27話 頂点との距離
遠くからでも一際目立つ青色のとさかのドードに、俺は驚いた。
「なあシャル、なんか青いとさかのやつがいるんだけど……」
「何のんきなこと言ってんのアスカ兄ちゃん!」
のんきな俺と引き換えに、シャルは顔に冷や汗をかいていた。
「青いドードはオスのドードで、ハーレムを作ってるんだにゃ! その強さはBランクレベル――――にゃ?」
シャルがその危険性を離している間に、青いドードの頭と首は分断されていた。
「群れの長は処理しました。……そうですね、残りの群れをイマドに任せて事前練習しましょう。危なかったら助けますので」
サリアがいつの間にか抜いていた剣を再び鞘に仕舞う。
(いや、まだドードまで二十メートル以上距離があるんだぞ! どうやって斬ったんだよ……!)
それどころかいつ剣を振ったのか、それさえもわからなかった。
七代目剣聖という称号の意味を、俺は改めて知ることとなったのだった。
「はぁっ……はぁっ」
ドードの群れをなんとか下した俺とシャルは、疲労困憊で地べたに座り込んでいた。
「これだけやれれば十分イマドの群れとも戦えますよ! 結局私の手も借りませんでしたしね」
「ほっ、本当か?」
俺はサリアを見上げる。
逆光に照らされ表情は見えないが、サリアからはすでに剣呑な雰囲気は消え去っている。
サリアはこくんと首を縦に振った。
「ただ引き時だけは見失わないようにしてくださいね? 死んじゃいますから」
「……肝に銘じます」
のんきな顔で死を語るサリアに、俺は少しだけ恐怖を覚えた。
「今日は楽しかったです。また遊びましょーね!」
俺とシャルの体力が尽きたので、サリアとの特訓はお開きとなった。
サリアは何度も振り返ってはぶんぶんと元気よく手を振りながら帰っていく。
その姿は見れば見るほどただの美少女であり、まちがっても『剣聖』などという物騒な呼び名とは無関係にしか思えない。
「……にゃあ、アスカ兄ちゃんは気づいた?」
隣のシャルが口を開く。
その言葉には目的語が抜けていたが、その意味ははっきりと俺にも伝わった。
「ああ……サリアさん、一歩も動かせなかったな」
そう。サリアは俺たちとの稽古中、一歩も軸足を動かさなかったのだ。
それどころか両手を使わせたのさえ、シャルの閃光と同時に突っ込んだあの一回のみだ。あとは全て片手で流された。
「あーあ。頂点は遠いにゃあ~」
シャルは丈の短い草の上に思い切り寝転がる。
少しふてくされたように、伸ばした足をブラブラと振った。
「でも、今の段階で頂点を知れたのは大きいよ。……まあその前に、目の前の目標だ」
俺は汗で湿った自分の右手を見、そして握った。べたつくような感覚。それが不思議と心地よい。
サリアと戦ったことで確固たる自信が付いた。
明日は体を休めて、明後日――――明後日、イマドに挑む。




