円卓の生存者篇 20『サードセクション―⑨―』
場所を変えたことで本領を発揮するタビーの攻撃は先程までに比べてさらに文字通りの自由自在という言葉が相応しいものになっていた。
基本はその手に持たれている短剣の攻撃。しかしそれに付随して、あるいはそれを補うようにして振るわれる翼の斬撃が厄介なことこの上ない。一回の攻撃で一度ならぬ二度、三度の斬撃が迫ってくるのだから。
短剣の攻撃だけならばガンブレイズで容易に払うことができる。しかし殆ど間を開けず繰り出される翼の攻撃には切り返したガンブレイズだけでは間に合わない。ガントレットを構えて発生させた【フォースシールド】で身を守ることはできるが、それでは反撃に移ることができない。
「だとしてもっ!?」
ガンガンッと襲い来る衝撃を堪える。短剣に続いて二連続で斬り付けられる翼の斬撃を全て防御できた。しかし問題なのはそこからまた間髪開けずに繰り出される短剣の攻撃だ。当然のように短剣の攻撃の後には翼の攻撃が待っている。
総じて防戦から抜け出すことができないまま延々と攻撃を受け続けるしかなかった。
「やあっ」
甲羅に立て籠もっている亀のように身を守っている俺を救ったのはラーザが繰り出す槍の一撃。彼女の狙いは短剣と両の翼が全て俺に向けられている一瞬の隙。しかも翼を広げているせいで若干ながらも見通しが悪い後方から繰り出される比較的安全で効果的な刺突。
「うそおっ!?」
これならば状況が一変するとした俺の予測は容易く裏切られる。素早く折り畳まれた翼が盾となって槍を受け止めた次の瞬間にもう一度広げられたことで槍ごとラーザが押し返えされてしまったのだ。
「拙いっ」
想定外の反撃を受けて体勢を崩してしまったラーザをその場で回転して向きを変えたタビーが狙う。
「させるかよっ」
身を守る体勢を貫いていた俺が素早くラーザの前に立ち塞がるとタビーがニヤリと笑みを浮かべて、
「そう来ると思ってましたよ」
「しまっ――」
自身に向けられた言葉に俺は自分が誘い出されたことを察した。
俺が身構えるよりも早くタビーの翼の斬撃が襲う。
意外なのがより扱いやすいはずの短剣よりも背中にある大きな翼の方が動きが速かったこと。加えて先程までの攻防の時よりも翼を用いた攻撃の速度が上がっている。慣れているのではなく慣れされている速度を悠々と超える攻撃を前にしてはダメージを完全に防ぎきることは不可能に近い。
身を守るために発生させた【フォースシールド】を超えて小さな傷が自分の身体に刻まれていく。
視界に映る自身のHPゲージが減っていく様を見て俺はガンブレイズを銃形態に変えて狙いを付けずただ前に銃口を向けて引き金を引いた。
「おっと」
翼を広げた格好で後ろに飛んで放たれた光弾を避けたタビーは一度攻撃の手を止める。なおも引き金を引き続けて攻撃を止めない俺の後ろでラーザが立ち上がり槍を構えた。
「やはりその銃撃は鬱陶しいですね」
撃ち出された光弾を全て翼で防ぐことで平然としているタビーは折り畳まれた翼の奥で攻撃の機会を窺っているようだ。
「効果が無いってことかよ。硬すぎるだろ」
聞こえないように呟いた悪態だったが、俺の後ろにいるラーザには聞こえていたのだろう。苦笑交じりに、
「まったくね」
などと言って槍の穂先を低く構えてタビーと同様に攻撃のチャンスを探っていた。
「そろそろ満足しましたか?」
翼で身体を覆い身を守っているタビーは嘲笑するように問い掛けながら、しっかりとした足取りで撃ち続けている俺の方へと近付いてきた。
「もう少しダメージを受けてくれれば言うことないんだけどな」
「あなたの攻撃の威力が低いのではないですか?」
「言ってくれるね」
「この防御を貫けばダメージを受けるかもしれませんよ。例えばアーツを使ったりして、ね」
一度使えばそれなりの時間再使用できなるアーツを無闇矢鱈と発動するわけにはいかない。使うように誘われているのならば尚更だ。
しかし現状を打破する手段が見出せていないのもまた事実。これでは誘いだと解っていてもそれに乗らざるを得なくなってしまう。
「どうする……?」
一歩一歩着実な足取りで近付いてくるタビーを前に思わず後ずさりしてしまいそうになる。
