極大迷宮篇 Ep.14『第八層の形は』
残された時間ギリギリに滑り込んで突破した第七層とは打って変わって第八層は常にバチバチと弾けている緑色のスパークが壁を駆け巡っている。
何気なしに壁に手を伸ばしてそのスパークに触れてみても想像していた静電気が弾ける時のような痛みが襲ってくることもなく、ただ柔い風に撫でられたようにしか感じない。それは見下ろした先の地面も同様で普通どれだけ頑丈なブーツを履いていたとしても多少の感覚は残る。足の甲を駆け巡っているスパークの感覚も当然のように感じるはずなのだがそれを感じない。どうやらこのスパークは第八層における演出以外のなにものでもないらしい。
「よかった。間に合ったんですね」
階段を下り抜けたすぐ先で立ち尽くしていた俺の元へたたたっと駆け寄ってきたイナミナは安堵の表情を浮かべている。
さほど間を開けずに自分も第七層の部屋を抜けたつもりだったがイナミナとはたった今まで合流することができずにいた。そのせいもあって多少心配していたのだが、こうも元気な様子を見れば安心できるというものだ。
「イナミナさんは先にこの八層に到着したみたいですね。探索はしてみたんですか?」
「一応。といってもこの部屋だけですけど」
バチバチと耳障りな音を立てている部屋を見回しながらいった。
「何かありましたか?」
「特に何も。気になるものはなにもありませんでした」
「そうですか」
階段の向こうにある部屋。正方形に近い部屋の四方の壁には扉がない通路が見受けられる。その内の一つはたった今自分たちが通ってきた階段のある場所だから、移動するのならば残る三つの通路から一つを選ぶ必要があるみたいだ。
「あの先、どこに続いているんでしょうか」
暗に通路を覗き込んで見たかと問い掛けるとイナミナは表情を暗くして頭を振った。
「この部屋の中から見てみたんですけど、真っ暗で…」
何も見えなかったと伝えてくるその様子にふと今もなお部屋の中を駆け巡っている緑色のスパーク、延いてはそれがもたらす明かりのことが気になった。
極大迷宮の各階層は基本的に明かりが担保されている。光源に違いがあれどそれは変わらない。そして通路の向こう、例えば横道に逸れた先にある小部屋なんかは闇に閉ざされて外側から覗き込んだだけでは中が見通せないことも珍しくはないのだ。
「とりあえずはどの道を選ぶのかが大事なんでしょうけど」
歩を進めてそれぞれの通路に行ける部屋の中心近くに立つ。
自分でも確認の意味を込めてそこから目を凝らしてそれぞれの通路を見るも、イナミナが言うようにそれらは全て闇に覆われて部屋と通路の境界から一メートル先ですら見通せないという通常ではあり得ないものであることがわかった。
「この部屋の明かりさえも届いていないということは、俺たちはこの闇に入って行くしかないってことみたいですね」
暗幕が落とされて光が途絶してしまっているかのように暗い通路。その内の一つに近付いて行き、奥の方を見つめながら感じたままを言葉に出す。
何となく手を伸ばすことが憚れて何もしないで元の位置に戻ってくるとそこでイナミナはこの部屋のなかに先に進むためのヒントがないものかとどんな細かな異変も逃さないという意気込みで視線を動かしていた。
「もしかして、闇の中を進む階層ということなんでしょうか」
などというイナミナの呟きを耳にしながら俺はRPGには付き物の周囲が見渡せない場所を思い出していた。そういう場所を探索するとき、それぞれのゲームによって異なるが大抵は最低でも自身の周囲を照らしてくれるアイテムが存在している。例を述べるなら手に持って光源とする松明や懐中電灯、ファンタジー物ならば明かりを付ける魔法のようなものだ。この極大迷宮、この階層に限って言うのならばそれに該当する可能性が最も高いのは常に部屋の中を駆け巡っている緑色のスパーク。どうにかこうにかその効果範囲をこの部屋から拡大できないものだろうか。
「そういう階層がないとは言い切れませんよね」
「そう、ですね」
