円卓の生存者篇 05『セカンドセクション―①―』
次なる舞台は廃れた村。
チャイムが鳴り終わる頃に転送された俺は村にある使われなくなって久しい家屋の中にいた。
「俺一人だけ…か」
ぐるりと建物の中を見回してみる。経年劣化のせいで入った亀裂から外の灯りが差し込んでいる家屋の壁にはそれこそ長年使われていないことで錆びきっている鍋などの調理器具や農作業に使う道具類が並んでいる。
足元には埃やら土が積もって移動する度に雪道を歩くかの如く自分の足跡が残っている。
「使えそうなものは残っていないみたいだ」
適当に残されていた頑丈そうな木の棒を持ってみたが、自分の指が触れた部分が簡単に崩れてしまう。使えないと判断して棒を投げ捨てると地面に当たった瞬間に綺麗に真っ二つになってしまった。
ここに残されているものに使えるものはないと諦めて閉ざされた扉を開ける。
ガタガタと音を立てて開かれた扉の向こうには想像していたよりも遙かに閑散とした光景が広がっていた。
「それじゃあ、まずは簡単な探索だな」
知らぬ間にか装備していたガンブレイズに右手で触れて、拳を作ったりしてガントレットの感触を確かめる。
いつも通りの感触と感覚に微かに笑みを浮かべながら歩を進める。
目に飛び込んでくる光景は村と呼ぶには相応しい装いだと思う。しかも建物の数から察するにかなり大規模な村だったのではないだろうか。
数が多い家屋以外にもそれに沿った田畑の名残がいくつも見受けられる。
それだけならばただの廃村であると言えなくもないのだろうが、気になるのは村のあちこちに残されている奇妙な形をした何かしらの壊れたもの。それは木製の箱であったり、建物の外に取り付けられている棚であったり。注意深く目を凝らしてみると破壊されているものの近くに何やら大型の獣の爪痕らしきものを見つけることができた。
「熊にでも襲われたっていうのか?」
しゃがみ込み手を伸ばして爪痕を指でなぞると自分が思っていたよりも深く抉られているようで内側まで届いている大きくはっきりとした断層が棚の外部に残されていた。
さっと立ち上がり警戒心を強める。
ここには自分以外の参加者が転送されているはずで、加えてこの傷痕を作った何者かがいる可能性が高いのだ。
行くべき場所も解らずにただ漠然と村の中を見て回るだけでは駄目かもしれないと一つ目標を定めることにした。全員が味方だとはっきりしているのなら他の参加者を見つけ出すことが有益だが、現状それは好ましい手段だとは言えないだろう。とはいえいつまでも一人でぶらぶらと探索していても意味を成さないことは明白。ならばと俺は問題を先送りにするかのようにまずはこの村の端へと急ぐことにした。
若干の駆け足になりながらさっと流し見をして移動を続けていると程なくして村の端らしき場所に辿り着いた。
自分の腰くらいまで高さのある柵が見渡す限り続いている。この柵がぐるりと村を囲んでいる形で設置されているのだとしたら、そこから出ようとすればどうなるのか。興味と好奇心の赴くままに手を伸ばしたその瞬間、
「待って――」
と声が聞こえてきた。
「待ってください。て、あぶ…危ないです」
「え!?」
反射的に手を止めて、声がした方を振り返る。
そこには慌てて駆け込んでくる小柄な獣人族の少年タビーがいた。
「君は、確か…」
「タビーです。って、そうじゃなくて、その柵から無効に手を出さない方が良いと思いますよ」
呼吸を整えたタビーがトコトコと俺の傍まで近付いてくる。
「見ててください」
立ち止まったタビーがどこで拾ったのかわからない木の棒を柵の外へと投げ込んだ。
途端、バチッと大きな音と閃光が瞬き、柵の外に出た瞬間に木の棒が真っ黒焦げになってしまった。
「うわっ」
思わず後ろに大きく飛び退く。
地面に落ちた黒ずんだ木の枝は地面とぶつかった衝撃で跡形もなく消えてしまっている。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ」
