表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第十八章 
606/665

大変な改変は異変!? 38『オーバーフロー』


 全身を駆け巡った熱が自分の体を突き破り体外へと放出される。

 血のように赤い光の飛沫が極細の結晶に変化して霧となって自分の周囲を漂う。

 視界の全てが赤く染まったその瞬間、更なる衝撃が俺を襲った。


「うあああああ!!!!」


 痛みはなく、感じたのはただの衝撃でしかなったというのに叫ばずにはいられなかった。

 絶叫を上げる俺の声に応じて漂っていた赤い結晶が別の形を作り上げていく。

 赤い霧が消えたことで見えてきたのは僅か数秒で完成した鎧の各部。腕と腕、足と足、体と体、空中に浮かんでいる赤色の鎧と俺の体は光のラインで繋がっている。

 一瞬の静寂の中、浮かんでいる鎧が俺の体に吸い込まれるように重なった。


「あ、ぐぅ」


 まるで硬い棒か何かで叩かれたみたいな衝撃だ。

 足や手ならばさほど気にもならない程度だったが、衝撃が腹から胸そして顔へと上に行くに連れて言い表せない独特な恐怖感が襲ってきた。

 覚悟を決めると息を止めて身構える。

 そうしてできあがったのは微かに形状を変化させた新たなる竜化したユウの姿だった。


「これなら――」


 ぐっと足に力を入れた瞬間、俺は想定外の加速に襲われた。

 加速に反して風の抵抗など一切感じることなく瞬時にリーリスを通り過ぎて離れた場所で立ち止まる。

 戸惑いつつも振り返るとリーリスはゆっくりとした動きで後ろに立つこちらに向き直った。


「な、なんだこれ――」


 自分の感覚とイメージに現実との大きな齟齬が生じた。

 さっき、俺はいつものようにリーリスに向かって駆け出しただけのつもりだった。なのに俺の体は想定していなかった場所にいる。自分自身の能力値に振り回されているなど笑えない冗談だ。

 そうは言ってもがむしゃらに動くだけでは事態が好転しないのもまた事実。せめて移動くらいはまともにできるようにならなければ戦いになどなりはしない。

 まずは歩くこと。

 そんな初歩的なこと、キャラクターを作ったばかりのプレイヤーであっても意識する必要もなく自然と実行していることだ。それでも今の自分には必要なステップであるように思えた。

