円卓の生存者篇 15『サードセクション―④―』
「あれが十四人目」
「まさか、本当にいたなんて」
愕然とするえんぺえとラーザが呟く。
「意外じゃない。あんな風に言っておきながら信じてなかったんだ」
「実は、少しだけ」
軽口を叩きながらも先程の俺たち以上に正体不明な乱入者に戸惑いを見せているミスト。
困ったようなそれでいて驚いているようにも受け取れる曖昧な笑みを浮かべて答えたえんぺえは遠慮がちに自身の唇の前で人差し指を立てていた。
「ユウさん。ちょっといいですか?」
タビーがさっと近付いて小声で話しかけてくる。
「さすがにあの人と戦うことまで止めたりはしませんよね?」
「心配しなくてもいいさ。そんなつもりはないからさ」
「では、力を貸してくれますよね」
「もちろん」
「よかった。では、行きましょうか」
「ああ」
言葉を交わして俺たちは謎の乱入者へ向かっていく。
まるで示し合わせているかのように左右に別れて攻撃を仕掛ける。
銃形態から剣形態へと変えているガンブレイズを振りかぶり謎の乱入者の側面から斬り付けた。
謎の乱入者は持っているロングソードを手首で回転させて逆手に持つと迫るガンブレイズを受け止めた。
「タビー!」
「はい!」
謎の乱入者の武器は一振りのロングソードは今ガンブレイズとぶつかってすぐには動かせない状況にある。武器もなく防具らしい防具も見られない状態であるならばタビーの振るう短剣を受け止めることはできないはず。
攻撃を受けるしかないというのに焦ることなく平然とした様子を崩さない謎の乱入者はばっとローブの中から手を伸して短剣が振り下ろされる前にタビーの腕を掴んだ。
「いぃっ、うわっ!?」
短く驚き硬直するタビーを謎の乱入者は軽く持ち上げて適当に本棚に向けて投げ捨てた。
本来壊れないはずの本棚が投げ飛ばされたタビーを巻き込み崩れていく。倒れた棚から無数の本が雪崩のように落ちて倒れるタビーの姿を覆い隠してしまった。
「まさか、あの本だなって壊れないはずじゃ」
自分たちでは本棚に納められている蔵書一つ手に取ることができなかったというのに目の前の現実は自分の想定を軽く超えてしまう。
視線を素早くタビーから乱入者へと移す。
刀身が異様に長いロングソードを片手で軽く持ち上げて勢いよく斬り掛かってきた。
「くっ」
素早くガンブレイズを横に構えて振り下ろされる刃を受け止める。
想定以上の重さが全身を襲い、僅か一撃を受け止めただけで膝を付きその場に押し止められてしまう。
「……」
乱入者が俺には聞き取れないほど小さな声かつ籠もった声で何かを呟いていた。
瞬間、ごうっとロングソードの刀身を覆うようにオレンジ色の炎が逆巻く。
ロングソードの刃と重なったガンブレイズ越しに炎の熱が伝わってくる。熱は手に伝わり微細なダメージとなってじりじりと俺のHPゲージが減少していく。
このまま受け止め続けているだけでは不利になるのは自分自身。そんなことになっては目も当てられないと奥歯を噛み締めて強引に立ち上がり、添えたガントレットを装備した左手を伸ばして押し上げる。
「おおっ」
ガンブレイズを強く振り抜いたことで上がったロングソードの合間から拳を作った左手を前に掲げる。
「頼むから使えてくれよ…」
発動を強くイメージしたことで半透明の盾【フォースシールド】が発生して生じた反発力とでもいうべき力が働いて乱入者を後ろに押し返した。
バタバタとよろめくように後退した乱入者が纏う灰色のローブが捲られた。
露わになる素顔。否、それは顔と呼べるようなものではなかった。ドクロを象った仮面を身に付けていて目線一つ読み取ることができない。窪んだ眼窩に眼球はなく、底のない暗い闇が渦巻いているだけ。
持続時間およそ数秒で【フォースシールド】が消えた左手を下げる。確認できたリキャストタイムは他のスキルよりも長く設定されているらしく、五分という果てしなく長いものとなっていた。余程の長期戦にでもならない限りもう一度【フォースシールド】を使うことは難しそうだ。
「お前は誰だ?」
仮面が持つ効果なのかなんなのか。乱入者の頭上にHPゲージ以外見えない。知りたかった正体を記した名前は相も変わらず不明のまま。
こちらの問い掛けに乱入者は答えようともせずに無言で佇んでいる。
切っ先を地面を向けているロングソードを構えることもなく対峙する俺を見てくる。
「余所見してていいの?」
そう叫んで槍を構えて突進してきたラーザを乱入者は一瞥することもなくロングソードで打ち払った。
地面に片手を付いて着地して追撃のタイミングを計っているラーザの視線の向こうでミストとえんぺえが同時攻撃を仕掛けた。二人の攻撃を乱入者は一本のロングソードだけで軽く流している。一見すると扱い辛そうな刀身の長さも大して気にする素振りもなく淡々と防御と反撃が絶妙なバランスで行われている。
いつ二人が連携できるようになったのだろうと思ってしまうほど呼吸のあった攻撃だ。
それを軽々と凌いでいる乱入者の技量の高さに驚かずにはいられない。
「はっ」
二人の連携に短く息を吐き出して槍を突き出すラーザが加わったことで攻撃は一段と激しさを増していく。
息つく暇も無いほどの連続攻撃となっているはずなのに乱入者の様子には微塵も変化が見られなかった。