手を伸ばそうとしていた俺は自分の手があの木の棒のようになったところを想像して肝を冷やした。
「ところで、その、ユウさんはここで何を?」
「あーっと、実は、何をすれば良いのかわからなくてとりあえずこの村の端まで来てみたんですけど…」
一度言葉を区切り遙か遠くまで目を凝らす。
「めぼしい成果はありませんでした」
肩を落として嘆息しながら、曖昧な笑みを浮かべて答えた。
「そうでしたか」
「タビーさんは、どうしてここに?」
「俺は…あ、そうだその前にタビーでいいですよ。多分ユウさんの方が年上でしょうし、敬語も別に」
「だったら俺もユウだけで。言葉遣いも楽なものにしてくれて構わないよ」
「いいんですか?」
「もちろん」
穏やかに言葉を交わしならが移動して近くの建物の影に身を寄せる。
「もう一度聞くけど、タビーはどうしてここに?」
「俺もユウと同じです。ひとまず村のなかを見て回ろうと思って。さっきの木の棒が落ちていた石を蹴り飛ばしたから気付いただけで」
「いや、それでも余計なダメージを回避できたのはタビーのおかげだよ」
「そうですか?」
「ああ。そうさ」
顔を上げて前を見る。
どうやら自分たちは柵の外には行けないらしい。であればこの村こそが今回の戦場ということになる。
思い出したように村の中を見回す。
先の戦闘を鑑みればあるはずなのだ。参加者の残数と残り時間を示した何かが。
「すぐに思い浮かぶのは時計だけど…」
残念な事にそれらしいものは見当たらない。
これならば最初にいた建物の中をもっと念入りに調べておけば良かった。
「何か探しているんですか?」
忙しなく視線を動かしている俺を訝しんだのか、タビーが同じようにキョロキョロと辺りを見回しながら訊ねてきた。
「前の時には制限時間を表わした時計みたいなものがあったと思うんだけど、覚えてる?」
「えっと、確か」
「だから今回もどこかにないかなって探してたんだけど。見当たらなくてさ」
「ないですね」
「だろ」
見つけられないものは仕方ないと切り替えて次に向かうべき場所を探してみることにした。
「一先ずは他の参加者を探してみるのはどうでしょう」
「タビーみたいに友好的に出てくれるのならいいんだけどさ、いきなり攻撃してくる可能性もあるからなぁ」
「た、確かに」
「というか、俺は助かったけどさ、タビーは警戒しないで声を掛けるのは気をつけた方がいいと思うぞ。誰でも反撃することができるとはいえ、危ないからさ」
「そう…ですね」
しょんぼりと肩を落とすタビー。
「一般的な人狼ゲームだと人を襲うのは人狼だけだからまだわかりやすいのに」
そう呟いたタビーの言葉通り、今回は参加者全員が他の参加者を倒すことができる。今はまだ誰も他の参加者との戦闘になっていないが、いざその時が来たら苛烈な戦いが始まってしまうことは想像に難くない。
「そういえばさ、タビーが与えられた役職ってのは何だったんだ?」
「役職っていうと、さっきメッセージで送られてきたやつですか?」
「そうそう」
何気なく訊ねたがタビーは不思議と話しても良いものかと悩んでいるように見えた。それならばとまずは自分の役職を伝えることにした。役職の能力を考慮するとここにも何かしらモンスターが潜んでいる可能性が高いということも。
「俺は“聖職者”です。できるのは特定のアイテムを獲得することで受けたダメージを回復させることが可能となる…らしいです」
「特定のアイテムは何なのか聞いても?」
「あ、はい。大丈夫です。必要なのは“清水”です」
「聖水?」
「いえ、たぶん字が違います。聖なる水じゃなくて清らかな水という字の清水です」
「なるほど」
素直に綺麗な水を探すだけで使えるようになるのかは本人にも解っていないらしい。把握できているのなら真っ先に水源を探していたと言ってきた。
「だったら当面の目標は役職の能力を使える状態にするってことになるのか」