 おそるおそる右足を前に出してそっと地面を踏み締める。

 次に左足。

 もう一度右足。

 急加速が起こらないように慎重になることでようやく“歩く”ことができるようになった。


「ふざけているのか」


 ふと影が覆い被さる。

 間近でした声に顔を上げるとリーリスが近付き大鎌を振り上げている姿が飛び込んできた。


「いや、別にふざけているわけじゃ……」


 条件反射に答えた俺にリーリスは躊躇なく大鎌を振り下ろしてくる。

 迫る刃を前に反射的に横に跳ぶと、いつにないほど距離が開けられていた。

 いつものように回避しただけのつもりが、想定外の加速に俺は片膝を地面につけてブレーキのようにすることでどうにか制止することができていた。


「くそっ、また――」


 想定外の挙動は次の行動の邪魔となる。

 回避することで生み出せた隙を突いて反撃しようとしても、俺とリーリスとの距離は少なくとも剣形態のガンブレイズの刃が届くよりも開いてしまっている。

 それならばと銃形態に変えて攻撃しようとしても、リーリスの接近は俺がガンブレイズを構えるよりも速い。

 変形自体は瞬時に行えてもそこから攻撃に移るよりも先に振り下ろされる大鎌を前にすれば防御を迫られてしまう。


「チィ!」


 舌打ちをしながら銃身を盾代わりにして大鎌の攻撃を防御する。


「……!?」


 ガンブレイズと大鎌が激突したその瞬間、俺の体に奇妙な鼓動が迸った。

 戸惑いを悟られまいと力を込めて大鎌を押し返すとそのままガントレットを装備した左腕で殴り付ける。

 だが俺の拳はリーリスに届くことなく、いとも簡単に大鎌を回転させただけという防御ともとれないような動きでいなされてしまった。

 バランスを崩すような大振りの拳打が空ぶると前のめりになって地面に両手を付いた。

 軽いバックステップで自身に最も適した距離に立ったリーリスと今の自分の体勢を思えば、さながら処刑を待つ罪人のようではないか。

 ここから攻撃を防ぐにはどうすればいいか。一瞬の間に散々悩んだあげく、俺が取ったのはやぶれかぶれとも取られかねない突進。

 大鎌を構えるリーリスを押し退けようとするためのタックルだったが、それもまた大鎌の柄によって殴り飛ばされて防がれる。

 横からの打撃の衝撃を敢えて受けた俺は狙い通りに大鎌の刃が届かないほど後ろに吹き飛ばされた。


「まだ…もう少し……」


 自分の身に起きた変化は防御力も向上させていたのか、吹き飛ばされるほどの打撃を受けたというのに自身のHPゲージに変動は見られない。防御力に関しても自分の感覚との齟齬はあったが、これは嬉しい誤算として受け入れることができそうだ。

 身を起こすと同時にまたしてもガンブレイズを変形させてから即座に構えを取る。

 両足に力を込めて歩き出す。

 最初はゆっくりと、徐々に速度を上げて。いつしか意識しなくとも歩けるだけではなく、走ることもできるようになっていた。


「はっ」


 移動や普段の動作に比べて攻撃はあまり意識しなくても問題ない。どんなに力が上がろうともシンプルな攻撃だけに絞りさえすればある程度は戦えるはずなのだ。

 ガンブレイズを振り抜く。

 リーリスが大鎌をそれに打ち合わせる。

 二者の攻撃の激突が衝撃を生み、二人の体をその場に縫い付けた。


「ちょっとは慣れてきた…かな」


 軽く笑みを浮かべて左手で拳を作る。

 まだ少しばかり感覚のズレは残っているものの最初の頃のようなことにはならないと感じられた。


「<ブロウ>」


 左の拳に光が宿る。 

 それがアーツの光だということを知るリーリスはハッとしたように意識を俺の拳に向けた。

 僅か一瞬、打ち合っているガンブレイズから意識が逸れた。狙って作り出したその一瞬の間を縫って光を振り払うように拳を開き、大鎌の柄を掴む。

 コンマ一秒足らずの出来事。

 感覚の齟齬など忘れてしまうくらいに集中して掴んだ大鎌を思いきり強く引き寄せた。

 ぐらりと体勢を崩したリーリスに向けてガンブレイズを振り下ろす。

 大鎌で防御しようとしても俺が掴んでいるせいで思い通りに動かすことができないでいる。それでもと強引に動かそうとしたことでかろうじて俺の手からは離れたものの大鎌が浮いて攻撃に転じることも封じられたも同然だ。


「<セイヴァー>」


 ガンブレイズが光を放つ。

 斜めに振り下ろされた剣閃がリーリスを捉えた。

 ………

 ……

 …

 が、その刃がリーリスに届くことはなかった。

 突然襲った全身の硬直。それによりガンブレイズは俺の手を離れ地面に落ちて刀身に宿っていた光が霧散してしまった。


(な、何が起こった!?)


 声を出すこともできない。

 指先一つ動かすこともできない。

 だというのに意識だけははっきりとしていて動けずにいる自分のことがまるで第三者から見ているかのようにはっきりと把握することができていた。


「ここまでか」


 動きを止めた俺から数歩離れて嘆息混じりに呟く。

 今、リーリスが立っている場所は大鎌の攻撃が最も威力を発揮できる位置だ。


(拙い。やられる――!?)


 防御しようとしても自分の体は思い通りに動いてくれない。手は上がらず、全身固まったまま正面で大鎌を掲げる様を黙って見つめることしかできなかった。目を閉じようとしてもそれすら叶わず、振り下ろされる大鎌の刃が近付いてくるのを見続けていた。

 まるでスローモーションのように大鎌は弧を描いて俺の首を切り落とそうとしてくる。

 僅か数秒。長くとも十秒も必要なかっただろう。

 俺の首にリーリスの大鎌の刃が触れたその刹那、不思議なことにリーリスは何かに弾かれたみたいに大きく仰け反っていた。


(な、何が――?)


