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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第十八章 
602/665

大変な改変は異変!? 34『交差点』


「おっ、結構いい経験値が入ってる」


 浮かぶリザルト画面を確認しつつ満足げに呟く。

 レベルが上がるにはまだ全然足りていないが、一度の戦闘で獲得できたと思えば上々。

 体力回復のための休息を挟んで先に進むことを決めた。

 ゴスペル・マンティコア倒されたことでそれまでなかった道がある。まるで心霊スポットのように灯りが少ない寂れた洞窟の姿をした道だ。ダンジョンとなっている坑道の道だと考えればこの様相もまた然もありなんといった所だ。

 HPとMPが完全回復したおよそ三分後、休憩を終えて暗闇に足を踏み込んだ。

 先を行く精霊猫のリリィは俺よりも遙かに夜目が利くおかげで心なしか安心することができていた。


「ねえ、ついて来てるー? こっちだよー」


 暗闇にも慣れ始めて洞窟の中を見回していると歩くスピードが遅くなったのか、先にいるリリィが呼んできた。


「わかってるー」


 返事をしてリリィの元へと駆け寄っていく。

 足元にいる小さな猫は俺が隣に並んだことを知ると再び悠然と歩き始めた。

 暗い洞窟の中を歩くこと数分。小さな点のように見えていた出口が徐々に大きくなってきた。

 出口が近付くごとに自然と歩く速度が速くなる。

 外から漏れる光が十分なくらいに洞窟内を照らしだした頃には、リリィの先導は必要なくなったと言わんばかりにいつもの定位置であるフードの中へと潜り混んできていた。

 視界の悪い洞窟のなかでモンスターと戦闘にならなかったのは良かった。洞窟という場所に現われるようなモンスターは総じて暗闇の中にいることが自然な動物がモチーフとなっている種が多いからだ。

 洞窟の幅や高さは十分なれど、やはり戦いになれば不利なのは自分。見えないということはそれだけで自分を不利にする要因なのだ。

 自分の体もはっきりと見えるくらいの明るさになって安堵する。

 コツコツと反響する自分の足音を聞きながら洞窟を抜けると、その先に待ち構えていたのは光を放つ鉱石が埋め込まれている人一人が通れるくらいの小さな扉だった。

 一枚の金属板に装飾を施した扉にはノブの代わりに指を掛けられるへこみがある。

 扉に施された柄や形を思えば押して開く扉であるように見えるが、取っ手だけを見ればスライドさせて開く扉であるようにも見える。試しにぐっと扉を押してみるも全く動く気配がない。当然引いても同じだ。

 意味のない行為をしていると見えたのか、後ろからリリィの「何してるの?」という声がした。なんでもないと答えて今度は扉を横にスライドさせる。

 扉の下にあるレーンは長らく使われていなかったのか、埃なのか砂なのか分からないものに埋まっていた。本来はそれを退けないことには開くはずもないだろうが、ここでは不思議なことにすんなりと横に移動したのだ。

 ガラッと扉のなかに埋め込まれている車輪のようなものが動く音がする。

 最初こそ重かった扉も動き始めれば軽くなる。

 思いの外に付いた勢いをそのままに完全に開らかれた扉はバンッと大きな音を立てて止まった。


「ここは?」


 扉の向こうに入ってみると、そこはだだっ広い部屋だった。

 足元に敷き詰められた石畳は洞窟の先にあった部屋とは思えないくらいに綺麗に整えられており、石畳の一つ一つに見られる独特の柄はそれが意図を持って描かれた模様であることを物語っている。

 歩く度に響く足音も洞窟内で聞いた音に比べて高く硬い。全ての石畳に均等に施されたコーティングによるものだとすれば、ここは誰かが使うことを前提にして作られた部屋だということになる。

 ダンジョンとなっている坑道に地続きに繋がっているような場所で、誰が、どんな目的で作った部屋だというのか。

 好奇心に駆られて部屋の中を見回っていると、部屋の一角に華美な装飾のある椅子とテーブルを見つけた。

 汚れ一つない白いテーブルクロスに覆われたテーブルに並んでいる椅子はなんと合計で十脚もあった。全ての椅子に見られる意匠は同じデザインで統一されているみたいだが、その内の一つだけが際立って豪華な装飾がなされている。

