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極大迷宮篇 Ep.19『映し鏡の戦乙女』


 いきなり吐き出された炎を避けようとして二手に分かれた私たちは炎の壁に隔たれたままそれぞれの戦いを始めることとなった。

 轟々と燃え盛っている炎によって向こう側の様子は見ることができない。私にできることと言えばユウさんがあの竜なんかには負けないと信じることと自分の前に佇むあの騎士を倒すことだけ。

 ヴァルキュリアが携えている剣は私が使っている細剣(ハチマル)よりも刀身の幅が広く長い。片手で扱うには適していないロングソードを軽々と持ち上げてさながらレイピアのように鋭く、かつ素早い突きを繰り出してきた。


「ふっ!」


 多分あのヴァルキュリアは私を象った自分の偽物。ユウさんが言っていた言葉を使うなら自分の映し身。だというのにその力は明らかに私を上回っている。

 連続して繰り出してくる突きの速度でさえも私が至っていない領域にいるみたいだ。

 最初の頃こそ突きを相殺できないかと狙って細剣(ハチマル)をロングソードに打ち合わせていたものの、地力の違いが出てきて次第に私の突きは打ち上げられるようになっていた。それからは全力で回避に集中することで直撃を避けることができていたというわけだ。

 回避に集中するあまり反撃に移るタイミングを一向に掴めないでいることが開始早々停滞した戦況を生み出している大きな理由だった。

 ヴァルキュリアがレイピアのようにして突きを放っているとはいえ本来の武器の形状はロングソード。当然得意なのは突きではなくて斬る攻撃。

 一度紙一重に見極めて回避した時にはそのまま斬り下ろしが襲って来た。それは人外の存在であるヴァルキュリアの筋力にものを言わせた強引な攻撃で、同じだけの能力値があるプレイヤーが同じ攻撃をしようとしたところで再現できるかどうかも怪しいほど人体構造と体幹を無視した斬り下ろしだった。

 迫るロングソードを強引に体を捻って、それでいて地面に手が付いて倒れそうになってようやく避けることができた。しかしそのまま自分の体重を支え切れずに私の体は床に沈み、追撃が繰り出される前にと転がるようにして避けて距離を取った。

 転がるたびに水飛沫が上がり、自分の体に付いた水滴は装備を辿ってボタボタと滴り落ちる。

 数秒の後に装備は乾き、濡れる前の状態に戻るのは前に海付近で戦って濡れた時とは違う、この場所特有の仕様らしい。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 肩で息をしながら立ち上がり、ゆっくりと歩を進めてくるヴァルキュリアをにらみつけた。

 言葉を発することもなく、ただ敵と定めた私に刃を向けてくる存在。

 これまで数えきれないほど戦ったどのモンスターとも違う異質な存在に見えるそれはもはやモンスターという枠組みに入れていいのかさえ分からなくなるほど。

 ふと炎の壁を一瞥する。

 思い起こされる高坏円(たかつきまどか)の言葉。

『”ユウ”というプレイヤーは異常な事態に好まれている。何か望外のことを望むのなら案内人として彼以上に適した人材はいないだろう』

 今更にしてその意味が分かったような気がする。

 ユウが称した”異層”という特異な空間。それは元々この極大迷宮(ダンジョン)に組み込まれていた仕様なのだろう。けれどその発露方法やそこに挑むための条件はいまだに何一つ解明されていない。一度異層に挑んだプレイヤーの真似をして同じ順路と同じ行動を取ったところで同じように異層に辿り着けるかはわからない。異層とは”ない”と明言されてはいないが、”ある”と公に言われている場所でもないのだ。

