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69話 決意

 施術院で一泊した俺たちは、翌日ヒュマンへと向かうことにした。

「完治したプルミエはともかく、そなたはまだ動けないであろう」とブルドに言われたので、施術院の廊下を走ってやったら目を見張らせて驚いていた。そのあと看護師の人に滅茶苦茶怒られた。



「この度は誠に感謝のしようもない。何かあった時には是非とも力にならせてくれ」


 別れ際、ウェルシュがそう言う。


(律儀な人だなぁ)


 そう思ったが、プルミエやシャルが誰かに命を救われたら俺も同じことを思うことに気づき、なんとなく恥ずかしくなった。





 ヒュマンへの帰路はブルドが高級な魔物の車を用意してくれたおかげで、快適かつ速く帰ることができる。


 車内で俺とプルミエは二人きりだ。


 俺はブルドから報酬として受け取った袋を持ち上げる。


「おっも……、プルミエ、これどのくらいの価値なの?」


 ワンゴフからの報酬として金貨がたんまり入った袋を受け取ってしまった。

 この時代に来て長いこと経つが、金貨なんて見たのは初めてだ。


「そうじゃなぁ……妾達の家あるじゃろ?」

「うん」


 そこまで聞いた俺は内容を先に想像する。


(あの10人は軽く住めそうな広い家ね。もしかして、あれ一軒分? 貰いすぎなんじゃ……)


「あれが土地を含めて金貨一枚分じゃ」


 衝撃の事実をプルミエはあっけらかんと言い放った。


「……やばくない?」

「くれると言うなら貰っておけばいいじゃろ。いや~、ブルドは太っ腹じゃ。父親に似たのかの?」


 俺は恐る恐る布袋の中身を開く。そこには変わらず金貨が敷き詰められていた。


(金銭感覚が乱れる! ど、どうしよう……)


 なんとなく布袋を床に置いたり持ち上げたりしてみる。

 それをしばらく繰り返し、もう一度中身をのぞく。

 当たり前だが、中の金貨は減っていなかった。


(減ってない……どうすれば減るんだ!?)


「お主は何をやっとるんじゃ……」


 プルミエが俺に呆れた視線を向けた。





「……ねえプルミエ、身体は大丈夫?」


 もう少しでヒュマンにつく辺りで、俺はプルミエにそう聞いた。

 もし悪いところがあるなら、ヒュマンの施術院に入院した方がいい。


「妾は大丈夫じゃよ。『魔の杖』なんて大層な代物を、一線級の治療術士であるウェルシュが使ったんじゃ。死んでても生き返るくらいじゃろうて。それより妾はお主が心配じゃ。本当に体に異変はないのかえ?」

「俺は大丈夫。身体はまだ痛いけど、数日もすれば良くなりそうだしな」

「つくづく丈夫な身体じゃのぅ……」


 呆れたのか感心したのか、もしくはそれらが混じり合ったような声をだすプルミエ。


 その視線から逃れるように、俺は車の窓から外を見る。

 行きの時とは比べるべくもない速度で景色が流れていく。

 まるで時間を遡っているよな錯覚さえ覚えた。


「……終わったんだね」

「……そうだのぅ」


 メドゥーサはもう死んだ。

 でも今回勝てたのはたまたまだ。

 負けていてもおかしくなかった。……というか、普通なら負けていただろう。


 たまたま俺たちが生き残っただけで、死んでいてもなんらおかしくなかった。


「プルミエ。俺、もっと強くなりたい。プルミエの隣にいても恥じないくらい、強く」


 俺は拳を握りしめる。


「お主がそう望むなら、妾もそれを望もう」


 プルミエが俺の拳に手を添えた。


「妾も予想以上に刃が錆びておった。もう一度鍛えなおした方がよさそうじゃ」

「帰ったらシャルと一緒にギルドの依頼を受けてみよう。あと、特訓もする」

「じゃの。小さなことからコツコツとじゃ。……シャルに置いて行かれぬようにな?」


 プルミエがからかう様に微笑みかけてくる。


 実際シャルは凄い。センスがあるというのはシャルのことを言うのだろう。

 真面目に訓練しないと本当に置いて行かれることになる。


 俺は不敵な笑みを浮かべてプルミエに言葉を返す。


「プルミエこそ、シャルに抜かされても知らないからな」

「お主が抜く気はないのかえ……」


 プルミエはガクリと肩を落とした。


「今はまだ無理だ。だけどいずれは……な」

「……そうか。自分のペースで頑張ればよい。無理はせんようにの」


 会話が一段落したところで、俺は再び外を見る。

 窓からは懐かしきヒュマンの国が見え始めていた。

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