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理想の小妖精 ♯.14

 戦闘を終えた安心感と疲労感が俺を襲う。

 それでも疲れた顔は見せられないと、深呼吸をして、乱れていた呼吸を整えた。


「お疲れ様でした」

「……おつかれ」


 呆然と舞い散り消えていく火花を見つめる俺のもとにヒカルとセッカが集まってきた。

 クロスケも俺の近くに着地してその大きな翼を畳み羽を休ませている。


「二人とも無事…だったみたいだな」

「とうぜん」

「でも、持ってきてたポーションは殆ど使ってしまいました」

「仕方ないさ。あの数だったからな。それよりも今更だけどさ、ソーン・ヴァイパーを全部任せてしまって本当に良かったのか?」

「問題ない」

「私たちじゃカース・ヴァイパーを倒しきれるかどうか不安でしたから」

「……それに経験値も手に入った」

「私はアイテムも手に入りましたよ」


 この二人の違いは別のキャンペーンクエストをクリアしているかどうか。

 クリアしているセッカはアイテムを入手できずにヒカルは問題なく入手できた。パーティ加入の時にあった注意文通り。俺たちが三人で別のキャンペーンクエストを始めようとも報酬となるアイテムが獲得できないことがこれで実証されたも同然だ。


「どんなアイテムが手に入ったんだ?」

「えっと、なんか剣みたいです」

「剣?」

「ちょっと待ってください、いま取り出しますから」


 ヒカルがストレージから手に入れたばかりの剣を出現させる。

 刀身は曲がりくねっていて所狭しと棘が装飾されている。分類でいえば曲刀だろうか。小さなヒカルが持つには不釣り合いな見てくれの剣だ。


「……使うの?」

「使わないよこんなの。あーあ、私はハズレを引いちゃったかなぁ」


 ボスモンスターからのドロップアイテムが一種類であるはずはない。モンスター素材がドロップする時もあれば今のヒカルのように既に形作られている装備品が落ちることだってままあること。その場合、素材の方がドロップする頻度が高く装備品はどの種類でも総じてレア度というものが高く設定されているはずなのだ。

 そう考えるとヒカルが手に入れた装備品は決してハズレではないのだが、自分が使わないものというのはどんなに他人にレア度が高いと言われようともいらないと思ってしまうのは仕方のないことなのだろう。


「ユウは何を引いたんですか?」


 気を紛らわすためなのか、ヒカルが俺に問い掛けてきた。

 その横でセッカも興味津々と言った様子で視線を向けてくる。


「俺は……指輪だな。効果はMIND上昇に毒半減、か」


 ストレージから俺の手の中に現れた指輪はヒカルが持つ棘のついた曲刀のように禍々しいデザインではなかった。

 蛇をモチーフにしているらしいが、それはどこか美しさと怪しさを兼ね揃えた印象だ。


「よかったですね」


 と、セッカがいった。

 開口一番文句を言ったヒカルに比べ何も言わずじっと手の中の指輪を見ていた俺を喜んでいると思ったのだろう。

 祝福するセッカの隣でヒカルがどこか不満げに頬を膨らませている。


「こっちの方がいいのか?」

「え?」

「じっと見てただろ。コレ」

「見てなんかいないですよ」

「そうか?」

「そうです」


 などと言いながらもヒカルの視線は変わらず指輪に向けられている気がする。


「もし良かったらだけどさ、その曲刀とこの指輪交換しないか?」

「いいんですかっ」

「あ、ああ。アクセサリならいつかは同じくらいの性能のヤツを自分で作るつもりだし、武器ならインゴットに戻せば珍しい種類が手に入るかもしれないからさ」

「仕方ないですね。ユウがそこまで言うのなら交換してあげてもいいですよ」

「お願いするよ」


 そう言って俺たちはそれぞれ獲得したアイテムを入れ替えた。

 正直、この二つの装備品なら俺はどちらでもいいというのが本音だった。自分でも言ったようにアクセサリならいつかは作れるようになるつもりだったし、曲刀は剣銃の強化の参考にはならないが、その素材は未知なるものである可能性が高い。

