拡張するセカイ ♯.10
「あなた方は何故そんなにもボロボロなんですか?」
夜が明け、朝日が顔を覗かせる前に現れたカルヲの第一声がこれだった。
宿屋の壁にもたれるように体を休ませる俺と体を大の字に広げ地面に寝そべるベルグの纏う防具は誰が見ても分かる程に傷付き、その肉体は疲弊しきっている。それはまるで強力なモンスターとの戦闘を経てきたような姿だったのだが、実のところ騎士団の強さを推し量るという名目のもと行われた試合がヒートアップし互いに手加減なく剣を拳を打ち合っていた結果に過ぎない。
ベルグには少しばかり騎士団の強さというものが伝わったのかどうか解からないが、この試合で俺が得られたものはスキルの熟練度だけ。
先のイベントでのPKの横行に端を発する処置としてプレイヤー戦では経験値の獲得やアイテムの移動が行われないようになっていて、唯一使用したスキルの熟練度だけが上がるのだが、それもモンスターとの戦闘に比べると明らかに少なく効率の悪いことになっている。
具体的に言えば消費したMPや使用した回数に比べて得られる熟練度そのものが嫌味なほど制限されてしまっているのだ。
目を擦りさも今目覚めたかのように問い掛ける。
「カルヲはいつもこんなに早いのか?」
「え、ええ、騎士団団長たる者、寝坊など出来ませんからね」
「それで、アンタはよく休めたか?」
「御蔭様で。あとの二人も直ぐに出てくるとは思いますけど。それで、あなた方は何をなさっていたのですか?」
「んー、ちょっとした訓練ってヤツだな。見た目ほどダメージもないんだ」
と、言いながら立ち上がるベルグが一瞬よろめく。けれど咄嗟に体勢を整えしゃんと背筋を伸ばしてみせた。
俺とベルグは体に付いた砂を乱暴に掃いながらヒカルとセッカが出てくるのを待つ。
すると程なくして宿屋の中から二人が現れた。
「では参りましょうか。今日中には王城へと着きたいですから」
俺の知らない間にカルヲは宿屋に支払いを済ませているのだろう。俺たちを呼び止める人などいるはずもなく、俺たちは王都への道のりを再び進み出した。
昨日と同じ道を進む。
朝も早いというのに通りでは行商人らしき人達とすれ違った。
平坦で安全な道のりはただのNPCたちが往来する道としては適しているのだろうが、俺からすれば退屈なことこの上ない。
モンスターとの戦闘が起こればいいとまでは言わないが、この退屈な行脚は出来るだけ早く終わって欲しいとは思う。
「こういうのも偶にはいいね」
「……だね」
にこにこと笑い、穏やかな空気を醸し出す二人は案外この行脚が気に入っている様子だ。もう一人のプレイヤーであるベルグはというと何を考えているのか解からない表情を浮かべているが、文句を言わないのだからそれほど嫌とは感じていないのだろう。
和やかな空気の中を一定のスピードで進んでいると王都の近くにある小さな村が見えてきた。
確か設定ではこの村は何かしらの理由から王都の中には住めなくなった人たちが暮らす村となっていたはずだ。
昨日カルヲやベルグからNPCのことや、設定が設定ではないことを知らされたことから、俺はこのゲームのインフォメーションを再び読み込むことにした。
ただの雰囲気付けだと思っていた物が、認識が変わったことである種の叙事詩のように思えた。まるでお伽噺のように感じられるそれを読んでいる内に夜が明け、カルヲが宿屋から出てきたというのが今朝の出来事の全てだった。
「あの村には寄らないんですか?」
「ええ。あそこには用事はありませんからね。今は先を急ぎましょう」
行ったことの無い村に興味を引かれたことも事実だがカルヲの言うことも尤も。行くべき場所が決まっているのならばそこを真っ先に目指すべきなのだ。
「とは言え、そういういわけにはいかないみたいだぞ」
これまで沈黙を貫いてきたベルグが告げる。
向けられた視線と先ではいつの間にか小型のモンスターが村の外周を覆っている木製の柵を破壊していた。
ファンタジー系の世界観では良くあることなのかもしれないが、見つけてしまった以上無視は出来ない。
騎士団の団長を務めるカルヲならば尚更なのだろう。俺たちに確認するまでもなく剣を抜きモンスターへと突っ込んでいった。
「どうするんですか?」
自分たちも行くべきなのかとヒカルが聞いてきた。
「そうだな、行こう」
「はいっ」