「それが良いかもしれませんね。俺はこの村で井戸を探してみればどうにかなる気がしますけど」
「ああ。俺の場合はモンスターを倒す必要があるんだけど。村の中にモンスターが隠れているようには見えないし」
「ですよね」
「いいさ。とりあえずはタビーの井戸探しに付き合おうかと思うけどさ、いいか?」
「もちろんです」
「これだけ大きな村だ。井戸の数も一つや二つじゃないはず。井戸がある可能性が高いのは大きな家、でいいかな」
「はい!」
幸いにも自分たちはいま村の端に来ている。そこから道なりに進むだけでも目的の建物は見つけられそうだ。
「あ、でも、大通りを進むと他の人に見つかるかも」
「襲ってくるなら迎え撃つまでさ」
未だ誰が“裏切り者”なのか判明していない状況で攻撃を仕掛けてくることの危険性を理解していない参加者がいるとは思えない。牽制しあって手が出せない状態が続いていると予想して敢えて一番の大通りを進むことにした。
村の規模は確かに大きい。しかし暫く進んでみても似たような建物が並んでいるだけで目的としていた大きな建物は影も形も見えてこなかった。
自分たちの予想が外れたかと思い始めた矢先、立ち止まった十字路の先に他の建物に比べて大きな建物を見つけた。
「行ってみましょう」
視線だけで問い掛けるとタビーは臆すること無く言ってきた。
頷き進路を件の建物に続く方へと変える。
道なりに進む道中、他の参加者とかち合うかもと心配していたが、未だ村は静かなまま。寧ろその静けさこそが不気味に感じ、俺もタビーも並んで歩いているにもかかわらずお互いに話しかけることはなかった。
「門は壊れて開きっぱなしになっているみたいだな」
立派な表門があっただろうそこには朽ちて門構えと扉の名残だけがある。気になって僅かに残っていた扉の一部に触れてみると、さほど力を入れることなくポロポロと崩れてしまった。
「これだと井戸があっても“清らかな水”は手に入らないかも」
流れずに雨水が溜まっているだけの井戸は決して清らかなどではないだろう。だとしても確認してみなければわからないと自分に言い聞かせて敷地内に足を踏み入れると二手に別れて井戸の探索を開始することにした。
タビーと別れて行動することに抵抗がなかったわけでもないが、もしここに井戸がないのだとしたらすぐに別の場所に移動する必要がある。それを見越した上でより短時間で探索を終えられるようにと別行動を取ったというわけだ。
本物の井戸を見たことがない俺は漠然としたイメージだけを頼りに探す。
例え頭の中にある井戸のイメージが有名なホラー映画のものだったとしても。
「そもそもここが近代的な村だったら井戸じゃなくて水道を使っているはずだよな」
村の時代背景が解らないために、ふと思い出したのは先の戦場となった都会的な街並み。もしそれと時代を同じくしている別の場所だとすれば、そもそもからして井戸がない可能性もあることに気付いた俺は探し回る速度を上げた。
敷地の大半を占めているのは人の手が入らなくなったことで生い茂っている背の高い雑草畑。家屋は敷地の中心部にありその周りをグルリと囲むように庭だったであろう空間が広がっている。
雑草を掻き分けて奥に進む。
が、すぐに見切りを付けて引き返してまた進む。
目的の井戸を見つけられないままちょうど半分を超えた辺りで反対側から近付いてくるタビーの姿を見つけた。
「ありましたか?」
俺の姿を見つけ駆け寄ってきたタビーは開口一番そう問い掛けてきた。
「いや、残念ながら」
首を振り答える。
「そうですか」
落胆するタビーを余所に俺は一度この建物の中に入ってみないかと提案した。
ここが井戸を使っている家なのか、それとも水道が通っている家なのか。それを知ることが次の行動の指針に繋がると思えたからだ。
俺は来た道を引き返し、タビーはちょうど建物を一周するようにして再び表門へと戻ってきた。
