境界事変篇 13『ウラミチ』
突然現れたシャドーマンは図書館の本棚を片っ端から乱暴に荒らしまわっている。
「やめろ!?」
綺麗に並べられていた本が床に散らばって無造作に広がった床の上を踏み荒らして歩くシャドーマンの行く手を遮るように悠斗は勇敢にも立ち塞がった。
真っ黒い体のシャドーマン。
青く顔のない悠斗。
奇しくも似たフォルムをした二名が対峙したことで図書館では謎の光景が生まれていた。
「……」
「いいな。そのまま動くなよ」
現在の悠斗の姿の意味を知らないであろうシャドーマンは突然飛び込んできた青一色の存在にかすかな警戒心を見せて、本棚を荒らす手を止めて静かに悠斗と向かいあっている。
そのまま数秒。
僅かな沈黙が流れた後。ついに目の前の悠斗では自分を害することができないのだと判断したシャドーマンは改めて本棚の物色を再開したのだった。
「やめろって言ってるだろ!」
悠斗が咄嗟に取った自身の行動を無謀だと諫める人は誰もない。
シャドーマンに向かって飛び込み、その腕を掴み拘束しようとするもアバターとしての性能に明確な差があるのか、いとも簡単に振り払われてしまう。
投げ飛ばされて反対側の本棚にぶつかり床に転がる悠斗。この時、悠斗がぶつかっただけでは本棚は動かず、そこから本が落ちてくることはなかった。
つまりここにある本棚は全て、本来は決して荒らすことのできないものだということだ。
「待て!」
悠斗が再度立ち上がり向かっていくも、またしても簡単にいなされてしまう。
転がされては起き上がり、起き上がっては払い除けられる。
延々と同じことを繰り返しているも同然な状況のさなか、悠斗とシャドーマンがいる後ろの方では榊たちが崩れた本棚にうずもれて動けなくなっていた井瀬を救出することに成功していた。
淡い光の明滅が二度続く。
それがログアウト時に発生する光であることを知る悠斗は顔のないアバターの状態でふっと笑みを浮かべ、シャドーマンは無言のまま光がした方を見つめている。
「二人は無事にログアウトできました!」
麹町があえて悠斗の名前を呼ばずに叫んだ。
「だから、君も早く逃げなさい!」
「でも……」
「大丈夫です。ここにあるのはそこまで重要じゃないデータばかりですから」
榊の指示を渋る悠斗に麹町が突然の真実を告げた。
「そうだったんですか?」
「勿論まったくどうでもいいデータというわけじゃないのですが、ここにあるものは既にバックアップが作られているものばかりですし、機密性の高いデータはありませんから。なので万が一破棄されても問題ないのですよ」
初耳だったと言わんばかりに聞き返した榊に麹町は淡々と付け加えて答えた。
「それに、いざとなったら――」
小さく呟かれた麹町の言葉の意味を正確に把握したわけではないにも関わらず榊はそれ以上追求することもなく悠斗に向かってシャドーマンから離れるように手招きする。
しかし悠斗はこの期に及んでもこの場から離れる決心が付かないでいた。もしここで自分が逃げ出したとして目の前にいるシャドーマンが何をしでかすかわからないと思っているからだ。
麹町には重要ではないと言われたとしてもこのまま図書館を荒らし続ける可能性は非常に高い。本来自分とは何も関係のない場所だというのに、何となくこれ以上この場所が荒らされることが嫌で悠斗は無謀にもシャドーマンに立ち向かい続けているのだった。
「うわぁ」
聞き取れない音声で何かを言いながらシャドーマンは悠斗の身体を掴みそのまま思い切り投げ飛ばす。
大きな音を立てて壁の本棚に激突すると今度は大量の本と一緒になって悠斗は床に落下した。
落ちてくる本に体が半分ほど埋もれてしまっている悠斗に麹町が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「はい。なんとか」
