表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
610/665

円卓の生存者篇 01『十三人の参加者』


 舞台は中央に吹き抜けとなっている広大な広場がある三階建ての洋館。

 一階にある最も大きな部屋で初めて顔を合わせることになった十三人の男女。

 本物の炎なのか、あるいはそう見えるように作られている灯りなのか。いくつものオレンジ色をした光に照らされている部屋にある大きな丸いテーブルに付いた男女は探り合うように互いに視線を送り合っている。


「えっと、まずは自己紹介でもしましょうか」


 そう口火を切ったのはどこかの吟遊詩人を彷彿とさせる装いをした二十代半ばほどの男性だった。といっても彼の外見がそのまま実際の外見通りというわけでもないはず。あくまでも彼が選び作り上げたキャラクターとしての見てくれなのだろう。

 穏やかで人当たりの良さそうな顔つき。筋肉質というよりも痩せ型の体。柔和な印象を与える声。緑色を基調とした装備のなかでもつばが広くて大きな羽根がアクセサリとして結び付けられている帽子が一際目立つ。


「私は“スノール”と言います。このテストプレイにはとある伝手で参加することになりました」

「伝手って何だよ」


 何かを誤魔化すような笑顔を振りまいているスノールの言葉に斜め向かいの席に付いている別の男が突っかかっていく。


「あ、説明不足でしたね、すいません。実は私はとある配信者事務所に勤めてまして、今回のテストプレイの結果によって正式にリリースされた際には所属しているタレント達で実際に配信させてみようということになってですね。そこで前から【ARMS・ONLINE】をプレイしている自分に白羽の矢が立って」

「配信者事務所? それってどこ?」


 今度は十代後半くらいの女性がスノールに訊ねた。


「あ、はい。“ぼーど”っていう会社なんですけど」

「知らなーい。って、あんたは知ってる?」


 女性が隣に座っている大人しそうなショートカットの女性に聞いていた。


「知りません」

「だよねー」

「ははは。まだまだ弱小事務所ですから。ですが、これからもっと大きくなっていく予定なので」


 ケラケラと遠慮なしに笑う女性に対しても社交辞令的な曖昧な笑みを浮かべてスノールが席に座る。

 殆ど間を開けずに座ったスノールに入れ替わるように隣の席に座っていた男がすっと立ち上がった。


「次は僕ですね。僕は“えんぺえ”。僕はフリーでゲーム関連の記事を書いています。僕も【ARMS・ONLINE】は経験者です。まあ、全然強くはないんですけど」

「へえ、じゃあゲームライターなんだ」


 興味深いというように目を輝かせて先程スノールに声を掛けていた女性が言った。


「いえいえ。そんな立派なものではないです。僕が個人で気になったゲームを紹介するホームページを運営しているだけですし」

「だとしてもテストプレイに呼ばれるだけの人物ではあるということだね」

「ええっ! そんなそんな」


 ふと離れた場所から自身を称賛するかのような言葉が投げかけられて慌てて否定したえんぺえがどこか照れくさそうに笑った。

 えんぺえの容姿を一言で表わすのならば“地味”だろうか。一つとして装飾もない黒色のパーカー風の上着。ズボンは現実でも簡単に再現できそうな黒色のスウェットパンツ。縁のない丸いレンズの眼鏡もまた彼の個性を消してしまっているかのようだ。

 それ以上何を言うわけでもなくえんぺえはそっと座る。


「結構サクッとした自己紹介なのね。まあいいわ、次はあたしってことよね。あたしは“ミスト”。それなりに【ARMS・ONLINE】はプレイしているわ。それにあたしはその二人みたいに仕事じゃなくて純粋にプレイヤーとして公募からの参加したのよ」

「公募ですか?」


 立ち上がらずに告げたミストにスノールが驚いたというように返していた。


「あたし以外に公募から参加した人もいるんじゃない? 少し前に公式サイトでテスター募集のバナーができていたでしょう。何人受かるのかは知らないけど結構数応募があったって聞くし、当選したのはラッキーだと思っていたんだけど。まさか仕事として応募しなくても参加してくるような人がいるなんて思わなかったわ」


