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4話 未来人はベジタリアン

 昼過ぎまで花壇の水を掻きだしていた俺たちは、やっと一息つく事にした。


「お腹が減ったのぅ。アスカ、お主も減ったじゃろ?」

「うん、そういえば朝も食べてないし」

「そうじゃったの。時間を忘れて作業に没頭していたせいで忘れておったわ。妾は昼食を狩ってくる。少し待っておれ」

「うん」


(買ってくる? どこかに店でもあるのか?)




 プルミエは城の裏手にある森へと飛び立っていく。

 俺は日差しに照らされながらのんびりと背伸びをした。


「んんーっ。気持ち良い天気だ」


 水に濡れた花弁も太陽光でキラキラと輝いて見える。色とりどりの花に囲まれると、心も豊かな気分になる。……まあ、現状は枯れかかっているわけだが。


(それでも、これからはすくすく育ってくれるだろうさ)


「おーい! アスカー!」

「プルミエ!」


 プルミエが森の方から帰ってくる。遠目からみても重そうな荷物を抱えていた。あれが昼食なのだろうか。


(なんか荷物が大きくないか? ……ってあれ、生き物じゃねえの!?)



 俺の前に降り立ったプルミエは、快活に笑いながら俺と同じくらいの大きさの恐ろしげな生物を抱えていた。生物はすでに生きてはいないようだ。

 首から上は可愛い女の子なのに、その下では俺でも敵わないような生物を抱えている。とてもアンバランスだ。


「待たせたの。中々丁度良い魔物がいなかったもんじゃから、ちょいと時間がかかってしまったわい」

「ああ、『カッテクル』ってそういう……」


(買うんじゃなくて狩るだったわけね。……そんなんわかるか!)


「食事じゃ食事じゃ~。屋敷に戻るぞ、アスカ」

「う、うん」


 プルミエは魔物を地面に引きずりながら意気揚々と城へ進んでいく。


「持つよ」


 俺はプルミエから生物を受け取り、肩に乗せた。ズシリと重みが肩に乗しかかる。


「大丈夫か、アスカ? 辛そうじゃが……」

「だ、大丈夫……多分」

「無理せずとも妾なら運べるというに……」


 プルミエは呆れと感心が混ざったような不思議な顔をする。


「まあ、俺も男の子なんでね。女の子に重いもん持たせるわけにはいかないだ、ろぉぉぉ!」

「頑張るのじゃ、アスカ。妾が応援してやろう」


 一発気合を入れて、俺は屋敷の中へと入った。




「料理を作るからちょっと待っておれ」

「いいの? ありがと」

「まあ、作るのは妾の影じゃがな」


 そう言ってプルミエは自らの身体から影を切り離す。影人間は俺がヒイヒイ言いながら必死で運んできた生物を楽々持ち上げた。俺はその光景に少しショックを受ける。


「本当に便利だな……」

「これでも魔法には精通しておるのでな」


 リビングへと戻ってきた俺は、椅子に体重を預けるようにだらりと腰かけた。


(お、重かった……)


「お疲れ様じゃ、アスカ。助かったぞい」

「あ、うん」


(気ぃ使わせちゃったか……? こんなことで落ち込んでる場合じゃないよな)


「そうだ、さっきの生き物なんだけど、あれ何?」


 プルミエが狩ってきた生き物に俺は興味を抱いていた。植物と人間以外が絶滅した未来から来た俺にとって、あの生物はとても不思議な見た目をしていた。

 全身が黒い毛でおおわれていて、頭から角が生えていた。未来で想像されていた生物の姿と似ていて、俺はなぜか少し誇らしい気持ちになる。


「あれはイマドという魔物じゃ。この辺りの森ではそこかしこに見かけるぞ」


 プルミエは眉一つ動かさずに質問に答える。


「魔物って食べれる……ん、だよね?」

「なんじゃ、アスカはベジタリアンなのか? ならばメニューをそれ用に変更するが……」

「いや、食べる食べるっ。ごめん、変なこと聞いて」


 実際ベジタリアン――というか、未来人は全員野菜以外を食べたことがない――なのだが、俺は魔物の肉を食べてみたかった。


(生き物ってどんな味がするんだろ? やっぱり野菜とは違うのかな!)


 俺はそわそわしながら料理が出来るのを待つ。


「お、出来たようじゃぞ。もうすぐ妾たちのところに運ばれてくるはずじゃ」


 プルミエがピクンと何かに反応した。その言葉通り、プルミエの影が料理を運んでくる。

 色彩豊かに盛り付けられている野菜は、俺が未来で見たことがあるものも多かった。


 俺は手を合わせて「いただきます」を言い、出された料理を口に運ぶ。


「どうじゃ?」

「……うん、おいしい! すっごく美味しいよ!」


(これが生き物の肉……こんなに味が濃いのか! 野菜とは全然違う!)


 俺は初めて食べる肉料理に、夢中になってかぶりついた。口に合わなかったら残念だと思っていたが、とてもおいしい。病み付きになる味だ。


「ほっ……ま、まあ妾が作ったのじゃから当然なのじゃ!」


 プルミエが安心したかのように胸をなでおろしたのが目に入った。その微笑ましい行動に、俺は口の端が緩む。


「……何を笑っておるのじゃ!」

「ひぃっ! なんでそんな急に怒るの!?」


 俺が肩をビクッとさせて反応すると、プルミエはにんまりと意地の悪い笑みを浮かべた。


「あ、今ビビったのじゃ。アスカはビビりなのじゃ~」


(子供かよ……)


 プルミエの新しい一面が見れた昼食だった。





「ふわぁ……」


 昼食をとり終えた俺はあくびを一つする。プルミエもどこか動きがゆったりとしていると感じるのは、俺の気のせいではないだろう。


「これからどうするかのー」

「予定がないなら頼みがあるんだけど」

「なんじゃ?」


 俺は椅子から立ち上がり、まっすぐプルミエの方を見る。プルミエは座ったまま、上目使いで俺を見た。

 俺は右手を挙げて、高らかに宣誓する。


「魔法を教えてほしいです!」

「赤ん坊のように純粋無垢な眼で言うほどのことかの……」


 プルミエは呆れ気味だが、俺にとっては超重大事項である。


(魔法、それは永遠の憧れ。魔法、それは俺を惹きつけてやまない魔性の言葉……!)


「まあよい。近々忙しくなりそうじゃし、今のうちに教えておいてやるのじゃ」


 プルミエはブラブラさせていた足を揃えてピョンと椅子から降り、俺の前に立つ。


「座れ、アスカ。講義の時間じゃ」

「お願いしますっ」


 こうして、俺はプルミエに講義をしてもらえることになった。

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