「歩けますか? このまま脱出しましょう」
「……っ、わかりました」
感じるはずのない痛みに呻くような声を出して起き上がれずにいる悠斗を抱え起こした麹町はそのまま肩を組んで図書館入り口付近にあるログアウトポイントまで移動することにした。
肩を組んでそこに向かう二人をシャドーマンは追ってこない。
逃げ出すものになど興味はないと言わんばかりにまたしても手近な本棚を乱暴にひっくり返しながら荒らし出したのだ。
「あぁ」
綺麗だった光景が見るも無残なものへとなっていく。
床に落ちた本の多くは乱暴に踏み荒らされたことで表紙が折れ、ページが破れ、どこを歩いて来たのか知らないがシャドーマンが踏み潰した足跡が無数に付けられている。
これまで経過した時間は僅かに数十分。
実際に悠斗がシャドーマンと対峙してからはまだ数分しか経っていない。
たったそれだけだというのに今の図書館は当初の面影すら感じられないほどに荒れていた。
倒された本棚。
散らばり踏み荒らされた数々の本。
それだけじゃない。この図書館の景観の一つとして役立っていたちょっとしたオブジェクトもまた壊されてしまっている。
現実のそれではなく何者かによってロックが掛けられてしまったわけでもない。あくまでも荒らされたのはデータだから。シャドーマンが来る以前の状態になるように再起動することができれば簡単に復旧することができるといっても、これではそれすら可能なのだろうかと疑ってしまいそうになる。
ドンっと大きな音を立てて近くにある無事だった最後の本棚が倒された。
シャドーマンの目的は何だったのか。どうしてこんなことをしでかしたのか。問い詰めたい衝動に駆られながらも、今の悠斗にはそれを現実にするだけの力がない。
「……、………」
またしても理解不能な言語で何かを言いながら近づいてくるシャドーマンが近くに落ちている本を掴み乱暴に投げつけてきた。
ログアウトポイントまではもう少しという距離で悠斗と麹町は足を止める。
二人の眼前に落ちた本を一瞥して振り返り悠斗がシャドーマンを睨みつけるも青白いゲスト用のアバターでは凄みなど出るはずもない。
「……!」
どこか嘲笑するような雰囲気で吐き棄てるように何かを言いながら振り返った悠斗の首にシャドーマンが手を伸ばす。
咄嗟に防御するように首を掴もうとする腕の前に自身の手を構える。
狙いを外して腕を掴んだシャドーマンが悠斗を引き寄せた。
「くっ」
急に間近に迫るシャドーマンの顔。
全身真っ黒で顔の無いそれは近くで見れば見るほど不気味に映る。
息を呑み睨み合う青と黒。
優劣はあからさまであり、反抗など無意味だと言わんばかりにシャドーマンは悠斗の腕を放した直後に思い切り顔を殴ってきた。
「相馬君!?」
崩れる悠斗を麹町が起こそうとして近づこうとするも至近距離に立つシャドーマンに気圧されて動きを止めてしまう。
「あ、ぁあ……」
「逃げなさい!」
その代わりにシャドーマンに向かって行ったのは悠斗と同じ青色のゲストアバターを使っている榊だったが、シャドーマンに体当たりして悠斗を逃すことには成功したものの今度は代わりに榊が捕まってしまった。
「くっ、放しなさい!」
「……、………、…」
強い命令口調で告げる榊をシャドーマンは何か言いながら投げ飛ばす。
地面に転がる榊と硬直して動けない麹町。解放された悠斗が立ち向かうも意味はなく、圧倒的な強者にやられるだけだった。
「教授、早く逃げてください」
「しかし――」
「今この中でログアウトポイントに一番近いのは教授なんです! 私たちはすぐ後を追い駆けますので」
「……わかりました」
榊の指示に素直に従った麹町は腰の引けた足取りでログアウトポイントへと向かう。
そして程なくして仄かな光が瞬き麹町は現実へと戻っていくのだった。
「次は君!」
「は、はい」
