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極大迷宮篇 Ep.16『第九層』


 目的の第十層到達まであと一つ。今回の攻略にも終わりが見えてきた頃、俺はイナミナと並んで奇妙な部屋にいた。

 壁も天井もあるのかすら分からない広大な部屋。

 障害物になりそうなものどころかこういうだだっ広い部屋に付きものの柱さえ見当たらない。

 それよりも何よりも僕が気になったのは果ての無い床全面にうっすらと広がっている水。すべすべとした光沢のある床に透明度の高い水が溜まっていればそれ自体が鏡のようになっている。それでいて動かずに立っているだけの状態にいるプレイヤーの姿は鏡面の床に映らない。だというのにしゃがんで鏡面の床に手を近付けてみれば自分の手がはっきりと床に映し出される。


「反射する距離が限られているってことかな」


 手の位置を変えたりして反射の適切な距離を計って判明したのはおよそ五十センチほど離れた距離で鏡面の床は何も映さず、ただただ綺麗な床の面が透明な水越しに見えるだけということ。

 奇妙な程の静寂に包まれた部屋に漂っている異質な雰囲気に僕の記憶が刺激される。


「まさか、ここは…」

「どうかしたのですか?」


 イナミナが歩く度に水音がして、彼女の足が床を離れる度に水面に波紋が広がっていく。


「もしかしての話で、あくまでも俺の予測でしかないのですが」

「大丈夫です。ユウさんのことは信頼していますから」

「では言いますが、ここは普通の極大迷宮(ダンジョン)の階層じゃないのかもしれません」

「と、いうと?」

「通常の階層とは異なる階層。異層に迷い込んでしまった可能性があります」

「“異層”ですか?」

「あ、俺がそう呼んでいるだけだから正式名称は別かも知れませんけど」

「はぁ」


 この部屋に漂っている空気はハルと共に挑んだ異層を思い出させる。その時のことをイナミナに伝えたと思っていたのだが、彼女の様子を見た限りではあまり伝わっていなかったようだ。

 それならばともう一度ハルと挑んだ異層について自分が知る限りを伝える。その場で起きた事、戦った相手、そして元の階層に戻ってくる方法を。


「つまりこの階層を突破しない限りは第十層どころか元々踏破しなければならない第九層にすら行けないってことなんですね」


 一通りの説明を聞いて理解したイナミナが簡潔に現状を述べた。


「はい。でも、イレギュラーな事態になったのは間違いないんですけど、俺たちの目的を考えるとこれはチャンスかも」

「目的っていうと、第十層に行くことですか?」

「違います。俺たちがこの極大迷宮(ダンジョン)に挑んでいる本当の目的のことです」



 はっとしたようにイナミナが息を呑む。

 驚愕、困惑、そして期待。

 表情がころころと変わっていく様は見ていて面白いものがある。

 とはいえイナミナの顔をずっと眺めているわけにもいかずに声を掛けて冷静になるように促した。


「自分が経験したからわかるんですけど、異層には強力なモンスターがいます。場合によってはそれこそ各階層の最奥にいるボスモンスターよりも強い個体が。それに仮に倒したとして何かが確実に手に入るというわけでもない。ただ元の階層に戻るための道が示されるだけということも十分に考えられます」


 性格が悪いと言われても浮かれそうになっているイナミナに元の冷静さを取り戻してもらうべく、異層に関して徒労に終わることもあるという事実を敢えて強調して伝える。

 みるみるうちに意気消沈していくイナミナは見てて心苦しいものがあって、結局はフォローするように、


「でも“変身”を求めるのなら普通の極大迷宮(ダンジョン)を攻略していくよりも異層を攻略した方が可能性が高いような気がします」

「本当ですかっ!?」

「や、その、気がするってだけですから。俺の勘みたいなものなんでアテにならないと思いますけど」

「いいえ! やっぱりユウさんは最っ高の悪運持ちです!!」


 落胆から多少浮上してくれたのは良かったけれどその言われ方はどうなのだろう。

 不名誉だと言い切ることもできそうでできない絶妙な塩梅の評され方だと思った。そしてふとそれが彼女の中か出てきた言葉では無いような気がした。こう言ってはあれだけどイナミナが言う言葉のイメージからはかけ離れているように思えたのだ。


「ちなみにこれは(まどか)さんが言ってたんですけど、本当にその通りでした!」


 イナミナに悪気など微塵もないのだろう。それどころか褒めているようなニュアンスで使っているらしい。

 であれば、元凶は高坏円(たかつきまどか)。俺の上司で雇い主。この落とし前をどう付けて貰おうかなどと考えてみた瞬間、何故か途轍もない悪寒に苛まれてぶるっと体を震わせた。


「聞こえてる…わけないよな」

「ん? どうかしたんですか?」


 何も無い虚空を見上げて呟いた俺を不思議そうにイナミナが見てくる。


「いえ、なんでも。それよりも、今はこの異層の探索を始めませんか?」

「そうですね。ここで立っていても何も起こりませんし。どうやら時間経過で何か起こるわけではないみたいですから」


 驚いたことに異層に足を踏み入れてから意図的に移動をしなかった理由をイナミナは言外に理解してくれていたらしい。

 自分の経験上、何かしらの物事が起こる時には切っ掛けとなる“何か”がある。例えばそれが特定の場所に到達することだったり、何らかのアイテムを集めることだったり、門番のようなモンスターを討伐することだったり。