 主賓、あるいはこの部屋の持ち主の椅子ということだろう。


「ねえ。あっちに何かあるみたいだよ」


 リリィの声に誘われて移動して見つけたのは壁に掛けられた巨大な絵画。

 一枚は赤い光沢のある生地に金糸が惜しみなく使われているマントを纏った若い男性。その頭には白銀の冠が乗っており、手にはいくつかの宝石が埋め込まれている杖が握られている。

 男性の絵の隣に並んでいるのは銀の全身鎧を纏った髪の長い女性の絵。外した兜を横にある台座に置き、突き立てた一振りの剣に手を添えて凜と立っている姿が描かれてる。

 そしてそれら二つの絵画の上にある一際大きな絵画には到底実用的とは思えないほど長い裾をたなびかせたドレスを纏った女性が描かれてた。ドレスの色は穢れ一つない純白。それでいてドレスに施されたレースや刺繍の部分は同じ白色だというのにはっきりと分かる。女性の頭の上には金色の冠。首にあるのは巨大な真紅の宝玉が埋め込まれた首飾り。

 なかでもこの絵で一際目を惹くのはまるでこの女性が従えているかのような巨大な白い虎が描かれていること。強い存在感を放つ金色の瞳は絵の中からこちらを睨み付けてきているかのようだ。


「なんか凄い絵だね」

「ああ。そうだな」


 芸術に明るいわけではないが、不思議とこれらの絵画からは独特な威圧感を覚えた。

 呆然と絵画を見上げていると突然、コツコツコツと聞こえるはずのない音が聞こえてきた。

 咄嗟に音がしたほうに目を向ける。

 そちらには自分たちが入ってきたのとは別の扉があった。

 自分が通った扉とは違い、もう一つの扉はとてつもなく大きい。大きすぎてその上の方が霞んでしまいそうに思えるほどだ。

 到底人の手は開くことのできないサイズの扉が音もなくゆっくりと開かれていく。

 色合いの異なる向こう側の灯りが部屋のなかに差し込んで石畳に一筋の線を描く。オレンジ色をした光の線が徐々に太くなり、扉が完全に開かれたころには光の絨毯のようになっていた。


