大変な改変は異変!? 40『王の消失』
太陽の光が透過するほどに薄い翼膜を持つ翼を広げたフェレスの姿は自分でも不思議なくらいに不気味に見えた。
翼を広げた人型の存在などというものはこの世界ではありふれたものであるはずなのに、どうしてもフェレスだけは異質な存在に思えてしまう。
まるでこの世界のものではないような。
「耐えてみせろ」
残酷なほど冷たい声の予告を受けて瞬時に身構える。
上空にいるフェレスが手を広げ、地上にいる俺たちに向けて無数の光を矢の如く撃ち出してきた。
狙いがかなり大雑把な攻撃だったとはいえ俺や太古の王が立っている場所はおろか全方位に降り注ぐ光を見れば安全な回避などできるはずもなく、出現させた【フォースシールド】に隠れて言葉通りに耐えることしかできないのは明らか。
エネルギー状の盾である【フォースシールド】は一定のダメージ値を超えた場合消えてしまう。直後にもう一度発動させれば防御を再度行うことも可能だが、相手の攻撃が継続して、かつ自身がそれを受け続けている場合は異なる。少なくとも攻撃から逃れるか、あるいは何らかの手段で再度防御するまでに間を作り出すかしない限り一度消された【フォースシールド】は発動しない。
バリンっとガラスが砕けるような音が響き、それと同時に【フォースシールド】が防いでいた光が迫ってくる。
顔や胸を守るべく両腕をクロスさせるような格好で身を守ると同時に両腕に断続的な衝撃が襲い掛かった。
自身のHPゲージの減りを視界の端に確認しつつ俺は近くの太古の王を一瞥する。
俺と同じような格好で光を受け止めている太古の王の頭上に浮かぶHPゲージはみるみるうちに留まることのない減少をみせていた。
「っつ、この!」
どんなに耐えていても降り注ぐ矢の勢いが弱まる気配すら感じられない。ならば何か打開策を講じるべきだ。そんな風に考えた俺が取ったのは自身の直感に従った行動。
握りしめていたガンブレイズを銃形態に変えて矢が直撃することを覚悟した上で狙いを上空にいるフェレスへと向けた。
顔に当たる矢に怯むことなく意思の力で目を見開く。
引き金を引いて撃ち出した弾丸は微かに狙いを逸れたものの手を翳してるフェレスの肩に命中した。
着弾の衝撃と与えたダメージによってフェレスはバランスを崩して上空でよろめいている。この一度の攻撃によってフェレスの攻撃は中断されて降り注いでいた光の矢は止まった。
「まだだ!」
この好機に体勢を整えるべく回復することもできる。だが、俺が選んだのは追撃。
繰り返し引き金を引き狙いを定め直して撃つ。
一度目の射撃が貫いたのはフェレスの右肩。次撃は左肩、そして三発目はこちらを向いたフェレスの腹を貫いた。
自動的に行われるリロードによって装填されている弾丸はまだ残っている。しかし続け様に行った三度の射撃の直後、俺は降り注いだ矢をその身で受けたダメージからか力が抜けてしまったかのようにがくりと膝から崩れ落ちてしまった。
「しまっ――」
すぐにでも立ち上がろうとしても足に力が入らない。それでも強引に立ち上がろうとしてまたしてもがくりと体勢を崩してしまう。
体を支えるためにとガンブレイズを剣形態に変えて逆手に持つことで杖代わりにしてようやく立ち上がることができた。
とはいえどこの状態では直ちに攻撃に移ることなど夢のまた夢。
せめてもの抵抗だとフェレスを睨み付けようと顔を上げてみると、それまで宙に浮かび悠々とこちらを見下ろしていたフェレスが忽然と姿を消していた。
「どこに行った?」
慌てて周囲に視線を巡らせる。
真っ先に見たのは後ろ。不意打ちをするのならば最もポピュラーなのが背後だからだ。しかしそこにもフェレスはいない。ならばと次に見たのは前方。敢えて正面からの攻撃を仕掛けてくることもあると予測を立てて目を凝らすも、やはりと言うべきかそこにフェレスはいなかった。
「ぐおっ」
そうこうしている間に男の悲鳴が聞こえてきた。
声がした方に目をやると飛び込んで来たのは暗い朱色の刀身を持つ剣を太古の王の体に突き立てているその様だった。
苦悶の声を漏らしながら地面に押し伏せられている太古の王。フェイスレスとなっているその胸から流れているのは血の代わりの灰。
