円卓の生存者篇 12『サードセクション―①―』
『脱落者が出ました。脱落者“みちかぜ”。残り参加者10名』
『脱落者がで増した。脱落者“スノール”。残り参加者09名』
続け様に送られて来た二通のメッセージを確認して息を呑む。
セカンドセクションが終わってそのままシームレスに始まったこのサードセクション。舞台は自分たちが集められた洋館。以前の二つのセクションとは大きく異なること。それは今回はまだモンスターと出会っていないこと。そして、遂に自分たちが相対すべき敵が同じ参加者となっていること。この情報が提示されたときにはいよいよ本格的なバトルロイヤルが始まったと思ったものだが、それにしても展開が速い。自分の予測を大きく上回るスピードで参加者の数が減少している。
勝利条件に変更はない。生き残ること、そして参加者の中に居る“裏切り者”を倒すこと。“裏切り者”の勝利条件にも変更はない。最後まで生き残ること、それと参加者の数を“裏切り者”と同数以下にすること。
問題は誰が“裏切り者”なのかわかっていないこと。
このまま戦いを避けていても事態はなにも好転しない。それが本当に“裏切り者”なのか解らないまま出会った参加者を倒してしまうのは如何なものか。そんなことを考えている間に自分の知らない所で参加者が脱落してしまっている。これではあからさまに“裏切り者”の方が有利になっていく。
「それにこの数。じっくり見て考える余裕がなかったから失念してたけど、当初の参加者の数は13人だったはず。けど、最初に脱落したイグルーの時のメッセージには残り参加者13名とある。つまりここには14人の参加者がいるってことになるけど」
記憶を辿り洋館で顔合わせしたときに見た参加者の顔を思い出す。その場にいたのは13人。参加者として表示されていたのもまた13人。だからこそ、どこかに誰かが隠れているなんてことあり得るのだろうかと疑わざるを得ない。
「誤表記なんてことはないだろうし」
周囲を警戒しつつ洋館のなかを歩き回ってみる。
未だに他の参加者とは出会っていない自分だが送られて来たメッセージを思えば確実に参加者が減らされているのは間違いなさそうだ。
『脱落者が出ました。脱落者“ストリ”。残り参加者08名』
確認したメッセージに思わず舌打ちが出た。
この洋館という限られた建物の中の一体何処でこれほどの戦闘が行われているというのだろうか。
「急いで“裏切り者”を見つけないと」
耳を澄ましてみても戦いの音など聞こえてこない。つまり音もなく参加者が倒されていっているということになる。それはまるで暗殺者の所業だ。だが、そんな技術を持っている人がいただろうか。
思わずに走り出して記憶にある洋館の廊下よりも広く長い廊下を駆け抜ける。
角を曲がり、近くの部屋の扉を蹴り破る。
しかし、そこもまた無人だった。
「どこにいる!?」
どんなに焦った所で意味がないと分かっていても焦りが出てきてしまう。
次の階層に続く階段を見つけてためらいなく駆け上ると突然空気が変わった。
粘性の高い泥沼に脚を踏み入れたみたいに重くどんよりとした空気。
直感が囁く。戦闘が起きているのはこの階層だ。
「流石にここは慎重に行かないといけないか――って、何だ!?」
壁に隠れて先の様子を窺っていると突然足元に一振りの剣が転がり込んできた。
「剣? 一体誰の武器だ?」
抱いた疑問をそのまま口に出した俺の元にまたしてもメッセージが届く。
『脱落者が出ました。脱落者“ロビーナ”。残り参加者07名』
さっとメッセージを確認すると同時に剣が消える。
「…早すぎる……」
それまでのペースが嘘のように次々と参加者が姿を消す事実に驚愕を禁じ得ない。
「残っているのは誰だ?」
指折り数えながらまず自分。次に“えんぺえ”、“ミスト”、“ラーザ”、“突貫”、“タビー”。そして謎の人物を合わせたこの七名。
「既に半分か。この数で終了となっていないのなら“裏切り者”の数は最大で三名ってわけか。となるとこれ以上は誰も脱落するわけにはいかなくなるけど……うん。謎の十四人目に感謝、かな」