「誰か来るよ」

「しっ」


 声を潜めて言ったリリィの口を慌てて塞ぎ、どこか身を隠せる場所を探す。


「あっち」


 一段と声を小さくしたリリィが指し示す。視線の先を追いかけた先には無数の本が並べられた本棚があった。


「あの陰なら隠れられそうじゃない?」

「ああ。そうだな。助かるよ、よく見つけてくれた」


 リリィに礼を言いつつ本棚の裏側へと移動する。

 足音を立ててしまわないように慎重に、それでいてできるだけ迅速に移動した俺は無意識のうちに息を止めてしまっていたらしい。

 本棚の裏側に背中を預けるように座り、溜め込んでいた息を吐き出して呼吸を整える。自分の息をする音がこんなにも大きいと思ったのはこれが初めてだ。

 心を落ち着かせて平常心を取り戻した俺は見つからないように気を付けながら本棚の陰から身を乗り出した。

 開かれた扉の向こうから現われた人影は一つ。

 向こう側の光が殊の外強いのか、逆光となって人影の顔はわからない。せいぜいその体格や服装のシルエットから男性であるだろうという予測が立つだけだ。


「何をしているんだ?」


 男の行動の意味が分からない。

 部屋の中央らへんに立ち、何もない場所に手を翳している。手には何も持たれてはおらず、また何かを取り出すような素振りもない。

 だとしても何かしらの意味はあるはず。僅かな挙動も見逃さないという気概で見つめていると、それは突然姿を現わした。

 男が手を翳す真下の地面から金属製の四角い形をしたオブジェクトが出現したのである。


「さて」


 不意に男が言葉を発した。

 オブジェクトに伸ばしていた手を下げて気怠そうにグルリと周囲を見回すと、正確に俺が隠れている本棚がある方を見た。


「隠れているのは分かっている。出て来い」


 男の声にビクッと身を縮こませた。

 考える。声を無視してここで隠れ続けるとやり過ごせるだろうか。それとも出て行った方がいいのだろうか。


「あと三秒。3、2、1……」


 有無を言わさないカウントダウンに急かされて俺は釣られるように本棚の陰から飛び出した。

 距離はあるが、ほぼ男の正面に立つ。

 そこでようやくその正体が分かった。


「ジルバ……どうしてここに……」


 服装がどこかの軍服のようなものになっていてシルエットでは分からなかった。

 声で気付けと思ってしまうが、まさかこのようなダンジョンの、坑道の奥にいるだなんて想像できるはずもない。


「お前こそ。ここがどこだか分かってんのか?」


 俺とは違う意味合いでで驚いた顔をしているジルバがいった。


「どこって……」


 確認するように周囲を見渡してみる。

 自分が立っている場所は変わっていない。ダンジョンの、坑道の奥にあった謎の部屋だ。

 そういう意味では何故ジルバが現われたのかが分からない。俺は坑道というのはトンネルのようにどこかと繋がっている洞穴ではないと思っている。大概が採掘ができなくなった場所という行き当たりというものが存在していて、坑道の外に出るにはそこから引き返すしかないとさえ。よくよく考えてみれば長い坑道であればあるほど通気口も兼ねた横穴が複数存在しているのが普通なのだ。

 ジルバがここに来たのはそんな横穴を通ったからではないことは何となく想像がつく。

 おそらくは向こうの通路は自分が通ってきた道は色んな意味で違うものとなっているのだろう。


「なるほどね」


 一人訳知り顔で独り言ちた俺をジルバが訝しむ顔で見てくる。

 虚勢を張るように笑みを浮かべて敢えて答えずにいると、苛立ちを隠そうともせずにジルバが大袈裟に態とらしい溜め息を吐いた。


「いいから話せ。どうやってようやってここに入ってきた?」


 おそらく向こう側も一本道。自分よりも先にそこを俺が通っていたなどとは微塵も考えていないのか、ジルバは先程の俺と同じようにキョロキョロと辺りを見回しながら訊ねてきた。

 幸いにも自分が通ってきた洞窟に繋がる扉は俺がこの部屋に入った後に独りでに閉まり、部屋の内側からではどこに扉があったのか、そこから入ってきたことを知る俺ですら見分けられないほど巧妙に壁の一部と同化している。

 当然そんな扉の存在を知らないジルバからすれば俺が与り知らぬ状況で部屋に侵入したとしか思えないだろう。冷静になれば隠し通路の存在を疑うべきだが、どうやらジルバは何度もこの部屋を訪れて納得できるまで探索を行っていたからか、微塵もれそれが存在しているという可能性を考えていないようだ。


「おい、話さないつもりか」


 無言を貫く俺に痺れを切らしたかのようにドスの利いた声で言い放ったジルバに俺は敢えて余裕そうな顔をして、


「ジルバこそ。ここで何をしているんだ?」


 答えずに質問を返した。


「そのオブジェクト。一体何に使うもので、どういった代物なんだ?」


 ゆっくりと身を隠していた本棚から離れる。

 オブジェクトの傍から動かないジルバも質問に答えることはなく、首だけを動かして視線で追いかけてきた。

 一定の距離を保ったまま移動して足を止める。


「それは、何だ?」


 先程の位置からではジルバの体の陰に隠されて気付けなかったが、ここからならばその手の中に何か人工物のようなものが握られていることが見て取れた。

 その何かを隠すような素振りも見せず向かい合うジルバがふっと笑みを浮かべた。


「わかった。おれもお前も相手の質問に答えるつもりはないってわけだ」


 降参だと言わんばかりに両手を挙げて言い放つ。


「だとしたら、どうする?」

「なーに。簡単だ。お前のカラダに聞くことにするよ」


 言いきるや否や、ジルバがもの凄い速さで近付いてきた。


「なっ!?」


 咄嗟に体の前にガントレットを構えて【フォースシールド】を発生させるもたった一度の攻撃で弾け飛び、大きく仰け反らされてしまった。


「相変わらず、脆いなぁ」


 いつの間にかジルバの手の中にある細いショットガンのような武器が勢いよく振り上げられた。

 回避は間に合わず、俺の防御の常套手段である【フォースシールド】は砕かれた。やむを得ず銃形態のガンブレイズで受け止めてみせるも完全に勢いを殺しきることができずに殴り飛ばされた。