「やれやれ。あの程度の攻撃を受けただけでその様か」
嘆かわしいと頭を振ったフェレスを仮面に隠れた顔で苦々しげに睨む太古の王は突き立てられた剣をガッと掴み、
「だが、これで逃げられまい……やれ!」
一瞬、こちらを向いて叫んだ。
まだ脚は満足に動かせそうもない。こんな感覚が続いているとすればこれは未知の状態異常を受けているも同然のように思えてくる。
動けない状況と現実は変えられないとしても、ただ棒立ちになるくらいはできるはず。支えとしていたガンブレイズを再び銃形態に変えてフェレスを狙い躊躇なく引き金を引いた。
撃ち出される弾丸がフェレスに当たる直前、フェレスが立っている空間が歪み、その姿が一瞬にして消えた。
「がはっ」
勢いよく剣が引き抜かれたことで大量の灰が宙を舞う。
虚空へと消えていく弾丸を一瞥してすぐに消えたフェレスの姿を探すべく辺りを見回したが、俺がフェレスを見つけるよりも先に背中に不快な衝撃が走った。
立つことはできても動くことのできない現状、その衝撃は容易く俺を吹き飛ばす。
地面を転がった俺は見た。
姿を消したフェレスが暗い朱色の剣で俺に斬り掛かっていたのを。
光を受け止めた時に比べての大きなダメージに焦りを覚えながら、この瞬間に回復するかどうかを考える。数が限られている回復アイテムを無為に使うことは憚られるが、回復をケチって倒されてしまっては元も子もない。
見極めるべきはアイテム使用のタイミング。ダメージを受けたとはいえ未だに六割近くHPが残っているのならば、ここはまだ使用するべき時ではない。だがこの後に現状では過剰分となる最大値の三割ていどのダメージを受けることがあるかどうかは怪しいところだ。
結局は自分の決断次第。
使わないと決めたのならばそれに相応しい動きをすればいいし、使うと決めたのならば余計な逡巡などする必要はない。
「まだ…行けるだろ……俺!」
自分を鼓舞して起き上がる。
気付けば全身に残っていた動きづらさは消えていた。
「せいやっ!」
胸を掴み上半身だけを起こしたまま動けない太古の王を余所目にフェレスへと斬り掛かる。
今度もまた一瞬にして移動して躱されるだろうと思っていた斬撃を意外なことにフェレスは正面から受け止めていた。
「<セイヴァー>」
剣同士で鍔迫り合いを繰り広げている最中、斬撃アーツを発動させる。
刀身に宿るライトエフェクトがガンブレイズを握る俺の顔を照らす。その反面、フェレスの仮面は暗い闇が瞬く間に広がっていくかのように影が差して覆い隠す。
光と影。明と暗を別つ輝きが二人の狭間に迸り、強引にお互いを押し退けた直後勢いよく振り下ろされた。
ドガンっと一際大きな音が響く。
剣の激突が巻き起こす衝撃が両者を後ろへと押し返した。
「ふっ」
短い息の中に不敵な笑みを見た。
トントンッと軽快な足取りで姿勢を正したフェレスがまたしても歪みの中に消えた。
「どこから来る!?」
目だけを動かして全方向に注意を向ける。
耳を澄ませて微かな足音を聞き取ろうと意識を集中させた。
「そこだ!」
じゃりっと細かな石を踏み付けた音がした方へとガンブレイズを突き出す。
「おっと」
微かに驚いた声を出してフェレスは突き出されたガンブレイズを暗い朱色の剣で受け止めた。
「良い勘をしているな」
「勘なんかじゃないさ」
伸ばした手をそのまま横に振って切り払う。
剣先を絡めて繰り出されたその一撃は並みの相手ならば獲物を弾き飛ばせていたはずだ。しかしガンブレイズが暗い朱色の剣の切っ先を掬ったその刹那、またしてもフェレスは歪みの中に姿を消した。
「当ててみせる!」
銃形態に変えて引き金を引く。
狙ったのは誰もいなかった場所。歪みの中に姿を消したフェレスが現われた直後、降り立ったフェレスの足が地面を踏んだその一瞬。
「のおわっ」
出現した直後はどうしても無防備を晒してしまう。フェレスは自身が行っている瞬間移動に絶対の自信があったのか、繰り返し何度も目の前でそれを披露していた。だとしても出現直後を狙われるなどとは思っていなかったのか、驚きを隠せない素っ頓狂な声を出していた。
「<カノン>」
引き金を引き続けて射撃を繰り返すのではなく、敢えて出現地点を狙った一発の次に射撃アーツを放った。
