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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第一章 【はじまりの町】
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♯.7 『奇妙な店主』


 鍛冶師NPCからクエストを受けて町を出て一時間弱、俺は町の北側にある岩山エリアから町と外を隔てている壁門へと戻って来ていた。

 俺のストレージの中にはクエストに必要とされている鉱石三種のうちの二種が既定の数収まっている。鉱石の名は『鉄鉱石』と『瑠璃原石』。この二つは北側の岩山エリアで問題なく集め切ることができたわけだが、残す問題となったのは『琥珀の欠片』という名前のアイテムだ。

 比較的安全な道を使い岩山エリアの山頂まで登りその道中に見つけた幾つかの採掘ポイントでその都度採掘をしてみたのだが、そこで見つかったのは『鉄鉱石』と『瑠璃原石』そして『石ころ』の三種類のアイテムばかり。名前が不明の鉱石も多少はあったがそれは今は無視することにした。

 登頂の時と下山の時にルートを変えてそれぞれ別の採掘ポイントを探して見つけるたびに採掘を繰り返してみたものの、結果は変わらない。

 もしかすると現段階ではこの岩山エリアで手に入る鉱石の種類は限定されているのかもしれない、と俺がそう気付いたのは残念なことに目に入る粗方の採掘ポイントを掘り終えた後だった。


「さて、これからどうするかな」


 などと独りごちながら門を潜り抜けて町の中に戻って来た俺は岩山エリアでの戦闘で入手していた要らないモンスター素材を買い取ってもらうための店を探し歩いていた。とはいえ目ではその店を探してはいても、実際に俺の頭を占めているのはたった一つも手に入れることのできなかった『琥珀の欠片』という名前のアイテムのことばかり。

 どこに行けば、どこで採掘をすれば手に入れることができるのか。そればかりを考えていた。


「うーん、リタに聞けばどうにかなる、か?」


 既に≪鍛冶≫スキルを習得しているリタは今の俺と同じように鍛冶師NPCのクエストをクリアしているはず。ならば当然、この三種類の鉱石が採取出来る場所も知っているはず。俺が知りたいのはその中でも『琥珀の欠片』の在り処だけだったとしてもリタならば聞けば教えてくれる、気がする。

 そんな風なことを気にして歩いていると、


「ソコな少年。チョット見て行きませんかな?」


 考え事をしながら歩く俺を呼び止めようする声がした。

 自ずと声のした方に視線を向けるとそこにはどこかの祭りの屋台を彷彿とさせる風体をした露店と、その奥から顔を出して手招きをする一人のプレイヤー。


「アノ、ワタシを無視ないでホシイのです」


 慌てる露店の主を一瞥した俺は迷うことなく歩を進めることを決めた。


「ダカラ、無視しないでクダサイヨー」


 露店から身を乗り出して俺の腕を掴む店主の顔を見る。それから俺は嫌々ながらも足を止め、露店の主に尋ねることにした。


「はぁ、俺に何か用があるのか?」

「キミはワタシに何か用があるのではないですかな?」


 口元だけ笑みを見せることで露店の主は怪しさに拍車が掛かったように見えた。


「別にないな」

「そ、そんな……」


 即答する俺に店主は悲しそうに項垂れた。その仕草の全てが演技がかっていて俺の露店の主に対する警戒心が一気に高まっていく。


「ス、少しくらいならあるハズなのデス。ぜひ見ていってはいただけませんか? この自慢の品揃えを」

「自慢の品揃え…ねえ」


 そういうや否や店主は俺に店頭に並べているアイテムの一覧をコンソールに出して見せてきた。

 確かに自慢と言うだけのことはある、と思う。NPCショップで売っているアイテムとはその品数も品質も雲泥の差だ。


「へえ…」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 そんな俺の様子を見て店主はどこかしてやったりといった顔でこちらを見てきた。


「…確かに品揃えは凄いんだけどさ、何でそんな格好してるんだ?」


 態とらしく咳払いした後、俺は自分がこの露店を、正確に言えばこの露店の主を避けようと思った理由を尋ねていた。

 何を隠そう俺が訝しんだのは胡散臭く見えるその外見。これまで俺は別に他の人がどんなキャラクタークリエイトをしていたとしても気にするつもりなど無かったのだが、深々とボロ切れのような色合いをしたフードを被り、その奥に目元だけを隠す仮面を付け、怪しく口元だけで笑う性別不明のキャラクターとなれば、お近付きになりたくはないと思っても当然だろう。