 殴り飛ばされて床を転がる俺のHPゲージが減少する。


「折角やる気になったんだ。すぐにやられてくれるなよ」


 ぞわっと身の毛がよだつ。

 視線を逸らしたつもりは無かったのだが、いつの間にかジルバの姿が初めて目にするフェイスレスへと変貌していた。

 全身を暗い赤色と黒色の装甲で覆っているその姿はまるで竜化した自分を見ているかのよう。無論全く違うデザインだと言えばその通りなのだが、何故か怪物然としていた他のフェイスレスではなく変身したプレイヤーのような印象を受ける。

 何よりその手の中にある武器が目を惹く。

 片手で扱うライフル銃のようでありながら、その銃身を覆うように漆黒の刀身が備わっている。


「っつ、なんだそれ。俺の真似のつもりか?」

「どうだ? いい感じだろ」

「さあな。<竜化>」


 俺の身体に波紋が広がり、その姿が変化する。


「こいよ?」

「ああ。行くぞ」


 ライフルの剣を持って待ち構えているジルバに向かって飛び掛かる。

 剣形態に変えたガンブレイズがジルバが持つライフルの剣と激しくぶつかった。

 ぐっと身を乗り出して押し退けようとするも、ジルバの力の方が強くビクともしない。


「このっ。<ブロウ>」


 発動したアーツの光が宿るガントレットを装備した左手の拳をジルバの腹に叩き込む。

 坑道のダンジョンに挑んだ途中で使えるようになったアーツ。想定も想像もしていなかったジルバにとっては知らない一撃だ。

 防御することもなくまともに拳を受けたジルバは軽く体を浮かせた。


「はあっ」


 体が浮けば踏ん張りが利くはずもない。

 浮いたその一瞬を逃さずにガンブレイズを振り抜くと今度はジルバは後方に吹き飛ばされた。


「ちょっとはやるようになったんじゃないか」


 左手の親指と人差し指がくっつかんばかりのアクションでこちらを挑発するかのように言ってきた。


「どうかな。試してみるか?」

「いやあ、遠慮したいね」

「冗談」


 ジルバの頭上を見るとHPゲージは殆ど動いていない。つまり先程の<ブロウ>が与えたダメージがごく僅かだということだ。

 追撃を試みる俺の方にライフルの銃口を向けてダンッダンッと大きな音を立てながら撃ってくる。

 弾速より防御の方が速く、体を守る【フォースシールド】が迫る銃弾を阻んでいた。

 半透明な【フォースシールド】で身を守りながらガンブレイズを銃形態に変える。弾切れなど存在しないといわんばかりの連続射撃に晒されては近付くことなどできやしない。それならばとこちらも射撃を行うと期せずして同じような攻撃の応酬となった。

 【フォースシールド】で防御している俺は違い、ジルバは俺が撃ち出した弾丸をその身で受け続けている。それでもダメージが少ないのがジルバの素の防御力の高さを物語っていた。


「キリがない」

「そうだな」


 仮面を被ったかのような変貌したジルバが笑う。

 ワンテンポ遅れてライフルの銃口から紫色の雷光のようなヘビが放たれた。

 ギザギザに飛びながら迫るヘビの形をした稲妻。普通に撃ち出していた弾丸よりも速いそれは、俺が構えている【フォースシールド】にぶち当たると同時に弾けて俺の全身を強い衝撃が貫いた。


「ぐあっ!?」


 セーフティによって軽減されているとはいえ、突然の電気は実際に受ける衝撃以上の驚きをもたらす。感じたのが冬の乾燥した時期に指先にパチッと走る静電気のような衝撃でしかないとはいえ、この世界ではがくっと膝を付かされた。


