円卓の生存者篇 21『終演』
戦闘が終わったりおよそ一分後、俺たちはまたしても洋館の一室にいた。
探索しきったと考えていた洋館にまだ足を踏み入れたことが無かった部屋があったことに驚きつつも室内をぐるりと見回してみるとまるで立食パーティーの会場みたいにいくつもの円いテーブルが並べられている。それでいてテーブルの上には料理の類は一切置かれてはおらず、汚れ一つ付いていないテーブルクロスが見える。左側の壁にはどこかの風景を描いた絵がでかでかと掛けられているものの、この部屋に置かれている調度品は他に見当たらない。大きな窓から差し込む光によって部屋は明るく照らされて足元の真紅の絨毯に微かにある絵柄まで確認することができた。
部屋の内装や家具なんかよりも目を惹いた一つの事実。それはこの部屋には脱落した人も全員揃っていたこと。
自分は最後まで生存していたから知らなかったことだが、脱落した人は皆別の空間に転移していてそこで今回のゲームの成り行きを観戦していたらしい。さながらスポーツ観戦ようだったと親しげに話しかけられて時には戸惑ったものだ。話に出たなかでそれはいいのかと首を傾げずにはいられなかったのは勝敗で賭けのようなものをしていたこと。そもそもからして別の空間ではそれぞれに与えられた役割と“裏切り者”の正体が報知されていて、ある意味で答え合わせのようなことができたのだという。
脱落しても楽しめるようになっていたことに感心しつつ、ふと観戦に回るのも面白かったかもしれないとも思ったのは秘密だ。
必然に少数派となってしまう“裏切り者”陣営もランダムで選ばれているからか、あまり遺恨が残らなかったのだと「お疲れさま」と話しかけてきたイグルーが教えてくれた。
勝敗が決まったこと、そして参加者全員が集まったことで一斉に報酬が配られた。
送られて来たのは【スキルポイント“3”】と【完全回復薬】の二つ。確認したところこのゲームが初めての参加者も熟練のプレイヤーも一様に同じ物が配られたことからもこれは賞品などではなくあくまでも参加賞みたいなものなのだろう。
ちなみにゲーム中に有効にしなければ使えなかったスキルはこの時点で全て元の状態へと戻っており、ゲーム中に習得して且つ元々習得していなかったスキルは綺麗さっぱりなくなっていたが、再度同じスキルを習得するときには今回上昇させたスキルレベルからスタートすることができるようになっているらしい。
そこから暫くの間、感想を交えながら談笑して解散することになった。
「で、これが君の報告書という名の感想文か?」
至極面白いものを見たというような顔をして高坏円がわざわざプリントアウトした数枚の紙を合わせた冊子をひらひらと見せ付けてくる。
「何か問題がありますか? 今回の仕事はテストプレイなんですからこれくらいで十分だと思いますけど。あ、まあ、先方に送る報告書はもう少しまともに書いていますけど」
「だったらそれを見せなさいよ」
「イヤです」
「なんでよ!?」
声を荒らげて立ち上がった円を軽くいなしながら反対に近くのソファに腰掛ける。
先に円に伝えた通りゲームを終えて書き上げた報告書は二つ。一つは依頼主に転送したちゃんとした書式と文章で書かれたもの。もう一つが円に渡した出来の悪い読書感想文のようなもの。一応必要な情報は記したつもりだが、完成した文章を自分で見た時には随分とふざけたものができたと感心したものだ。
狙い通りに不満そうな顔をしている円に俺は感じていた苛立ちがすうっと消えていくのを感じた。
「ってか、なんであんなことしていたんですか?」
何と言っても一仕事を終えて事務所に戻ってきた俺を待っていたのは奇妙な匂いを放っている正体不明な液体が並々と注がれたコーヒーカップを持っている円だった。しかも言うに事欠いて有無を言わさずに「飲め」の一言。加えて全力で拒否しても駄目だと視線が訴えてくるではないか。即座に逃げだそうとした矢先に求められたのが件の報告書。そして無言のまま自分の前に置かれたコーヒーカップ。
テーブルの上で湯気を放ち異臭を放ってくるそれを見てなければ半分以上冗談で作った報告書ではなく本来の報告書を渡していたはずだ。
「最近の趣味だ」
「これ、コーヒーですよね。どうせ淹れてくれるなら普通に淹れてくださいよ。何ですかこの謎物体」
「謎物体とは失礼だな。未知の味の探求とは中々にして心躍るものなのだぞ」
「自分で飲んでくださいよ」
「一人で飲んでは味気ないではないか」
「だったらせめて美味いものを作ってください!」
「飲んでもいないのに何故美味くないと言えるんだ?」
「この見た目ですよ!」
語気を強めてテーブルの上のそれを指す。
「まず色! コーヒーってのは普通黒ですよ。ミルクを入れれば薄い茶色にもなりますけど、これは紫! しかも変な渦をができてるじゃないですか。一体何を混ぜたんです?」
