円卓の生存者篇 17『サードセクション―⑥―』
素顔を晒したイグルーは一瞬の急速を終えて戦いを再開してからというもの、自分たちと刃を交える度に実に愉しそうな笑顔を浮かべている。
自分と同じただの参加者であるはずのイグルーが三人を相手にしてもなお互角かそれ以上に立ち回れているのは彼が“裏切り者”だから何かしらの補正があったということなのだろうか。
他の参加者を排除することが絶対条件だからこそありえると思う反面、誰が敵か解らない状態であからさまな補正があったとなれば不公平を感じる人も出てしまうだろう。それでは無事にクエストを終えたとしても遺恨が残る。それではゲームとして成り立たない。
「だとすれば元からこのスペックだったってことか」
突き出されたロングソードを打ち払ってガンブレイズで斬り返す。が、それすらも予測済みだというようにイグルーは軽く体を後ろに倒して回避して再び鋭い突きを放った。
同じ回避でも俺が行ったそれはお世辞にもスマートとは言えない。体勢を崩すことを厭わずに身を屈めてどうにかその突きを避けたという格好になった。
戦っているのが自分一人ならば致命的な隙を露呈したと言えるだろう。しかしここには自分以外にも共に戦っている人たちがいる。自分が体勢を崩してできた穴はすかさずに繰り出されたラーザの槍による鋭角な突きが埋めてくれる。
同じ突きでもロングソードと槍では違いがはっきりと現われる。
直線的な攻撃を避けたとしても続けて放たれる横薙ぎの一撃。刀身が広い剣はそのまま相手を切り裂き、槍は相手を殴り飛ばす。どちらが危険かなど考えるまでもない。
「えっ!?」
横に勢いを付けて振り抜かれる槍をイグルーは大胆にも掴んで止めた。
イグルーの行動は想像もしていなかったのだろう。ラーザが戸惑いの声を上げる。
「ふふっ」
それだけで済めば他と変わらない攻防だ。しかし、薄い笑みを浮かべたイグルーが槍を掴んだ瞬間に強く自分の元へと引き寄せたことによりラーザは体勢を崩しかけた。
一瞬の攻防だというのに一切の淀みのないイグルーの挙動は予めそうなるように仕組まれているかのよう。
体勢を崩さないようにラーザが踏み止まろう脚を止めたその先に待つのは自らの首が断たれる未来。
息を呑み、体を硬直させたラーザの眼前にロングソードが迫る。
「危ないっ!!」
咄嗟に差し出された剣がギリギリの所でロングソードを受け止めた。
反撃が中断されたことでラーザは倒れそうになりながらも前方へ移動して戦線から離脱を図る。
ラーザと入れ替わるようにイグルーと鍔迫り合いを繰り広げているえんぺえは険しい顔をして平然と、それでいて冷たい笑みを浮かべているイグルーと睨み合った。
「軽い」
体重を掛けて斬り付けているえんぺえを嘲笑うようにいった。
イグルーが片手で横に構えたロングソードと両手で剣を掴むえんぺえの対峙は本来その力の乗せられる量の違いからえんぺえが優勢になるはずだった。しかし現実はロングソードは僅かにも押し込まれることもなく、反対に垂直に振り下ろしているえんぺえの剣が押し返されてしまっている。
「軽すぎる」
きっぱりと言い捨ててロングソードを振り抜く。
「この程度、児戯も同然」
押し返されるどころか跳ね返されたえんぺえはバタバタと足音を立てて後退する。そうして生まれた距離と隙を逃さずに強く踏み出して大きく袈裟斬りを放った。
「沈め」
「ああっ!?」
受けた衝撃に声を漏らし、減少するHPゲージに戦きながらも膝を付くことなく堪えている。
「えんぺえさん。すぐに回復を!」
追撃の魔の手が届く前にと声を張り上げて飛び出した。
「は、はい。すいません。少し任せます」
「受け止める!」
振り下ろされた勢いをそのままに縦の回転斬りを左腕で支えたガンブレイズで受け止める。
想定以上の重圧が斬撃となって圧し掛かってきた。
「おおっ!!!」
それでもと吼えて両足を踏み締めて押し返す。
入れ替わって立ち会う自分の背後ではえんぺえが回復を試みている。が、即座に失ったHPを回復させるには至らず、徐々にでしかない。戦線復帰するにはまだ少し時間が掛かりそうだ。
ちらりと後ろを見てすぐに視線を前に戻す。
微かに力を抜いて切っ先を傾けることでぶつかり合っている刃が滑り落ちた。
体の向きと位置を入れ替えてイグルーに横から斬り付ける。
「おっと」
縦に構えたロングソードで軽く防がれてしまった。
「まだまだっ」
素早く切り替えして追撃を行う。
本体に届かないにしても攻撃の全て無駄になるわけではない。相手の反撃を押し止めるという意味では攻撃し続ける意味がある。そう信じて攻撃を続けた。
斬り付けては防御され、斬り付けては避けられる。
間に挟まれる反撃はその都度出所を潰していくことで防ぐことができていた。