「玄関はここを真っ直ぐですよね」
「たぶんな」
雑草に覆われているせいか表門から玄関へと一本道は隠れてしまっているようにさえ思えた。
ほぼ等間隔で地面に埋め込まれている大きな石を目印にしてどうにか迷わずに進めてる。
時間にして五分と掛かっていないだろう。ガラスに罅が入っている閉ざされた扉の前で立ち止まった。
意外なことにタビーが躊躇なく扉の取っ手に指を掛けて横にスライドさせていた。
「鍵は掛かってなかったみたいですね」
朗らかにそう言いながらズカズカと家屋の中へと入っていく。
家屋の内側に生活感みたいなものは感じられない。
既に人の手を離れてから長い年月が経ってしまっているというような風体だ。
「タビーってさ」
「なんですか?」
「ホラー系得意なの?」
「どうなんでしょう。あまり考えたことはなかったですけど、そうですね。お化けよりは人間の方が怖いと思ってますし、お化け自体怖いとは思ったことはないかもです」
「ああ…そう」
おばけよりも人間の方が怖いとさも当然に言ってのけるタビーにどう返せば良いのか困惑していると、タビーは近くの棚や箪笥を物色し始めていた。
家捜しといえば聞こえは悪いが、こういう類のゲームでの行動としては比較的ありふれた行動だといえる。
「そもそもこれはゲームですから。お化けとか幽霊とかもそう作られただけですし」
「あ、うん。そうだよね」
淡々と探索を続けているタビーに釣られるように俺もまた近くの棚や家具の中を覗き込んでいた。
「使えそうなものはありましたか?」
「いや、全く。というか何も入ってなかったよ。タビーはどうだ?」
「俺も似たようなものです。使えそうなものは何も」
「ってことは使えなさそうなものはあったってこと?」
自分とはどことなくニュアンスが違う物言いをするタビーに訊ねてみるとさほど気にした素振りもなく「ああ、それなら」と少し戻り、箪笥の中から何かを取りだした。
「こういうものならあったんですけど、いります?」
「いらない!!」
タビーが摘まんでいるもの。それは干からびたムカデのミイラだった。
虫が苦手とまではいわないが、決して得意でもない俺は即座に断ると、
「ですよねー」
タビーが適当に投げ捨てた。
どことなく疲れを感じて大きく溜め息を吐くとそのまま別の部屋へと入っていった。
外から見たときも大きな屋敷だとは思っていたが、中に入ると想像以上に広く感じられる。加えて内側の部屋になればなるほど外からの光が届いていないようで、ジメジメと陰鬱な空気が充満しているようにさえ感じられた。
灯りに使えそうな物を持ってはおらず、外から差し込む微かな灯りだけを頼りに探索を続けていると、突然ガララっと自分たちが入ってきた扉が開けられた音が聞こえてきた。
はっとして息を呑み、気配を殺す。
顔を見合わせてアイコンタクトで相談すると一度入ってきたのが何なのか確かめに行くことになった。
声を出さず、また足音を立てず移動して、玄関の方を見る。
逆光によって黒いシルエット状態でしかないが、どうやら二人組の人が入ってきたらしい。
「どうする?」
声を潜めて訊ねる。
タビーは悩む様子を見せている。
このままここに隠れ続けていても、もし今入ってきた人たちが探索を始めればすぐに見つかることだろう。それならば先んじてこちらから出て行くべきなのだろうか。
入ってきたのが人じゃなければ、それこそ何らかのモンスターが侵入してきただけなのだとすれば対処はもっとシンプルにできたはず。存外に人の侵入の方が手間取るのだとここにきて初めて実感させられていた。
「俺は右から。ユウは左から、挟み撃ちにしましょう」
悩んで悩んで得た答えは驚いたことにこちらから仕掛けるというものだった。
確かに結局は鉢合わせになる可能性が高い以上、イニシアチブを得られるのは先に動いた方であることは間違いない。
問題はまだ数多く残っているように思えるが、それを口に出すよりも先にタビーが自ら示した定位置に付いていた。