 そんなプレイヤーが店主を務める露店で買い物をするなんてことを思うはずもなく。まして売っている物が品質の良い物ばかり何て想像していなかった。


「ワタシの格好にナニか問題でも?」


 俺の質問の意味が解からないと言うように店主が首を傾げ聞き返してきた。


「いや、なんというかさ。向いてない気がするんだよ、その格好はさ」

「ナニにデス?」

「客商売にだよ」


 どれほど品揃えが良くても客が入らなければ意味がない。

 他人の格好など気にしないと決めていたはずの俺ですら近寄ることを躊躇ったのだ。普通に露店の前を通り過ぎるだけの人が気になったからと足を止め店に足を向けることは勿論、露店の主に声を掛ける可能性は低く思えてならない。


「そ、そんな、バカな……」


 俺の言葉が信じられないとでもいうように露店の主はがっくりと肩を落としていた。


「それは置いておいてさ。一つ聞きたいんだけど、この露店でも買い取りはやってる?」

「……ハイ?」


 興味を見せ始めた俺が突然訪ねてきたことに対して店主は大きな疑問符を頭上に浮かべたように見える。


「あれ? 聞こえてなかった? それじゃもう一回聞くけど、ここってモンスターから取れる素材アイテムの買い取りはやってたりする?」

「それはモチロンですとも。ささ、見せて貰えますかな」


 その辺りのNPCショップで売ろうと思っていたモンスターの素材アイテムをコンソールに表示させる。それから他人にも見えるように可視化のボタンを押すと俺はそれを露店の主に見せてみた。


「フムフム」


 と声に出し思案顔で一覧を覗く店主には悪いけど俺はここで大した額にはならないだろうと思っていた。そもそもが価値の低いであろう初心者向けのエリアて取れる素材アイテムなのだ。買い取りの値段が低いのは仕方ない。それでもこれから何度も回復のポーションを買って戦闘や探索、採集などに行くことになる俺からすればこれらを売ったお金が活動資金となるために、出来るだけ高い金額で買い取って貰いたい。

 自分にあるリソースがこれだけの今、厚かましいがそう思ってしまっていた。


(初日だから少しくらい高くなれば良いんだけどな)


 当初は製品版稼働初日である今日なら初心者エリアの素材アイテムでもそれなりの価格で売れるかも知れないと思っていたのだが、どういうわけか店主の店に並ぶ商品はどれもこれも初心者エリアで獲得出来るようなアイテムの枠を超えているように思える。

 これらを全て店主が自分で作って売っているのだとしたら俺が持ってきた素材アイテムは必要ないのかもしれない。

 仕方ないと諦め別の店を探すか、と考えながらも一度は依頼した手前、店主による査定が終わるのを待つことにした。


「フムフム。それでは全部で二万C(コイン)で如何ですかな」

「何だって!?」


 Cはこのゲーム内の通貨を表す単位でコインと読む。

 この世界に流通しているのは貨幣だけ。それも現実の紙幣までも硬貨になり、最大単位で一万、それから五千、千、五百、百、五十、十、五、一と続く。その全てが硬貨なのだからある意味最も単純なネーミングだと言えなくもない。ないのだが、それよりも俺が驚いたのは露店の主が提示してきた金額の方だった。

 一つ一つ素材アイテムの数はまだしも種類が少ない。それなのにこの値段ということは明らかにNPCの店で売った時よりも高い買い取り額を言ってくれているに違いない。


「申し訳ないのですが、ワタシはこれ以上出せないデス」


 肩を窄める店主の様子に、この金額が決して何かの冗談ではないのだと伝わってきた。

 ならば俺に対する気遣いが多分に含まれているのだろうか。しかし、俺はこのプレイヤーと会ったばかりだ。


「ちょっと待ってくれ。本当にそんな金額になるのか? あんたも分かってると思うけど所詮は初心者エリアで手に入る類の素材なんだぞ」

「ええ、問題ありませんとも」


 店主が平然と言ってのける。


「それに、こう言っては何だけどさ、あんたならこの程度の素材は自分で簡単に集められるんじゃないのか」

「ううむ。実はワタシには無理なのです」

「どうしてさ?」


 あっさりと言い切る露店の主に俺は当然の疑問を投げかける。


「レベルに問題ないんだろ」


 アイテムを作成する際の成否には制作者のステータスが大きく関係してくる。この露店に並べられている品質のアイテムを作り出しているのだから必然的にレベルが高いのだと推測出来た。だからこそだ。俺が持ってきたような初心者エリアのモンスター素材など必要ないと考えてしまう。


