71話 いちゃいちゃ
シャルが泣き止んですぐ、プルミエが王宮から帰ってきた。
シャルを泣かせたのかと怖い顔をされたが、プルミエを見たシャルが再び泣き出したことで、プルミエも涙の理由に辿り着いたようだった。
プルミエはまるで子供をあやす様にシャルの背中を優しくなでた。
「あっ、実際は子供どころか孫以上の年齢差か」と言ったらプルミエに般若の顔をされた。
その後3人で再開を喜び合って夕食を食べた。
これから強くなっていこうと一致団結する。
やっぱり3人で食べるご飯はおいしい。改めてそう思った。
月が映える時間帯に差し掛かった。
そろそろ寝ようかと各々が身の周りの整理を始める。
俺は耳をピョコピョコさせながら歯磨きから帰ってきたシャルに口を開く。
「シャル、今日一緒に寝よう」
「にゃっ!? ……も、もう一回言って?」
薄黄色のパジャマを着たシャルは耳のピョコピョコ度を増して聞き返してくる。
「一緒に寝よう、シャル」
「にゃ、にゃにゃにゃにゃんで!?」
「プルミエと一回竜車で一緒に寝たからな。シャルとも寝たい。駄目かな?」
あれ、こういう時に他の女の子の名前を出すのは駄目なんだっけ。緊張しちゃってそれどころじゃない。
「じゃあ布団を出さないと――」
「しゃ、シャルは一緒の布団じゃ嫌かな?」
「……い、一緒がいい……です」
シャルはパジャマの裾に付いたフリルを握りながら言った。
頭に付いた猫耳はもうブンブンのブンブンだ。
「じゃあ、一緒に寝よ」
「誑かされないように気を付けるのじゃぞシャル。アスカは小悪魔じゃからな」
黒いネグリジェを着たプルミエがシャルにそう言った。
「人聞き悪いこと言うなよ……」
あんまり素材が薄いネグリジェを着るのは理性が崩壊するからやめてほしい。
だけどそれを言った暁にはからかわれるのが目に見えているので、俺はいつも鋼の意思で耐えることになる。
シャルの部屋に入る。
まだ家に越してきたばかりだから当然物は少ない。
だが、その部屋は一色で統一されていた。
「黄色、好きなんだな」
「……にゃ」
俺はシャルのベッドに腰掛ける。
(一人用のベッドだからプルミエの時より近いな)
電気を薄暗くして2人で寝転がってみると、案の定お互いの吐息がかかるほどの距離しかなかった。
(こ、これは思った以上にヤバいかも……)
至近距離に見えるシャルの顔に、俺は思わず視線を逸らす。
「あ、あたし臭くにゃいかにゃ……?」
シャルはすんすん、と鼻を動かして自分の匂いを嗅いでいた。
「前にも言ったけど、俺はシャルの全部が好きなんだ。シャルの匂いもすっごく好きだよ」
「にゃ、にゃぁ……」
シャルが暗い中でもわかるほど赤面したのがわかる。
(こんな子が俺のこと好きって言ってくれてるんだよな……)
なんだか夢のような話だ。
実際夢じゃないのかと頬を抓ってみるが、未来に戻ったりはしない。
「シャル、耳触ってもいい?」
「……いいよ」
俺は恐る恐る手を伸ばしてシャルの耳を触った。
指を巧みに駆使してシャルの耳を撫でる。普段はあまり触らせてくれないから、こんな機会を逃すわけにはいかない。
シャルはふっ、ふっ、と短い息を吐く。声が出そうなのを我慢しているようだ。
耳は小動物のように小刻みに震えている。
「シャルの耳、ぴくぴくして可愛いね」
「――っ!」
耳元で囁くと、シャルは我慢しきれなくなったように俺の顔に近づく。
かぷりと耳に噛みつかれた。
はむはむ、と何度も甘噛みを繰り返される。
吐息が首筋に当たってくすぐったい。
俺はくすぐったさから逃げようと体を捻らせる。
「逃がさにゃいにゃ」
シャルは俺にさらに体を近づけてきた。
もはや密着していると言った方がいいかもしれない。
シャルの甘い吐息を感じ、顔に血が集まっていく。
「アスカ、顔赤くなってるにゃ。それに耳もどんどん熱くなってるにゃあ?」
シャルが耳元で囁いた。
(呼び捨ては反則だろ……!)
今まで見たことがないその艶めかしい笑顔に、俺は胸を鷲掴まれたような衝撃を受ける。
俺たちはどちらからともなく手を繋いだ。そしてそのまま眠りに落ちたのだった。
今話で四大英雄編は終了です。
次話からは最終章になります。
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