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74話 使い道

 それから数日後。俺たち3人は揃ってセレシェイラの元を訪れていた。

 1週間ほど前に会いたいと打診したところ、今日ならいいと言ってくれたのだ。


「ようこそおいでくださいました。……いや、良く来てくれたねシャル、アスカ、それにプルミエ様」


 今日は完全にプライベートな場であるからか、セレシェイラの口調も格式ばっていない。

 セレシェイラは桜のように美しい色をしたドレスを纏っていた。髪の色と同じドレスを着たセレシェイラは桜の精霊のようで、とても可愛らしい。もちろん、国王の顔を持つセレシェイラは威厳もあるのだが、今はただの女の子だ。


「妾だけ様付きなのか。何か少し悲しいのぅ……」

「だ、だって命の恩人ですし! そんな人に向かってタメ口と言うのはちょっと常識的に……」


 セレシェイラは慌てたように弁解する。


「アスカなんて余裕でタメ口なのじゃがな」

「おい、なんか俺が無礼なやつみたいに聞こえるだろ」

「え、違うのですか?」


 ロペラさんが口を挟んできた。

 その声は本心から疑問に思っている声だ。


「ロペラさん俺に厳しくないですか!?」

「すみません。殿方にはあまりいい思い出がないものですから」


 そう言ったロペラの顔が陰りを見せる。


(もしかして、男に何かされたとか……ロペラさんって超綺麗だし)


 そうだとしたら、いらぬトラウマを再発させてしまったかもしれない。

 俺はロペラさんを見る。

 鎧の上からでもわかるその女性的な体つきに、人間離れした顔の美しさ。

 こんな人なら、男が変な気を起こしてしまったことも一度や二度ではないのかもしれない。


「……すみません」


 俺はロペラに頭を下げる。

 しかし、セレシェイラがひらひらと手を振ってそれを止めさせた。


「気にしなくていいよ。ロペラは次々申し込まれるお見合いに辟易してるだけだから」

「なんだ、そんなことだったんですか」


 思っていたよりも大したことない話だった。

 肩の力が抜けた俺を、ロペラは軽く睨む。


「そんなこととはなんですか。私にとっては大問題です。断っても断っても次から次へと……」


 どうやらかなり鬱憤が溜まっているようだった。


(モテすぎるってのも困りもんなのかな?)


 俺には気持ちはわからないが、とりあえず気の毒だということは伝わった。


「大体私まだ20代ですよ? 60代の方の顔を見せられても、さすがにときめきません。いつか私の元には白竜に乗った王子様が現れてくれるはずなんです。早く来てください、私の王子様」

「ロペラ姉、意外とロマンチストだにゃ」


 シャルが嬉しそうに言う。

 いや、嬉しそうというよりはロペラを応援しているのか。


「はいロペラ、愚痴はそこまでー。プルミエ様のことは今度からプルミエさんと呼ばせてもらいますね。それが私の限界です」

「わかった。これからはそれで頼むのじゃ」



 話が脱線に脱線を重ねたところで、ロペラが口を開く。


「ごほん。先ほどは失礼いたしました。時間も押してきましたし、そろそろ本題に入られてはどうかと思うのですが」


 そう言ったロペラの声にハッとしたのはセレシェイラだ。

 壁にかかった時計を確認し、口に手を当てる。


「あっ、本当だ。ありがとうロペラ。私忘れるところだった」

「セレシェイラ様が遅れて怒られるのは私ですからね。予定を狂わせるわけには参りません」

「いつも迷惑かけるね……」

「いえ、これも私の仕事なので」


 ロペラは何の躊躇いもなくそう言った。

 なんという従者の鏡。さっきまで愚痴を言っていた人と同一人物とはとても思えない。


「今日の用事はこれだにゃ」


 シャルがセレシェイラの前に布袋を2つ出す。


「……これは?」

「これは金貨だ。前に話したワンゴフの時の恩賞だな。これをスラムの人たちのために使ってほしい」

「貧民街に、ですか」


 セレシェイラは俺の言葉の真意を測りかねているようだった。


「あたしは幸運だったにゃ。アスカと会えて、あの場所から抜け出せた。だけどそんにゃ人ばかりじゃにゃい。むしろあそこを抜けられない人の方がずっと多いと思う。だからあたしは、スラムの人たちが働けるようににゃるためのお金として使ってほしいんだにゃ」


 俺には使い道が見つけられなかったのでシャルに何か良い使い道はないかと聞いたら、シャルが「スラムに使いたい」と提案してくれたのだ。

 結局プルミエもそれに賛同し、俺たちはワンゴフで得た金貨を一人一枚ずつだけ受け取って、残りをセレシェイラに渡すことにした。


 シャルにとっては生まれ育った場所だ。思い入れも深いのだろう。

 セレシェイラはシャルの瞳を覗き込み、その金色の輝きを見つめた。


「……わかった。ありがたく使わせてもらうわ」

「よかったぁ。セレシェイラに任せれば安心だにゃあ」


 シャルが姿勢を崩す。

 あぐらをかいたシャルは、ホットパンツなことも相まって健康的な太ももが露わになっている。

 俺は思わずシャルから目線を逸らした。


「責任重大ですね、セレシェイラ様」

「当たり前よ。私はこの国の王なんだから」


 ロペラの言葉に答えたセレシェイラからは王の風格が感じられた。




 その後、就業施設がつくられる予定が立ったらしい。それでスラム街で職にえられない人間もへるかもしれない。

 また、清掃の仕事なども回ってくるシステムが整えられつつあるようだ。


「よかったな、シャル」

「2人のおかげでやっと生まれ故郷に恩返しができたにゃ」


 シャルは嬉しそうにスラム街を眺めていた。

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