 近付いてくるヴァルキュリアを改めて見る。

 たぶん身長や体格は私と同じなのだろう。

 なのにあの装備は私が望んで纏っているものとは違う。

 大振りなロングソードも私が好んで使う武器でもない。

 やはりあれはあくまでもヴァルキュリアとしての装備、武器ということだ。


「はあっ」


 一定の距離に近づいてきたヴァルキュリアが駆け出してきた。

 等間隔に水飛沫をまき散らしながら接近したそれに私は細剣(ハチマル)を思い切り叩き付けた。


「くっ」


 まるで鋼鉄の塊を殴りつけたように硬い感触が刃を通じて返ってくる。

 刀身を横に寝かして前に突き出し細剣(ハチマル)を受け止めてみせたヴァルキュリアは微塵も怯むことなくそのまま前に出てくる。

 攻撃を仕掛けたのは私の方だというのに、防御側のヴァルキュリアの方が優位な状態で私は押し戻されてしまっていた。


「そんなっ」


 転んでしまわないように足を運んで下がり続けている私とヴァルキュリアはいつまでもいつまでも押し込み続ける。

 ここが限られた空間ならばもう私の体は壁に行き当たりヴァルキュリアによって圧し潰されていたことだろう。

 炎の壁から離されていく。

 これではユウさんの助けを期待することはできない。

 自分の意識が目の前のヴァルキュリアから外れたその一瞬に私は足が縺れさせてしまいバランスを崩して仰向けになって倒れてしまった。


「あっ、くぅ」


 背中に感じる衝撃に短い悲鳴を漏らして、頬が床に溜まっている水に濡れた。

 私を押し倒したヴァルキュリアはつられて倒れることもなく仁王立ちになったまま微かに頭を下に向けて情けなくも倒れたままの私にどこか落胆したかのような視線を向けてきた。

 もちろん兜に隠れてその目が見えたわけじゃない。

 肩を竦めるように態度にそれが現れたわけでもない。

 ただ、見下ろされた私がそう感じたというだけだ。


「…っ」


 はっと目を見開いて身動ぎするも金縛りにあったかのように動けない。

 処刑人が罪人の首を刎ねるように振り上げたロングソードが迫る。

 攻防の果てといえばそれまでだが、ふいに心の内から強烈な感情が沸き上がってきた。

 負けたくない!

 負けたくない!!

 負けたくない!!!

 負けたくない!!!!


「負けるかぁっっっっ!!!!!」


 心の底からの叫びが出て、私の体が跳ね上がる。

 動けるようになった右手で細剣(ハチマル)を振り下ろされたロングソードに思い切りぶつけた。

 ガンッっと大きな音がして右手が跳ね返ってくる。それでもと横たわったままの体を捻りもう一度細剣(ハチマル)をヴァルキュリアに叩き付けた。

 一度目の剣同士の激突でヴァルキュリアのロングソードは僅かながら後退していた。そこに続けざまにぶつけられた一撃。

 跳ね返るロングソードを掴んだままの右手に引っ張られるようにヴァルキュリアは微かに上半身を仰け反らせると、生じた一瞬の隙を逃さず、私はその腹を思い切り蹴り飛ばした。

 アーツもない。そもそも私は体術系の戦闘スキルは持っていない。

 だからこれは現実(リアル)の蹴りとなんら変わらないただの”蹴り”。

 システムに攻撃として認められるかどうかさえ怪しいそれは確かにヴァルキュリアにダメージを与えることはなかった。

 けれど、蹴り飛ばすというよりも押し返すことになった一撃は私とヴァルキュリアの間に一定の距離を作り出していた。

 すかさず後転して起き上がるとそこから数回後ろに跳んで下がる。

 立ち上がり、細剣(ハチマル)の切っ先をヴァルキュリアに向けて一度深く息を吸い込んだ。


「私は……負けない!」


 ここから仕切り直しだと向かい合うヴァルキュリアに向けて宣言してみせた。


「纏え! <シル・エアル>!」


 仄かに青い旋風が私の体を包み込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【42】ランク【6】


HP【A】

MP【A】

攻撃力【B】

防御力【C】

魔攻力【C】

魔防力【D】

速度 【A】


専用武器


細剣(ハチマル)

↳アビリティ――【不壊特性】【属性剣・風】


防具


頭防具――【リオニールメイルイヤリング】

胴防具――【リオニールメイル】

腕防具――【レオルナルアーム】

脚防具――【レオルナルベルト】

足防具――【リオニールグリーブ】


アクセサリ【10/10】

↳【体力上昇のリング】

↳【魔力上昇のリング】

↳【攻撃上昇の腕輪】

↳【魔攻上昇の腕輪】

↳【魔防上昇の腕輪】

↳【速度上昇の腕輪】

↳【風精霊のとんぼ玉】

↳【水精霊のとんぼ玉】

↳【浄化の宝玉】

↳【セイギノミカタの徽章】


所持スキル


≪細剣≫【Lv320】――武器種“細剣”のアーツを使用できる。

↳<シル・ファード>――特別な風によって強化された斬撃を放つ。

↳<シル・ファリオン>――斬撃を風に乗せて飛ばす。

↳<シル・ドンガ>――前面広範囲に向けて風の壁を発生させる。

↳<シル・エアル>――全身に風を纏うことで速度と攻撃力が上昇する。

↳<ラシル・エクリシア>――全身を包んだ風を一気に放つ必殺技(エスペシャル・アーツ)

≪自動回復・HP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に生命力が回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に精神力が回復する。

≪状態異常無効≫【Lv―】――状態異常にならない。(特定の状態異常を除く)

≪全能力強化≫【Lv260】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【3】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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