榊を庇おうとしてシャドーマンに向かって行っては投げ飛ばされることを繰り返していた悠斗が自分の近くへと来た瞬間を見計らって榊が告げる。
自分ではシャドーマンをどうにかすることはできないと既に十分過ぎるほど理解していた悠斗はさしたる抵抗も見せずに指示を受けいれてログアウトポイントへと駆けだした。
残されることになる榊にシャドーマンの魔の手が迫る。
思わず足を止めて振り返った悠斗が助けに来ると察したのか、榊はまっすぐシャドーマンの方を向いたまま、
「大丈夫だから」
と言い切ってみせた。
その言葉を信じたと振り返り再度悠斗は走りだす。
どうにか辿り着いたログアウトポイントに触れた瞬間、彼の体を仄かな白い光が包み込んだ。
ログアウトすることで消え去る刹那、一瞬自分を見つめてくる顔のない悠斗に心配する表情が見えたような気がした。
「あっ」
ひとり残った榊の首を軽く片手で掴み持ち上げるシャドーマン。
現実ならば呼吸ができなくなるような体勢だが、ここならばまだ平気。
負けるものかと強い意志で睨み返す榊が不意に笑みを浮かべた。
「間に合った、みたいね」
見えるはずもない笑みの意味、そしてその言葉の意味をシャドーマンが知ったのはその身に数度の衝撃と同時に小規模な爆発が襲い掛かった後だった。
「榊さん、大丈夫ですか?」
青いゲストアバターの榊を支えるのはGM05の姿をした進藤だった。
「随分と速かったじゃない」
「偶然この近くに用事がありまして。事情はよく分かってませんし篠原さんと合流もまだでしたけど、何となく急いだほうが良い気がして先に入ってきたんです。少し勇み足かと思ったりもしたんですけど」
ちらりとシャドーマンを見る。
「正解だったみたいですね」
「そうね。ナイスな判断よ」
よろめいて後退したシャドーマンが突然の乱入者である進藤に困惑の表情を向ける。勿論その表情が見えるわけではないが、いくつかシャドーマンと対峙してきた経験のある進藤はなんとなくではあるものの、微細な表情の変化に基づく纏う雰囲気の変化に気づくことができるようになっていたのだ。
「これ以上の無駄な抵抗は止めるんだ」
GM05の銃装備であるGM05Sの銃口を向けつつ警告する進藤を前にシャドーマンはじりじり後ずさり、果てには回れ右をして逃げ出した。
「あ、おい! 動くな!」
「待って、撃たないで」
「え? 何でですか?」
「あのシャドーマンの侵入経路が知りたいの。それに当然わかってると思うけどここはクローズネットじゃないからどうやってクローズネットで使うアバターであるシャドーマンが動いているのか知りたいのよ。第一あなたのGM05すらなんでここで正常に機能している理由はわからないのよ」
「そういえば、そうですよね」
「まあ、いくつか仮説はあるのだけど」
榊がそう言ってあるはずのないポケットに手を入れる素振りをするが、無いポケットをすり抜けて手持無沙汰になってしまった彼女は取り繕うようにバタバタと手を動かした。
『お待たせしました』
GM05に繋がる通信は基本的に秘匿通信となっているが、近くにいるのが榊だけということもあって篠原からの着信の報せがあった瞬間に進藤はスピーカーの状態に切り替えていた。
「篠原君。あのシャドーマンのログイン情報とリアル情報を探って」
『はい?』
「それからこの場所をサーチして解析」
『ちょ、ちょっと待ってください、ぼくはまだここに到着したばかりなんですよ。もう少し説明を――』
「大丈夫。優秀なあなたならできるわ。任せたわよ篠原君」
『わっかりましたぁ』
反論を許さずに言い切った榊の言葉に何故かやる気を漲らせている篠原はカタカタと高速でキーボードを叩き始めた。
「そろそろ見失いそうね。進藤君追いかけて。おそらくシャドーマンが向かった先にここと繋がっている道があるはずよ」
「はい!」