再度確認するように問い掛けてくるイナミナに俺は気もそぞろに曖昧な肯定を返していた。
「どうかしました?」
適当な返事をしている勘付いたのだろう。イナミナは怪訝そうな顔をして部屋のなかへと向けられている俺の視線を辿り同じようにもう一度部屋を見てぐるりと観察している。
その時間およそ三分。残念な事に自分が探していたようなものを見つけることは叶わなかった。
落胆と諦めの混じった溜め息が自分の口から吐き出される。
「よしっ」
ぱんっと自分の頬を叩いて気持ちを切り替える。
次に考えるべきはどの道を進むのかだ。
「この階層がどういう形をしているのかすらわからない現状ではどの道を選んでも変わらないような気はしますけど」
そう前置きをしてイナミナのほうへと向き直る。
「どの道を選びますか?」
決め手に欠けるどころか判断材料は自身の直感以外は何もない。当然のことながら正誤の結果は何処でも良いが一度どれかの道を進んでみない限り分からない。
「何処と言われましても……」
突然俺に決断を委ねられて戸惑うイナミナは忙しなく顔を動かしている。
「別に何処でも良いんですよ。どの道を進んだってどこに繋がっているのかすら分からないんですから」
「だったらユウさんが決めてくださいよー。こういうのっていつも決められなくて長い時間悩んでしまうんです」
「良いんですか? 自分で決めた方が後悔しないと思いますけど」
「大丈夫です。後悔なんてしませんし、文句も言いません」
ある意味できっぱりとした決断を下したようなものだと思ってしまう。ただそれが、自分で決めるのではなく委ねてしまうというものではあったが。
「それなら――」
三つの道を見比べる。
どれも同じような道。暗く、先に何があるのかまったく分からない道だ。
「このまままっすぐ進みませんか」
引き返すことは論外。後は左右に曲がるか曲がらないか。
選んだ根拠などあるはずもない。強いて言うのなら直感だろう。
「わかりました!」
異議はないと伝える為か、それとも闇の中に入る自分を鼓舞するためなのか、大きな声で返事をしてイナミナは俺が選んだ前の道へと向かう。
先程の階段とは違いここでは一人で先行する意味などない。寧ろ突然の襲撃に備えるという意味ならば折角組んでいるパーティだ。二人並んで闇の中へと足を踏み出した。
「あっ」
俺かイナミナか。そのどちらかの足が直線の通路に踏み込んだ瞬間、それまでなかった緑色のスパークが前方を明るく照らした。
暗い闇に包まれた通路を照らす緑色の明かり。この光景に思い起こされたのは非常灯だけが目立っている夜の病院や学校の校舎。
まさに肝試しやどこぞの遊園地にあるお化け屋敷といった様相に俺は慌てて隣に並ぶイナミナの顔を見た。
「どうしました?」
「えっと、こういうのは平気ですか?」
きょとんとした顔をしてこちらを向いたイナミナに訊ねてみる。すると返ってきたのは穏やかな笑顔で、
「わたし蛇とかは苦手なんですけど、おばけとか怖いのは平気なんです」
「それはなにより」
「ユウさんは平気なんですか? ユーレイとか」
「ええ。俺も比較的大丈夫な方ですかね。第一ここで出てくるような幽霊は予めプログラミングされたものでしかないですし。それこそお化け屋敷と同じで人工的に作られているだけですから」
「それもそうですね」
きっぱりと言い切った俺に強く同意して頷くイナミナ。
「何より一番気掛かりだった暗闇もこうして明るくなったわけですし」
「緑色ですけどね」
「まあ、何も見えないよりはマシでしょう」
少なくとも完全な闇からの奇襲という危険だけは無くなった。
いつもと違う色合いもそういうものだと思えば慣れてくるかもしれない。
「とりあえずはこのまま突き当たるまで進んでみましょう」
「途中別れ道とか横道があった場合はどうするんです?」
イナミナの問いに思い起こされるのは先の第七層。横道に目もくれずまっすぐ目的地だけを目指していたせいで一度引き返してまた戻るという行程を辿ることとなってしまった。二の舞を踊ることを避けるのならば今回も横道は隈無く探索することがベストなのだろうが。
