幕間 突然のアップデート
「プレイヤーの皆さんこんにちは」
それはこんな一言から始まった。
顔を隠し、灰色のスーツの上から純白の白衣を纏った男が仰々しい椅子に座り語りかけてくる。
「ARMS・ONLINEを公開して半年。皆さんは我々の予想を大きく上回る活躍を見せてくれました。そのお礼として今回更なるアップデートを実行することが決定されました」
動画の画面が男の姿から世界地図のような画像へ切り替わる。
一つの巨大な大地に城のような記号や街、村、さらにはダンジョンのようなものまで。
そこに記されているのは世界の全てだった。
「まず一つ、プレイヤーの新しい可能性を示しましょう。それはプレイヤーのステータスに種族の概念が追加されることです」
すると世界地図の上に誰ともいえないPRに使われている男女二体のキャラクターの姿が出現した。
「種族は三つ。一つ目は従来通りの特徴を持つ種族。人族。これは平均的なステータスを持ちどのような武器も扱える種族になります」
映し出されているキャラクターが近接武器の代表として剣を振り、魔法武器の象徴として杖を掲げ、遠距離武器の見本として弓を構えた。
「そして二つ目。獣人族。この種族は人族に比べHPとATK、DEFが高く反対にMP、INT、MINDが低いのが特徴です」
武器を構えていたキャラクターの姿がゆっくりと変化する。
男性のキャラクターの身体ががっしりとした筋肉質なものになり、女性はしなやかな肉体がにまるで陸上選手のようになった。
共通するのは獣の特徴があること。
筋骨隆々の男性キャラクターは全身毛深くなって、頭部が狼そのものになり、腰からは本物の狼の尻尾が生えている。
女性キャラクターは獣耳のカチューシャを付けたかのように動物耳が生え、露出した手足の指の先には鋭い爪が見受けられる。
「獣人族は近接武器を得意とし強力なアーツを武器に戦う種族です」
紹介された獣人族のキャラクターが人族が使う武器よりも重く大きい武器を手に動く。
「最後に三つ目が魔人族。MPとINT、MINDが高く魔法を得意とした種族であり、反対にHP、ATK、DEFが低く近接攻撃を苦手とした種族になっています」
二体のキャラクターが獣人の姿から新たなものへと変わる。
男性は背が高くなりお世辞にも筋肉質とは言えないものに。女性はバストとヒップが強調されより女性らしい印象になった。
共通する特徴は頭部の角。それに鋭く尖った、俗に言うエルフ耳。
獣人よりは人に近いが青く血の気の引いた顔はやはり異質な存在であることを表していた。
「これらはあくまでもこちらが用意した作例でありプレイヤーの皆さんがキャラクターエディットをする際にはより多くの特徴が選択できるようになっていますのでご安心を」
三種族。計六体のキャラクターが同時に出現し回転台に乗せられた人形のように一回転するとすっと消えていった。
「そして、これが次なる新要素なります。種族という新たな可能性を手にしたプレイヤーたちが生きる世界を公開しましょう」
男の音声の後、画面に映し出されている地図の大地が小さくなり、反対に全体像が大きく映し出された。
「これが我々が作り上げた世界の真の姿。四天大陸です」
中央にある広く四角い大陸を囲むように三つの大陸が浮かび上がる。
地図上でピラミッドのように並ぶ四つの大陸はそれぞれ別の色で塗りつぶされている。
四色の大陸の一つ。赤く塗られた中心にある大陸がより強く光った。
「中央にあるのがグラゴニスと呼ばれる大陸。ここがこれまでプレイヤーの皆さんが活動してきた大陸になります。ここには三種族全てが生活を営んでおり、どの種族を選んだプレイヤーも拠点として選ぶことができます」
次々と代わる代わる映し出される画像には王都やウィザースターという街の他に草原や岩山などエリアの様子があった。
十数枚の画像が消えると次に上にある大陸が青く光り出す。
「北にある大陸は魔人族が生息するオルクス。ここは新たに魔人族を選択したプレイヤーが活動の拠点となる街があり、付近には魔法を使うプレイヤーが必要となるアイテムを中央大陸グラゴニスよりも多く入手することができるようになっています」
映し出されるのは中世のヨーロッパのような建造物が並ぶ街並み。