 公募以外の手段でテストプレイに参加してきた人に対して幾許かの不満を隠そうともしない彼女はぐるりとテーブルに着いた面々の顔を見回した。

 ミストはカミナリ模様が描かれた軽鎧を纏っている女性だ。背中まで伸ばしている毛先が赤くなっている金色の髪。先の二人を思えば彼女はまさしくプレイヤー然とした出で立ちをしている。


「まあまあ、仕事で参加する方がいるのもテストプレイだからこそって感じがしませんか?」


 などとミストを宥めるように口を開いたのは恰幅の良い男性。何かの毛皮なのか黒く柔らかそうなコート風の上着を装備している。


「あなたはどっちなのよ」

「ぼくですか? ぼくも公募です。いやあ、まさか当選するとは。もしかすると今年の運を使い切ってしまったんですかね。はっはっは」


 大口を開けて笑う男性の手をガッと掴みミストが、


「あなたは仲間ね」


 などと口にしている。早々にグループ分けのようなものが形成されていくことを危惧しながらも黙って事の成り行きを見守っていると意外なことに恰幅の良い男が大袈裟に首を横に振った。


「みんなテストプレイに参加する仲間みたいなもんです。まあ、今回のテストプレイの内容ではすぐにそうも言っていられなくなりそうですけど。まだゲームが始まってないんですから、仲良くしてたほうが良いはずです。違いますか?」

「そ、それもそうね。ごめんなさい。言い掛かりして突っかかったりして」

「いえいえ! 僕は大丈夫です!」

「私も気にしてはいませんよ」


 男に諭されてミストが頭を下げるとえんぺえは恐縮しきった様子で、スノールは穏やかそうな笑みを崩さずに答えていた。


「では改めて。ぼくは“ダムル”。ミストさんと同じで公募から参加したプレイヤーです。メイン武器は…って、それは今は話さない方が良いんですよね。こうして専用武器が隠されているわけですし」


 どこか不安げに腰に手を伸ばしたダムル。そこには普段彼の専用武器があるのだろう。ダムルの装備は剣道の道着のような服。胸当て、籠手、脛当てなどの防具が備わっているが、いかんせん目を惹くのは大きく突き出したお腹だろう。体型すら自由に変更できるキャラクターであえてあそこまで肥満体型を表現している人は正直かなり珍しい。

 ふと彼に倣うように自分の腰の後ろに手を回した。そこには普段ガンブレイズが収まっているホルダーがある。それが今はホルダーごと消えてしまっている。それだけではない。もう一つの専用武器であるガントレットも同様に左手には装備されていない。


「次はわたしですね」


 座り直したダムルが隣に座っている女性に視線を向ける。すると凜とした声で答えて女性は立ち上がった。

 特出すべき特徴など何もない装備にシンプルな黒髪ロングの女性だ。


「わたしは“ロビーナ”。ミストさんたちには申し訳ありませんれど、わたしがテストプレイに参加している目的は仕事です」

「仕事というと?」

「取材です」

「つまりは彼の同業者というわけですか?」


 ダムルが視線でえんぺえを見るとロビーナは申し訳なさそうに首を横に振った。


「では何なのかお尋ねしても?」

「わたしの職業は漫画家です」

「それは凄い。どのような作品を?」

「いえ、その……」

「どうしました?」


 と訝しむようにスノールが問い掛ける。


「正直に白状しますと、私はまだデビュー前なんです。参加したのは編集さんが漫画の参考になるから参加してみたらと言ってきただけで、【ARMS・ONLINE】もこのためにキャラクターを作った初心者でして」

「なるほど」

「なんだ。シロウトかよ」


 と吐き捨てるように言ったのは最初にスノールに突っかかった男。その一言を耳にして今度はスノールが不快感を露わに敢えて聞こえるように、それでいて吐き捨てるように口を開いた。


「君は先程から口と態度が悪いな」

「何だ。文句あるのかよ、オッサン」


 自身を窘めるような物言いが勘に障ったのか、男はばっと立ち上がり身を乗り出した。突然漂い始めた一触即発の雰囲気には今にもスノールに殴り掛かってしまいそうな危うげさがある。