 なにより、指輪を手にしてあれほど嬉しそうなヒカルの顔を見れたのならば全く無駄な交換ではなかったと納得できる。


「良かったの?」

「いいんだよ」

「……ありがとう」

「なんでセッカが礼を言うんだよ」

「友達だから。ヒカルちゃん嬉しそうだし」

「それなら俺だってパーティメンバーなんだぞ。仲間なら喜んでもらった方が良いに決まってるだろ」

「決まってるの?」

「決まってるのさ」


 我ながら格好つけたと思う。

 けどこれが本心であることは変わりない。

 僅か数秒の無言が続く。居ても立ってもいられない気まずさを感じ俺はクロスケの背にいるはずのリリィの姿を探して洞窟の奥にある扉の前まで歩き出した。

 扉を覆っていた茨が消え、レリーフが彫られた扉が露出している。


「これでいいか?」


 クロスケの上にいるリリィに向かって問い掛けた。


「リリィ?」

「あ、うん。これでいいはず、なんだけど……」

「どうした?」

「扉が開かない」

「開かないって、茨は消えたんだぞ」


 それこそがリリィの願いだったはずだ。

 だからこそ俺はここに居据わっていたカース・ヴァイパーを倒したのだ。


「でも、ぜんぜん動かないんだよ。どうして?」

「どうしてって言われても……」


 困った顔を見せるリリィに何か言ってやりたくもなったが、事実この時の俺には掛けられる言葉はなかった。

 セッカの時とは別の意味で気まずい沈黙になってしまう。

 愕然としているリリィも、それを見る俺もその場から動くことすらできなくなっていた。


「セッカ?」


 いつの間にかセッカが扉に近づき、その下の辺りをゴソゴソと漁り始めた。

 茨以外には障害物のようなものは何も無い。

 雑草もこういう洞窟には頻繁に転がっている石すら扉の前には見当たらない。

 何も無いのに何を探しているのだろうと俺が疑問を抱いたその時、セッカは何かを握り締めてこちらに戻ってきた。


「……これが挟まってた」


 と、セッカが見せたのは透明な紫色をした石。

 それは紛れもなく俺がこのキャンペーンクエストに参加する切っ掛けになった魔石だった。


「いる?」


 首を傾げ聞いてきた。

 正直喉から手が出るほど欲しい。けれど、拾ったアイテムの所有権は拾ったプレイヤーにある。俺が横から欲しいと言って貰っていいようなものではない。


「セッカはいらないのか?」

「んー、いらない」

「魔石だぞ?」

「知ってる。けど私はこれを使うような装備品を持っていない」

「なら――」

「それに私にはこれがある」


 そう言って撫でたのはメイスに埋め込まれている十字架型の魔石、黒水晶のロザリオ。

 一つの装備品に付与できる魔石は原則一つとなっているためにメイスにはこれ以上魔石を付与することは出来ないが、別の装備品を用意すれば今セッカが持っている魔石を装備することは可能だ。

 魔石は一つあるから他はいらないという類いのアイテムではないのだ。


「だから、ユウさんが欲しいのならあげる。そのかわり――」

「代わり?」

「これからも一緒にパーティを組んで欲しい。いつもが無理ならせめてヒカルちゃんと一緒の時だけでも」


 神妙な面持ちで何を言い出すのかと身構えただけに、セッカの要望に目を丸くしてしまった。


「なんだそんなことか。セッカがそうしたいのなら俺は構わないよ」

「ほんと? ソロに拘ってるんじゃないの?」


 いったい誰から聞いたのか。

 確かに俺はソロで活動することが多かった。けれど多人数が嫌というわけではないのだ。どちらかといえば以前のイベントやその前だって、大きな戦闘がある時は常に近くに仲間がいた。