「何をぶつぶつ言ってるんです?」
剣が飛んできた方向から姿を現わしたのは生き残り七名の内の1人“えんぺえ”だった。その手にはシンプルな量産品もかくやと言わんばかりの剣が握られている。
「敵…ですか?」
ガンブレイズの切っ先を向けて問い掛ける。
剣呑な視線を向けられてなお怯むことなく俺と同じように剣の切っ先をこちらに向けてきた。
「違います。と言っても信じますか?」
「どうでしょうか? 前のセクションならまだしも、今は――」
「そうですね。僕が君の立場でもすんなりとは信じられないと思います。……けど」
すっと剣の切っ先が下げられる。
「だからこそ自分から信じないといけませんよね」
警戒を解き柔和な顔になったえんぺえが剣ではなく手が差し伸ばした。
「僕は“裏切り者”ではありません。そして、多分、君も」
「なるほど。だったらその前に一つ答えてくれませんか?」
「なんでしょうか?」
「先程転がってきた剣。それとアンタが現われる直前にロビーナって人がやられたのは偶然ですか?」
敢えて差し出された手を握り返して笑顔を作り問い掛ける。
「偶然ですよ」
自分と同じような笑みを浮かべて淀みのない答えを返してくる。
まっすぐ自分の目を見つめてくるえんぺえにそれまで彼に抱いていた印象が間違いだったのではないかと思えてきた。最初に出会った頃にはどことなくおどおどとした印象があったが、目の前にいるえんぺえからは明確に強かな印象を受けた。
問い詰める材料を持たない俺はここで判断するしかない。えんぺえの言葉が偽りなのか真なのかを。
すっと手を離して、ガンブレイズの切っ先を地面に向ける。
「信じてくれたみたいですね」
変わらない胡散臭い笑みを浮かべながらえんぺえがいった。
「これ以上疑える材料を持っていないだけ、と言ったら?」
「納得できますね」
そう言って頷いたえんぺえは百八十度回転して廊下の先を見る。
「この先に他の参加者がいるはずです」
自分の知らない情報をすらすらと告げるえんぺえに対して疑惑の視線を向けたまま俺は無言になりその二歩後ろを歩いて付いて行く。
歩いていく度に聞こえてくる音が大きくなってきた。
武器同士がぶつかり合って響く音だ。
「誰かが戦っているみたいですね」
「みたいだって、それが解ってて来たんじゃないんですか?」
「誰かがいることはわかっていたんですけどね。まさか戦っているとは」
意外だったと言わんばかりに身を屈めて廊下の奥の広場の様子を窺っている。
「戦っているのは誰と誰なんです?」
同じように身を屈めてえんぺえの横から頭を出した。
「あれは――」
目を細め、目を凝らし、そこにいる人の姿を見る。
見つけたその先には無骨な剣を携えた“突貫”と長い槍を華麗に振り回している“ラーザ”がいた。
「あのどちらかが裏切り者ということですか?」
「おそらくは。ただ…」
「その確証を得た理由が解らない、と」
こくりと頷くえんぺえ。
「手を出しますか?」
俺の問い掛けにえんぺえは悩む素振りを見せて、即座に首を横に振った。
「もし、あのどちらか、“裏切り者”で無かった方が倒されたとしたらその時点でこのクエストは終了してしまうことわかってます?」
「だからといってどっちに手を貸すのが正しいのかわかりますか?」
「それは――」
答えに詰まったえんぺえを一瞥して再度目の前の戦闘に視線を送った。
これまでの自分の見てきたものを思えば“裏切り者”と怪しむのは“突貫”のほう。しかし俺にはそれが正しいと言い切れるだけの根拠を持っていない。
一度目を閉じて、深呼吸をし、ゆっくりと目を開ける。
見据えるのは先の戦場。
心で決めるのは自らの行動。
「何をするつもりですか?」
意を決した目をしている俺を見てえんぺえがぎょっとした顔で問い掛けてきた。
「仮にあの二人の内のどちらかが“裏切り者”だったとしても、その正体に確証が持てない今、どっちかを倒させるわけにはいかないでしょう」
「だとしてもどうするつもりなのですか?」