「うーん。とりあえずは行けるとこまで行ってみませんか? 一度戻ることになったとしてもそもそもからしてあと二つ道は残っていることですし。全部探索するというのなら少なくとも二回は戻ってくることになるんですから」
緑色の光で照らされた道を進む。
明るい壁を見れば無数のブロックが積まれてできているのがわかる。天然の洞窟ではなく人工の建造物であるかのよう。
コツコツコツと二人の足音が反響する。
念の為に警戒しつつ進んでいるが自分たちの足音を聞く限りモンスターの襲撃があれば真っ先に音で気付けるはず。
徐々に二人の歩く速度が上がっていく。
当初イナミナが言っていた通り、通過する道には横道がいくつも見受けられた。自分たちがまだ足を踏み入れていないからかその先は暗闇に包まれている。
目的地となる下の階層に続く階段がその先にあったとしてもそれまで以上に実際に自分たちの足で踏破しなければわからない仕様になっているみたいだ。
「あ、そろそろじゃないですか」
前方を指差してイナミナがいった。
緑色の明かりが横道と同じように途切れていて前方が闇に包まれている。つまりその闇から向こうが通路ではないということになる。
明るい通路と闇の狭間で足を止めて振り返る。一度通ってきた道は緑色の光に照らされたまま再度闇に閉ざされることはないというように遙か彼方も明るいまま。緑色の光に満ちた通路の途中に点在している横道や小部屋であろう場所が黒い絵の具で塗り潰されているかのように際立っていた。
「準備はいいですか?」
「ええ。大丈夫です。行きましょう」
イナミナに答えてタイミングを合わせて一歩踏み出す。
途端自分たちの周囲だけ緑色のスパークが迸りおよそ周囲三メートルほどを明るく照らした。
無言のまま歩を進める。
この部屋の広さが最初に第八層に降りたときの部屋と同じに見えたのは光が届く距離を広げたことでその全貌が明らかになったからだった。
「あれは何でしょう?」
階段かそれに続く道は見つけられなかった。それだけじゃない。次の部屋に続く通路がまたしても四方の壁にあった。
まさに最初の部屋と同じ形。
一つの形式をコピーして繋ぐことで作られた階層が思い浮かぶ。だとすれば問題なのはその数。さほど多くなければいいのだが、あまりに数が多いと頭の中で地図を描くことさえも難しくなってしまう。
「あの、ユウさん。ちょっとこっちに来て下さい」
呆然としている俺をいつの間にか部屋の離れた場所にいたイナミナが呼んだ。
「どうしました?」
呼ばれた方へと駆け寄るとイナミナが部屋の片隅にある物言わぬ置物を指差した。
「あれって、多分モンスターですよね」
「おそらくは」
それは気味の悪い石像。
鷲のような頭があり、背中には折り畳まれたコウモリの翼。体勢はまるで地面に座る様は猫か犬のようだが、その手足が異様に長い。本来は壁や地面と同じ石の灰色をしているのだろうそれもこの階層では緑色に染められている。
動かない石像をじっと見つめているとすぐにその名称が浮かび上がった。
「【ガーゴイル】」
自分の口から出たその名前は決して珍しいものではなかった。いや、大抵はその頭に何かしらの単語が付随するのだから、ある意味でそれだけという名称は珍しいのかもしれない。
石の瞳は何も映さない。
石の口は何も食べない。
けれども石の翼は確かにそれを空に誘い、石の体は本物の生物のように動く。
思わず腰の剣銃に手が伸びる。
いつモンスターが、目の前のガーゴイルが動かないとしれないからだ。
音を立てないように慎重に後ろに下がる。
今はこのモンスターと戦うべきではない。俺の直感が自分にそう告げていた。
強張った顔で突然後ずさった俺に疑問は浮かんだだろう。けれど声に出して問い質すのではなく無言で俺と同じように後ろに下がっていたことからもイナミナも漠然とした何かを感じていたみたいだった。