こうまで圧倒的な技量を持つ参加者がいただろうか。
全員の戦いを見てきたわけではないからいないと断言することはできないが、最低でもこの世界の戦闘に慣れている人物でなければこれだけの動きをすることは難しい。自分にも同じことができるかと問われれば不可能ではないが難しいだろうというのが本音だった。
どう介入すべきか悩みつつ三人の戦いを見ていると、そんなことあるはずがないのに乱入者と目が合ったような気がした。
幻に見た視線に誘われるように自分もまた三人の攻撃に続く。
四者四様の攻撃がぶつかることなく繰り出される。
絶え間のない連続攻撃がいつしか乱入者の防御を上回り始めた。
このまま押し切れると誰かの心に油断が生まれた瞬間に連携は乱れてしまう。全員が全員そのことを理解しているのか集中を切らすことなく、攻撃の手も止めたりしない。それでも現状打破に繋がっていないということは自分の予測を外れ、乱入者の防御はより硬く閉ざされたものへと変化していった。
微かに届いていた攻撃も阻まれるようになり、大振りな攻撃をしてたものには反撃が加えられるようになっていた。
攻防の割合が変わり、攻守が変わる。それでも戦闘の優劣だけは変わらない。戦闘が始まってからというものずっと優勢なのは乱入者だ。
「まずいな、このままだとこっちがやられるのも時間の問題か」
入れ替わり立ち替わり攻撃を仕掛けているはずなのに与えるダメージと与えられるダメージの量に大きな開きが現われ始めていた。
人数は圧倒的にこちらが有利。単純に数えるだけでも四倍だ。相手も同じ参加者だというのならばHPの総量に大した差はないはずだというのに、追い詰められているように感じるのは決して気のせいなどではないだろう。
槍が流される。
直剣が切り上げられる。
シンプルな剣が振り払われる。
ガンブレイズの刃を垂直に振り下ろされたロングソードが押し付けられる。
それぞれの武器の持ち味を確実に潰すように繰り出される防御と反撃に遂に自分たちは後手に回ることになってしまった。
乱入者の攻撃を一番近しいものが防御してその次に近しい人が入れ替わり反撃に出る。攻めからの攻撃ではなく防御からの反撃だ。
「うわっ」
大振りな薙ぎ払いの一撃を受け切れずに尻もちを付いたえんぺえは両手を地面に付く寸前に持っていた剣を手放してしまっている。
意外なことにカバーするように前に出たのはラーザだった。
動けないえんぺえに迫る凶刃を己の槍の腹で受け止める。が、武器の質量が圧倒的に異なるために完全には防ぎきれず凄まじい轟音が鳴り響いた。
腕が痺れたことで一時的ながらも握力がなくなり槍を取り落としてしまうラーザ。
強制的に武装を解除された二人が乱入者の射線上に並んでしまった。
「くそぉ!? <カノン>!!」
駆け出しても間に合わないと考えた瞬間にガンブレイズを銃形態に変える。そのまま大雑把ながらも銃口を向けて引き金を引いた。
放たれる光弾が振り下ろされようとしているロングソードを穿つ。
真っ直ぐに伸びる一陣の光は乱入者のロングソードによって二つに引き裂かれた。
幸いにも射撃アーツの威力は振り下ろされようとするロングソードを止めることには成功している。この攻撃によって生み出された僅かな時間にえんぺえとラーザはそれぞれの武器を拾ってその場から退避することができた。
光が彼方へと消えていく。
阻まれていた刃が誰も居ない場所を切り裂き切っ先が触れた地面に一筋の亀裂を刻んでいた。
「隙アリ!!」
乱入者の背後に回り込んだ直剣の刃を水平に構えているミストが飛び出した。
突き出される切っ先の狙いは乱入者の背中。
完全な死角から放たれた一閃は本来回避することも防御することも困難な一撃だ。しかしそれすらも乱入者は一瞥もすることもなく、また振り返ることもしないで、体の捻りと腕の力だけで振り回したロングソードで簡単に払い除けてしまった。
ロングソードに加えられた遠心力は回転斬りの威力を高める。普段ならば防がれるだけで終えられたはずの一撃がミストを直剣ごと吹き飛ばした。
倒れ込んだミストを助けようとして駆け出す俺と追撃を行うために移動を始めた乱入者の影が重なる。
どちらが先にゴールへ辿り着けるのかを競うビーチフラッグさならがらに駆け寄っていく俺を抜き去った乱入者が身を起こそうとするミストを躊躇なく蹴り飛ばして、仰向けになった彼女の腹を踏み付けて仁王立ちになった。
「待て――」
制止する俺の声も虚しく乱入者はその手にあるロングソードを逆手に持ち、躊躇なくミストの胸に突き立てた。
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レベル【24】ランク【3】
HP【10140】(+320)
MP【9050】(+770)
ATK【296】(+1810)
DEF【258】(+1880)
INT【282】(+900)
MND【209】(+1110)
AGI【336】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【1】
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