78話 戦闘
俺たちの前には花の魔物が立っていた。
竜車のタイヤくらいはあろうかという巨大な紫の花が頭と結合した、いままでに見たことのない魔物だ。
胴体は白く、2足歩行であるがその体長は俺の腿辺りまでとかなり小さい。そして頭の花の花弁は異常に分厚かった。
「シャル、あいつ知ってるか?」
「ううん、あたしも見たことにゃい」
シャルも知らないようだ。
俺はプルミエの屋敷に数十日住んでいたし、ヒュマンに拠点を移してからも森には依頼で何度も来ている。
そんな俺でも見たことがないということは、イレギュラーな魔物に違いない。
(どうする……。まずは観察するか?)
目の前の魔物はあまり動きが速そうには見えない。
おそらく特殊な花粉か何かで睡眠欲を刺激して、その間に獲物を狩るのだろう。
(なら状況はこっちが有利だ)
シャルのおかげで不意打ちは防げた。いざ対峙してしまえば、こちらが勝てる目のほうが大きい気がする。
俺たちを真正面から倒せるほどの力があるとしたら、眠らせてから殺すなんて面倒なことはしないはずだからだ。
「近づくのはなしだ。あいつの頭は花だし、俺が火球で攻撃する」
俺はシャルにそう伝え、右手から火球を放つ。
思った通り怠慢な動きの魔物は、それを避けることも出来ずに頭に命中した。
「ブギャオォ!」
耳障りな声をあげて魔物が苦しみだす。紫の花弁が焼け焦げていく。
火が消える頃には、紫だった花は黒く焦げきっていた。
魔物はふらふらとその場で揺れる。
「アスカ兄ちゃん、あいつまだ生きてるよ。あたしも光球撃つ?」
「ああ、頼む」
ここまできたらあとは押し切れるはずだ。シャルが光球を撃ち、俺が火球を放つ。
俺たちの魔法は魔物に全段命中した。
(よし!)
これで決着がついたと思った俺。
しかし、魔物はまだ生きていた。
「ブギャオオオ!」
空気を震わせる大音量の鳴き声を出す。
「兄ちゃん!」
「一旦下がるぞシャル!」
その咆哮に不吉な予感を感じた俺たちは、数歩下がって距離をとった。
だが、予想に反して魔物はその場に固まったまま動きを見せない。
「……アスカ兄ちゃん。あいつの身体に魔力が集まってる」
シャルの言う通り、魔物は自分の身体の中心に魔力を収束させている。
(収束させたところでどうするんだ? ……まさか!)
「シャル、俺の背中に隠れろ!」
俺はシャルの肩を掴んで後ろに押しのける。
「ブッギャアアア!」
それと同時に、魔物の身体が爆発した。
やつの身体を中心に爆風が吹き荒れる。
(自爆とか、なしだろーが!)
俺は身体に力を入れ、『頑丈』を発動させる。
表面が焼けるように痛い……が、耐えられなくはない。
(修行の成果を舐めんなよぉっ!)
俺は魔物の自爆を耐えきった。
少し体が痛いが、傷はついていない。数時間で治る傷だろう。
「はぁっ……無事か、シャル」
「兄ちゃんのおかげでにゃんとかね。それにしても、自爆するにゃんて……ん? にゃんか落ちてる」
シャルが爆心地に何かが落ちているのを見つけた。
「俺が行くよ」
考えたくはないが、もしかしたらまた罠かもしれない。
こういうときは身体が丈夫な俺の出番だ。
俺は魔物がいた地点に近づき、それを拾い上げる。
「……種、か?」
そこに落ちていたのは紫色の種だった。色から察するに、先ほどの魔物の種ではなかろうか。
(多分、これが討伐を証明してくれる素材になるだろう)
俺はそれを大会用の特注袋に入れる。
袋はそれを無言で呑みこんだ。
「何だった?」
「あいつの種だった。……っとそろそろ時間だな。平原に帰ろう」
変わった相手だったが、いい経験になった。
俺とシャルは魔物相手に命がけの戦闘をした経験があまりないからな。
(参加して良かったな)
そんな感想を持ちながら、俺はシャルと共に森を後にした。