この場から、この部屋から出て行ってしまいたい。その為に使える通路は戻ための道も合わせると四つ。だが、ここから最も近いのは入ってきた道を左に曲がった方角にある通路。
選択肢が有るようで無い状況のなか俺たちは揃って最も近い通路へと入って行った。
これまでと同じ一度自分たちが足を踏み入れた場所は緑色の光が消えることなく明るく照らされたままとなっている。
明るい部屋を置き去りにして新たな通路を移動する。
「このくらいまで離れれば大丈夫ですよね」
ふと足を止めて振り返り、今や遙か彼方へとなっている部屋を見つめてイナミナがいった。
第八層のように小部屋で区切られている場所に出現するモンスターは大抵その小部屋から出てまでプレイヤーを追い駆けてくることはない。まるでその小部屋の中だけがそのモンスターの領域だと言わんばかりに。
「どうして戦闘を避けようとしたんですか?」
浮かぶ当然の疑問が投げかけられた。
ガーゴイルという名のモンスターとは実際に戦っていないのだからはっきりとしたことは言えないが、それも極大迷宮の道中に出没する普通の雑魚モンスターと変わらないはず。だというのに俺はそれと戦うことを避けた。逃げたと言われても否定のしようがない。これもまた自分の直感に従ったが故の行動だったが、今になってその理由を考えると浮かんでくるのはあのガーゴイルの姿。
「なんというか、勝てる勝てないの話じゃなくて、ただ不気味に見えたんです」
「不気味、ですか?」
「はい。戦うと良くないことが起こりそう…みたいな」
やはり確証のないことを話すのは苦手だ。
いつもは自分の直感を補強する要因を探して当て嵌めていくのだが、今回はそれをすることができない。俺はまだガーゴイルについても、この階層についても何も知らないのだから。
「そうだ!」
顔を伏せる俺を気遣ったのか、イナミナはふと足を止めてわざと明るく振る舞っている。
「今度は横道に行ってみませんか? この先に何があるのかを知るのも大事だと思うんです」
イナミナが立ち止まった場所の近くには闇によって塞がれた通路がある。今、自分たちが進んでいる通路がメインの通りなのだとしたらそれはまさに横道と言える。
「もしこの先にもガーゴイルが居たら全力で引き返せばいいんです」
余程不安そうな顔をしていたのだろか。イナミナは俺に予め退路を示してきた。
「そうですね。行ってみましょうか」
ここで嫌だというのも違う。イナミナの気遣いを受け入れて二人は横道の闇を切り裂くように歩を進めた。
道幅はメインの通りと差は無い。ただし行き当たりに到着するのはこちらの方が幾分も早かった。
通路を抜けて部屋に出る。
案の定というべきか、部屋の中には一体のガーゴイルが鎮座していた。
「引き返しましょう」
ガーゴイルが向いている方角は先程とは違う。この部屋にいるガーゴイルは自分たちが入ってきた方角からすれば背中を向けているのだった。
折り畳まれたコウモリの翼は前からも確認できた。けれど後ろから見たことで初めて判明したこともある。細い牛の尾みたいな尻尾が片方の足と同化したような形で存在していたことだ。
ガーゴイルが襲ってくる前にと来た道を引き返す。
今回は小部屋の中程まで入っていないために小部屋は半分は暗く闇に包まれたままとなっている。
メインの通路に戻り、今度は横道に逸れることなくまっすぐ進む。
次に行き着いたのは四方に道がある部屋。三度同じ構造の部屋に辿り着きながら俺は頭の中の地図にこれまでの道を繋いだ。
「どこかに階段があるのは間違いないと思います」
幸いにもガーゴイルがいないために安心して部屋の探索を行いながら近くのイナミナに向けていった。
「それはそうでしょうけど」
「俺が気になったのはこのまま一方向に進んだとしてどこに行き着くか、です」
「いつかは必ずガーゴイルがいる場所に行き着きます」
「その時に戦闘を避けるかどうかなんですが」
「ユウさんは避けるべきだと思っているんですよね」
「というよりも戦いたくないような。まあ、そうも言っていられなくなった戦うんですけど」