村を襲っているのは小型の人型モンスター。ゴブリン。ボロボロの布を身に纏い、木と石で作られた斧で策を壊している個体が十体前後。それを統括しているらしい上位個体が二体。
出現している数としてはそれほど多くないのだが、妙に統率がとれているのが気になる。
モンスターの生態が変わったという話など聞いていないから、このゴブリン達が特別なのかもしれない。
銃形態のまま牽制することでゴブリン達の隊列を乱していく。統率から逸れた個体をヒカルとセッカが連携して仕留める。
これをくり返すことでゴブリンは一掃できる。パーティとして戦うのならばこの方法で間違いないのだろうが、ここにはベルグとカルヲがいる。この二人のうちカルヲは騎士団を牽きいていることもあってか俺たちとの連携も問題なくこなしているのだが、ベルグは一人で戦うことに慣れてしまっているのだろう。そのことを自覚しているのか敢えて俺たちより離れ一人でゴブリンと戦闘をくり広げている。
プレイヤーとしてのレベルが高いのか、ベルグは一人で何体ものゴブリンを相手にしても一歩も引かず、次々と消滅させていく。
そのスピードたるや俺たちが連携してゴブリンを倒していくよりも速く、掃討速度は軽く俺たちの倍。
安定した戦闘をする俺たちと孤軍奮闘するベルグによって瞬く間に十数体のゴブリンのは消滅し、上位個体の二体を残すだけとなった。
「一体は任せたぞ」
ベルグはそう言うやいなやいち早くゴブリンの上位個体へと向かっていった。
ゴブリンの上位個体の名称はゴブリンジェネラル。まさしくゴブリンの集団の将と行った風貌だった。纏っている服装から使っている武器まで、普通のゴブリンとは違う。しかし、所詮はゴブリン種といったとこか、質が高いというだけで俺たちが使う装備に比べるとどうしても簡素で頼りないものに見えてしまう。
仮に自分たちと同等の装備を纏ったゴブリンがいたらと想像してみるが、やはりそれでも自分たちが装備しているよりも滑稽に感じるのはどうしてだろうか。
などと考えている間に俺たちに割り当てられたゴブリンジェネラルとの戦闘が始まっていた。
俺がぼーとしていたせいで、戦闘の先陣を切ったのはヒカルとカルヲ、セッカはいつものように後方からの支援に徹している。
前衛が二人もいるのなら俺の役割は前に出て攻撃することではない。
ゴブリンジェネラルの狙いがどちらか一方にならないように、そして後方にいるセッカに向かないように、ヘイトをコントロールすることだ。
剣銃の銃形態というのはそういうことが出来る形態でもある。
撃ち出した銃弾が当たろうと当たらまいと、それだけでゴブリンジェネラルの意識は多少俺に向けられる。それは単純にヒカルとカルヲに攻撃チャンスを作り出すことに繋がっているのだ。
ゴブリンジェネラルの上部に見えるHPバーの数は二本。それはボスクラスのモンスターである証だが、この人数で絶えず押し寄せる波のように攻撃をしていればそれは普通より少しだけ手強いモンスターなのと何も変わらない。
現に俺たちが相手にしているゴブリンジェネラルのHPは今にも消滅してしまいそうだ。
「ここはもういい。君は彼を手伝いに行くんだ」
前線で戦う二人と後方で構えるセッカの間に立つ俺にカルヲが告げた。
「何を……?」
「彼がどれ程強くともたった一人で戦うのは無謀だ。だから君が手を貸すのです」
「――ッ。わかった」
ゴブリンジェネラルはボスクラスのモンスター。一人で相手するには些か厳しいものがある。そしてここにいるなかでベルグの戦い方を知り、共に戦えるのは俺だけなのも事実。だからこそカルヲは俺が行くべきだと判断したのだろう。
カルヲの言葉に頷きベルグの元に急ぎ駆け付けた。しかし、一人でゴブリンジェネラルと戦うベルグはまさに一騎当千といった印象。くり出す拳は的確にゴブリンジェネラルの攻撃を打ち落とし、また的確にその体を貫いている。ゴブリンジェネラルのHPバーが減る速度こそ俺たちよりも遅いものの、その安定感は微塵も見劣りしない。
寧ろ一人だからこそ自身に最適な距離を保ち、完全な自分のタイミングでの攻撃ができているみたいだった。
この戦闘に俺は必要無い。
そう感じながらも俺はこの場所から動けない。凄まじいとさえ思えるベルグの戦闘から目が離せなくなっているのだ。
程なくしてベルグよりも先に戦闘を終わらせた三人が集まって来て、俺と同じように戦闘を見守っている。