「彼の言うことなど気にしない方がいい。誰だって初心者の頃はあるものだし、そもそも今回のテストプレイのようなものでは様々な状態のプレイヤーが集まった方が良いはずだからね」

「は、はい。ありがとうございます」

「無視すんじゃねえ!」


 テーブルを超えて男がスノールの襟元を掴んだ。


「止めるんだ」


 咄嗟に男の襟首を掴み返そうとしたスノールだったが聞こえてきた男性の声に冷静さを取り戻したかのように手を下ろした。


「あ?」

「君が何に苛ついているのか知らないが、そのような態度をしていては余計な軋轢を生むだけだということが解らないのかね」

「んだと!」


 スノールを掴む男の手を掴み返したのはきちっとしたスーツを着た男性。想定外の力の強さなのだろうか。手を掴まれた男が微かに表情を歪めた。


「はぁ、私の順番はまだなのだがね、仕方ない。先に名乗らせてもらっても良いだろうか」


 一言断りを入れて全員の顔を見回した。

 無言を肯定と受け取った男が軽く会釈して言葉を続ける。


「ありがとう。私は“イグルー”。普段はしがないサラリーマンでテストプレイに参加したのはミスト君やダムル君と同じで公募からとなる」

「んなこと聞いてんじゃねえよ! 俺の手を放しやがれ」

「では君もその手を離したまえ」

「んなっ」

「タイミングを合わせるぞ。ほら、3、2、1、0………これでいいだろう」

「チッ」


 パッと手を放したイグルーに釣られて男もまたスノールを掴んでいた手を放した。


「ふっ。よくできました」

「んだと!」

「さて、次は君の番だね」

「おい! 無視すんな!」


 突然話の矛先を向けられてびっくりした表情を浮かべたのは十代後半くらいの女性。肩くらいで切り揃えられている藍色の髪に渦模様が特徴的な軽鎧を装備している。一朝一夕で作れるような防具でもないことからも彼女もまた元来のプレイヤーであることはあきらかだ。


「あー、その、アタシは名前“ストリ”。アタシも公募からだよ」


 険悪な雰囲気に呑まれたのかストリが若干しどろもどろになりながらいった。


「先に言っておくけどアタシも【ARMS・ONLINE】のプレイヤーだよ」


 たったいま起こった諍いに萎縮してしまっているのか最初にスノールが自己紹介した時の事務所云々という発言に対して興味津々と話しかけていた時とはいささか受ける印象が違う。それでも自分の名前を告げて暫くすると本来の気性が戻ってきたのか声には出さないものの周囲を探るような視線を向けていた。

 数拍の間を置いてストリの隣に座っている小柄な女性がすっと立ち上がった。

 纏っているのは聖職者が着るようなローブ。ただし色合いは空色。一見ぶっきらぼうとも取れる言い方で、


「“ラーザ”。私も公募から」


 と短く小さく告げた。

 それ以上何も言うつもりは無いのか、ラーザは目深に被っているフードを被り直すような素振りを見せてから俯くように座っている。


「さて、次は君だ」


 ラーザの自己紹介が終わるのを見届けてイグルーが立ったまま自身の席に座っている男を見て告げた。


「“突貫”。これに参加することになったのは仕事だ」


 どかっと両足を投げ出すように椅子に座りながら吐き捨てるように言い放った。

 改めて見た突貫の格好はあまり真剣に装備を集めたという感じではなく、その時その時で手に入れた防具のなかで性能の高いものを適当に装備しているといった風貌だ。それ故に統一感といったものは微塵もなく、また手入れが成されている感じも受けない。


「へえ」

「んだよ」

「いや、納得してしまっただけさ。君はこういうゲームには興味が無いように見えていたからね」

「キョーミなんてねぇよ。でもやらねえとクビにするって社長(オヤジ)に言われたらやるしかねえだろうが」

「では君もロビーナ君と同じ初心者だということかい?」

「違えよ」

「ふむ」

社長(オヤジ)に言われて色んなクエストをやってんだよ。だから俺はシロウトじゃねえ」


 突貫の苛立ちはやりたくもないことをやらされていることからなのか。それとも本当の理由が別にあるのか。突貫の人となりを知らない俺は彼の本心など知ることなどできるはずもない。ふてくされたようにテーブルに肘を付いて集まっている視線から逃れようとそっぽを向いた。


