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円卓の生存者篇 19『サードセクション―⑧―』


 異形と化したタビーとの戦いの舞台としてはこの部屋は狭い。

 イグルーと戦っていた時にも微かに感じていたことだが、この場にある本棚やいくつもの台座が遮蔽物として有効となる場面が全くなかったかと問われれば否と答えるとはいえ、やはり動き回るには邪魔でしかなかった。

 そう強く感じるようになったのは変身したタビーが振るう腕や短剣の一撃が身を隠している棚までも軽々と破壊してしまったから。


「っても、あの翼で飛べるのだとしたら屋外に出ることは論外、か」


 自身の考えを口に出しつつ攻撃を避けながら反撃を試みる。

 変身直後は広げられていた翼も今では折り畳まれていてタビーの動きの邪魔にならないように小さくなっている。その翼が背中を守る盾も同然となり高い防御力がある可能性を早い時点で見極められたのはタビーが背後からの攻撃にあまり注意を払っているように見受けられなかったこと。そして一瞬の隙を突いた後ろからの攻撃が直撃したにもかかわらず警戒を促すほどのダメージを与えられていないことが理由だった。

 いまのタビーを相手にするには遠距離攻撃は牽制以上の効果は期待できないことは確実。そう直感してからはずっとガンブレイズを剣形態で固定して戦うことにしていた。


「はあっ!」


 イグルーとの戦闘で受けたダメージが残ったままほぼ無傷なタビーと戦う。それがどれほど困難なことかは戦っている自分が一番よく理解している。

 優勢と劣勢の天秤がどちらかに大きく傾くこともなく、なかば均衡した状態が続く。

 変身によって肉体が一回り以上大きくなったタビーが使う短剣はまるで別物であるとさえ感じられるほどシンプルな刀身から大きな鉱物から切り出したかのようなものに変化していた。それこそ時代が退行して石器時代の代物であるかのよう。

 材質の異なる刃がぶつかり合う。

 純粋な筋力は変身したタビーの方が上。一瞬激突した時には均衡しているとはいえ、それは長く続かない。すぐに自分の方が押し返されてしまう。ここで押し合いを続けていたとしても結果は明らか。敢えて飛ばされる勢いに身を任せて後方へと飛ぶと、自分と入れ替わるように槍を構えたラーザが前に出た。

 先程の戦闘で受けたダメージは自分よりもラーザの方が多い。一度や二度攻撃を受けたくらいですぐに戦闘不能に追い込まれることはなさそうだが、如何せん不利なことには変わらない。反撃を最大限警戒していることで攻めきれずに居ることもまたラーザが自らが優勢にすることができないことの要因だった。


「どうやら一人じゃだめみたいだ。二人で合わせましょう!」

「りょうかいです」


 入れ替わり行う攻撃では届かないと早々に切り替えて戦法を変える。

 声に出して示し合わせたのだから当然声を聞いているタビーにも伝わっていることだろう。動きを変えて攻撃を仕掛けた俺たちにタビーはしっかりと合わせてきた。


「相談するのならもっと解らないようにしなきゃだめですよ」


 一連の攻防が途切れて生まれた幕間にて満面の笑みを浮かべて二人の攻撃を防いだタビーが告げる。

 人のシルエットながら大鷲の頭で浮かべる笑顔というのは些か不気味に感じる。戦慄とは異なる感覚でゾッとしながらも一定の距離を保ってガンブレイズの切っ先を向けた。


「問題ないさ。アンタに聞かせるためだからさ」

「理由は?」

「そうだな。例えばここからアンタを逃がさないため、とか?」

「あり得ませんね。前提条件が間違っています。二人の内どちらか一人でも倒せばこちらの勝利になるというのに、わざわざ逃げ出すわけがないでしょう」


 口元を歪めて俺とラーザを嘲笑するように言葉を紡ぐタビーに強い敵意を込めた視線を向ける。それと同時に不思議に思う。何故システムによってランダムに敵と味方に分けられただけだというのにこうも思考が自分たちと異なっていくというのだろうか。与えられた役割を演じていると言えばそれまでだが、役割がここまで精神に関与するなど。