「行きますよ!」
どこからともなく取り出した形状の異なる二振りのナイフを構えてタビーが飛び出した。
「くっ、仕方ないか!」
数秒遅れて俺も飛び出す。
逆手にナイフを持った格好で襲い掛かったタビーを目の当たりにしながら俺は攻撃に移るかどうかを決めかねていた。念の為にガンブレイズを右手で掴んでいるものの、まだホルダーから抜くことはしていない。それが自分の迷いを表わしているかのようで嫌になる。
それでもとタビーと侵入者を挟むように立ち、その姿をしっかりと確認した。
「えっ!?」
「あれ?」
「む?」
三者三様に声を出し、そんな様子を目の当たりにしたタビーはどこか居心地が悪いというように目を丸く開いていた。
「すませんでした!!!!!!!!!!!!!!!」
勢いよく、また綺麗に土下座をしているタビー。
その前には困った顔を浮かべた二人の参加者、ミストという名の女性とダムルがいる。
「あー、その、申し訳ない」
本心から謝って頭を下げた。
「いえいえ。大丈夫ですよ。確かに中にいたら突然誰かが入ってきたら警戒する気持ちは分からなくもないですし」
とダムルが宥め、
「まあ、確かに。そうよね」
ミストがうんうん頷ている。
「とりあえずタビーさんは立って下さい。ユウさんも別に気にしてませんから」
「それで、二人はどうしてここに?」
「えっとぼくらはとある物を探してまして」
「そういうあなた達はどうなのよ?」
「俺たちも捜し物です」
肝心なことを隠した物言いをしているからか、話が進まない。
堪忍してカミングアウトしたのは襲い掛かったことに負い目を感じているらしいタビーだった。
「なるほど。井戸ですか。それは確かにこのくらい大きな屋敷なら備え付けのものがあっても不思議じゃなさそうですね」
「でも、残念ながら見つけられなくて」
「あれ? 入り口近くにあったのって違うの? それとももう枯れてた?」
「え!?」
ミストの言葉に思わずポカンとした顔をしてしまう。
「違った? 多分あれは井戸だと思うんだけど」
「えっと、どこです?」
「玄関から出てすぐよ。大きな木の傍。桶も滑車もなかったけど、多分間違いないと思うわ」
そうミストが言い終えるよりも前にタビーはドタドタと駆け出していた。
慌ててその後を追い掛けるとミストの言うとおり、玄関から出てすぐの場所にそれらしき石が正方形で積み重ねられているものを見つけた。
水を汲み上げる装置がないのが困りものでこれでは井戸を見つけた意味がないと思っていた俺の目の前でタビーがどこからともなく取り出した金属製のカップにこれまたどこからともなく取り出した丈夫そうな紐を結び付けて、井戸の中へと放り投げていた。
聞こえてきたのは乾いたカンッという音ではなく、溜まった水にカップが落ちたポチャンという音。
どうやら井戸は枯れたわけではないらしい。
引き上げたカップに並々注がれた水をタビーは臭いを嗅いだり、指で触れてみたりして確認している。決して口にしなかったのは一応の警戒心があった証拠だろうか。それでも自分が納得するまで確認した最後にはぺろりと舐めていたが。
「どうだ?」
「これなら使えそうです」
「よかった」
この屋敷に来た目的は果たすことができたと喜ぶ俺たちを見てダムルとミストは穏やかな笑みを浮かべている。
「ありがとうございます。自分たちでは見つけられなかったので助かりました」
ヒントどころか井戸の在りかを教えてくれたミストに礼を言って、
「今度は二人の捜し物を手伝いましょうか?」
と訊ねてみた。
無論断られることもあると理解している。それでも一瞬も悩む素振りを見せずにダムルが、
「良いのですか?」
と前のめりになり、ミストは少し考える素振りを見せると、
「お願い。正直あたし達だけだとお手上げだったから」
詳しい話を聞くために今一度建物の中に戻る事にした。