「次は俺の番でいいですか?」

「お願いできるかな?」

「わかりました」


 そう言って立ち上がったのは今回初めて目にする獣人族の少年だった。実際のプレイヤーの年齢はわからないが、キャラクターの外見だけを見るのならば年端もいかない子供であるかのようだ。装備はどこかの隠密風の防具。口元を覆うためのスカーフや足音を立たせないための柔らかい靴底をしたブーツ。ゆとりのある袖口はいわゆる暗器を隠すためのデザインなのだろう。それに加えて音声にも多少のエフェクトをかけているのか、あるいは実際に声が高いのかはわからないが、成人男性にしては珍しいと言わざるを得ない声色はある意味でイメージ通りの声をしていると思えた。


「俺は“タビー”。皆さんと同じように言うなら俺も【ARMS・ONLINE】のプレイヤーで公募から参加しました」


 放す度に色素の薄い茶色髪と同じ毛並みをした犬耳がぴょこぴょこと可愛く動く。顔には動物的な特徴がないことからもキャラクタークリエイトは比較的人寄りの見た目にしているらしい。


「普段は高こ……いえ、学生をしています」

「ねえ?」

「はい。なんですか?」


 タビーが着席した途端、目を輝かせたストリが興味津々と言った様子で声を掛けていた。


「タビー君でいいかな? ねぇ、キミの見た目ってリアル寄り? それともリアルと全然違うの?」

「そういうことを聞くのはマナー違反」


 小さい声でラーザに注意されるもストリは我関せずといった様子でタビーに質問を繰り返している。どうやらストリは自身に興味があることにたいしてのみ前のめりになってしまう性格のようだ。


「いーじゃないの。ねー。キミだってそういうの気にしないよねー?」

「い、いえ。俺は……」

「残念だったな。コイツは答えたくないんだとよ」


 タビーにはぐらかされているストリを見て突貫が煽るようにいった。


「はあ!? アンタには聞いてないんですけど」

「ああ!?」

「それよりも。教えてよ。どうなの? リアルのキミもそのキャラクターみたいに可愛い見た目してるの?」

「違います!」


 顔を真っ赤にしてタビーが叫ぶ。


「あらら。それじゃあ、声はどうなの? 変えてるの?」

「そこまでだ。ラーザ君が言ったように過度な詮索はマナー違反だ。それに当人から嫌がられているのにしつこく聞くようなことではないだろう」


 一向に怯む素振りのないストリに痺れを切らしたというようにイグルーが制止した。

 ふと周囲を見回すと自身の素振りを非難するような視線が向けられていることに気付きストリは何か小さくブツブツ文句を言いながら引き下がっていた。


「えっと、その。気を取り直して。次は貴方の番です。お願いできますか?」


 軽く咳払いをしてスノールがタビーの横の席に座っている初老の男性に声を掛けた。

 どんなに周りが騒がしくとも我関せずというように無言を貫いていた初老の男性がゆっくりと目を開ける。

 紅い瞳に縦長の瞳孔。どうやら彼は人族ではなく魔人族であるらしい。装備しているのは教会などで見かける神父服。白髪をオールバックにしていて表情は若干険し目に見える。座っていてもその下にある鍛え上げられた肉体は隠しきれておらず、また座ったままであっても背の高さは十分に窺い知ることができた。


「“主智(ずち)”だ。私が参加したのは公募から。現実の職業に関しては秘密とさせてもらおう」


 重低音のバリトンボイスできっぱりと言い切った主智の圧に飲み込まれ先程タビーをからかったストリも、誰彼構わず突っかかっていた突貫も座ったまま口を閉ざして静かなものだった。


