円卓の生存者篇 08『セカンドセクション―④―』
「アンタがこの人をやったのか?」
不穏な空気が流れる最中、俺は自分たちを睨み付けてくる突貫に問い掛ける。
ピリッと張り詰めた空気が漂い出したのに気付いた人からそれぞれの武器に手を伸ばす。
まさに一触即発という状況で向かい合う突貫が自分たちのことを殊更訝しむような目で見ていることがどうにも気に掛かる。
突貫の手の中にある一振りの大剣がその切っ先を地面に向けていることからも即座に戦闘を始めるつもりがないようにも見えるが。
「何か言ったらどうなんだい?」
ダムルが両手に大鉈を携えながら声を掛ける。すると突貫がまるで宿敵を見つけたと言わんばかりの眼光で睨み返してきた。
「お前らこそ、こんなとこで何してんだ?」
声を低く警戒している突貫が問い掛けてくる。それが自分の想像していたものとは異なっていることからか俺たちは微妙な表情を浮かべて顔を見合わせていた。
「どういうことです?」
タビーが声を潜めて聞いてくるがわからないと首を横に振って返事していると突然、全員の手元にコンソールが浮かび上がった。
自分たちだけでなく正面の突貫の元にも現われているコンソールは対峙している相手が目の前にいることを承知の上で確認せざるを得ないものに思えてくる。突貫から視線を外してまでしっかり熟読することはできないまでも、横目でちらりと見る程度ならばできるはずと表示されているページを確認してみるとそこには淡々とした情報だけの文章が記されていた。
『脱落者が出ました。脱落者“イグルー”。残り参加者13名』
真新しい情報はない。だがここでイグルーがやられたことを知らない参加者にとっては寝耳に水な知らせとなるはず。どのようなリアクションが起きているのかなど想像することしかできないが、少なくとも倒した当人と思われる人物と対面している状況よりはマシはような気がするが。
「一つ。確認させてもらっても良いですか?」
痛い沈黙を破ってダムルが挙手して一歩前に出た。
「あなたが彼を、イグルーさんを手に掛けたのですか?」
「はあっ!?」
俺たちにとっての最たる疑問を代表してダムルが投げかけた途端、突貫が目を丸くして、それから続け様に意味がわからないという表情を浮かべて威嚇混じりの声を上げた。
「んな訳ねーだろが。俺はアイツと動いていたんだぞ」
「だったらなおのことチャンスがあったんじゃ――」
「ああっ!?」
「じ、冗談よ」
小さな声の呟きにも律儀に反応した突貫の睨みに怯んだミストが傍にいたタビーの体に隠れるように身を縮めている。
「だから俺がそんなことするわけねーって言ってんだろうが。だいたい、二人組で動いてんのに片方がやられりゃどーかんがえてもソイツの仕業だってバレバレになんだろうが。いくら俺でも、んなバカなマネはしねーよ」
「確かに。そうよね」
「ったく」
納得したというように呟くミストに突貫は鼻を鳴らして溜め息を吐いている。
このクエスト。生き残ることが最低条件で参加者の数が絞れて喜ぶのは現状“裏切り者”だけであるとされている。そんな状況で自身が疑われるような行動にでるのはあまりにもリスキー過ぎる。自分がその立場にいると仮定して考えるのなら、この状況で他者を脱落させたいのならば何かしらのモンスターの手に掛かったというように見える状況を作り出そうものだ。そういった考えの裏を読んだと言われればそれまでだが、現状そこまで込み入ったことにはなっていないはず。
「ってか、そういうアンタらはどーなんだ」
ギロリという擬音が聞こえてきそうなほど鋭い視線がこちらに向けられた。
「僕達がやったわけではありませんよ。僕達はついさっきまでとある屋敷を捜索していましたから」
「どーかな。誰かが抜け出してやったかも知れねーだろ」
「それは無理があると思います」
「あ?」
ダムルの説明を聞いて反論する突貫に今度はタビーがおどおどとした声ながらもはっきりと答えていた。
「俺らはさっきまで屋敷を捜索していたって言いましたよね」
「ああ」
「実はそこでモンスターと戦っていたんです。その時に全員が参戦していたのは間違いありません。抜け出して他の人を襲うなんてこと、とても現実的じゃないです」