 動けない状態の俺が何かできたはずがない。


「何をした?」


 顔が見えないリーリスも何が起こったのか解らずに困惑しているような素振りを見せた。


「いや、話せないのだったな」


 さっと体勢を整えたリーリスがもう一度大鎌を携えて接近してくる。

 もう一度同じように大鎌が振り下ろされる。しかしそれもまた何かによって阻まれて弾かれてしまっていた。


「厄介だな。」


 首を斬り飛ばすことができないと悟ったのか、リーリスは固まったままの俺を一瞥すると攻撃の手を止めた。

 追撃が来ないことに一応の安堵を感じつつも、俺は一切事態が好転していないことに内心かなり焦っていた。

 現状を打破するために何ができるのか。そもそもからしてもう一度動けるようになるのか。黙るリーリスと睨み合い流れる痛いくらいの沈黙のなか、考えを巡らせていると程なくして俺の視界に変化が起きた。

 受験勉強で使う参考書に付いている赤いフィルムを通して世界を見ているかのように、目に見える範囲が全て赤く染まり始めたのだ。

 変化した世界を見て気持ち悪い。率直にそう感じる。

 まるで俺の戸惑いが伝わったのかのように、一瞬、リーリスが首を傾げた。


「お前は……」


 一歩、また一歩とリーリスが後ずさる。

 赤く染まった視界が僅かに動いた。


(えっ!?)


 なおも声は出ない。

 だが、間違いなくいつも自分が立っている高さに目線が移動していた。


(体が動いた? でも、俺は動かしていないのに)


 自分の意思に反して、あるいは全く無視して立ち上がったユウに俺は忌避感を覚えた。


「何だと!?」


 ガンブレイズを拾うこともしないでユウがリーリスに殴り掛かった。

 突然動き出したこともそうだが、己の専用武器に目もくれずに拳を突き出してきたことでリーリスの虚を突くことができたみたいだ。

 うっすらと何かを殴ったような感触がある。しかし普段の攻撃の時に比べて遙かに僅かな手応えにまるで自分という存在がユウの中から弾かれてしまっているかのように感じられた。


(やめろ! 止まれ、俺!)


 叫ぶも声にはならず、また俺の心の声はユウに届かない。

 それでいて一応は格闘の体を成しているからタチが悪い。リーリスの大鎌と曲がりなりにも打ち合えているのがその証拠だ。

 ユウが蹴りを繰り出す。

 ガンブレイズを使わず、ガントレットすら無視して自身の体を武器として使っているも同然。本来それは攻撃としての威力は発揮できないはずなのに、どういうわけかユウが繰り出すパンチやキックはリーリスに武器を用いた通常攻撃と遜色ないダメージを与えていた。


(何が起こっているんだ?)


 声が届かないことに若干の諦めを感じたことで幾許か冷静さを取り戻すことができていた。

 自分ではない誰かが操っているユウとリーリスの戦いは今や完全にユウが有利に進んでいた。苛烈に攻め続けていることで戦闘のテンポを掴み、後手に回ったリーリスはもはや防御だけで手一杯という感じだ。

 自分の意思に反した行動をし続けている状態に陥る状態異常など無かったはず。これがモニターの中のキャラクターを操るゲームならばそれも存在しうるかもしれないが、仮想の体を自身の体として使っている以上、そこに別の意思が介入することは憚られる。誰だって自分の体を勝手に動かされたくなどないものだ。何度かこういう状態になる状態異常を導入するかどうか運営は相談していたらしいが、結局不興を買うだけだろうと実装には至らなかった。

 ならば今の自分の状態は何だというのか。

 考え、思い浮かんだ単語は“暴走”。

 しかしどうすればこの状態から抜け出せるのかは皆目見当もつかない。


「まるで獣だな」


 防御一辺倒になっていたリーリスが徐に呟いた。

 大鎌を操り、ユウが繰り出す拳や蹴りを捌いていた最中、ぐるりと赤い視界が回る。いつしか空を見上げていることに気付いた俺は動かない視点を必死に見回して見失ってしまっているリーリスの姿を探した。


「速度、威力、共に申し分もない。が、動きが雑だ」


 続けてぐらりと視界が揺れる。

 それがリーリスの大鎌によって殴り飛ばされたのだと知った時には既にユウが攻撃のために駆け出した後だった。


(駄目だ。また軽くいなされるだけだぞ!)


