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極大迷宮篇 Ep.26『報告書』


「これが今回の報告書です」

「ああ。よくやってくれた」

「まあ何とかって感じですけどね」


 今時では珍しくデータではなく印刷された紙を纏めたものを作るようにと指示を受けて一応それらしく見えるように作った資料を受け取った高坏円(たかつきまどか)は数枚のページを捲ってさっと確認した後に硬質ケースの中に入れて机の引き出しに仕舞った。


「別に謙遜することはないだろう? 紛れもなくこれは君がやり遂げた仕事なのだからね」


 部下の仕事を正しく評価する上司といえば聞こえはいいが、どうしてだろう、素直に受け取れない自分がいる。

 机の上のモニターから視線を戻して含み笑いを浮かべている(まどか)の顔をじっとみつめて見て。


「何か言いたいことがあるのかい?」

「イナミナさんに俺のこと変な風に言ってましたよね?」

「事実だろう?」

「どこがですかっ!?」


 椅子の背もたれに体を預け、リラックスした様子で笑みを浮かべている(まどか)を椅子ごとぐるっと回転させて体の向きをこちらに変える。

 変わらない笑顔を崩さない(まどか)の顔を正面から見て凄みを掛けるも、平然と受け流されてしまっていた。

 まさに暖簾に腕押しだと大きなため息を吐いて近くの椅子を引き寄せて浅く腰掛けた。


「流石の君もこれで自覚なしというわけじゃないだろう?」

「…うぅ」


 くるっと回転させてモニターの向きを変えた(まどか)は画面を俺に見せつけるようにコンコンっと指で軽く叩いた。

 モニターに映し出されているのは言い訳のしようもない映像。

 とあるパーティがとある大型モンスターと戦っている光景だ。

 そこに映っている人たちが普通のプレイヤーと違うのはその姿。

 戦っているプレイヤーの人数が五人であることから一つのパーティではなく二つのパーティによる合同討伐、いわゆる”レイド”であることがわかる。

 その五人全てが一般的な種族のそれから外れた身形をしている。

 人外、化生、異形。あるいは、ヒーロー。

 彼女たちを表わすにはどの言葉が相応しいのか。そんなことを考えつつ映像を見ているとそこには文字通り獅子奮迅の活躍を見せる一人の騎士がいた。


「本来はこの短期間で手に入るはずもない”変身能力”」


 静かな声色で映像を指していった。


「獲得手段はあっても対象外。それをクリアしてしまうと別の力が手に入ってしまう」

「知っていたんですか?」


 確信のあるような物言いがふと気になって尋ねてみる。すると(まどか)はまさかと肩を竦めてわざとらしい振る舞いで首を横に振った。


「いやいや、とんでもない。最近やっと聞き出すことができたから知っただけのことさ。そうだね。間の悪い偶然というやつさ」

「はぁ、そうですか」


 誰から聞いたのかなど聞いても答えてはくれない気がする。

 どっと疲労感が押し寄せてきてもう一度大きく息を吐き出した。


「確証があったわけじゃないんですよね?」

「なにがだい?」

「俺と一緒に極大迷宮(ダンジョン)に行くことでイナミナさんがそのスキルを習得できる確証です」

「さあ、どうかな。もし私がここで確証があったと言ったら君は信じるかい?」


 挑発しているのか、それとも煙に巻こうとしているのかわからない(まどか)の口振りにイラっとして眉間にしわを寄せる。

 痛い沈黙が約六秒。

 すぐに俺は気持ちを切り替えて気にしていないと余裕綽々だと笑みを浮かべた。


「俺が(まどか)さんを信じないわけがないじゃないですか」

「嘘っぽい言い回しが巧くなったじゃないか」

「そうですか?」

「そうとも。いい感じに胡散臭いよ」

(まどか)さんのお陰ですね」


 皮肉たっぷりにそう告げるも(まどか)は一切気に留めた様子もなく、


「間違いないね」


 と声を大に笑ってみせた。

 豪快に笑う(まどか)から視線を外して再度モニターに注目する。

 そこに映るイナミナは極大迷宮(ダンジョン)で獲得した姿に変わり剣を振い巨大な獣と対峙している。

 曲がりくねる巨大な二本角。獅子のような顔。馬のような鬣。異常に発達した前足は人の手のように地面を掴んでいる指がある。全身の色は深い赤。熟成に熟成を重ねた葡萄酒(ワイン)のような濃い赤色。