反撃を的確に防がれて攻め立てられ続ける立場に自分がいると思うと苛立つことこの上ないが、イグルーは意外なことに平気な顔をしていた。それどころか獲物を狙う捕食者の目をして反撃の一番効果的なタイミングを探っているような気さえしてくる。
攻撃し続けている立場であっても微塵も油断することはできないと気を引き締めてガンブレイズを振り続けた。
一方的な攻撃となっていたのも束の間、イグルーの防御がガンブレイズを完璧に止めた。
「くっ」
「満足したか?」
交差した状態で止まった切っ先の向こうから冷たい眼差しが向けられる。
ゾッと背筋を震わせて離れようと身を引いた瞬間、イグルーの手が伸びて俺の襟首を掴んだ。
「逃げるなよ」
掴まれた手を払い退けようとした寸前にイグルーが自ら手を離したことで、俺の体が後ろに傾いた。
それでも足を引いて踏み堪えたことで倒れることはなかったが、明確な隙が生まれてしまった。
切っ先が浮いた瞬間にロングソードがガンブレイズを持つ手に叩き付けられる。ロングソードの刃を腕で受けたのならば切り落とされるかもしれないと、半ば直感だけで腕を引いて強引に着弾点をガンブレイズへとずらした。
「ぐあっ」
ガンブレイズを通して凄まじい衝撃が伝わってくる。
ビリビリと痺れる右手を開かないように意思の力で押し止めた。
「ほう。やるな」
称賛ではなく単純な感心の声が向けられるが、その声に反応する間もなく二撃目が加えられた。
今度は最初からガンブレイズを狙った攻撃だ。
ぎゅっと柄を握り締めてガンブレイズを落とさないように必死になって堪えていると、自分とイグルーの間を一筋の光が突き抜けた。
動けない俺ではなく動けるイグルーが後ろに飛んで避ける。
彼方へと掻き消えた光が放たれた元を辿るとそこに居たのは槍を構えているラーザだった。
「アーツの光」
小さく呟いた俺の見つめる先でラーザが槍を手に駆け出した。
向きを変えたイグルーと対峙するラーザ。
連続して突き出される槍も軽々平然と捌き、適宜反撃を行っていく。
互いの攻撃がクリーンヒットすることはないながらも追い詰められていくのはラーザの方。それは単純に攻撃力の差、HPの差ではなく、的確に攻撃を当てられる技量の差だ。
「俺も行きます」
手の痺れが取れた瞬間にラーザの攻撃に加わる。
二対一の状況を活かすべく入れ替わり立ち替わり攻撃を行う。
イグルーがロングソードで防御するのならと攻撃の間隔を途絶えさせないようにと間を開けずに斬り付ける。
だというのに二人の攻撃はイグルーに届くことなく全て阻まれたまま。
「これでもまだ足りないのかっ」
苦虫を噛み潰したように呟く。
ここまで戦況が拮抗するとイグルーの強さに違和感を覚えずにはいられない。
何がどうイグルーの強さを押し上げているのか。
違和感の正体を探りつつ攻撃を続ける。
「お待たせしました」
後ろからえんぺえが剣を手に参戦してきた。
二対一から三対一へ。
こうなってようやくイグルーの表情に変化が起きた。
「流石にこの手数は…面倒だ」
小さく呟かれた一言を耳聡く聞きつけた俺たちは攻勢を強めた。
「一気に攻めます。合わせてください!」
柄ではないが号令を掛けて、強く一歩を踏み出した。
狙いはイグルーのロングソード。
自分がされたことの意趣返しだ。
「次!」
ガンブレイズに打ち付けられたロングソードの切っ先が下を向いた瞬間に槍が突き出された。
「続きます」
体を捻って槍を避けたイグルーにえんぺえが飛び斬りを行った。
「ぬぅ」
ロングソードを引いて器用にも指で返して逆手に持つと上からの斬撃を受け止めてみせた。
「今!」
「今です!!!」
二人の声が重なった瞬間にガンブレイズを水平に構えて狙いを定める。
「<セイヴァー>」
斬撃アーツを発動させた瞬間に一気に跳び出した。
光を宿したガンブレイズが流星を描きイグルーに迫る。
「こんなものォ!」
強引に近くのラーザとえんぺえを振り払いイグルーが迫る俺を迎え撃つ。
「貫く!!!」
意思と気合いを言葉に込めて叫び、全力で突き出した。
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レベル【24】ランク【3】
HP【10140】(+320)
MP【9050】(+770)
ATK【296】(+1810)
DEF【258】(+1880)
INT【282】(+900)
MND【209】(+1110)
AGI【336】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【1】
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