「どうしました?」


 じっと見つめたまま無言でいる俺に小首を傾けながらタビーが訊ねてくる。


「なんでも。堂に入った悪役っぷりだと思っただけさ」


 軽口で返すと意外なことにタビーは一瞬キョトンとした顔になった。そしてこれまでの雰囲気を一変させると大口を開けて豪快に笑い声を上げている。

 一頻り笑った後、ふと真剣な表情に変わり問い掛ける。


「悪役、ですか。どうしてそう思ったのですか?」

「ただの勘だと言ったら信じるか?」

「どうでしょうね」


 お世辞にも敵意を漲らせて対峙している二人の会話とは思えないほど和やかなものだ。


「それなら、アンタが根っからの性悪だとは思えなかったからって理由はどうだ?」

「つまりこの振る舞いは演技だと」

「違うのか?」

「どうでしょうね。仮にこれが演技だとするのならば、そう感じさせないのがベストだと思うのですが」

「そうだな。それでこそだろうな」

「でしょう」


 一呼吸おいてタビーが纏う空気が変わる。正確には対峙していた頃に戻ったというべきか。先程自分が口にした通り“悪役”という言葉が相応しい振る舞いだったように思える。

 仮にタビーが“裏切り者”に選ばれていなければこのような立ち居振る舞いはしなかったことだろう。そして仮に自分が“裏切り者”に選ばれていたのならば、そして佳境を向かえたのならば、それこそ目の前のタビーのように敢えて敵役を演じたかもしれない。

 思えばイグルーも似たような感じだったのだろう。あの立ち居振る舞いが純粋に自らの勝利に向かっていただけということならば。


「つまり貴方の推察は外れたということでは」

「どうかな。完全にハズレたとは思えないんだけど」

「何故です?」

「アンタがそう振る舞うことで得られるものもあるだろ」

「例えば?」

「そうだな。真っ先に思い当たるのは心置きなく戦える状況」

「へえ」

「いかなる役割を与えられたとしても実際に手を下すのは自分自身。ゲームだから、そういうルールだからと自分を誤魔化す理由付けはいくらとあったとしても、人知れず他の参加者を手を掛けることには心理的な弊害があるのだろう。襲われたから反撃したというのはそれを減らすにはいい言い訳だと思わないか」


 冷静になって慮ればそれは然もありなんという理由だと理解できる。


「無言は肯定だと判断するぞ」


 勝手に断じた俺にタビーは無言のまま肩を竦めるアクションで答えた。

 誰もが本気で戦いながら、誰一人として本気で敵対しているわけではない。

 気付けば頭の中からタビーに対する敵意が綺麗さっぱりなくなり、代わりに漲ってきたのは純粋な戦意。二人の会話を聞いていたラーザもその目からタビーに向けられていた敵愾心が消えていた。