放たれた光弾がフェレスに当たり弾ける。
大きくよろめき、その頭上にあるHPゲージもガンッと大きく減った。
「くっ」
苛立ちを隠そうともせずにフェレスはまた歪みの中に消える。
数秒の後、離れた場所に出現したフェレスを二度目の<カノン>が撃ち抜いた。
「読まれている、いや、これは――」
じゃりっとその場で足を鳴らした。
「空中にいればまだ解らなかったかもしれないな」
竜化した兜の奥でニヤリと笑みを浮かべて言い放つ。
「誘いに乗るつもりなどない。上に行ったら奴が俺を貫く算段なのだろう」
微かに頭部が動き、その視線を太古の王へと向ける。
これまで暗い朱色の剣を突き立てられた後はずっと沈黙を貫いていた太古の王の手にはシンプルな杭のような短い槍が握られており、いつでも放てるようにじっと狙いを定められていた。
「成る程。理解しよう、そして認識を改めよう。お前達は確かに脅威だ。即席の連携だというのになかなかどうして、悪くない。だが、種が解っている奇術など、子供騙しに過ぎない。そうだろう?」
くんっとフェレスが剣を持たない右手を動かした。
「がっ、あ…あぁ……」
聞こえてくる苦悶の声。
それは自身の影から出現した無数の影の棘によって全身を貫かれた太古の王が漏らした断末魔だった。
カランッとその手から短い槍が落ちる。
落ちた槍は灰に変わり、そして――。
「さようならだ。俺の劣化品」
ドサッと太古の王の全身が灰に変わって崩れ落ちた。
影の棘がゆらりと消える。
その場に残されたのは人一人分ほどの灰の山だけ。
「よかったな。これでお前はフェイスレス共が行おうとしていた侵略を防いだことになるぞ」
「だとしても、まだアンタが残っている。アンタもアイツらみたいに支配を企んでいる!」
「違うと言ったところで信じないのだろう」
「ああ。現にアンタはさっき、太古の王に代わって支配すると言ったはずだ」
「どうだったかな」
フェレスが手を正面に向けた。
すると俺の足元の影に水溜まりのように波紋が広がる。
「くっ!」
咄嗟に後ろに跳ぶ。
当たり前のように影は俺を追って付いてくるがそれは先程まで俺が立っていた場所に現われた。
太古の王を貫いた無数の影の棘。
着地した俺の眼前で揺らめいて消えた影の棘越しに見たフェレスは何が面白かったのか全身で笑っていた。
「相も変わらず良い勘をしている」
「アンタがやりそうなことは何となく解るんだよ」
「成る程。では、これはどうだ?」
まず右手を空に向ける。次の瞬間、降り注ぐ光の矢。
次に右手を正面に向けた。今度は足元の影から無数の棘が伸びてくる。
「もう一つ」
最後に右手を地面に向けた。
断続的な爆発が地面の表面を駆け巡り迫ってくる。
自分の足元にある影から伸びて消えていく影の棘を紙一重に回避し続けて走る俺を追いかけてくる爆発。その間もずっと空からは光が降り注いでいる。
【フォースシールド】では防御しきれない。何より足元から伸びる影の棘は盾で防御することは難しい。であれば、追いつかれないように速く動くのが一番だと【アンカーショット】を連続して発動させた移動を行う。
敢えて足を止めた一瞬を狙って影の棘が貫く。だがそれが出現した時には撃ち出した【アンカーショット】を駆使してさらに前へと移動していた。
逃げ回っているだけでは状況は好転しない。慎重にかつ大胆にその一瞬を見抜き、一気にフェレスとの距離を詰めていく。
「斬り裂け、<セイヴァー>!!」
瞬間移動による不意打ちを得意とするフェレスのお株を奪うような一撃がその後方左斜めの位置から迸った。
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レベル【23】ランク【3】
HP【10040】(+320)
MP【8950】(+770)
ATK【286】(+1810)
DEF【248】(+1880)
INT【276】(+900)
MND【204】(+1110)
AGI【324】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【0】
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