「ソウデスネ。レベル的には問題ないと思いますヨ。ですが、やはりワタシには無理なのです」

「何故?」

「ナニを隠そう、ワタシは戦闘がものスゴク下手なのですよ」


 自信満々、隠すようなことでも無いというように店主が胸を張って言い放った。


「例えば、コレですが」


 と、俺が見せているアイテムの一覧の中から一つのアイテムを指差した。


「南側の森エリアに生息するバーサク・ドッグの素材だな」


 店主が指差したアイテムの名前は『狂犬の爪』。これはバーサク・ドッグを倒した時にかなりの高確率で手に入る素材アイテムだ。


「バーサク・ドッグは雑魚モンスターと呼ばれておりますが、ワタシはそれすら倒せないのです」

「えっ!?」


 驚いて次に続く言葉が出ない。

 ボスモンスターはおろかかどこにでも湧いて出てくるような雑魚モンスターすら倒せないと言ってるのに店主はどうやって自分のキャラクターのレベルを上げているというのだろう。そう考えて一つの可能性に至った。仮にアイテム製作でも経験値は手に入るのなら、それでレベルを上げることが可能だとしたら、俺が自分の武器を強化することでも自分のレベルを上げることが可能なのかもしれない。

 当然のようにそれは自分の手で検証してみなければ確証は得られないものではない。先んじて生産を行っている人に聞けば良いだけのこと。

 しかし、俺はそれを聞く気にはならなかった。

 どっちにしても≪鍛冶≫スキルを覚えるつもりがあるのは変らないし、もし俺の想像通りなのだとしたら、やはりNPCに頼んで武器を鍛えるよりも自分で鍛えたほうが良いような気がしてきた。


「それに、こういった素材はNPCのトコロばかりに行きがちで中々ワタシのようなプレイヤーの所にまでは回ってこないモノなのですよ」


 こういった素材というのは初心者エリアで手に入れることのできるモンスター素材のことを指しているのは間違いない。思えば手に入れ易いというのは総じて価格が低いということと同義であり、それらは数を多く持ち込まない限り大した金額にならないのだから、余程纏まった数を持ってでもいない限りわざわざ見ず知らずの買い取りをしているプレイヤーショップを探してまで売ろうとするとは考えない。

 だから生産職をしているプレイヤーにとっては手に入り易いが故に自分で戦闘したりしない限り、手に入る機会が少ないアイテムなのだともいえるようだ。


「そっか、わかった。あんたがそれで良いならその金額で引き取ってくれ」


 物の価値などは売る方と買う方、その双方が納得できてさえいればそれでいい。

 俺としては予想以上に高く買い取ってくれると言うことに困惑はあっても文句はないし、店主も手に入り難いアイテムを得ることができて殊の外満足そうだ。


「では…」


 そう言って店主が手を伸ばしてきた。


「チョット失礼して」


 差し出された手に促されるように俺はストレージから売る全てのアイテムを取り出すとそれらを全て露店の主へと手渡した。

 どうやらプレイヤーショップもNPCの店と変らずに現実と同じように取引が出来るみたいで安心した。だが店主が言うにはもっと多い数や大きなアイテムを取引する時はこのコンソールを使い、取り出さずに直接やり取りできる方法があるらしい。それならばこの先に大きなアイテムを売る時に他のプレイヤーショップを利用する時が来ても面倒な手順を踏む必要は無さそうだ。


「あ、それから、そこのHPとMPポーションを幾つか売って貰えるか?」

「モチロンですとも。幾つくらい要りますかな?」


 モンスターの素材を売って得た金額で収まるように購入したのはHPポーションが十個とMPポーションが五個。

 今のところ俺がMPを消費するのは<リロード>を使用した時だけに限られる。そもそもMPが切れた場合は剣形態で戦えばいいだけなので、HPポーションに比べるとMPポーションの数は少なくて済む。それでも念のためにとMPポーションを購入しておいたのはこれから先、新たなスキルを得たり、アーツを習得したりした場合に必要になって来ると考えた。