「とりあえずあの戦いを止めます。その場凌ぎにしかならないとしても今はそれが最適解のはずですから」
一手でも遅れてどちらかが倒されてしまうと間に合わない。
誰も倒させないと覚悟を決めて物陰から飛び出して行く。
「ああ、もう! どうなっても知りませんからねっ」
などと不満を口にしながらもえんぺえは俺の後に続いて戦場へと飛び込んだ。
突然の乱入者の存在にラーザと突貫はすぐに気付いた。特に突貫は俺を見て目を見開いたようにさえ見えた。
「悪いけど、そこまでだ」
キザったらしい台詞を吐いて突貫とラーザが戦っている中心ほどに立ちガンブレイズの切っ先を突貫に、ガントレットを装備した左手の平をラーザに向けて立ち塞がる。
「何の真似だ?」
俺が乱入してきたことの真意が掴めないのか、突貫があからさまに怪しんでいる口振りで睨み付けてくる反対側でラーザは困惑とより強い疑惑の視線を向けてきた。
「どっちも倒させるわけにはいかないんだ。わかるだろ?」
「あぁ!?」
「アンタもだ。まだここで終わらせるわけにはいかない。違うか?」
問いかける言葉を投げかけながら交互に二人を見る。
数秒遅れてから現われたえんぺえは奇しくも俺の言葉通りに止まった戦場を驚愕の表情を浮かべて見つめていた。
「二人とも気付いてないわけじゃないだろ。ここでアンタらのどっちかでも倒されたりしたら最悪の場合はここで終わってしまうんだ」
「だから戦うなってか?」
「そうだ!」
「無理だな」
「どうして!?」
まさか即答されて断られるとは思っていなかった。
ここまで頑なに戦うことを止めないのならばはやり突貫が“裏切り者”なのだろうか。
「戦わなければ俺がやられるからな」
「アンタはこんなクエストどうでもいいって言ってなかったか?」
「ああ。どうでもいいな」
「だったら――」
「けどな、誰にであろうと負けるのは俺の性に合わねえんだよっ!」
ガンッと突貫が持つ剣と俺のガンブレイズの刃がぶつかり合う。
「それなら。アンタ。ラーザだったな。少しだけで良い、戦うのを止めて話しを聞いてくれないか?」
「話? なんの話があるってのさ?」
「アンタも気になっているんじゃないか? 俺たちが知る参加者の生き残りの数と、メッセージで送られてくる参加者の数が合わないことを」
僅かながらラーザが持っている槍の穂先が揺れた。
「ここで終わったりしたらその謎を解き明かすことさえできなくなるんだぞ」
そう叫んだ俺の言葉を受けて真っ先に反応を示したのは意外なことにガンブレイズに刃をぶつけてきた突貫の方だった。興味がない、どうでもいいと言いながらも目の前に提示された謎というのは存外興味を引いているらしい。
「わかったよ」
徐に呟いて突貫が一歩後ろに下がる。
「ほら、俺はもう手は出さねえよ。それでいいだろ」
刃を下げて身を引いた突貫にあり得ないモノを見るかのような目を向けるラーザ。
この場において戦闘の意思を残しているのが自分一人であると見せ付けられれば、ここで一人戦うことに固執することはそのまま自分が“裏切り者”であると告白しているも同然となってしまう。
俺がそう考えていることを読んだのか、それとも偶然に俺と同じ考えに至ったのか、ラーザもまた槍を引いた。
「少しの間だけだ。それでいいな?」
「ああ、もちろん」
バツが悪そうに言い放ったラーザに俺は微かな笑みを浮かべて答えた。
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レベル【24】ランク【3】
HP【10140】(+320)
MP【9050】(+770)
ATK【296】(+1810)
DEF【258】(+1880)
INT【282】(+900)
MND【209】(+1110)
AGI【336】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【1】
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