シャドーマンを追って走り出した進藤を見送って、榊は一人荒らされに荒らされた図書館のなかを歩き始める。
どこもかしこも本棚が倒されて散らばった無数の本。
まるでただここを荒らすことが目的であるようにも思えるが。
「何かを探していた?」
そこに確かな目的があれば何か。そう考えた時に真っ先に思い当たったのはそれだった。
「篠原君」
『待ってください。解析にはもう少し…』
「私はもう少しここを調べてみるから進藤君のサポートをお願い。勿論解析も続けるのよ」
『えっ』
困惑する篠原が見つめるモニターには走る進藤の視界が映し出されている。
倒された本棚の合間に散らばる無数の本を踏まないように器用に避けつつ走る彼の視界の奥に一体のシャドーマンが映った。
向かっているのは図書館の奥。そこには不自然な形で倒れて組み合わさった本棚がある。
まるで口を開けた洞窟のような空間に向かって飛び込むシャドーマンを追って進藤もまた躊躇しないで飛び込んだ。
「ここはどこのクローズネットなんだ?」
立つ床、見回した壁、見上げた先の天井。それらの様相が図書館ではなく進藤にとっては見慣れたクローズネットのそれになった。
『調べます』
進藤の呟きに反応した篠原が解析を行うさなか、先を走るシャドーマンが振り返るとここまで追いかけてくる進藤に驚きさらに加速を試みる。
「待て」
この場ならば遠慮はいらない。走りながら構えたGM05Sのトリガーをためらわずに退いて走るシャドーマンの少し先を撃った。
バンっと弾けて散った火花に怯みシャドーマンが足を止めた直後ゆっくりと振り返ると追跡者である進藤を見て観念したように殴り掛かってきた。
「仕方ない。そっちがそのつもりなら」
GM05Sは手放すと同時に手の中から消滅して、かわりに拳を作り進藤は格闘戦で応じる。
素のスペックだけで言えばゲストアバターとシャドーマンでは明確な差が生じるように、GM05とシャドーマンとで差ができる。
至近距離に立ち殴り合いを繰り広げている現時点ではGM05の方が勝っていた。
何よりシャドーマンの動きは素人然としていて、一通りの格闘術を学んでいる進藤には技術の面で全く及ばない。
振り翳されるシャドーマンの拳は空を切り、反対に突き出される進藤の拳はその顔面に突き刺さる。
殴り合いでは勝てないと思ったのか次にシャドーマンは不格好ながら蹴りを繰り出すも当然素人のそれでしかない攻撃が命中するはずもなく進藤は軽々と回避して反撃を食らわせていた。
「それまでだ」
床に倒れ込むシャドーマンに向けて再度出現させたGM05Sの銃口を向けて告げる。
「両手を上げて床に伏せろ」
この世界で確保した所でログアウトしてしまえば捕まえるには至らない。そのためにも目の前のシャドーマンをリアルでも確保することが必須となるのだが、いまだにその連絡はない。
仕方なくこの世界でやることが残っていることは何かないかと考えた末、進藤は目の前のシャドーマンに尋問していた。
聞き出すべきは目的。
しかし何も答えない。
次に問うのは侵入経路。進藤からすれば先んじて気になった目的ほどこれが重要とは捉えていなかったが、実際この映像を見ている榊にとってはこちらの方が気になる部分であった。が、あえて口を挟まずに静かに見守ることに徹していた。
銃口を突き付けて威圧するもなおも口を閉ざすシャドーマンと向かい合い無駄な時間だけが流れていく。
次の言葉に迷っていると進藤はシャドーマンがバレないようにこっそりと体の陰で何かを取り出しているのを見逃してしまった。
『進藤君気を付けて。何かしようとしているわ!』
目敏く誰よりも先んじてそれに気づいたのは榊。口を挟まないと決めていたものの思わずそれを破り声を出していた。
はっとしたように目を見開いてシャドーマンを見たその瞬間、進藤の目を遮るような爆発が起こったのだ。
「何だ!?」
