める・・・っていう感覚は分かんねぇな・・・」
取り敢えず、静止、静止解除を自在にできるようにならなければならないと思った。
数週間後---
「銀河、どうだその剣の使い心地は。」
「ええ、結構慣れてきました。 最近イルカさんがやってたような移動に手つけ始めました。」
「そうか。 どうだ?一回手合わせしないか?」
「え、まだ全然勝てる要素無いですけど・・・」
「大丈夫だ。生死刀の力を見てみたいだけだ。」
「そうですか。 まあ、やるからには最善を尽くしますけど。」
「よし。 せっかくだから三発制で行くか。」
「三発制?」
「単純に相手に3太刀当てればいいだけの話だ。」
「なるほど。 わかりました。」
剣を構える。
「行くぞ。」
その言葉と同時に、こちらに向かってくる。
咄嗟に上へ飛び停滞。
「逃げるより先に攻撃することを考えるんだな。」
「そこはまだまだこれからやっていきます。」
勢いそのままにイルカはこちらに飛んでくる。
「んなっ!」
剣の上に乗っていて取る暇もなく、剣をそのままに落下していった。
無防備な状況でどうしようもない。
「まあ、ここもまだまだだな。」
「っ!」
3連撃を一瞬で決められ、終わった。
飛んで剣を取った。
「はーっ・・・ やっぱりまだまだだよなぁ。」
「まあ、試験までは時間がある。これから何回か手を合わせていけばいい。」
「そうですね。 よろしくお願いします。」
剣の扱い、身のこなし、まだまだ改善点はたくさん見えてくる。
試験まで10か月ほど。時間があるようで無い。自分でもどれだけいけるかは分からないが、何より早く聖剣徒になる方がいいにのは確かだ。
「ああ、そういえば言っていなかったが、生死刀や、その他、まあ聖剣徒になればわかるが、特殊な剣には、『覚醒』と呼ばれる段階がある。 しばらくは見れないだろうが、頑張れよ。」
「覚醒・・・ねぇ。」