長年使われてはおらず、残っているテーブル等も埃を被っているとしても表で話すよりは安全と判断して明るいおそらくは食事処だったであろう部屋で向かい合う。
「ことの始まりは彼女が“聖職者”という役職だったことがきっかけです」
そう端を発したダムルの言葉に俺とタビーは驚きを隠せない。そんな二人の様子に気付いたのかミストが「どうしたの」と声を掛けてくる。
「実は……」
タビーが同じ“聖職者”という役職を与えられていること。その能力を使うために清らかな水を求めてここに来たことを説明した。
「驚いた。同じ役職を持つ人が複数いたなんて」
素直な感想を口にするミストの隣でダムルが表情を険しくしていた。
俺もその表情の変化に気付いたが、ここで二人を問い詰めたとして意味は無いと敢えてスルーすることにした。
「ダムルさんはどんな役職だったんです?」
「ぼくは“騎士”です。数は限られていますけどプレイヤーからの攻撃を防ぐことができるんです」
「それは心強いですね」
「実はそう使い勝手がいい役職って感じじゃないんですよね。自分が対象と捉えた攻撃者から指定した対象に対する攻撃だけを防ぐことができるだけで、誰からの攻撃でも防げるわけじゃないんですよ」
「思いっきりピンポイントの防御ってわけですか」
「そういうことです。ユウさんは?」
使えるか使えないのかわからない能力だと言って憚らないダムルが訊ねてくる。
「俺は“戦士”。できるのは対モンスターの安全地帯を形成することです」
「それは――」
「ただし、使用するにはモンスターを狩る必要があって、どのくらい狩ればどのくらいの安全地帯を作れるのかは不明なんですが」
「それは――」
同じ言葉を違うニュアンスで言うダムルに俺は苦笑いを返していた。
「ミストさんの能力はタビーとは違うのですか?」
「そうみたいね。あたしは結界を作るってなってるし、あなたと似たようなものじゃないかしら」
「条件は?」
「お札」
「はい?」
「だからお札なの。ほら神棚とかに飾られているやつ、知らないの?」
「いえ、知ってはいますけど、それをここで探す必要があるってことですか」
「そうよ。旧家の屋敷っぽいここならあるかもと思って来たってわけ」
「ダムルさんとはいつ合流を?」
「この村に来て比較的すぐよね?」
何かを思い出すような素振りで答えるミストにダムルが続く。
「最初の時にはユウさんたちと協力したから上手くいったわけで、それなら今回も誰かと協力できればいいなと思っていたら近くの建物から彼女が飛び出してきたんです」
ダムルの言葉に何があったのかとミストを見た。
「だって苦手なんだもの。ネズミ」
「はぁ」
顔を伏せて呟くミスト。
これだけ人気の無い村だ。野生の動物だって繁殖していることだろう。
「あれが野良猫とかだったらまだ可愛げあったのに!」
などと言いながら怒るミストを余所にダムルがこちらに向き直る。
「ぼくらよりも先にここを探索していたようなので一応聞きますけど、お札みたいなものを見ませんでしたか?」
俺とタビーは顔を見合わせてから首を横に振る。
生憎と探してもいなかったものを思い出せるほど記憶力は良くない。
その代わりとでも言うようにまだ足を踏み入れていない部屋が残る屋敷をダムルとミストを含めた四人で探索してみることとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レベル【24】ランク【3】
HP【10140】(+320)
MP【9050】(+770)
ATK【296】(+1810)
DEF【258】(+1880)
INT【282】(+900)
MND【209】(+1110)
AGI【336】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【1】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