その目には僅かな心配も混ざっているが、一人でも戦闘を優位に進められていることに対する驚きも見られた。
「これで、終わりだっ!」
ぎゅん、っと腰を捻り、渾身の一撃をゴブリンジェネラルの胴体へ捩じ込む。
それは何かのアーツだったのか、ゴブリンジェネラルは回転して遥か後方へと飛んでいった。そして、空中で霧散し消滅した。
「どうやら俺の方が時間掛かったみたいだな」
パンパンと手を払いながら平然と告げるその言葉に俺は何も返せなかった。
もしかするとベルグは一人でも俺たちより速くゴブリンジェネラルを倒すつもりだったのだろうか。
「ん? どうかしたか?」
「……なんでもない」
「それで、ゴブリン共は何であの村を襲っていたんだ? これもよくあることなのか?」
「いえ。こんなことを目にしたのは初めてです」
ベルグの問いにカルヲが答える。
それに続き俺たちも首を横に振った。
「だったらあの村にゴブリンに襲われる原因があるってことか」
「そんなわけないはずです。あの村が例え、その……」
「忌み嫌われている咎人の住む村だとしても、か」
設定にあったままを口にする。
王都に住めなくなった者が住む村。それは即ち何らかの罪を犯し追放された人が暮らす村だということ。王都の近くに作られた理由は王都に残った家族と出来るだけ近くにいたいという思いから、らしい。
「知っていたのですか」
「ああ。昨日、知った」
罪を犯したとはいえ、あの村に住む人は皆罰を受け罪を償った人たちだ。
何も王都から追い出さなくても、と思わなくもないが、やはり人の目というものがあったらしい。せめて自分がいないから家族や仲間には変な偏見を持たれないようにしたいと一人のが進言して出来た村なのだと公式の説明文には書かれていた。
「今ではあの村に住むことは罪を償った証とさえされています。家族が願えば村から王都へ戻ることもできるのです」
「へえ、そうなんですか」
感心したように頷くヒカルの隣でセッカが村の方を指差している。
その先には俺たちの様子を窺っている村人らしき人影。じっとこちらを見ているその人影が何かに気付いたのか、慌てて俺たちの方へと近づいてきた。
「あ、あの。騎士団の方ですよね」
近付いてきた村人の年齢は俺よりも下の男の子供。
咎人の村だというのならばこの子供も何かしらの罪を犯したというのだろうか。傍から見た感じでは何処にでもいそうな純朴そうな子供という印象しかないのだが。
「あなたは?」
「僕はポルト村に住むパルタムって言います」
「ではパルタム。私に何か用ですか?」
「もし良かったら僕の村に来てくれませんか?」
精一杯の勇気を振り絞っているのかパルタムは微かに震えている。その震えが何を意味しているのかは知らないが、このまま無視をして行ってしまうのは気がひける。
出来ることなら村に立ち寄りたいと思うのはなにも俺だけではないだろう。しかし、俺たちの水先案内人はカルヲだ。彼女が決めなければ立ち寄ることなど出来るはずもない。
カルヲも自身の騎士団団長としての立場と俺たちを王都に連れていくという命令の間で揺れているみたいだった。
懇願するパルタムに申し訳なさそうな顔をして断りの言葉を告げようとする。
「ですが、私たちは王都に向かう途中で……」
「少し、ほんの少しだけでいいんです。だから、お願いします」
その様子は必死としか形容しようがなかった。
武器も防具も何も装備していないただのNPCだからだろうか、それとも俺たちよりも年下だからだろうか、懇願するパルタムは俺たちよりも弱々しく見える。
だが、パルタムから伝わってくる全ての印象が俺にこの村に行けと告げていた。
「行ってみないか?」
突然告げた俺の言葉にここにいる他の四人が驚いていた。
パルタムは唯一の光明を見つけたかのように俺に縋るような視線を向けてくる。
「カルヲだって、このまま無視をするつもりはないんだろ?」
「それはそうですが、後に部下を派遣すればいいだけの話ですよ。なにも私たちが行かなくてもいいのでは?」
「そ、そんなぁ……」
「いいじゃないか。王都に着く時間までは指定されている訳ではないのだろう」
ベルグがパルタムの頭に手を乗せ、助け船を出した。
「フム。では少しばかり私に時間を分けてくれるか?」
「勿論ですッ」
「……私もそれでいい」