続いて映し出された暗く冷たい印象を与えるエリアは常に薄い靄のような霧が充満していた。
「西にある大陸が獣人族が生息するヴォルフ。獣人族を選択したプレイヤーの活動の拠点となり、周囲には大型の近接武器に使えるアイテムを多く採取できるエリアが広がっています」
緑色に光る大陸が拡大されると時代劇に出てくるような和風な町並みが映し出される。
先程のオルクスとは違い色彩鮮やかな建造物が並ぶそれは明るく陽気な雰囲気が伝わってくるかのよう。
付近のエリアを映し出した画像はどれも緑鮮やかで自然豊かなものばかり。
「東にあるエリアが人族が住む大陸ジェイル」
黄色く発光する大陸の映像が映し出される。
荒廃したビルが並ぶ街並みはそれまで映し出されたどの大陸よりも異質。
「この大陸には古代の技術が多く眠っており、特殊なアイテムを収集することができます」
エリアの映像は遺跡の様なものが多く、男の説明を物語っていた。
再び全ての大陸を載せた地図へ映像が変わる。
「続いてギルドシステムの導入。これはかねてから多くの要望が寄せられていましたが今回のアップデートを期に追加されることになりました」
地図が消え四つの建物が映し出された。
各大陸の特色を強く表現するそれらは全てギルド会館という名で統一されている。
「ギルドはプレイヤーレベル40から設立可能になります。レベルさえ規定に達していれば誰でも設立するチャンスはありますが、その為には一つの試練を乗り越えて戴きます。試練の内容はご自身の目でお確かめ下さい」
さらに映像が切り替わる。
再び姿を現した男が脚を組み直す。
「ギルドにはいくつかの特典が用意されています。まずはこちら」
男が広げる手の中に一つの建物が浮かび上がる。手の中で現代の技術の粋を集めて建てられるような一軒屋の3Dモデリングがくるくると回転した。
「これはギルドホ-ム。ギルドを設立したプレイヤーたちに与えられる家のようなものだとお考えください。ギルドホームは多人数で使用することになるためにプレイヤーホームよりも大きく設定されています。さらにギルドホームには独自の転送ポータルが用意されていて、これはあるアイテムを使うことで別々の町やエリアと繋がることができるようになっています」
各街にある転送ポータルを小型にしたような形の転送ポータルがギルドホームの奥に鎮座している。そこから光る青いラインが後ろに表示されている地図のあらゆる場所に伸びていった。
そして切り替わった映像が迷宮の内部を映し出す。
「ギルドホームの他にもう一つ。ギルド会館の下にある特設ダンジョンがあります。ここにはギルド単位で挑むことになりますが、通常のダンジョンやイベント用に用意されているダンジョンよりも難解かつ危険なものなっていますので挑む時はご注意ください」
不意に映像が歪む。
続いて映し出されたのは四つの大陸の映像。
そこに生きる人達は皆が自然に日常を営み、幸せそうにしている。
街や村の映像からモンスター達がいるエリアへと変わるとその雰囲気は一変した。
襲われる人々や戦闘を繰り広げているプレイヤーらしき人たち。
流れ出す荘厳な音楽と共に別の戦闘の映像へと切り替わる。
強大なボスモンスターらしき敵と戦う全ての種族が入り乱れたレイドパーティが映る。
剣を振り上げ、弓を引き、杖を掲げ、盾を構え、斧を振り回し、槍を突き出し、魔術所を開き、銃で狙いを付ける。
そして、タイトルロゴが大々的に映し出された後、画面はそっと暗転して何も映し出さなくなった。
「ご覧頂いたのはこれからの【ARMS・ONLINE】の様子を映し出したPVです」
真っ黒の画面にうっすらと男の姿が浮かび上がる。
「何故最初からこの仕様にしていなかったのか。何故この時なのか。皆様が訊きたいことは数多くあることでしょう。しかし、今は新たなる世界に向けての一歩を踏み出していただきたい。そしてそこでも我々の予想を大きく上回る『なにか』をお見せ戴けることを願っていますよ」
再び画面が暗転する。
「では、皆様の新たなる冒険に幸在らんことを」
暗く見辛い画面の中で男が立ち上がる。
そして映像は完全な闇へと変わった。
「またお会いする時まで、ごきげんよう」