「他には何か要りますかな」

「いや、十分だ」

「そうなのですか。残念デス」


 自分のストレージにポーションが収められたのを確認して答えた。

 現時点ではこれ以上のアイテムを補充する必要はない。


「それなら、聞きたいことがあるんだけどいいか?」


 少しだけ信用し始めた店主に俺は初心者の自分よりもこのゲームに詳しいだろうと考え聞いてみた。


「構いませんよ」

「『琥珀の欠片』って名前のアイテムが何処で手に入るか知らないか?」


 ハルやリタにわざわざ連絡を取らずとも知っている人が近くにいるのならその人に聞けばいい。この店主は自身のプレイスタイルの性質上、様々なアイテムの情報には詳しいはず。


「それは、どこで買えるか、というものですかな」

「いや、どこで採れるかの方だ」

「知っていますとも」

「どこで手に入るのか教えてくれるか?」

「それは……情報を買いたい、ということでよろしいですかな」


 ここにきてようやくNPCとプレイヤーが営む店の違いを理解した。

 決まったアイテムだけを売り買いするNPCショップは価格と品物の種類が変動しないこと、どこの町にもありアイテムが品切れになるということはないというのが特徴であり優れている点。それに比べプレイヤーショップは決まった品物というものが少なく、値段も流動的。時には品切れもある代わりに、時折り珍しいアイテムや特殊な情報などが商品として店に並ぶことがある。

 広く知られているような情報が欲しい時は自分で調べればいいがそれにも限界はある。誰かが手に入れて秘匿しているような情報というものは、得てして一般には出回らないものだ。


「いくらだ?」

「お代はいりませんよ」

「何?」


 店を営んでいる人の口から出たとは思えない言葉に俺は微かに眉を潜めた。


「『琥珀の欠片』でしたら南の森エリアの一部で見つかるはずです」

「一部?」

「詳しい位置ならばお教えできますが、どうしますかな?」

「あ、ああ。頼む」

「はい」


 そう言うと店主はマップを撮った画像をストレージから取り出した羊皮紙に転写した。そうすることでその羊皮紙が『森の地図』という名の付いたアイテムに変化したのだった。


「ああ、これのお代でしたらお気になさらず。先程のアイテムを売って頂いた分と買っていただいたポーションのお代だけでも十分に利益は得ていますので。それに『琥珀の欠片』の採取エリアは既に知られ渡っている情報でして、それ自体に価値は無いのですよ」


 やはり自分で調べれば直ぐに出てくる情報だったということか。それこそこのゲームの攻略掲示板やベータ出身者に聞けばすんなりと教えて貰える類の情報なのだろう。


「そうか、助かったよ」

「ああ、少年。一言よろしいですかな?」


 素直に礼を言い、この場から立ち去ろうとした俺を店主が呼び止めた。


「ワタシの店は常のここにあるという訳ではございません。次にここを訪ねていらしてもおそらくワタシはいないでしょう。しかし、別の町、別の道、別の場所で再びワタシを見掛けましたらその時は今のようにまたワタシの店にいらしてクダサイな」


 口だけではなく、仮面の奥で店主が笑ったような気がした。


「わかった。その時はまた寄らせてもらうことにするよ」


 そう言って俺は外見だけでこの店主を避けようとしていた過去の自分を恥じた。実際に話をしてみたことでこの店主は思っていたよりも面白い人物だと感じていたからだ。

 純粋に攻略のみを突き進めていくプレイヤーもいればこの店主のように自分の思い描いたプレイスタイルを貫く人もいる。それが解かっただけでも貴重な体験だったと断言できる。

 店主と別れてから俺は南側の森エリアに行く道中にすれ違うプレイヤーを景色のように見るのではなく、どのような人が居るのかと、失礼にならない程度に見ながら歩いた。

 道行くプレイヤーは姿形からその佇まいまで、まさに十人十色。

 稼働初日にもかかわらず見かける人の数に、俺はこれから先、この世界はどのように広がってゆくのか、想像することさえも出来ない未来に密かに心を躍らせたのだった。




17/5/9 改稿

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最近読み始めたんだけどこの作品10年続いてるのか...すごいな
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