 ユウを止めるべく心で叫ぶもユウの動きは止まることはない。

 案の定とでもいうかのように、拳を突き出したユウの体が宙を舞う。しこたま強く地面に背中を打ち付けてユウのHPゲージが減少した。


(ダメージを受けた!? ヤバい、このままじゃ俺は――)


 止まることを知らないユウが攻撃をする度にリーリスによってカウンターを受けてダメージを受ける。普通の状態ならば多くても二度くらいそれを繰り返した所で一度手を止めるはずも、今のユウは止まらない。それではこの一連の攻防が繰り返されるだけでしかない。その結果など想像するまでもなく明らかだ。

 一刻でも早く自分の主導権を取り戻さなければならない。猶予はそれほど残されてはいない。

 ユウが振り回された大鎌の柄を受けて殴り飛ばされる。その際、あり得ない事が起こった。竜化したユウの体が砕けたのだ。


(まだ外装だけだからいいけど、もし本体が破壊されでもしたら)


 流れるはずのない冷や汗が背中を伝ったような気がした。

 自身の損傷など構わずに攻撃を仕掛けて、仕掛ける度に仕掛けた方が傷付いていく。

 向かい合うリーリスの仮面のような顔に映るユウの姿が凄惨だ。全身至るところの鎧が砕けて、大小問わない無数の罅が走っている。それでいてなおも攻撃する意思を鈍らせないのだから、リーリスが言っていた獣にも劣っているようにさえ見える。


(止まれ)


 俺の意思に反してユウが駆け出した。


(止めろ)


 拳すら作らず獣が獲物に襲い掛かる時のように飛び掛かった。


「見えている」


 リーリスが振るう大鎌がユウを薙ぎ払った。

 幸いなのは砕かれていながらも防御力が健在で両断されることがなかったこと。

 無数の鎧の欠片を振りまきながらユウが大きく吹き飛ばされた。

 ガタガタと大きく視界が揺れる。見ているのは一人称視点だというのに感覚は三人称視点というチグハグな状態のなか何度も地面を転がり、ようやく止まったかと思えばガクッと視点が落ちた。


(あ、足が……)


 一瞬見えた自分の足から大きな欠片が剥がれて落ちた。まさか足がなくなったのかと思ったが、記憶の中にある先程の光景ではまだ足自体は無事だった。

 とはいえより状況が切迫したのも間違いない。心の中で何度も何度も“動け”と繰り返すもお世辞にも効果があったとはいえなかった。

 攻撃の意思が前面に表れながらも動きが止まったユウにリーリスが近付いてくる。

 気付けば獣のようなユウの息遣いが聞こえていた。


(暴走の原因は間違いなくあのキューブを取り込んだこと。つまり今の俺はある意味でフェイスレスの力を取り込んでいるようなもののはず)


 限られた時間のなかで思考を巡らせる。


(元に戻るにはキューブを取り込む前と同じ状態になればいい。けどアイテムを使ったというのなら一度使ったアイテムを無かったことにはできない)


 こうして考えているとよく分かる。知らないうちに俺もまた平常心を失ってしまっていたようだ。


(だとすれば暴走を抑えるための何か要因があるはず。それがスキルなのかアーツなのかはわからないし、今すぐそれを確認することもできない…けど)


 ユウが大きく息をする度に今も鎧が砕けて落ちている。変化した鎧がキューブによる影響なのだとすればそれが剥がれて落ちたことで少しずつではあるが感覚が戻ってきているような気がした。


(このまま攻撃を受け続けていれば俺がユウを動かせるようになる。けれどその場合キューブの力は完全に消失してしまうかもしれない。それではリーリスを倒すことはできない)


 自分の力が足りていなかったことは素直に認める。であるからこそ、キューブの力が残っている段階でどうにかする必要があるというわけだ。

 ガンっと視点が上を向く。

 近付いてきたリーリスが振るう大鎌によってユウが打ち上げられたのだ。

 ドサッと地面に落ちてユウの周りには鎧の欠片が散らばった。


(また少し感覚が戻ったか。鎧が破壊されきったら元に戻るってのはあながち的外れじゃなかったみたいだけど、俺のHPが保つのか怪しいな)


 攻撃を受け続けていればいつかはという案も、そのいつかが自身の死に繋がっているとなればあまり選びたくはない選択肢となってしまった。

 起き上がったユウをまたしてもリーリスの大鎌が殴り飛ばす。

 地面に突っ伏したその瞬間、俺の右手にはっきりとした感触が戻ってきた。


(これでどうにかなってくれよ)


 右手を素早く動かしてコンソールを表示させる。

 確認したいのは自分のステータス。何か突破口があるとすればそれはこのなかにあるはずだ。記憶の中の自分のステータスと表示されているステータスを比べる。各種能力値は大きく変動していない。次は装備。当然だがそれも変わっていない。


(見つけた!)