下がりかけた右脚を止めたのは後ろにいるラーザの存在。これ以上は下がってはならないという直感が働きほぼ無意識のうちに俺の足を止めてくれていた。
「下がれないのなら…」
「前に出るだけよっ」
覚悟を決めた俺よりも一瞬早くラーザが飛び出した。
「速いって」
慌てて引き金を引く指を止める。
弾丸の嵐が止んだことでタビーもまた折り畳まれていた翼を広げた。
無意味な射撃が続いていただけで中断していたようなものの戦闘が再開する。
初撃はリーチに優れたラーザの槍。
突進の加速を利用した鋭い突きだ。
狙いも軌道も素直な一撃。タビーにとってはそれを避けることも防御することも容易いだろうが、ここで選んだのは敢えての防御。それはラーザの身体を未だ銃口を向けている俺に対する盾として使う狙いがあると想像することができた。
「だからこそ使う意味がある! <カノン>!!」
射撃アーツによって放たれた光線がラーザの小脇をすり抜けてタビーに命中する。
「なにっ!?」
折り畳み盾として使おうとしていた片翼が半ばほどで貫かれたことにより千切れ飛んで宙を舞う。
「余所見をしていていいの?」
「くっ」
片翼を失ったことは即ち盾を失ったも同然。使おうとしていた防御手段を失ったタビーは咄嗟に短剣で突き出された槍を受け止めた。
「やっぱりいざという時は手の方が出るみたいね」
ギリギリと押し合いを繰り広げながらラーザが口元を歪めていった。
「そうみたいですね。ですが、まだもう片方の翼が――」
残っている、と言いたかったのだろう。しかしその言葉は目の前に飛び込んできた人影によって中断されていた。
射撃アーツを使用した直後、ガンブレイズを剣形態に変えて先んじて突撃を掛けたラーザの影に隠れるように身を屈めて駆け出していたのだ。そして急停止してすかさずに突きを放った瞬間に彼女の後ろから
飛び出してから一拍の間を置いて強く地面を蹴ってジャンプする。
敢えて無事な翼がある方へと着地した瞬間にガンブレイズの刀身を寝かして振り返り様に斬り付ける。
水平に軌道を描く刃がタビーの翼を切り裂いた。
どうやら盾のように構えない限り強固な防御力は発揮されないらしい。思えば攻撃する直前に射貫かれた時もそれまででは考えられないくらいにいとも容易く綺麗に千切れ飛んでいた。詰まるところ攻撃の時には鋭く。防御の時には硬くなる変化する強度を有している翼であったということだろう。
両翼とも半分ほどとなり攻撃手段及び防御手段が半減したタビーはガンブレイズを振り抜いた俺を睨んできた。
「言われた通りにアーツを使ったぞ」
意趣返しをするように言い放ち笑みを浮かべる。
「……っ!?」
激高することは無くも静かに怒りを滲ませるタビーが乱暴に短剣の刀身を滑らしてラーザへと接近を図った。
「それなら先に致命傷を与えれば良いだけです」
あくまでも余裕があるように告げ、短剣の刃をラーザの喉元へと突き立てる。
長いリーチを持つ槍では相手に近付かれすぎると途端に取り回しが難しくなる。が、それは槍という武器を選んで使う以上はラーザも重々承知のはずで、実際に手の中で槍の柄を滑らして短く持つとすかさず迫る短剣と下から上へと打ち上げていた。
不意に軌道が変えられた短剣の切っ先がラーザの鼻先を掠める。
目の前を通過する短剣の刃に怯むことなく目を開くラーザは目の前に立つタビーを見つめてる。
「残念でした」
どうしてだ、とタビーの脳裏には無数の疑問符が浮かんでいることだろう。先程までは自分が圧倒的に有利に進んでいたはずだ。なのにどうして自分の翼が両方とも破壊されて、こうして自分の距離で攻撃したはずなのに簡単に防がれてしまっている。特別変わったことをされているわけじゃない。そもそも二人が何かしらのアーツを発動させた気配はない。
だからこそ解らないと表情を崩さないながらもタビーは延々と自問自答を繰り返している。
「俺も居ることを忘れるなよ」
短剣を素早く引いて再度刺そうと構えるタビーの後ろで俺は敢えて声を掛けてから攻撃を仕掛けた。
無言で斬り付ければダメージを与えることは容易かっただろう。ここで声を掛けたのはラーザの安全性を高める為だ。
振り返り真横に振り抜かれた短剣は空を切る。
「あら、わたしから目を離していいのかしら?」
「くっ」
手を出さずに飛び退いた俺の視線の先のラーザは槍を持ち直して更なる突きを放つ直前だった。