思わず手で顔を覆う。
そのせいで銃口がシャドーマンから外れた一瞬にシャドーマンは起き上がり、脱兎の如く駆け出した。
『追いなさい!』
「はい!」
耳元に届く指示を受けて進藤も走り出す。
まるで目的の場所がわかっているかのように迷いなく進むシャドーマンに対して進藤はそれに追いついてしまわないように距離を保ち続けていた。
逃げているシャドーマンを追い駆けだした直後、榊から発見できていない侵入経路を暴き出すためにあえて逃がすように言われたからだ。しかしその結果、完全に逃がしてしまっては本末転倒。逃げ切られてしまわない、それでいて微妙に追いつけそうにもないという絶妙な距離感を保つことはただ追尾することよりも難易度は上だった。
苦心しながら進藤がチェイスを繰り広げていると突然シャドーマンが倒れてしまっている本棚の中へと飛び込んだ。
「そこか!」
ようやく見つけたと言わんばかりに声を上げた進藤に榊が『飛び込んで』と指示を出す。
一瞬躊躇してしまいそうになったが、それでもと足を止めることもなくそれに飛び込もうとすると、そこにはうまい具合に隠されている亀裂があった。これが本来閉ざされているであろう二つの空間を繋げている”穴”であり”道”のようだ。
意を決して穴に飛び込む。
一瞬の暗転の後、進藤が降り立ったのは開かれたどこかの公園のような場所だった。
「ここは?」
『進藤さんが居るのはクローズネットで間違いないと思います。ただ、それがどこのクローズネットなのかまでは』
篠原の返事を受けて周りを見渡す進藤は思い出したようにシャドーマンを探した。
「見つけた」
こそこそと逃げ出そうとしているシャドーマンに向けて躊躇わずGM05Sの引き金を引く。
撃ち出された弾丸が手前数メートルで弾けたことで足止めされたシャドーマンは振り返りどこか忌々し気な視線を進藤に向けて睨みつけてくる。
「ここまでみたいだな」
追い詰めたと言外に告げてにじり寄る進藤にシャドーマンはどこか覚悟を決めたような雰囲気を纏い始めた。
丁度タイミング良く篠原から件のシャドーマンがログインしてきている地域が絞り込めたという連絡が入った。これならば仮にこの瞬間にログアウトした所で確保することも可能だろう。
これでようやく倒してしまうような攻撃を躊躇する要因は無くなったと引き金に掛けた指に力が入る。
「大人しくログアウトして出頭する気は……ないみたいだな」
悪いことをすれば捕まる。そんな当然の理さえもその惧れが自分の身に降りかかるとなれば話は別。
最後の抵抗とでもいうようにシャドーマンは何処からともなくその手に掌に収まる程度のサイズで特徴的な形状した小型の注射器インジェクターが握られていた。
「あれは――」
思い出されるのは昨日の化け蜘蛛。自分では手も足も出なかった存在がまたしても目の前に現れようとしていた。
「させるか!」
それを使われる前に取り上げられれば脅威は事前に排除できる。
全速力で駆け出して手を伸ばしたその先で、シャドーマンはインジェクターの先を自身の体に押し当てると同時にぐっと押し込み、その中身を注入してみせた。
聞こえてくるシューっという蒸気が噴き出す音。
実際にシャドーマンの体から大量の白い煙が噴き出している。
ドンっと大きな爆発が起こる。
「うわっ」
近付こうとしていた進藤は軽く吹き飛ばされてしまった。
倒れないようにと地面に手を付いて堪えて、爆発の中心部へと視線を向ける。
背の低い草が広がる緑の絨毯がシャドーマンを中心にして大きく抉られていて、その真ん中に立つシャドーマンからは無数の黒い欠片がポロポロと剥がれ落ちていく。
「あれは、化け蜘蛛……じゃない!?」
現れたのは人型の蜘蛛の化け物などではなく、さながらマントかローブのように垂れた長い毛の塊が特徴的な羊の要素が色濃く出ている人型の化け物だった。