全員の言い分を信じるのならばイグルーを手に掛けた人はいないということになる。そのようなことあり得るのだろうか。はっきりとした手掛かりも掴めないままここでじっとしていても埒が明かないことだけは間違いないが。
「じゃあ、誰がやったって言うんだよ!」
「そんな叫んだってわからないわよ!!!」
苛立ちを露わにした突貫に負けない勢いで叫んだミスト。今にも二人が言い争いを始めてしまいそうだ。
言い争いだけならまだしも実力行使が始まってしまっては目も当てられない。このセカンドセクションがいつまで続くのかも解らない現状、参加者同士の激突はまだ避けたい。
「ちょっといいか」
険悪なムードを打ち破るように全員に向かって声を掛けた。
全員分の視線が自分に向けられる。
「とりあえず、イグルーを倒した人はこの中に居ない、ということにしませんか?」
問題を先送りにするかのような一言にダムルと突貫は怪訝そうな表情を浮かべ、ミストは眉間に皺を寄せながら何を言い出したんだという目で見てくる。唯一タビーだけは答えの出ない現状を受け入れて俺の言葉に大きなリアクションは見せていない。
「各々に割り当てられた役職の技能の使い所もまだ出てきてないここですし、この後にも何かがあることは確実だと思うんです」
「それはわかっていますけど」
それでもイグルーを手に掛けた人が気になっているようで釈然としない表情で口籠るダムル。その感情を汲み取ろうとするのならば、やはり確証のないことを延々と考えてしまい込みそうになってしまうと聞こえているのに聞こえないフリをすることにした。
俺の提案を受け入れるか否か。それぞれが考えている最中、耳障りなノイズが聞こえてきた。
「ん?」
音の出所を探して辺りを見またしていると近くの建物の傍にある細い鉄柱に取り付けられた錆びたスピーカーを見つけた。
あんな物さっきまであっただろうか。などと考えつつじっと見つめていると、聞いたことがあるのか無いのか微妙な、例えるのならば曲名の知らない田舎の夕方を告げるメロディが流れている。
時折ピー、ガガッというノイズが混じり、予め録音されているはずなのに出来の悪い生演奏であるかのように不安定にも音が外れている箇所が目立つ。
「終わりってこと?」
「まさか」
小首を傾げてミストが呟き、同じくらいの小声で突貫が答えている。
意外にも突貫の言葉に内心で同意しながら俺は周囲に警戒を巡らせていると、程なくしてメロディが鳴り止み、日が落ちて周囲が真っ赤に染まった。
「何が始まるんでしょうか?」
おそるおそるとタビーが独り言ちる。
他の面々は突然の転調に大きな戸惑いを見せていた。
最初こそ夕日に染まって綺麗なオレンジ色に見えていた光景も、次第により暗く、より赤くなっていった。まるで血溜まりの中に沈み込んでしまったというように感ていた。
「――っ!?」
示し合わせたわけでもなく、全員の視線が同じ道の果て、地平線に集まっていた。
ピリッと空気が張り詰め、独特な生臭い臭いが漂い始める。
「な、何か聞こえてきませんか?」
耳に手を当てて音に集中しているダムルがいう。
「太鼓?」
微かに聞こえているのはドンっ、ドンっ、ドンっと規則正しく揃った低い音。繰り返し聞こえてくるそれは自分が想像していたよりも恐怖感を煽ってくる。
「いや、これは――」
ダムルが言った太鼓という音の表現も理解できるが、自分の脳裏に過ぎった印象は複数人の揃った足音。どこぞの軍事演習のニュースで目にしたことのある行進が思い出された。
音が徐々に大きく聞こえてくる。
街の中心部からではなく街の外から迫ってきているみたいだ。
「こっちです。この建物なら屋根の上に上れそうです」
知らぬ間に梯子が掛けられている家屋を見つけ出していたタビーが俺たちを手招きしている。
先んじて梯子を登り終えたタビーの後を追って俺とダムルも梯子を登っていく。
「ちょっと、何ボサッとしているのよ。アンタも付いてきなさい!」
「あ、んだよ――」
「いいから!」
ミストに連れられてその場に残ろうとしていた突貫も渋々ながら梯子を登ってきた。
家屋の屋根の上に横並びになって遠くを見る。