 既存のスキルを確認して画面をスクロールした最下部、そこにある保有スキルポイントが【0】から【1】に変化していた。

 このゲームにはスキルオーブというアイテムがある。それは公式で行われるイベント事の報酬として配布されるもので、使用者のスキルポイントを増やしたり新しいスキルを習得させたりすることができるものだ。大変貴重かつ他人に譲渡することもできない、アカウントに紐付いたアイテムということもあって獲得した時に使うことがベターとなっているそれと、先程使ったキューブはある意味で同種のアイテムだったのかもしれない。

 NPCが使うことでフェイスレス化という能力を得て、一度使うと解除不可になってしまうが、プレイヤーがそれを使うとスキルポイントを獲得できるのかもしれない。

 全てが可能性。かもしれないことでしかない。だが今はその正誤よりもわずか1ポイントとはいえそれが有ることの方が重要だ。


(頼むぞ)


 新しいスキルを習得するか、それとも既存のスキルレベルを上昇させるか。現状を打破するために最も可能性が高いのはと考えて俺が選んだのは、


「む?」


 振り下ろされる大鎌を両手で掴む。

 両足でしっかり踏ん張って、気合いを込めて立ち上がる。


「戻った!」


 思い切り叫ぶと同時に大鎌を押し返す。

 背筋を伸ばして立つユウの、俺の体を銀色の光が包み込んだ。


「どうやら賭けに勝てたみたいだな」


 光が収まり全身に亀裂が走っていた俺の体が綺麗になっていく。

 砕けて落ちている鎧の欠片はそのままに、竜化した俺の体は微かに銀色を帯びたものへと変化していた。

 ぐっと拳を握る。

 自分のステータスを見た時、スキルポイント以外にもう一つ今までになかった変化を見つけた。変身することのできる≪竜化≫というスキルにレベル表記が追加されていたのだ。レベル表記がないスキルはスキルポイントを消費することができずスキルレベルを上げられない。しかしそこにレベル表記があるのならば。僅か1レベルの変動が大きな変化をもたらすことはないかもという危惧は残っていたが、最も可能性を感じたのがこれだ。そうしてたった1レベル上げただけで劇的な変化が訪れた。

 鎧にあった亀裂が消えて、全身が変わる。暴走していたときに比べると角がなく、以前の竜化を思えばより流線型になったというべきか。黒と銀が混ざったような鎧に巡る赤色の光のライン模様。その柄もまた新しいものへと変化していた。


「はっ」


 息を吐くのと同時にリーリスを殴り付ける。

 今度はちゃんとガントレットを装備した左手による歴とした攻撃として。


「甘い」

「かもな」


 ふっと笑みを溢しつつ大鎌の防御の上から思い切り殴り付ける。

 ドガンっと鈍い音が響き、リーリスが数歩退いた。


「スピードはさっきよりも少し遅い感じか?」


 それでも鋭さという意味では雲泥の差があるように思える。明確な狙いを以てして繰り出された拳は想像以上の攻撃となってくれていた。

 軽く手をスナップさせて視線を周囲に巡らせる。

 暴走した俺が手放したガンブレイズを探したのだ。


「そこか」


 視線を辿って俺の狙いが解ったのか、リーリスが大鎌を回転させて攻撃を仕掛けてくる。

 防御するには【フォースシールド】を発動させるのが一番。だが回避するのなら。手を開いて狙いを定めて【アンカーショット】を放つ。地面に先が突き刺さった瞬間に手を引いて収縮させると全く間にその場から俺が消えた。

 【アンカーショット】の移動速度が増したのは竜化した俺の体がより高速移動に適したものになったからだろう。より風の抵抗を受けなくなったことで素早く移動することができた結果、リーリスの目には俺が消えたと映ったようだ。