 一人で何でもできるプレイヤーになることは今も変わらず目標の一つだが、それに拘って他人との繋がりを蔑ろにはしたくない。


「そんなことないさ」

「じゃあ、いいの?」

「ああ。これからもよろしくな。セッカ」


 ごく自然な素振りで右手を差し出した。

 セッカが嬉しそうに口元を緩めると、俺の手を握り返し、キツく握手を交わした。


「あー、なにしてるんですか?」

「なにって……仲間になった挨拶?」

「俺に訊くなよ」


 可愛らしく小首を傾げるセッカと不満げに頬を膨らませるヒカルに俺は思わず笑いを堪えることが出来なかった。


「ズルイです。私も仲間に入れてくださいっ」

「……いいよ」


 そう言って俺とセッカの手の上に自分の手を置いてきた。

 これは握手ではない気がするが、これはこれでヒカルらしいのかもしれない。

 勢い良く重ねられるヒカルの手がしっかりと俺たちの手を包み込む。

 繋がり、重なっていく手に仲間の温かみのようなものを感じ、俺はさらに大きな声を上げて笑い出していた。

 これはこれで悪くない。

 そう思っていると三十秒ほどで手は離されたものの、その暖かみは確かにまだ残っている。それにいつの間にか俺の手の中にセッカが拾った魔石が握られていた。

 驚きセッカを見るとこちらを見てにこっとだけ微笑い返してくる。

 ありがとう、と小さく呟き、魔石をストレージに収めたその時、リリィの声が洞窟内に響き渡った。


「……扉が開いた!」


 リリィの声に俺たちは一斉に扉の方を見る。

 セッカが見つけた魔石がストッパーになっていたのか、程なくして扉が開いていく。

 扉の奥からは溢れんばかりの光が差し込んできて、その先になにがあるのか確認することなど出来ないが、感無量といったリリィの表情を見る限りあの光の向こうには妖精族の郷があるのだろう。


「行かないのか?」


 宙で止まったままのリリィに優しく問い掛ける。

 リリィがここまで俺たちを連れてきた理由は妖精族の郷に帰るためなのだろうと思っていた。

 いつかは来る別れが、今来ただけのこと。そんな風に頭では考えているのにどうしても寂しさを堪え切れない。


「ユウたちも来る?」


 暫らく考え込む素振りを見せて、おもむろにリリィが聞いてきた。


「いいのっ?」


 誰より速く聞き返したヒカルは泣き出す一歩手前のような目をしている。


「大丈夫だと思う。皆は扉を開けるのに協力してくれた人間だし……仲間だから」

「ありがとーー」


 ヒカルが大袈裟に喜びながら宙に浮かぶリリィを抱きかかえ喜ぶ。

 その姿は共に行けることになったことよりも、リリィに仲間だと言ってもられたことのほうが嬉しいと感じているみたいだった。


「セッカちゃんもユウも行くよね?」

「ああ」

「もちろん」


 行かない理由など無いと俺たちは即座に答えた。


「じゃあついて来て」


 と、先に光の中へを入っていくリリィの後を追おうと歩き出そうとした時、ふと隣に並ぶクロスケを見た。

 ダーク・オウルの姿のままではあの扉を潜ることができないかもしれない。そんな俺の心配を察したのかクロスケはいつもの小型のフクロウの姿へと戻り、俺の肩に乗り小さく鳴いた。