 切っ先が下がっていないのは警戒心が消えていないからだ。自分の推測が当たっていてだいたいの事情を知ることになったとしても戦うことには変わらない。


「正直もう少しくらいははっきりとした敵意を向けていて貰いたかったのですけどね」


 苦笑交じりに短剣を構えるタビーに俺は若干の申し訳なさを織り交ぜた笑みを返す。


「悪いな。思いついたら言わずにはいられないんだ」


 そう答えると同時に気を引き締めて構えを直す。


「心配するな。この戦いの結果次第でどっちが勝つか決まるのは変わらない。全力で戦うさ」


 笑みを浮かべて告げたその一言にタビーは一瞬驚いたような表情を浮かべている。


「ただし正々堂々。全力を尽くした戦いだけどな」

「――。いいでしょう。その方が気分良く勝利を手に入れられるというものです」

「そうだな。けど、一つだけ間違っているぞ」

「はて?」

「勝つのはわたしたちってこと!」


 言うや否や槍を構えてラーザが飛び込んだ。


「おっと」


 自身に槍の穂先が突き刺さる直前、素早く構えられた短剣の腹で受け止めた。

 響き渡る激突音が空気を振るわせる。


「良い突きです。けれど、素直過ぎる」


 短剣を持つ手を引いて代わりに反対の手を伸す。

 タビーの目的を察することができたのだろう。ラーザは慌てて自身の槍を引いた。

 ラーザが攻撃を中断して素早く後ろに飛んだせいでタビーの手は空を掴む。


「残念」


 などと言いながらも微塵も残念そうには見えない。

 入れ替わりガンブレイズで斬り掛かる。

 狙いは何も掴めていない方の腕。

 片手を斬り飛ばすことはできないとはいえ、短剣を持っている方の手に比べて反撃や防御が遅れるだろう。


「あからさま過ぎますよ」

「ぐっ、硬い」


 空を掴んでいる手に力を込める。すると腕が硬化したように振り下ろされたガンブレイズの刃を弾き返した。

 さながら自分が装備しているガントレットのよう。防具であり武器でもあるそれが今のタビーの全身を覆っているということらしい。

 並みの攻撃は一切通用しないのだと誇っているようで、寧ろその態度が対峙していたタビーの印象からかけ離れているように見えた。


「どうです? なかなかの防御力でしょう」

「みたいだな」


 苦笑を浮かべて答えながら追撃の機会を探る。

 自然体で向き合っているタビーはちらりと部屋にある無数の窓を見た。


「まさかっ」


 部屋から飛び出されることを防ぐべく咄嗟に駆け出す。


「ふっ」


 っと笑いタビーは窓に向かって掛け出した。


「させるかっ!」


 手を伸してタビーの背を掴もうとするが俺の手は届くことなく指先に微かにタビーの背中の翼が触れただけに終わった。

 転びそうになって立ち止まった俺の目の前で二枚のガラスが轟音を伴って割られ、そこからタビーは飛び立った。

 一瞬の休憩に呼吸を整えてガラスが割られて窓にできた出入り口から身を乗り出して空を見上げる。

 陽光に目を細め目的の姿を探す。しかし目を皿にして探してみてもその姿は影すら見つけることができなかった。


「どこを見てるの。下っ!!」


 ドンッと強く床を踏み飛び降りたラーザの声に誘われて視線を地面に向けるとそこに翼を広げて悠然と立ち俺たちが追ってくるのを待っているタビーがいた。


「遅いですよ」


 ラーザの後を追って洋館の三階から飛び降りた俺はさほど衝撃を感じずに着地することができていた。今更ながら自身の身体能力の高さに驚かされる。

 念の為ガントレットを装備した左腕を掌を広げて洋館の建物側に伸ばしていたが必要なかったらしい。


「そんな立派な翼があると空に行くと思うだろ」

「ああ、これですか」


 広がっていた翼を畳みちらりと自身の背中に視線を向ける。


「残念ながらこの翼に空を自在に飛び回る性能はありませんよ。せいぜい少しばかり体を浮かせるくらいで」


 もう一度翼を広げるとタビーの体が地面から十センチほど浮いた。この距離が限界なのだとすれば、タビーの言うとおり空を飛び回ることはできないのだろう。


「見かけ倒しな翼ね」

「そうでもありませんよ。(コレ)は翼ではなく刃ですから」

「…刃?」

「動かないで!」


 ラーザの叫び声から殆ど間を開けずにシャンっと鈴のような音がした。

 ビクッと体を震わせて立ち止まった俺の喉元にタビーの片翼の先が迫っていた。

 触れるか触れないか絶妙な距離。

 仮に一歩踏み出していれば俺の喉元は裂かれていた。

 空を切って風を切った翼はまたしても鈴の音を伴って元の位置に戻っていた。


「かなり物騒な代物じゃないか」

「いいでしょう。自慢の刃なんですよ」


 そう言いながら翼を広げたタビーの全身が微かに色素を薄めた。

 ガラスのように透明で、それが重なることで僅かな色が現われている。


「さて、飛ぶことはできませんが、ここなら翼を思い存分振るうことができます。なので――」


 すうっと息を吸いタビーが身構える。


「御覚悟を」


 全身が一振りの刀のようになったタビーが遅い掛かってきた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【24】ランク【3】


HP【10140】(+320)

MP【9050】(+770)

ATK【296】(+1810)

DEF【258】(+1880)

INT【282】(+900)

MND【209】(+1110)

AGI【336】(+1130)


【火耐性】(+10)

【水耐性】(+50)

【土耐性】(+50)

【氷耐性】(+150)

【雷耐性】(+100)

【毒耐性】(+100)

【麻痺耐性】(+200)

【暗闇耐性】(+150)

【裂傷耐性】(+40)


専用武器


剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)

↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】


防具


頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】

胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】

腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】

脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】

足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】

一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】


アクセサリ【10/10】

↳【大命のリング】(HP+500)

↳【魔力のお守り】(MP+500)

↳【強力の腕輪】(ATK+100)

↳【知恵の腕輪】(INT+100)

↳【精神の腕輪】(MND+100)

↳【健脚の腕輪】(AGI+100)

↳【地の護石】(地耐性+50)

↳【水の護石】(水耐性+50)

↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)

↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)


所持スキル


≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。

↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。

↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。

≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。

↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。

≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。

≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。

≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【1】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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