地上で見た地平線は屋根の上から見ても果てがない。そして、
「なんなんだよ、あの数!?」
驚愕する突貫の横で、ミストが小さく、
「モンスターの大群!?」
と呟いていた。
モンスターの行軍は思いの外に速く、既に街と外の境界線を超えている。
「どうします? ここで隠れても――」
「どう考えてもやり過ごせる数じゃないでしょう!」
消極的な意見を言おうとしたダムルをタビーが怯えた声で即座に否定する。
「だったらどうするのですか? あれだけの数を倒しきるなんてどう考えても…」
焦燥感漂う表情でダムルは強引に口を閉ざした。そうすることで無理という言葉だけはどうにか飲み込むことができたようだ。
「なるほど。ここに来てようやく役割の技能が重要になるってわけだ」
迫るモンスターの群勢という状況を前にやっとそれぞれが持つ役割の意味を理解するができた。
一人で納得している俺を見て遅れること数秒「ああ!」とタビーが声を上げた。そしてミストが「そういうことね」と頷いている。
最初から理解するつもりがない突貫は眉間に皺を寄せたままモンスターの群勢を睨み付けているのだが、意外なことにダムルが納得するのが遅いように思えた。
「つまりはこのセカンドセクションはある種の拠点防衛戦ということみたいです」
「拠点防衛線? でも、拠点なんてどこにあるというのですか?」
「この建物という明確な物はないはずです。そうですね。敢えて言うなら守るべき拠点は自分自身でしょうか。拠点を守る防壁や城壁がこの街にある建物という感じですかね」
「俺やミストさんのような役割が持っている回復能力は自分じゃなくて協力している仲間を回復させるもののようですね」
「おそらくは。そしてダムルさんの特定個人に対する限定防御は前に出て戦っているタンクを後押しするものでしょう」
「僕の…」
「それじゃあユウさんは?」
「俺が持つセーフティエリアの作成こそ、まさにこの状況に適していると思いませんか? 尤も重要なのはどこをセーフティエリアにするかの選別になるのですが」
周囲の建物を手当たり次第というわけにはいかないことは明らか。であれば最も適した建物を選出したい所だ。
それぞれの技能の発揮する場所がはっきりしたことでこの場において唯一それが把握できていない人物に視線が集まるのは自明の理。
タイミングを合わせたかのように、バッと俺たち全員が揃って突貫を見た。
「突貫さんの役割と技能は何なんです?」
代表して訊ねる。
「この状況です。言いたくないはナシですよ」
こういう時の笑顔はどんな睨みよりも迫力があると感じさせる何かが言い切ったタビーの表情にはあった。
「……だよ」
「はい?」
「別に隠すようなことじゃないでしょ。はっきり言って!」
「だから、“大工”だっってんだろ」
「その名称から察するに拠点自体を作る技能ですか?」
「ああ。さっきまでは何に使えばいいかさっぱりわかんなかったんだけどなっ」
バツが悪いというように視線を逸らした突貫を一瞥してこれからの行動指針を考える。
「モンスターの群勢が到達する前に突貫さんが拠点を作って、俺がそれをセーフティエリアに設定する。後はタビーとミストさん、ダムルさんの技能を活用しつつ防衛戦を行うってことでいいですか?」
「ああ」
他の面々は頷くだけだったために了承を伝えた突貫の声が一際大きく聞こえた。
「では準備に取り掛かりましょう」
「はい」
「任せて」
「わかりました」
今度は一人黙った頷いた突貫だけが浮いてしまっていた。
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レベル【24】ランク【3】
HP【10140】(+320)
MP【9050】(+770)
ATK【296】(+1810)
DEF【258】(+1880)
INT【282】(+900)
MND【209】(+1110)
AGI【336】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【1】
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