「それはだな…」
「あ、いいです。知りたくないです。普通の材料だったとしても変なトラウマが芽生えそうですから」
ガサゴソと机の下の引き出しを漁る円を止めて必死に自分の意識をコーヒーカップから逸らした。
「で、とりあえず仕事は完了で良いんですよね」
「言いたいことは色々とあるが、そうだな。問題なく終了したと言えるだろう」
机の上の端末を操作してそう答えると円は自分用に淹れてあるカップを手に取り躊躇なく口を付けた。
「うげっ」
「ふむ。中々衝撃的な味だな」
「飲めるのか…それ……」
「当たり前だろう」
心底心外だというような顔で答える円を目の当たりにしつつも同じように目の前のカップに口を付ける気にはなれなかった。
「さて。話は変わるが、悠斗に新しい仕事だ」
「え、もう!?」
「いいか悠斗。仕事は毎日するのが当たり前だぞ」
「そんなこと言っても、事務所に仕事が途切れない方が珍しいじゃないですか」
「そうだとも。仕事があるのは良い事だ」
「ですね」
綺麗な笑みを浮かべて断言する円。
特に異議を唱えるつもりもない俺は微笑む彼女を見て微かに頷いていた。
「で、どんな仕事なんです?」
「まずはこれを見てくれ」
棚の上に置かれているプリンター動き始めた。
印刷されて出てきた紙に視線を落とす。そこに記されていたのは次の仕事の情報などではなく【ARMS・ONLINE】の次のアップデート情報だった。
何気なく書類に目を通して行くと途中で慌てて裏返しにする。
「これ、部外秘ってなってますけど」
「当然だ。発表前の情報だからな」
「なっ……んで、そんなものがここにあるんです?」
「そんな怪訝そうな顔をするな。次の仕事に関係するからに決まっているだろう」
またしてもプリンターが動き、吐き出された一枚の紙を見てさらに怪訝な顔になった。
「こっちも部外秘じゃないですか!」
「いいから黙って読め」
自分が口にした言葉は即座に流されてしまう。
釈然としないままに書類に目を通す。部外秘と印字された書類だから抵抗感が拭えなかったとはいえ読む必要があるのならば仕方ない。決して自分が気になっているから大義名分を得て意気揚々と見ているのではない。
心の中で言い訳にも似た呟きをしつつ先程中断したところからもう一度書類に目を通すことにした。
まずアップデートが行われるのは二ヶ月後。思い起こされるのは少し前にアップデートがあるという告知とぼんやりとした内容の発表が行われていたが、ここに記されているのはそれ以上の詳細な情報、新しく追加されるエリア、追加される装備関連などなど。
それよりも何よりも驚いてしまったのは自身の能力値表記が変わること。なんでも今の数字の表記からざっくりとしたアルファベット表示に変わるということだ。
「へぇ。これは先に発表されるのか」
発表のスケジュールを見て独り言ちる俺を見て円が例のカップにもう一度口を付けていた。
予定されている発表の日時が記されている。それは今から一週間後。アップデートの期日よりも一ヶ月以上先に報知されることになるらしい。合わせて既存スキルの調整が行われる。円に見るように促された書類にはそのスキルに関することは何もなかった。どうせならばこっちも知りたかったと思わずにはいられなかったが、部外秘の情報のなかでも見て良いもの悪いものの区別がなされているのだろう。
一枚目の書類にあったのはあくまでもアップデートに関するものだけ。十分に興味を引かれる内容だったとはいえ、これだけではまだ円の目的が、次の仕事にどのように関わってくるのかが解らない。
「仕事に直接関係するのはこっちってわけね」
二枚目を上にして視線を落とす。
そこにあったのはとある企画の概要。
仕事として関わることになるのならば、部外秘の情報よりもこちらのほうが幾分か理解できる。
「読んだか?」
無言で何度も何度も繰り返し書類を読み込んでいく。
「読んだな」
問い掛けてくる円には答えず書類を見つめ続ける。
「では、準備を始めるとしようじゃないか」
円が軽やかな声でニコニコと柔和な笑みを向けてきた。
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レベル【24】ランク【3】
HP【10140】(+320)
MP【9050】(+770)
ATK【296】(+1810)
DEF【258】(+1880)
INT【282】(+900)
MND【209】(+1110)
AGI【336】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【4】
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