 先に行くヒカルとセッカの後を追い俺も扉を潜り抜ける。

 視界を奪わんばかりの光に覆われるなか歩き続ける。

 カツンカツンと木霊する足音を聞きながら進んでいくと次第に視界が開けていった。

 眩しいばかりの光が消え、どこか穏やかな風が流れる場所にでた。

 鼻孔を擽るのは様々な種類の花の甘い香り。

 耳に届くのは小さな鈴を鳴らした時のような可愛らしい話し声。

 そして、目に映るのは色彩鮮やかな小型の郷だった。


「みんなー。帰ったよー」


 リリィが大きな声を出す。

 それは、未だ声だけで姿を見せない他の妖精たちを呼んでいるかのようだった。


「え? うそっ」

「リリィなの?」

「本当に本物?」

「じゃあ扉が開いたってことなのね」


 姿を見せた妖精たちはこの里の風景そのまま淡く澄んだ色の髪と服と羽を持つ。

 傍から眺めているとまるで様々な色の花がそのまま風に乗って宙を舞っているかのようだ。


「って、ニンゲン?」

「どうしてニンゲンがここにいるのー?」


 どこからともなく現れた赤と緑の妖精が俺たち三人の周りを物珍しそうな顔をして跳び回っている。


「この人たちはわたしの仲間だよ」


 きっぱりと言い切るリリィに集まって来ている他の妖精たちは一様に驚き、更に興味津々といった顔で俺たちを見てきた。


「仲間? なんで? どうして?」


 リリィと同じ水色の羽を持つ妖精が声に出して疑問を繰り返す。

 それにどう答えればいいのか悩んでいると、突然一段と空気が澄んだような気がした。


「皆さん。質問は後にして今は郷の仲間の帰還と力を貸して下さったニンゲンの皆さんを迎えましょう」


 この声を表すのならば小さな鈴ではなく薄く透明なガラスで出来た風鈴だろうか。

 声の主を確かめようと目を凝らしてみると妖精たちの奥に足下まである長い白い髪と透明な羽、それに純白のドレスを纏った一人の妖精が姿を現した。

 白い妖精が現れたことでそれまでお祭り騒ぎだった妖精たちが一斉に黙り込み、僅かに頭を下げている。


「女王様っ。良かった。無事だったんですね」

「はい。貴方も無事でなによりです」

「えっと、皆のおかげなんです。特にユウとヒカルには捕らえられていた籠からも解放して貰って」

「そうだったんですね。ユウ、それにヒカル。あなた達にはお礼を言わなければなりませんね」


 女王様とリリィに呼ばれた白い妖精は羽を動かすことなく俺たちの前に来て深々と頭を下げた。

 妖精族だから俺たちよりは小さい身体をしているが、女王だからなのだろう。その凛とした雰囲気と存在感はいちプレイヤーである俺たちなんかよりもよっぽど大きく感じる。


「いえ、その……私たちがしたくてしたことですから」


 戸惑いながらヒカルが答えた。


「それに呪い蛇を倒したのはここにいるセッカの力もあってなんです。三人が力を貸してくれたからわたしはここに戻ってくることができたんです」

「やっぱり呪い蛇を倒したんだねっ」


 緑色をした妖精が驚いたようにリリィに訊ねている。

 呪い蛇とはそのまま扉の前に陣取っていたカース・ヴァイパーのことだろうか。


「尚更ここで立ち話をするわけにはいきませんね。リリィ。彼らを(わたくし)の邸まで案内して戴けますか」

「あ、はい。解かりました」


 そうリリィに命令して白い女王妖精は郷の奥へと戻っていった。


「案内するからついて来て」

「でも、私たちが行って大丈夫なの?」

「女王様が来てって言ってるんだから大丈夫だよ」

「や、そういう意味じゃなくてさ」

「人間の俺たちが行って大丈夫なのかってことだろ。サイズ的に、さ」


 妖精族が暮らす建物はどれも小さかった。

 俺たちの腰ほどまで育った花の根元に葉っぱを使って作られた家屋はどれもこれも人形の家を彷彿とさせる。

 いくら女王が住んでいるといえどプレイヤーのサイズに対応した邸であるはずがない。


「んー大丈夫じゃない? ほら、見えてきたよ」


 リリィに連れられて辿り着いた邸はそれまでの家屋よりも大きかったが、残念ながら俺たちが入れるほどではなかった。


「お待ちしておりました」


 屋敷の前で女王自ら出迎える。


「申し訳ありませんが皆さんとの話はここでよろしいですか? 邸には入れそうもありませんが、お茶などは用意させていただきますので」