 空ぶる大鎌の刃が地面を穿つ。

 速度が増したとしても直線的な移動であることは変わらない俺をリーリスが視線で追いかけてくる。


「<カノン>」


 落ちていたガンブレイズを拾い上げ、銃形態に変えて素早く引き金を引く。

 アーツを宣言して放たれた光弾は攻撃直後で動きを止めていたリーリスを正確に撃ち抜いた。


「くっ」


 苦悶の声を漏らしてよろめくリーリスの体の前面、大鎌で防御したにもかかわらず燃えたような跡がしっかりと残っている。見ればリーリスのHPゲージも直撃を受けた時よりは少ないものの一定量減少をみせていた。

 今度はアーツを発動させることなく通常攻撃を行いながら接近を試みる。

 正確な射撃は弾道を読むことも容易い。相手が達人であればなおのこと。リーリスもその例に漏れず、迫る弾丸を大鎌を使って的確に撃ち払っていた。

 弾丸が届いていないことなど気にもしないで繰り返し撃ち続ける。今は攻撃の手を止めないことが何よりも重要だ。

 攻撃を続ける意味はリーリスをその場に縛り付けること。

 斯くしてリーリスが自分の攻撃範囲に入った瞬間を見定めてガンブレイズを変形させる。


「せいやっ」


 攻撃と同時に叫ぶ。

 俺の一挙一動を見逃すまいと攻撃を捌きつつ意識を向けていたリーリスは当然のように大鎌を打ち合わせてきた。

 ガギンっと大きな音が響く。

 しかし今度は押し合いにはならなかった。ガンブレイズと大鎌がぶつかりあった瞬間に素早く刀身を大鎌の刃の表面で滑らせたからだ。

 押し合いになると読んでいたのかしっかりと柄を握り締めて力を込めていたリーリスは僅かに体勢を崩してしまう。その勢いを利用して大鎌を後方に受け流すとそのままリーリスの後方に回り込んだ。


「<アクセルブースト>」


 攻撃をするには絶好のチャンス。だが、それはリーリスも理解していた。咄嗟に大鎌を持ち直して、石突きを後方に向けて強引になりながらも突き出してきた。

 急停止した目の前を大鎌の柄が突き抜ける。それとほぼ同時にしてアーツの光がガンブレイズに宿る。それが攻撃の光であると思っていたリーリスは今の攻撃が失策だったと思い身構えるも、一向に行われることのない攻撃に自分の予想が誤りであったと考えたようだ。


「小賢しい、謀ったというのか」


 大鎌を掴む位置を変えて横薙ぎに振り抜く。

 俺は瞬時にバックステップでそれを回避するとようやく体勢を低くしてガンブレイズを構えた。


「まさか……」


 リーリスが戦慄したように呟く。


「行くぞ」

「ここまで読んで――」

「<ブレイジング・エッジ>」


 ガンブレイズの刀身に重なる赤く半透明の刃。それすらも覆うさらに強い必殺技(エスペシャル・アーツ)の光がガンブレイズに宿った。

 最初にして最後の、自らが紡ぎ出した絶好の好機を打つ渾身の一撃がリーリスを斬り裂いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【23】ランク【3】


HP【10040】(+320)

MP【8950】(+770)

ATK【286】(+1810)

DEF【248】(+1880)

INT【276】(+900)

MND【204】(+1110)

AGI【324】(+1130)


【火耐性】(+10)

【水耐性】(+50)

【土耐性】(+50)

【氷耐性】(+150)

【雷耐性】(+100)

【毒耐性】(+100)

【麻痺耐性】(+200)

【暗闇耐性】(+150)

【裂傷耐性】(+40)


専用武器


剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)

↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】


防具


頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】

胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】

腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】

脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】

足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】

一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】


アクセサリ【10/10】

↳【大命のリング】(HP+500)

↳【魔力のお守り】(MP+500)

↳【強力の腕輪】(ATK+100)

↳【知恵の腕輪】(INT+100)

↳【精神の腕輪】(MND+100)

↳【健脚の腕輪】(AGI+100)

↳【地の護石】(地耐性+50)

↳【水の護石】(水耐性+50)

↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)

↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)


所持スキル


≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。

↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。

↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。

≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。

↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。

≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。

≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。

≪竜化≫【Lv2】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【0】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