一度避けたという事実があるために今更戦闘に前のめりなったとしてもどうなんだろうという気持ちが無いわけでもなかったが、ここまできたら覚悟が決まったとでも思ってくれればいい。
「右に曲がり続けるとどこに出るんでしょうか」
「さぁ」
まっすぐも右折も行くとこまで行けば突き当たりになるはず。全ての部屋を見て回ればいつかは見つけられる。しかしそれがこの階層の攻略法だとは思えなかった。
「もしかすると正しい順路を通ることがこの階層の攻略法なのかも」
曖昧な返答を受けて考え込んでしまっていたイナミナがポツリと呟いた。
「なるほど。だから同じような部屋が続いているのか」
確証を得るにはまだ検証の回数が足りない。けれど極大迷宮の攻略法としては、仕組まれたギミックの解き方としては間違っていないような気がした。
「正しい道を選ぶヒントは……」
数少ないとはいえこれまでに通過してきた通路と部屋のことを思い出す。
大きく違うこととしてはガーゴイルがいる部屋といない部屋。その違いの意味は。
「あっ」
「何か解ったんですか?」
思わずといった感じで声を発したイナミナに聞き返す。
「二つに一つなんですけど」
「はぁ」
「まずはガーゴイルがいない部屋を通るのが正解だという可能性。この場合だと次に進む道はどれを選べば良いのか分からないことになります」
「そうですね。もし全部が正解に繋がっているのなら良いんですけど、そうではないのだとしたら」
「だからこそもう一つのパターンです。つまりガーゴイルがいる部屋を通ることが正解」
イナミナの推測は的を射ているように思えた。
けれどまだ足りていない。
「その場合でもどの道に進めばいいのかはわからないんじゃないですか?」
「ここで大事になってくるのはガーゴイルが向いている方向です。最初にわたしたちがガーゴイルのいる部屋に到達した時、ガーゴイルはまっすぐこちらを向いていました。けれど二体目のガーゴイルは背中を向けていた」
「ここでも二択です。ガーゴイルが見つめる先に進むのか、あるいは」
「わたしはガーゴイルが見ていない方角に進むべきだと思います」
「その理由は?」
「あのガーゴイルが鷲の頭をしているからです。鳥の視界は広いことで有名ですけど、その視界は前方と左右に広がっています」
「つまり四つの方角でガーゴイルが捉えられていない方角は一つだけ。四分の三と四分の一ですか」
正解の道が一つなのだとしたら該当するパターンは後者となる。
「あ、その、当たっているかは分からないんですけど」
ここまで説明して最後に自信を無くすイナミナに俺は笑みを向けた。
「イナミナさんの考え当たっていると思いますよ」
ガーゴイルがいない部屋はハズレで目指すべきなのはガーゴイルがいる部屋。
通路を抜けたさきでガーゴイルいないのだとしたら一度横道に逸れて別の道を進めばいい。
頭の中で描いていたこの階層の地図が異なる形に変化した。
イメージするのは“あみだくじ”。正しい順路を辿ることでゴールに到着するあれだ。
出発点は第七層から降りてきた部屋。そこからスタートさせるとして次に目指すのはガーゴイルがいる部屋となる。
取るべき作戦は決まった。
一度最初の部屋に戻ってから再度仕切り直す。
ガーゴイルがいる部屋に行き着いたのだから奇しくも最初に選んだ道は正解だったと思う。
戻り進んで一度目のガーゴイルがいる部屋に到着するとその背中側にある通路へと息を殺して向かった。
暗い道に明かりが灯る。
そのまままっすぐ進むとやはりガーゴイルがいない部屋に辿り着いていた。
「ここに来るまでの通路にあった横道に入ってみましょう」
またしても少し戻ってすぐに曲がる。
通路を照らしている光が自分たちの軌跡を残しているために、何度も同じ道を通ることもなさそうだ。
暫く進んでいると部屋に出て、今度はガーゴイルが自分たちを待ち受けていた。
動かないガーゴイルとの戦闘にはならないように最新の注意を払いながらその背後にある通路に入る。この道を真っ直ぐ進むと今度は連続してガーゴイルがいる部屋に辿り着いた。