「俺は別にいいけど」

「私も大丈夫ですよ」

「……私も、平気」

「ではここに」


 女王の命を受け薄い桃色の羽の妖精が数名、俺たちに透明な赤色をしたお茶の入ったティーカップを持ってきた。

 これが妖精のサイズなのだろう。

 俺たちが持つとおままごとの食器みたいだ。

 次いで黄色い羽の妖精が二人、お菓子が盛り付けられた皿を大事そうに持ってきた。白い陶器の皿の上には妖精サイズのマカロンが山のように乗っている。


「どうぞ。召し上がってくださいな」


 勧められるまま俺は小さなティーカップに口を付けた。

 花から抽出したお茶は仄かな甘さと鼻を抜ける良い香りが特徴で、一口飲んでみただけで身体の芯から暖かくなるのを感じた。


「おいしい」


 と、ヒカルが言うと女王は嬉しそうに微笑み、


「これもどうぞ」


 と、マカロンも勧めてきた。

 空になったティーカップをソーサーに置き、俺たちはそれぞれ色鮮やかなマカロンに手を伸ばした。

 サクッという軽い食感とこれまた花のエキスか何かを入れているのだろう。仄かな甘みがしつこくなく、あっさりとした口当たりだった。


「どうですか?」

「これもおいしいです」

「それは良かった」


 和やかなムードの中、美味しいお茶とお菓子を愉しむ茶会は進む。

 何回かお茶のお代わりをして、目の前の皿のマカロンを殆ど平らげると自然と茶会は終わりを迎えた。


「それでは、あなた方にお礼をしなければなりませんね」


 女王が口火を切ると空気は一変した。といっても和やかなムードが無くなっただけで穏やかで賑やかな感じは変わらない。それもこれも女王の邸の周囲で宴会のような茶会を開いている他の妖精たちの喧噪のおかげのように思えた。


「お礼と言われても、正直これで十分なんですけど」


 妖精のお茶とお菓子などこういう機会でもなければ食べる機会などなかっただろう。そう考えるだけでキャンペーンクエストのラストとしては十分に満足できる結果だった。


「二人はどうなんだ?」

「私は結構満足してますよ。ユウに指輪も交換して貰いましたし」

「セッカは?」

「私は最初から参加してたわけじゃないから。でも、これはこれで満足した」


 二人ともがそう言って皿に残っているマカロンを食べながら妖精の宴会を眺めている。


「そう言われましても、呪い蛇を退治してくれたことはこの郷の代表者としてはお座成りにはできないのです」

「どうしてそんなに固執するんですか?」

「えっとね、呪い蛇が棲み付いたせいでわたしたちはこの里から人間の世界にでることができなくなってたの」


 俺の質問に答えたのは女王の隣に座るリリィだった。


「だからこそ退治してくれたことに対しては最大限の感謝をするつもりなのです」


 きっぱりと言い切る女王は俺たちがなんと言っても譲らない、そんなことを感じさせる雰囲気があった。

 ふわっと浮き上がったリリィが俺の顔の前で止まり訊ねてくる。


「ねぇ、ユウ。なにかして欲しいことはない?」

「して欲しいことと言われてもな」

「何かないの? ユウがここに来たのはなにか目的があったんだよね?」


 目的、か。

 確かに俺はこのキャンペーンクエストを始めるにあたって欲し望んでいた物があった。しかしそれはカース・ヴァイパーとの戦闘の後、セッカが見つけ譲ってくれたことにより達成された。

 ストレージの収まっている一つの魔石。大きさからして空白の指輪にではなく無銘の腕輪に付けるのに相応しいだろう。


「そういえばヒカルには言ってなかったな」

「なんですか?」

「探すのを手伝って貰ってた魔石のことだけどさ、カース・ヴァイパーとの戦闘で手に入ったよ」

「へ? あ、ああ、そういえばそれが目的でしたね」

「忘れてたのか?」

「ま、まさか。忘れるわけないじゃないですか」

「……忘れてたね」

「だな」


 ヒカルが動揺を誤魔化すように持っているマカロンを大袈裟に口の中に放り込んだ。

 笑う俺の目の前で返答を催促するリリィの顔が近付いてくる。

 さて、どうしたものか。

 何を願えば俺たちにとって、そしてリリィにとって最善なのだろう。

 そんなことを考えならが、俺は言葉を紡ぎ始めた。



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