またしても振り返ったタビーはすかさずに短剣を振るう。
が、俺が使うガンブレイズよりもリーチに優れる槍が相手では短い刀身が届くはずもない。誰もいない場所を切り裂いただけで終わった攻撃の後にラーザは何やら呟きながら槍を突き出した。
穂先だけではなく槍自体がラーザの手の中で猛回転して突きの威力を高めている。それがアーツだと解るのは螺旋を描く槍の穂先に仄かに赤い光が宿っていることが見て取れたからだ。
アーツが命中しては大ダメージとなると避けるべく飛び退いたタビーを槍を両手で掴み攻めるラーザが軌道を変えて追い駆ける。
追撃とは違うが、文字通りタビーを追い駆ける突きが遂にその身体を捉えた。
ガリガリと変化したタビーの身体をアーツの突きが削っていく。
みるみるうちにHPゲージが減少するが、それでも倒しきるまでには至らないのはやはり変身によって通常ではあり得ないくらいの防御力を獲得しているからだろう。
「<アクセルブースト>」
声を低くアーツ名を宣言する。
ガンブレイズの刀身に赤黒い光が宿り、光の余波が閃光となって迸った。
俺が攻撃の準備に入ったことを察知したタビーがやや強引にラーザの槍を掴み、指先や掌がズタズタになろうとも構わずに無理矢理攻撃を止めてみせた。
「<陽炎>」
今度ははっきりと聞こえる声でラーザが告げる。すると掴まれている槍が歪みタビーの手から掻き消えていた。
「<二段突き>!」
穂先が歪む槍を引いて間髪開けずに突き出した。
まだ<陽炎>の効果が残っているようでラーザが構える槍の穂先は二重にブレて見える。本来二度の連続突きのアーツが<陽炎>を併用することで蓮撃ではなく一撃が二重になった突きを放つ技へと変化しているみたいだ。
短剣では防ぎきれないと割り切ったのか、変化した腕を体の前で交差させて身を守る。
太く厚くなった左腕に二つの刺突痕がくっきりと刻まれた。
アーツによる刺突の衝撃を受けて大きく跳ね上がる左腕。力なく開かれた左手には何も握られてはいない。
「思った通り耐え切れました」
器用に手の中で回して切っ先をラーザに向けてた短剣が彼女の胸元に迫る。
「これで終わりです!」
二人を同時に倒す必要がなく、一人でも倒せば勝利を手にできるのだからとタビーが狙っていたのは終始ラーザ一人だったらしい。それは二人の実力を見抜いたからなどではなく、イグルーとの戦闘でより多くHPを減らしていた方を狙っただけに過ぎない。
「いや、終わらさねーよ」
積極的に倒す対象ではないが、無視するわけにはいかない存在であっただろう俺がそう言った瞬間に微かではあるがタビーの視線がこちらを向いた。
しかしその手は止まらない。止める必要がないから当然だ。だからこそ外的要因で止める必要がある。
左手を開いてタビーに向ける。ガントレットから放たれた【アンカーショット】がタビーの手に巻き付いてギリギリのところで動きを止めた。
「ラーザさん。下がって!」
「ええ!」
声を聞いて素早く短剣の攻撃範囲から逃れる。
微かながらも短剣の切っ先が触れてしまっていたようで、ラーザのHPは危険域寸前の所まで減らされてしまっていた。
「いいか? 今回勝つのは俺たちの方だ。<セイヴァー>!!」
白く光る刀身に赤黒い閃光がスパークする。
【アンカーショット】で繋がったタビーを引き寄せて一歩強く踏み込む。
「く、そおおおおおおおおおおおおおお」
為す術も無く引き寄せられるタビーが忌々しげに絶叫を上げる。
居合い抜きのように繰り出される斬撃がタビーを切り裂き、彼のHPゲージが一瞬にして砕け散った。
そして、勝者が決まった。
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レベル【24】ランク【3】
HP【10140】(+320)
MP【9050】(+770)
ATK【296】(+1810)
DEF【258】(+1880)
INT【282】(+900)
MND【209】(+1110)
AGI【336】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【1】
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