「動きを止めるなよ。危ないぞ」


 俺を気遣うようなことを言いながらもジルバが持つライフルからは繰り返し紫色のヘビが放たれていた。

 宙を走り、地を這って、右に左に動きながら迫るヘビを的確に撃ち落としていく。

 それでも落としきれないヘビが俺の足を貫いた。

 バチッと閃光が迸り、俺の全身を雷が駆け巡る。

 竜化して防御力が向上しているからこそ攻撃を受けることができている。だがずっとこの調子で攻撃を受け続けていてはいずれ倒されてしまうのは自分の方だ。


「ああ、もうっ、鬱陶しい!」


 雷撃のダメージは今すぐに考慮すべき量ではない。むしろ攻撃を受ける度に感じる軽い衝撃の方が厄介だ。

 一定間隔で襲い来るヘビを一体ずつ対処していたのでは追いつかない。それならばとダメージを無視してジルバに銃口を向けて引き金を引いた。

 ライフルから放たれる特殊な攻撃が雷撃のヘビならば、俺のガンブレイズから放つことのできる特殊な攻撃は<カノン>という名の光弾。

 威力を高めた射撃が射線上の雷撃のヘビを散らしながら放たれる。


「おっと」


 ジルバはすぐに攻撃の手を止めて迫る光弾を回避してみせた。


「あん?」


 回避したジルバの体に細い一筋の糸が繋がった鏃が突き刺さり、光を反射して輝く糸がピンっと張った。<カノン>の発動に一瞬遅れて放った【アンカーショット】の先が繋がった楔だ。