ヒカルとセッカが了承し、俺とベルグは大きく頷いた。
「ではパルタム。村まで道案内をお願いできますか?」
「は、はい。任せてください」
俺たちはパルタムを先頭にポルト村へ向かうことになった。
村を覆う柵は一定の距離を取って等間隔で設置されている。柵を抜けても尚、村の中へと入るにはまだそれなりの距離を歩く必要がある。
柵から村まではモンスターの出現や進入を阻む仕様になっているのか、モンスターとの戦闘になることはない。安全が確立されていることを知っているのかパルタムも安心しきっているようだった。
「この先がポルト村になります」
足を止めた先には木製の大きな壁がある。
町を覆う石製の物に比べればその強度は劣るのだろうが、その反面メンテナンスをするのは容易なのかもしれない。
村という小規模な集落では比較的修繕が簡単な方が好まれているのだろう。
「パルタム!」
ポルト村の中から長身痩躯の青年が飛び出してきた。
整った顔立ちの青年は身なりさえちゃんとしていればそれなりにモテていたはずだが、目の前の青年は大袈裟に感じられるほど表情を歪め涙を流し、みっともなく俺たちと一緒に現れたパルタムに抱きついている。
「グームさん。一体どうしたの?」
「どうしたんですか、じゃないだろうが。村をゴブリン共が襲っているというのに飛び出したりして、オレがどれだけ心配したか、解かってんのか」
「わ、わかってるから、放してぇ、く、苦しい……」
「本当かぁ」
「本当ですってば」
苦しそうに告げるパルタムにグームは慌てて強く抱きかかえていたその手を放した。
「でも、そのおかげというわけじゃないけどさ、騎士団の人が来てくれたんだよ」
「騎士団だぁ。嘘ついてんじゃねぇぞ。オレがアレだけ言っても音沙汰もないんだぞ。パルタムが連れてこれるわけないだろうが」
「嘘じゃないよ。ほら、女の人だけど騎士団の恰好してるもん」
「何ィ」
グームが疑いの視線を俺たち、強いてはカルヲに向けた。
ここまで疑われたら俺なら即行引き返しているだろうなと思い、カルヲの反応を見守ってみることにしたのだがなんだか妙な雰囲気が漂ってきた。
「――って、まさかカルヲ、か?」
「グレアム団長なのですか」
「お、おう。久しぶりだな。元気にしてたか?」
「私の事などどうでもいいんです。団長こそ何をしてるんですか」
「あー、なんて言えばいいんだろうな、とりあえず言いたいことも聞きたいこともあるだろうが話は後だ。そこの連中もパルタムが連れて来たでいいんだよな」
「そうだよ」
「ならアンタらも客ってわけだな。それならカルヲと一緒に俺の家まで来てくれるか?」
「ああ。解かった」
「ほら、パルタムも一緒に来い」
グームとパルタムの案内の元、村の中へを足を踏み入れて愕然とした。
咎人の村という設定からどれだけ治安が悪いのだろうかと心配していたが、実際の村の中は平和そのもの。以前、俺が行った王都よりも賑やかなのは見間違いではないだろう。
その理由を探して直ぐに気付いた。
この村には子供が多く住んでいるのだ。
無論大人もいる。しかし、それは老人とまではいかなくとも明らかに働き盛りを過ぎた人ばかり。グームのような年代の大人の方が珍しく思えるほど。
俺たちが案内されたのはこの村の家屋としては平均的な大きさの家だった。村を覆う壁や柵のように木造の家屋は不自然なほど新しい。
「狭い家だが遠慮せずに寛いでくれ」
家の中に椅子は無く、あるのは昔ながらのちゃぶ台。
グームが直接床に座るのに倣い俺たちもそれぞれ近くに腰を下ろした。
「まずカルヲに言っておくことだが、オレはグレアムでも団長でもない。ここではただのグームだ。だから他の連中もそう呼ぶように」
「あ、はい。解かりました」
「……分かった」
「そこのお前らは?」
「ン? そう呼んで欲しいのならばそう呼ぼう」
「俺も分かったよ」
「ってことだ。カルヲもそれでいいな?」
「解かりました。団長」
「だから、グームだって」
胡坐をかき、手に顎を置くというだらしない格好をしながら器用にグームが項垂れた。
「ったく、徐々に慣れてくれよな」
「で、パルタムが俺たちを、というかカルヲをここに連れてきたのは何でなんだ?」
「何っ!? お前何も話してないのか」
「その……連れてくるのが先かなって」
「てゆーか、お前らも何も説明されてないのに着いてきたのか?」
「悪いかよ」
