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3話 花咲き誇る庭

 朝。窓から吹き抜ける気持ちの良い風に頬を撫でられ、俺は目を覚ます。


(ここ、どこだ? ……ああ、そうか。俺、過去に……)


 自分が過去に来たことを思い出した俺は、朝の挨拶をしにプルミエの元へと向かった。

 ドアをコンコンと2回ノックし、返事も待たずにドアを開ける。


「おっはよープルミエー!」

「ちょっ、まっ……」


 プルミエはほとんど透けている薄いピンクのネグリジェ姿であった。すらりと伸びる肢体、白くきめ細やかな肌――その映像を一瞬で脳裏に焼き付けながらも、同時に俺の脳は警鐘を鳴らしていた。


(……あれ、もしかして俺、やらかした?)


「ア~ス~カ~っ!」


 プルミエの影がひも状に形を変え、俺を縛り上げる。突然体の自由が利かなくなった俺は、なすすべもなく床に体を打ち付けることになった。


「アスカ、お主は何も見ていない。よいな?」


 カーテンに身を隠したプルミエが、氷のような眼で俺を睨んでいる。


「は、はい、プルミエ様っ!」

(あれ? なんか、腹の下あたりがウズウズするような……この先は駄目だ!)


 プルミエの視線にいけない扉が開きそうになった俺だが、そこは理性で必死に押し留めた。


「ごめんなさいっ!」


 俺はもう一度誠心誠意謝罪する。

 それに対し服を着終わったプルミエは、腕を組んで


「まあ、妾が注意していなかったのも悪かったしの。今回だけは許してやる。じゃが、次やったら容赦せんからな!」

「肝に銘じます」


 なんとか許してくれたようだ。プルミエの寛大な措置には感謝の仕様もない。


(プルミエが懐の広いひとでよかったぁ……。現代じゃ完全に通報ものだもんな)








「ときにアスカよ。お主、花には詳しいか?」

「いや、あんまり……」


 花なんていくつかの種類の名前くらいしか知らない。それに一万年後の未来の植物とは種類も違うだろうし、お世辞にも詳しいとは言えないだろう。こんなところで見栄を張る必要もないしな。


「そうか……」

「花がどうかしたの?」

「うむ、妾は花の手入れが日課なのじゃが、なかなか上手く育ってくれなくってのぅ。何かアドバイスをもらえればと思ったのじゃ」

「あ、今から行くなら俺もついて行ってもいい?」

「もちろんじゃ。元々今日はそのつもりじゃったからの」


 俺はプルミエに続いて、花壇へと向かった。





 城の裏にある花壇についたプルミエは、笑顔で大きく両手を広げる。


「ここが妾の愛しの花が咲き誇っている花壇じゃ!」

「咲き誇っ……ている……?」


 俺の言葉に、プルミエの笑顔が固まった。


「な、なんじゃ!? 何か文句があるのかえ!?」

「いや、これはどうみても枯れかかってるというか、何というか」

「うぐっ…………。そうなのじゃ、枯れかかっているのじゃ……」


 一転、プルミエはガクリと肩を落として落ち込む。その落ち込みようは尋常ではなく、彼女が本当に花を愛でていることが伝わってくる。


「い、いつもどうやって世話してるのかみたいなぁー!」


 俺は暗くなった雰囲気を明るくしようと、元気よくプルミエに言った。


「そ、そうじゃな……! 見ているのじゃ、妾がお花に水を上げる姿を!」


 そう言ってプルミエはジョウロで花に水を上げる。そういえば、水を上げるのは影じゃなくて自分でやるんだな。まあ、自分でやりたいほど好きってことなのだろう。


 鼻歌を歌いながら水を上げるプルミエの姿を、俺は後ろから眺める。今日のプルミエは黒と橙のゴスロリ服だ。ゴスロリの服がヴァンパイアの正装なのか、はたまた単にプルミエがゴスロリの服を好きなだけか。


(……まあ、後者だろうな。プルミエってこういう服好きそうだし)


 プルミエ自身の神秘的な妖しさも相まって、俺より生き物としての位が上に感じてしまう。実際、魔法打たれたら間違いなくお陀仏なので間違ってはいないのだが。


 でも俺にも魔法を教えてくれるって話だったし、もしかしたら俺も凄い魔法とかつかえるようになるかもしれないな。そう考えたらわくわくしてきたぞ。

 俺の属性は火と闇だったよな。ちょいと厨二っぽいが、王道でもある。

 古今東西主人公と言えば赤、そしてダークヒーローと言えば黒。それらを併せ持ち最強に見えるのがこの俺、飛鳥なのだ。


「……って、いつまで水やってんの?」


 俺が恥ずかしい妄想をしてる間、プルミエは上機嫌でずっと水をあげていた。


「いつまでって、妾が飽きるまでじゃよ。知らんのか、お花は水をやると元気になるんじゃぞ?」

「いや、それ限度ってものがあると思うんだけど」

「……なんじゃと?」

「プルミエだって水は飲むだろうけど、いくらでも飲めるわけじゃないでしょ? それと同じなんだよ。もしかして、今まで上手くいかなかった原因って、水のあげすぎかもしれないね」

「な、なんてことじゃ……! 妾のせいで、妾の自慢のお花たちが傷ついていたというのか……」

「でも今、気づけたんだから、今度からは失敗しないでしょ? それに、プルミエが花を愛する気持ちは花にも伝わってると思うよ」


 あまりに傷心しているプルミエを見かねた俺は、慰めの言葉をかけてやる。肩を震わせていたプルミエは、「そうじゃの、そうじゃの……」と俺の言葉に感銘を受けた様子だ。


「今は生き残ってくれたお花たちのことを一番に考えないと駄目じゃの……!」

「俺もそう思うよ」

「わかった。ありがとうじゃ、アスカ!」


 プルミエは池のようになった花壇から水を手で救い、花壇の外に投げ捨てる。その黒羽の生えた背中に、俺は哀愁を感じざるを得なかった。


「手伝うよ」


 俺は花壇の傍に座り込み、プルミエと共に水を手で掻きだす。


「アスカはいいやつじゃ。噴火の時に見捨てないで本当によかったのじゃ」

「……俺も見捨てられなくてよかったよ」


(見捨てられてたら、俺死んでたな……。プルミエには本当に感謝しなきゃ)


 俺とプルミエは、結局昼まで水を掻きだし続けた。

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