 ぐっと手を引いてジルバを引き寄せようとしても思いの外に重く動かない。それならばともう一度手を引いて今度は自分の体を相手に向かって飛び込ませる。

 急速に距離を縮める俺が剣形態のガンブレイズを振り抜く。

 ジルバは反撃することができずにライフルの腹でそれを受けた。


「おいおい。見ない間に随分と小洒落た戦い方をするようになったじゃないか」

「お陰様でな」

「あー、何って言ったっけ。そうだ、オルヴァスだ。お前を連れて逃げたのは確かそんな名前だったよな」


 ギリギリと鍔迫り合いをする最中にジルバが楽しそうに言った。


「それがどうかしたのか?」

「なるほどなぁ。お前がここにいるのもそいつの差し金だったってわけか」


 一人納得するジルバに俺は微かに首を傾げる。


「残念だったな。そいつはもう生きてはいないだろうよ」

「どういう意味だ?」

「いいぜ。教えてやるよ。なんでおれがここにいるかをな。簡単だ。そいつらが攻めてきたんだよ。この国を取り戻すとか言ってな」


 ハッと息を呑む。

 自分と別れた後にすぐ攻勢に出たとは思っていたが、まさかそこまでのことをしていたとは思わなかった。


「まあ、無駄だったけどな」


 興味が失せたおもちゃに対する子供のように無慈悲に言い放つ。


「今頃はもう、一人として生き残っていないだろうよ。アイツはそんなに、優しくはないからな」

「アイツ?」

「お前も知っているはずだ。おれといた最後の一人だよ。この国を奪うと決めたのも、フェイスレスの群勢を作ったのも全部。アイツの作戦だ」

「そんなっ」

「いーい顔だ。気分がいい。特別だ、良いことを教えてやる。そこに絵が飾られているだろう」


 視線を外さずに記憶のなかで見た絵画を思い出した。


「そこに描かれているのはこの国の創始者と王と姫の姿だ」


 王が男性の絵。姫が剣を構えた女性。となれば創始者は白い虎を従えたドレスを着た女性か。


「だからどうした? 歴史の勉強をするつもりはないぞ」

「連れないな。そこに書かれている王ってのが最後の一人だとしてもか?」

「なっ」


 絶句。

 荘厳に飾られている絵画に描かれた人物というのは大抵が歴史上の人物。有力者であっても生きている自分の姿を描いた絵画をこんな場所に飾っているとは思えなかった。

 それだけじゃない。

 あの絵に描かれている人物は今はもう生きていないはずなのだ。何せあの王を描いた絵画の下に取り付けられたプレートにはまさに初代と刻まれていたからだ。

 国を興した人物が初代国王でないことを不思議に思ったから覚えている。

 だからこそありえない。ここが仮想の世界だとしても人の寿命はそれほど長くはないはずだ。


「その王ってのはエルフかなんかなのか?」

「いや。ただの人族さ。いや、今は死人でもあるか。残念ながらおれも名前は知らないが、さしずめ“太古の王”といったところか」

「太古の、王」

「ああ、そうだ。今の国王ってのは確か三十八代目とかだったはずだ。まあ、アイツに殺されたけどな」

「どうして?」

「さあな。おれが知るか。まあ、本人が言うには自分の国を取り戻しただけだとか言ってたっけか」

「意味が分からない」

「おれもだ」


 同時に押し合って互いの体を押し退ける。


「そうだな。敢えて太古の王の目的を一言で表わすのならば“支配”」

「……っ!」

「リーリスの方は“平定”」

「ふざけるな」


 瞬時に体勢を整えてぐっとガンブレイズを握ってもう一度斬り掛かった。


「ふざけてなんかいないさ。リーリスは戦いが嫌いでな。だから戦いが起こらないように反抗する意思を砕いているんだと。本人が嫌いな力でだがな」

「そんな……」

「まあ、理由なんてなんでもいい。おれにとって大事なのは太古の王がフェイスレスとして覚醒したっていう事実と、戦うことで生まれる――だからな」

「何を?」


 最後の方がうまく聞き取れなかった。


「なんでもねぇよ」


 ライフルを振り抜いてガンブレイズを打ち払う。

 またしても互いに後退することで俺たちの間に距離ができるとジルバはどこからともなく、先程オブジェクトの前にいるときに持っていた謎の人工物を取り出した。


「リーリスもいい戦い振りだったみたいだな」


 ジルバの手にある人工物に目を凝らしてみるとそれは小さな箱のようなもの。

 赤や青の光が箱に刻まれた溝を駆け巡っている。


「何をするつもりだ?」


 怪訝そうに見つめながら、ジルバの一挙一動に注意を向ける。


「こうするのさ」


 上を見上げたジルバの顔にがばっと巨大な口が開かれる。

 昔懐かしい口裂け女の怪異を思い出す。

 人の何倍もある大きく裂けた口に箱をぽいっと投げ入れた。


「喰った!?」


 バクンッと閉じられる大きな口。

 綺麗に閉じられた口は既にどこにあるのか分からなくなっていた。

 ビクッとジルバが体を震わせる。

 赤と青の光が全身を駆け巡り、ジルバの体の表面がドロドロと崩れ始めた。


「溶けた!?」


 両手を広げたジルバの足元に全身から爛れ堕ちるドロッとした何かが溜まっていく。

 まるで自壊しているように見える光景も、その頭上に浮かぶHPゲージに異常がないことからもそうではないのだと理解できる。

 ならばこれはさらなる変貌を遂げようとしているということか。

 瞬時にガンブレイズを銃形態に変えて撃ってみるが、この状態はダメージを受けないようになっているのかHPゲージは微動だにしない。

 ドロドロ溶け出した何かが綺麗に堕ちきった瞬間、ジルバは広げていた手を下ろし、またゆっくりと左手を上げると、人差し指と中指を立たせた。

 よくあるピースサインをしているように見えるがこちらに向けているのは掌ではなく手の甲。

 全身を駆け巡っていた光が消えて一回りほど細くなったジルバがゆっくりと顔を上げる。


「レベル“2”」


 姿を変えたジルバが静かに告げた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【23】ランク【3】


HP【10040】(+320)

MP【8950】(+770)

ATK【286】(+1810)

DEF【248】(+1880)

INT【276】(+900)

MND【204】(+1110)

AGI【324】(+1130)


【火耐性】(+10)

【水耐性】(+50)

【土耐性】(+50)

【氷耐性】(+150)

【雷耐性】(+100)

【毒耐性】(+100)

【麻痺耐性】(+200)

【暗闇耐性】(+150)

【裂傷耐性】(+40)


専用武器


剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)

↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】


防具


頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】

胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】

腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】

脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】

足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】

一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】


アクセサリ【10/10】

↳【大命のリング】(HP+500)

↳【魔力のお守り】(MP+500)

↳【強力の腕輪】(ATK+100)

↳【知恵の腕輪】(INT+100)

↳【精神の腕輪】(MND+100)

↳【健脚の腕輪】(AGI+100)

↳【地の護石】(地耐性+50)

↳【水の護石】(水耐性+50)

↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)

↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)


所持スキル


≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。

↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。

↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。

≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。

↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。

≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。

≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。

≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【0】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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