「後は君達二人ですね」


 スノールの一言に続き、全員の視線が俺と隣に座るもう一人の人物に集まった。

 順番的に先に自己紹介するのは俺。椅子から立ち上がり、さっと全員の顔を見回してから始めることにした。


「俺は“ユウ”。テストプレイに参加したのは仕事です」

「君の仕事を聞いても?」

「まあ、なんでも屋みたいなものです。たまにこういうテストプレイに参加するような仕事が回ってくるので俺が担当しているって感じですかね」


 できるだけ人当たりがよく受け取って貰えるように言うと他の面々の一部が興味深そうな表情を浮かべたが、すぐ隣にいる主智が目に入ったのか、残念なことに話しかけてくることはなかった。


「えっと、次、どうぞ」


 着席して隣にいる兜を被ったままでいる人物に促した。


「“みちかぜ”」


 男とも女とも取れない中性的な声が、兜によって籠もった音声として聞こえてきた。


「えっと、他に何か言っておくこととかは?」

「ありません」


 みちかぜの装備は全身鎧。しかもかなり手が加えられた一品だ。少なくとも初心者などではなく、一定の経験を経ているプレイヤーが纏うような鎧であることはあきらか。身長はさほど高くはないらしいが、それだけで男女の区別を付けることは難しい。加えて全身すっぽり鎧に隠れているために種族すら判別不可能な謎の人物ということになってしまう。

 よりよって最後の一人がこの風貌なのかと困惑してしまったのは誰にも言えない秘密だ。


「これで全員かな」


 流れで仕切るスノールの言葉に全員が頷く。


「これからどうすればいいんだろうね?」


 そう言って天井を仰いだのはダムルだった。彼の体重が掛けられたことで椅子がキィっと鳴いた。


「すぐに何か発表がありますよ」


 とえんぺえが返すとその言葉通り、全員の手元にコンソールが出現した。

 それだけではない。

 部屋の壁に掛けられていた横長の絵画がコンソールに映し出されているものと同じ映像に切り替わった。

 どっちを見ても構わないということのようだが、この場にいる大半のプレイヤーの視線は手元のコンソールではなく絵画へと集まっていた。


「『このクエストはサバイバルである』」


 スノールが絵画に浮かぶ文言を読み上げ始めた。


「『勝利条件は生き残ること。ただし、参加者の中には“裏切り者”が混ざっている。生き残ったプレイヤーの中に裏切り者がいれば勝者は裏切り者のみとなる。裏切り者ではないプレイヤーが勝利するには裏切り者を退場させなければならない』」