 その名は『ベヒモス』。

 複数人で戦うレイドボスモンスターとしては広く名が知れたモンスターである。


「どうやらあの娘たちの勝ちみたいだね」


 俺が黙って見つめていた映像を(まどか)が一瞥して言った。

 程なくして映像の中で一際背の小さな少女が天高く一振りの剣を構えた。巨大なベヒモスさえも一刀両断できそうなくらいに肥大化した剣はその刀身の大半を紫色の閃光が迸るエネルギーを固めて形成されているようだ。

 変身したことで角を生やし翼を広げて浮遊する少女が全身を曲げて巨大な剣を振り下ろした。

 必殺の一撃であることを本能で感じ取ったのかベヒモスが逃げようとしているが、突然降り注いだ黄金の閃光によって行く手を遮られてしまう。

 まるでカメラマンが映像を撮っているかのごとく、閃光を放った人物がフォーカスされる。そこにいたのは悪魔の翼を広げた少女の隣で瞳に金色の光を宿し大きな鳥の翼を広げて銃を構えている美女。引き金を引くと拡散された弾丸がいくつもの黄金の光の楔となってベヒモスに撃ち込まれていた。

 それでもレイドボスモンスターの地力はプレイヤーの想像を上回る。

 強引に地面ごと楔を引き抜いて無理矢理に降り注ぐ光を振り払った。

 ぱらぱらと舞い散る大量の土によって振り下ろされる剣の狙いが僅かにズレてしまう。

 だがベヒモスの動きを阻害するのは鳥の翼を広げた美女だけじゃない。映像が切り替わり、身を屈めて地面すれすれを泳ぐように走る別の少女が映し出される。黒いフードを目深に被り、その身に起きた変化すら隠しているような出で立ちの少女が下から上へ短剣を携えた腕を振り上げるのと同時に地面にできた影の中から鮫の背びれのような刃がベヒモスの脚を切り裂いたのだ。

 突然のダメージにベヒモスは立ち位置を元の地点に戻す。

 避けられないと観念したベヒモスは己の額に生えた巨大な角を剣に打ち付けた。

 凄まじい激突音と衝撃が広がり、振り下ろされる剣は途中で制止している。

 二者の一撃が拮抗する最中、突然剣の後方とベヒモスの顔面に断続的な爆発が起こった。

 爆炎の色はピンクというあからさまに人為的に起こされた爆発を引き起こしているのは巨大なベヒモスの体をボルダリングの壁のように駆け上がっている赤い狼少女。ピンっと立てた耳に左右に揺れるふさふさの尻尾。両手の指の間に起用に挟んでいるのは細い試験管のようだ。狼少女がポイポイと試験管を投げると一秒も立たずに爆発が起こる。