三度ガーゴイルの背中側の通路を選ぶ。
同じ事を繰り返すこと十数回。
目撃したガーゴイルは七体にも及ぶ。
そうして自分たちが最後に行き着いた部屋では四体のガーゴイルが背中合わせに全ての通路に顔を向けていた。
「これは…」
間違った部屋に入ってしまったのだろうかと不安が過ぎったその瞬間、初めてピシっと何かに亀裂のようなものが走った音がした。
音は徐々に間隔を縮め、大きくなっていく。
「上だ!」
音を警戒して動かなかったイナミナをぐっと引き寄せる。
刹那巨大な塊が四体のガーゴイルを押し潰した。
巻き上がる砂煙。
耳を劈く轟音。
目を細めて見つめる先では砕かれたガーゴイルの体が大小様々な石の塊となって地面に散らばっていた。
「あれは…」
砂煙が立ち込める中で巨大な影が動く。
それはたった今砕かれたガーゴイルを何倍も大きくしたような見た目をしている。
【ガルゴイフ】
ガーゴイルという名を少し捩った名前。大きさを除いて見た目で異なるのはその頭部。ガーゴイルが鷲であるのならば、ガルゴイフは人。まさに人頭の悪魔といった出で立ちに俺は無意識に剣銃を引き抜いていた。
「こいつがこの階層の階段を死守しているボスモンスターですね」
細剣を鞘から抜き放ち、凜とした表情になったイナミナがいう。
「さっさと倒して次の階層に向かいましょう」
「了解!」
戦う覚悟を決めたイナミナに応えて俺たちは砂煙のなかからその全貌を露わにしたガルゴイフに向かっていった。
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レベル【7】ランク【4】
HP【B】
MP【C】
攻撃力【D】
防御力【F】
魔攻力【E】
魔防力【F】
速度 【C】
専用武器
剣銃
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭防具――【イヴァターレ・H】
胴防具――【イヴァターレ・B】
腕防具――【イヴァターレ・A】
脚防具――【イヴァターレ・L】
足防具――【イヴァターレ・S】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【6/10】
↳【生命の指輪】
↳【精神のお守り】
↳【攻撃の腕輪】
↳【魔攻の腕輪】
↳【魔防の腕輪】
↳【速度の腕輪】
↳【変化の指輪】
↳【隠匿の指輪】
↳【変化のピアス】
↳【―】
所持スキル
≪剣銃≫【Lv132】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――“威力”、“攻撃範囲”が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――“威力”、“射程”、“弾速”、が強化された砲撃を放つ。
↳<インパクトノーツ>――次に発動する全てのアーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv20】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――“威力”を高めた打撃を放つ。
≪錬成強化≫【Lv110】――武器を錬成強化することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に生命力が回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に精神力が回復する。
≪状態異常無効≫【Lv―】――状態異常にならない。(特定の状態異常を除く)
≪全能力強化≫【Lv100】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【7】
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