「いや、なんだ。随分と人がいいんだなと」
何が嬉しいのかグームはニヤケ面を見せた。
どことなく居心地の悪さを感じさせられてしまい、俺は視線を勝手に家の中を物色しているパルタムに向けた。
「俺が説明させてもらうとだな。この村は今、未曾有の危機に襲われているんだっ」
グッと拳を天高く突き出すポーズを取るグームを俺たちは皆、冷やかな目で見ていた。
「ゴホンッ。簡単に言うとだな、村の近くに出現する魔物の数が最近飛躍的に増えてきたんだ」
「魔物というと、先程のゴブリンのことですか? 団長?」
「だからグームだって。で、確かにゴブリンも問題なんだけどな、どちらかといえば別のヤツだな」
「別のヤツ?」
「分類は確か、マッドベアだったか。昔からこの先に住みついているんだがな、どういうわけか最近人里近くまで降りてくるようになったんだよなぁ」
「で、その影響で他の魔物まで現れるようになっていると」
「その通り」
現実では動物の生息地が変わるなんてことはあり得ない話ではないのかもしれないが、ゲームなのだとすればモンスターの出現ポイントが変わるなんてことありえるのだろうか。
あり得るのだとすれば運営側から予め何らかの通知があるはずだ。
「騎士団を呼んだということはその魔物の討伐を依頼したいということですか?」
「まあ、そのつもりだったのだけどな。オレが何度申し立てても無視されてきたんだよ」
「無視、ですか?」
「どうもそうとしか思えなくてな。これでもオレは魔物の出現を通報したり、上申書を書いたり、果ては素顔を隠して直接訴えに行ったりもしたんだぞ」
「団長が、ですか?」
「グームな」
「しかし、そのような知らせは私の元にまでは届いていませんよ」
カルヲが顎に手を当て考え込んている。
NPC同士の会話とはとても思えないほど真に迫った口調で話す二人を俺は黙って事の成り行きを見守っていた。
「そういえば、カルヲは団長になったんだっけか」
「ええ。団長が抜けた後、ですけど」
「そうか。しかし団長のアンタにまで話が届いてないとすればオレの話を止めてるヤツがいるってことになるが、心当たりはないのか?」
「心当たりと言われても――」
記憶を探っているみたいに黙り込むカルヲを余所にベルグがグームに声を掛けた。
「なぁ、少しいいか?」
「なんだ? 格闘家」
「そのモンスターが現れたからこの村には大人が少ないのか?」
「いや、これは元々だ」
「どういうことなんです? ここは何かの罪を犯した人が暮らす村なんですよね? パルタムくんみたいな子供もいるみたいなんですけど」
「正確には罪を償った人が住む村な。まあ、ここに子供が多いその原因を一言でいうとだな、その原因は王城に住む現国王だ」
一瞬で険しい顔付きに変わるグームが重い口調で告げた。
「今の国王は過剰なほど潔癖でな、どんな小さな罪も全て罰すると公言しているんだ。当然それを見逃すことも罪、だから王都では犯罪率が急激に減った」
「それは、良いことなんじゃないんですか?」
「どうだろうな。犯罪率が減った半面、国民は互いを監視するような生活を強いられているし、子供の軽い悪戯も場合によっては罪だ。ここにいる子供はそういう理由で親元から離された子供ばっかりだよ」
「そんな――」
俺たちはただ絶句するしかない。
この事実を知っていたであろうカルヲは表情一つ変えないが、俺にはそれが逆に異様なものに思えた。
「だったら、グームさんがここにいる理由ってなんなんですか? カルヲさんが貴方を団長と呼ぶからには貴方は元々騎士団の団長だったということなんでしょう?」
「身の上話をするのは好きじゃないんだがなぁ」
「団長がここにいるのは現国王にこの現状はおかしいと進言したからです」
「まあ、それが反逆行為だと言われたせいでこうして名前を変える破目になったんだけどな」
悔しがるわけでもなく、淡々と話すグームはどこか自分のことを諦めてしまっているみたいに見えた。
俺からすればグームに悪い所など何も無い。なのに騎士団団長という仕事を剥奪され、名前すら変えなければ生活できないようにされている。それはとても理不尽なことで抗うべきことのように思えた。
「オレの話は別にいい。けど、パルタムがここにカルヲを連れて来たのは好都合だ。頼むっ。カルヲ、それにお前らもオレに協力してマッドベアを討伐してくれないか?」




