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79話 結果発表

 日も暮れはじめた頃。

 平原には朝と同じ数……いや、それ以上の人々が集まっていた。多分結果だけ見に来た観客がいるのだろう。


「やあ、シャルロッテ。それにアスカ君も」


 スヴェルとアイギスの二人が俺たちに気づき、人ごみの中を手を振りながら近づいてくる。


「スヴェルさん」


 俺がそれに答えると、アイギスが首を軽く横に振った。


「アスカ君、スヴェルにさん付けなんていらないわ。呼び捨てでいいのよ、呼び捨てで。ついでに私もね」

「アイギスの言う通りだな。シャルロッテの思い人ならば、きっといい人なのだろうからね」


 騎士というのはもう少しお堅い職業だと思っていたが、それは俺の勘違いだったらしい。

 ……いや、二人が内面を見せられるほどシャルと親しくなったというだけのことか。

 俺は思い直す。シャルと仲が良いことが影響して、俺にも気安く接してくれているのだろう。


「アスカ兄ちゃんはいいやつだにゃ!」

「あらあら。愛されてるみたいで羨ましいわぁ」


 アイギスがニマニマとはにかんで、俺の肩に軽く触れる。


(近所のおばさんかあんたは!)


 アイギスは本当に楽しそうにしている。お節介焼きというかなんというか……。

 アイギスは人のことに首を突っ込む前に、自分たちの進展をさせた方がいいと思う。

 まあ自分たちのペースってものもあるだろうし、他人の俺が口を挟むのもなんだから言わないけどさ。


 俺は話題を変えて、この大会の成果を聞いてみることにした。


「それで、首尾はどうだったんだ?」

「上々ね。そうよねスヴェル?」

「当たり前だ。僕を誰だと思っている」


 スヴェルがフッと言いながら金髪をかき上げる。


「鼻に付くナルシストかにゃ?」

「私もシャルにどうかーん」


 シャルとアイギスが答える。

 ちなみに俺も同感だ。


「シャルロッテ、アイギス……さては嫉妬かい?」


(メンタルすげえな!)


 やれやれ、とでも言いたげなスヴェルに、俺はある種の尊敬を覚えた。


「はいはい、それでいいわよ。……それで、シャルたちはどうだったの?」

「ぼちぼちってとこだにゃ」

「俺たちにしちゃ良くやったよな。シャルのおかげだ」


 そんな俺の言葉をシャルは否定した。


「そんにゃことにゃいって。アスカ兄ちゃんがいなきゃあの爆発やばかったにゃ」


 シャルはそう言うが、俺としてもそこは譲れない。


「確かにそこは俺が役に立ったけど、シャルがいなければそもそもその前に駄目だった。だからシャルのおかげだよ」

「そ、そうかにゃ……? にゃはっ」


 シャルが照れたように目線を逸らして笑う。

 同時に耳がピクンと軽く動いた。かわいい。


「シャル、あんたたちチームワーク良いのね。羨ましいわ」

「僕たちだって悪くはないだろう。戦闘に関しては」

「戦闘ではね。私生活では絶対合わないけど」


 二人はぷいとそっぽを向きあう。


(なんでこの流れで微妙な雰囲気になるんだ?)


「はぁ、二人はいつににゃったら進展するんだか……」


 シャルもあきれ果てた様子で、大げさに肩を落として見せた。


「な、何よその上から目線……」

「僕たちの何が進展するって? あり得ない、あり得ないね」

「……そこまで否定しなくてもいいじゃない」


 アイギスが小さく呟く。

 それに慌てたのはスヴェルだ。先ほどまでの優雅な素振りはどこへやら、わたわたと慌てながら弁解し始める。


「あ……ご、ごめん。僕はアイギスのこと、その……嫌いじゃないよ」

「ふ、ふん、当然でしょ? 私はあんたよりまともなんだから」

「なんだって? 僕の凄さを知らないのか!? なら見せてや――」

「あ、そろそろ結果発表が始まるみたいだにゃ。二人はもう静かにね?」


 シャルが自分の口に指を当てると、二人は冷静さを取り戻したようで、静かに檀上の方に向き直った。


(……静かにしてれば美男美女なのになぁ)


 なんとなく残念さが拭えない。というか好きなら付き合っちゃえばいいのに。

 ……まあ、未来で手も握ったことのない俺に言われても、誰が言ってるんだとしか思われないだろうけどさ。






 セレシェイラが再び俺たちの前に立つ。

 すると、ざわついていた平原がスッと静まり返った。

 俺たち4人も口を開かないままでセレシェイラの方を見る。


「皆さん、お疲れ様でした。おかげで魔物の数もだいぶ減ったと思います。……では、これより結果発表を行います」


 セレシェイラは王たる気品をその身から醸し出しつつ、笑みを浮かべる。

 その上品な笑みに、冒険者たちの数割がどきりとしたことは言うまでもない。


 だが、俺はその笑みに心動かされはしなかった。

 理由は単純で、目をつぶっていたからだ。


(優勝、狙えるか……?)