 絵画の文言、そしてスノールの言葉に一同にざわめきが起こった。


「『裏切り者はクエスト開始後に決定される』ですか。つまり今はまだ誰が裏切り者なのか裏切り者本人にすらわからないということですね」


 一瞬、疑心暗鬼になりそうになるも、まだ不明であるという言葉を受けて張り詰めた空気が微かに揺るんだ。


「続きを読みます。『戦闘は一定間隔で開始されるセクションごとに可能となり、セクションごとのインターバル中では攻撃が不可能となる』」

「つまり、そのセクションってやつで裏切り者を倒せばいいってことよね?」


 ミストが好戦的な物言いで訊ねた。


「基本的にはそうらしいね。尤も自身が裏切り者の場合は生き残ることが最重要課題となるみたいだけど」


 答えたダムルにイグルーが小さく「だが」といった。


「戦わずに逃げ回っていた場合は裏切り者であると思われて狙われてしまう可能性が高い」

「でも、私は初心者なんですよ。レベルだって、装備だって他の人に比べて全然――」

「シロウトが出てくるからそーなるんだよ」

「そんな――」


 突貫の挑発するような物言いに愕然となるロビーナ。しかしその発言も次にスノールが読み上げた文言により今度は突貫が愕然としてしまうことになった。


「安心してください。どうやら個人の装備やレベルは関係がないようになっているらしいですよ」

「なに!?」

「レベルは全員が一定値で固定。使えるスキルやアーツも限定的になるらしいです」

「はあ!? そんなバカな」


 手元のコンソールに齧り付くように見つめる突貫が「マジかよ」と呟きながら崩れ落ちた。

 改めて使えるスキル、アーツの確認が必要だと考えながら、残り少しとなった絵画の文言に目をやった。


「『アイテムの持ち込みは不可。セクション内で手に入れたアイテムのみ使用可能』。つまり事前準備は殆ど意味を成さないってわけですか」

「全員が同じスタートラインってことですね」


 えんぺえの言葉に安心した人が半分、反対に不安を抱いた人が半分。その中でも明らかに不満を漏らした者もいた。

 とはいえ与えられたルールはプレイヤーに変えられない。ルールを受け入れて自分がどう動こうか考えた方が何倍もマシだ。


「最初のセクションの開始は五分後。それまでに各々準備を終えろということらしいですね」


 準備と言われても何をどうすれば良いのかわかっている人は誰もいなかった。

 手持ち無沙汰になりながら部屋を歩き回っている人もいれば、他の人と顔をつき合わせることを避けて座っていた椅子を持って部屋の隅に移動した人もいる。

 俺はそのままの場所で全員の顔を見渡して顔と名前を頭の中で復習することにした。


 スノール。配信者事務所勤務でテストプレイに参加したのは後に所属タレントにプレイさせるための事前調査らしい。真面目そうな見た目の男性で参加者のなかでも年長者らしい振る舞いをしている。

 えんぺえ。普段は自身のホームページにゲームの記事を書いている青年。テストプレイに参加したのはそれを記事にするため。積極的に前に出ることはしないが、人当たりはいい。

 ミスト。事前に行われた公募から参加した女性。【ARMS・ONLINE】の中堅のプレイヤーを自称し、テストプレイに公募ではなく仕事で参加した人に対してわだかまりを持っていたが、既に解消済み。

 ダムル。恰幅の良い道着を着た男性。人当たりの良さそうな雰囲気がある。

 ロビーナ。デビュー間近の漫画家で編集に促される形で参加した女性。今回のためにキャラクターを作ったばかりの初心者。

 イグルー。普段はサラリーマンをしていて公募からテストプレイに参加した。キャラクターの外見以上の落ち着きを見せていることからも現実ではもっと年上である可能性がある。

 ストリ。十代後半くらいの女性。渦模様が描かれた軽鎧を纏っている。公募から参加。

 ラーザ。空色のローブに付いたフードで顔を隠して目立たないように振る舞っている女性。公募から参加。

 突貫。苛立ちを隠そうともしないで周囲と衝突しがちな男性。【ARMS・ONLINE】のプレイヤーではあるが、自分の意思でプレイしていたわけではないらしく、装備は全身バラバラ。テストプレイの参加も半ば強制的のようだ。

 タビー。確認できた唯一の獣人族の少年。公募から参加。

 主智。神父服のような装備を纏った魔人族の男性。公募から参加。

 みちかぜ。全身鎧のプレイヤー。性別、正体、参加理由、全てが不明。

 それに俺を加えた総勢十三人が今回のテストプレイの参加者だ。


 程なくしてゴーンゴーンッと等間隔で鐘の音が鳴り響いた。

 それぞれが顔を上げて他の人達の顔色を窺っている。


「始まった」


 ラーザの小さな呟きが一際大きく聞こえてくる。

 眩い光が全員を包み込んだ次の瞬間、洋館の一室はもぬけの殻となっていた。


 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【24】ランク【3】


HP【10140】(+320)

MP【9050】(+770)

ATK【296】(+1810)

DEF【258】(+1880)

INT【282】(+900)

MND【209】(+1110)

AGI【336】(+1130)


【火耐性】(+10)

【水耐性】(+50)

【土耐性】(+50)

【氷耐性】(+150)

【雷耐性】(+100)

【毒耐性】(+100)

【麻痺耐性】(+200)

【暗闇耐性】(+150)

【裂傷耐性】(+40)


専用武器


剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)

↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】


防具


頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】

胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】

腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】

脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】

足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】

一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】


アクセサリ【10/10】

↳【大命のリング】(HP+500)

↳【魔力のお守り】(MP+500)

↳【強力の腕輪】(ATK+100)

↳【知恵の腕輪】(INT+100)

↳【精神の腕輪】(MND+100)

↳【健脚の腕輪】(AGI+100)

↳【地の護石】(地耐性+50)

↳【水の護石】(水耐性+50)

↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)

↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)


所持スキル


≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。

↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。

↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。

≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。

↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。

≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。

≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。

≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【1】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