 この広大で何も無い部屋では何が切っ掛けになるのだろうかと考えて真っ先に思い当たったのが自分たちが突入してきたこと。しかしそれならこの部屋に入った途端に連鎖的に何かが起こってもおかしくはない。それがないのだから最初の可能性は間違いだということになる。

 次に思いついたのが時間の経過。

 一定の場所に居続けることで何かが起こったなんてことを聞いたことがある。発生するまでの時間はまちまちだが、共通しているのは秒単位ではなく最短でも分単位。長ければ数時間単位になることもあると聞くが、それはレアケース。大抵は数分から十数分で可否の結果が判明する。

 イナミナと会話をしながら時間が過ぎるのを待っておよそ体感十数分が経過した。それで何も起こらないのならば時間経過が切っ掛けと考えるのは間違いだ。


「二手に別れて、というのはちょっと不用心が過ぎますかね?」

「そうですね。ここは一見見晴らしが良い部屋ですけどどこまで広いのかわかってませんし、もしわたしたちの想像以上に広い部屋だった場合に別れて行動していたら合流するまでに余計な時間が掛かるかもしれません。それに今はモンスターの姿は見られませんけど、もし片方にだけ集中して襲撃があったりしたら」

「危険ということですね」

「はい」

「わかりました。それなら一緒に行動しましょう。まずは…どこから見ましょうか?」


 部屋に入ってすぐの場所いる。移動していないのだから当然立ち位置は変わっていないはずなのに四方を見てみると自分たちが入ってきた場所すら分からないほど遠くの方まで空間が広がっていた。

 前後左右全て壁が見えない。

 上を見上げても天井はなく、下を見れば鏡面の床が無機質にあるだけ。


「探索のセオリーは右手側。あれ? 左側からでしたっけ?」

「いや、俺に聞かれても」


 自分の手と進むべき道を見比べてどちらに行くべきか悩んでいるようだ。

 彼女の素振りから察するにとりあえず前と後ろに進むという可能性は消しているらしい。それならば後は見て回るということから時計回りに移動するか反時計回りに移動するかの二択。

 別にどっちからでも変わらないと言われればそれまでだというのに何故かイナミナはそれが最重要な決断であるかの如く必死に悩み考えている。


「決まりました!」


 うん。結構時間が掛かったね。などとは口が裂けても言えず、俺はただ平気な顔をして、


「どっちですか?」

「こっちから行きましょう!」


 ビシッと指をさしたのは右側の壁。そこから反時計回りに進むことにしたらしい。


「まずは壁に行き当たるまでまっすぐ進みましょう」


 そう言って歩くこと数分。いつまで経っても壁は見えてこない。それどころか目印になりそうなものが一切ない部屋では進んでいるのかすら分からなくなるほど変わり映えのしない光景が続いている。

 唯一自分たちが歩いていることを証明してくれているのは自分たちが歩く度に床の表面に広がる波紋。それも僅か数秒で消えてしまい、振り返ったとしても自分たちが進んで来た残滓すら見ることができなくなっていた。


「頭が変になりそうです」


 暫く歩いてイナミナが疲弊した声で溢した。それでもなお足を止めないのは進むことと戻ること以上に止まることに意味を見出せていないからか。


「もしかして進む方向間違えたんでしょうか」


 自分の決断に自信が持てなくなったのか、不安そうな声でそう問い掛けてくる。


「これは、そういう問題じゃないと思います。何というか、同じ道を延々と行かされているみたいな」

「まさかループしているって言うんですか?!」


 信じられないと足を止めたイナミナに自信はないと前置きをしていう。


「かも知れないというだけで、実際は進んでいる…かも知れませんから」

「“かも”ってなんですか“かも”ってぇぇぇぇ!!!!!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【7】ランク【4】


HP【B】

MP【C】

攻撃力【D】

防御力【F】

魔攻力【E】

魔防力【F】

速度 【C】


専用武器


剣銃(ガンブレイズ)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲(ガントレット)

↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】


防具


頭防具――【イヴァターレ・H】

胴防具――【イヴァターレ・B】

腕防具――【イヴァターレ・A】

脚防具――【イヴァターレ・L】

足防具――【イヴァターレ・S】

一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】


アクセサリ【6/10】

↳【生命の指輪】

↳【精神のお守り】

↳【攻撃の腕輪】

↳【魔攻の腕輪】

↳【魔防の腕輪】

↳【速度の腕輪】

↳【変化の指輪】

↳【隠匿の指輪】

↳【変化のピアス】

↳【―】


所持スキル


≪剣銃≫【Lv132】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳<セイヴァー>――“威力”、“攻撃範囲”が強化された斬撃を放つ。

↳<カノン>――“威力”、“射程”、“弾速”、が強化された砲撃を放つ。

↳<インパクトノーツ>――次に発動する全てのアーツの威力を増加させる。

↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技(エスペシャル・アーツ)

↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技(エスペシャル・アーツ)

≪魔導手甲≫【Lv20】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。

↳<ブロウ>――“威力”を高めた打撃を放つ。

≪錬成強化≫【Lv110】――武器を錬成強化することができる。

≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に生命力が回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に精神力が回復する。

≪状態異常無効≫【Lv―】――状態異常にならない。(特定の状態異常を除く)

≪全能力強化≫【Lv100】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【7】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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