 ほとんどの冒険者にとっては少し気張るか、程度の大会だろう。

 優勝を狙っている人は数えるほどしかいないのかもしれない。

 この大会は毎年騎士団から出場したチームが圧倒して優勝を掻っ攫っていくからだ。


 ――だが、歩みを止めれば成長はない。


(優勝を狙わないなら出なくても良かったんだ。出たからには優勝を目指す!)


 思えば、未来にいたころはこんなことを思ったことがなかった気がする。

 適当に生き、妥協を重ねて日々を生きていた。

 才能がないから仕方ない。調子が悪かったから仕方ない。

 そんな仕方ないを重ねて17年間生きてきた。

 俺はそんな自分が嫌で、だけどそれを改善する気もなくて。


 俺はこの時代に来て、何か変わることができたんだろうか。


 両手に力が入る。

 固く握られた俺の拳を上から何かが包んだ。

 目を開けると、シャルが手を握ってくれていた。


 シャルは何かを言うこともなく、ただ無言で俺の顔をみつめる。

 俺はシャルの手から勇気を貰った気がして、握り拳を緩めた。


「優勝は……」


 セレシェイラの口が開かれる。

 その口から自分たちの名前が呼ばれることを望んで、俺は壇上のセレシェイラを見た。





「優勝は……スヴェル、アイギスチームです!」


 歓声が起き、スヴェルとアイギスが壇上へと誘われる。

 俺も拍手で彼らを後押しした。


(駄目だった……か)


 悔しい気持ちがないわけではない。

 だが、不思議と清々しい気持ちの方が勝っていた。


「お二方の討伐数は114匹でした。素晴らしかったですよ」

「ありがたいお言葉でございます」


 ヒュマンの国王に、二人の騎士が恭しく頭を下げる。


「ひゃぁー、100匹! 二人とも凄いにゃ!」

「だな。俺たちもまだまだ鍛錬が必要みたいだ」


 最後にあの魔物と戦ったせいでペースが遅れた部分はあるが、それが無くても50匹超といったところだっただろう。二人が2倍以上のスコアと知り、軽くため息をつく。


(……遠いなぁ、上は)


 だけど、俺たちだって成長してる。それが実感できた。

 だから今日は、二人を祝おう。

 俺とシャルは力強く拍手をした。


「続いて、特別賞です。特別賞は……アスカ、シャルチームです!」


「…………は?」


 え、なに? どういうこと?


 理解できない俺は辺りをキョロキョロとするが、他人は歓声を上げてばかり。


「と、とりあえずセレシェイラ……様のところにいくにゃ」

「そ、そうだな。そうしよう」


 俺たちはおどおどしながらセレシェイラのいる壇上へと向かった。





「おめでとうございます」


 ロペラが周囲に気を張りながら、小声で俺たちを祝福してくれる。

 俺は「え……あ、ありがとうございます」という、なんとも情けない返事をするしかなかった。


 壇上に上がると、集まった冒険者たちが良く見渡せた。


 セレシェイラが呆然とする俺たちに告げる。


「特別賞は去年から設置された賞で、特殊な魔物を討伐した方に贈られる賞です。お二方はネムレシアを討伐なさりました。去年は該当者がいなかったので、初めての受賞者ですね。おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございますだにゃ……」


 未だ事態が呑みこめていない俺たちを、割れんばかりの拍手が包む。

 こうして、討伐大会は終わりを告げたのだった。








「ネムレシアじゃと!?」

「そ、そうだけど……もしかしてあの魔物に何かあるの?」

「ネムレシアは大層珍しい魔物じゃ。400年を生きる妾も両手で数えられるほどしか見たことがない。そんな魔物に会えるのなら、妾も参加しとればよかったと思ってのぅ……」


 俺たちは討伐大会の特別賞の賞品である豪勢な食事を囲みながら話をしている。

 討伐大会の結果を伝えると、プルミエはとても喜んでくれた。

 だがネムレシアのことを知るや否や、急転直下で落ち込んだ。


「プルミエが会いたい魔物がいるにゃんて初めて聞いたよ」


 シャルが肉を頬張りながらプルミエに言う。

 すると、プルミエはうわ言のようにぶつぶつと言葉を返した。


「あの花がいいんじゃあ……。紫色の分厚い花弁がとっても美しいんじゃあ……。お主たち、生で見たんじゃろ? 綺麗じゃったか? 綺麗じゃったかえ?」

「……う、うん、綺麗だった」


 魔力が漏れ出すほど興奮するプルミエを見て、花びらを火球で燃やしたことは絶対に言わないでおこうと決めた俺たちだった。

明日は二話投稿します(19時と20時)

それにて本作品は完結となります!

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