 ピンクの爆発によって崩れた拮抗に剣は徐々に下に動きだした。

 それでもまだ押し切るには至らない。

 ピキっとベヒモスの角に亀裂が入ったその瞬間に一人の騎士が大地を蹴り跳び上がった。

 緑の鎧を纏う騎士は連続して大きな跳躍を行い剣を受け止めているベヒモスの角に自身の細剣を打ち付ける。

 閃光が迸り、ベヒモスの角は罅から綺麗にポキリと折れた。

 これで本当に勝敗は決する。

 ゆっくりと、それでいて力強く振り下ろされた剣を受けてベヒモスは全身を真っ二つに斬り裂かれた。

 砕けて舞い散る光の粒子が降り注ぐ中、五人の少女たちは互いの健闘を称え合い、思い出したかのようにカメラ目線に立ち勝利のポーズを取って見せた。


「お、仕事が速いな」

「どうしたんですか?」


 モニターは変わらず戦闘後の映像が映し出されている。(まどか)が見ているのは個人のスマホ画面だ。


「どうやら全員が変身能力を獲得した記念衣装が作られるらしいぞ」


 モチーフがバラバラでも共通の衣装を纏った五人の少女が描かれている一枚絵が表示されたスマホの画面をみせてくる。


「二か月後には周年記念ライブも開かれるらしい。どうやら彼女が躍起になっていた理由はこれも関係しているみたいだな」

「なるほど」


 表には出さないようにしていたが、イナミナは変身に殊更拘っていた。今更ながらにその理由の一端を垣間見た気がして一人納得してしまった。


「とはいえこれで間違いなく依頼は完遂だ。時に悠斗」

「はい? なんですか?」

「確認だが、個人的に彼女の連絡先を聞いたりしていないだろうな」

「そんなことしてないですけど」

「ならいい。仕事が終われば彼女たちと関わることもなくなる。彼女は一応は有名人。そういうものの管理は厳重なくらいで丁度いいらしい」


 などと言いながら(まどか)は今回の仕事に関する資料を添削し始めた。

 具体的にはリアルの情報に繋がるものの削除。

 イナミナ本人のリアルの名前や連絡先の抹消。

 残すのは彼女の会社に繋がるものだけ。

 (まどか)曰くこの先何かが起こった時に高坏円事務所から情報が漏れたのではないのだと証明するための措置らしい。

 そこまでしなくともいいのではないかと思うが、事務所の方針は(まどか)が決めること。俺が口を出すようなことではない。


「お疲れ様。これで正真正銘今回の仕事は終わりだ」


 データの抹消を終えてから報告書が入ったケースに確認のために事務所に残した情報をコピーした記録メモリを収めて封をする。あとはイナミナの会社の人がこれを取りに来て、(まどか)が報酬を受け取ったら高坏円事務所としての仕事も終わる。


「しばらくは大きな案件は入っていないから君も体を休めてくれ」

「わかりました」

「ああ、事務所の雑務はたっぷり残っているから、毎日ここには来るように」

「わかってますよ」


 気付けば事務所の窓の外がオレンジ色に染まっている。

 時計を見れば終業時刻まであと三十分ほどだ。


「それじゃあ、今日は残りの時間掃除でもしてくれるかい?」


 (まどか)の指示があるのならやらなければならない。

 そう思って振り返ると見えている所は綺麗だが、客人が入ってこない場所や目の届かない場所には大量の書類が積まれているのが目に入ってきた。


「先週も大掃除しましたよね、俺」

「そうだね」

「だったらどうして一週間ほどで…いや、四日くらいでここまで事務所が汚れるんですか?」

「うん。不思議だね」


 まったく悪びれもしない口振りで答えた(まどか)に最大級のため息を吐いて見せて、掃除の前段階として不用品の処理と整理整頓を始めるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【8】ランク【4】


HP【B】

MP【C】

攻撃力【D】

防御力【F】

魔攻力【E】

魔防力【F】

速度 【C】


専用武器


剣銃(ガンブレイズ)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲(ガントレット)

↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】


防具


頭防具――【イヴァターレ・H】

胴防具――【イヴァターレ・B】

腕防具――【イヴァターレ・A】

脚防具――【イヴァターレ・L】

足防具――【イヴァターレ・S】

一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】


アクセサリ【6/10】

↳【生命の指輪】

↳【精神のお守り】

↳【攻撃の腕輪】

↳【魔攻の腕輪】

↳【魔防の腕輪】

↳【速度の腕輪】

↳【変化の指輪】

↳【隠匿の指輪】

↳【変化のピアス】

↳【―】


所持スキル


≪剣銃≫【Lv132】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳<セイヴァー>――“威力”、“攻撃範囲”が強化された斬撃を放つ。

↳<カノン>――“威力”、“射程”、“弾速”、が強化された砲撃を放つ。

↳<インパクトノーツ>――次に発動する全てのアーツの威力を増加させる。

↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技(エスペシャル・アーツ)

↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技(エスペシャル・アーツ)

≪魔導手甲≫【Lv20】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。

↳<ブロウ>――“威力”を高めた打撃を放つ。

≪錬成強化≫【Lv110】――武器を錬成強化することができる。

≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に生命力が回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に精神力が回復する。

≪状態異常無効≫【Lv―】――状態異常にならない。(特定の状態異常を除く)

≪全能力強化≫【Lv100】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【8】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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