大変な改変は異変!? 32『修行の結果』
スカル・オージャが消滅したことで、この場所に漂っていた異臭は綺麗さっぱり消えてなくなっていた。
自動的に浮かび上がるリザルト画面にはこの戦闘で獲得した経験値によってレベルが上がったこと知らせるアナウンスが久々に表示されている。
全てのパラメータが上昇し、スキルポイントが一つ増える。だが、それだけで自分が望んでいたような劇的な変化が起きたかと問われれば、答えは否となってしまう。
パラメータの上昇だけで現状を打開しようとするのならば今の自分のランク帯ではどれほどの戦闘を繰り返せばいいのか、考えるだけで途方に暮れそうになる。
「やっぱりスキルかアーツで考えるしかないってわけか」
「ねえねえ、行かないの?」
スカル・オージャが消えて安全になったこの場所で胡座をかいて地面に座り込みながら独り言ちた俺に、いつしか姿を現わして悠々自適に辺りを歩き回っているリリィが足元へとやってくると奥にある通路を見ながら問い掛けてきた。
先に進めば別のモンスターと戦うこともできるだろう。しかし考え事をするためにはこの場所のような安全地帯にいた方がいいはず。
「もう少し待ってくれるか」
「ん。別にいーよ」
リリィの了承も得たことで俺はコンソールを呼び出してそこにある自身のステータス画面を見ることにした。
各種パラメータは上昇しているものの、今大事なのはそれではない。
習得済みのスキルのスキルレベルを上げることか新しいスキルを習得するか。同じスキルポイントを消費することになるのならば無駄にならない方を選ぶべきだが。
こういう時、一度ログアウトして現実で調べてから決めた方が堅実かつ確実。
しかし一時的に安全になったとはいえ、本来の安全地帯とは異なっているこの場所ではログアウトすることができない。
ダンジョンも同然な坑道を引き返して外に出て本来の安全地帯に行くことでログアウト可能となるが、折角ここまで進んで来たのにという気持ちが引き返すかどうかという決断を鈍らせる。
漠然と習得済みスキル一覧と習得可能スキル一覧を眺めているだけではただ無為な時間が流れるだけ。
それならばと考え方を変えてみることにした。
「フェイスレスと戦う上で今の俺に足りていないと感じているのは何だ?」
思い浮かべるのはこれまでの自分の戦い。
最初の頃こそ普通に戦えていた。
やはり戦いづらく感じるようになったのはジルバたちのような量産型ではないフェイスレスを相手にするようになってからだ。
それでも竜化して戦っているからかパラメータ的な不利を感じたことはない。
どちらかといえばアーツや必殺技を使わない限り効果的なダメージを与えられなくなったことのほうが気になる。
「つまりは俺の攻撃の威力不足ってわけか。それなら何か威力を補う方法を考えればいいはず」
坑道に挑む時に考えていた通り、俺が選べる選択肢はいくつか存在している。
まずは既存のアーツの性能を高めること。スキルレベルが上がると新しいアーツを習得するか既に習得済みのアーツの性能を上昇するかを選ぶ事ができる。問題は新しいアーツがどのようなものになるのか分からないこととアーツの性能を上げたとして、それがこの現状を打破することに繋がるかどうかは不明なまま。
もう一つの選択し。新しいスキルを習得したとしても同じ問題に行き当たってしまうことは明白。
結局は不確定であるという事実がどちらの選択肢にも付随しているのだ。
腕を組み考え込んでいる俺の顔を膝の上に乗っているリリィが見上げてくる。
「どうした?」
「あそこ、なんか変じゃない?」
視線でリリィが示したのはこの場所の中心部。
どかっと地面に腰を下ろしている俺から離れているそこに何やら空間の歪みのようなものが発生していた。
「早いな。もう、か……」
すっと立ち上がる。
あの歪みはその場所に必ず出現するというモンスター、いわゆる固定シンボルと呼ばれているモンスターが再出現する時に見られる現象だ。
とはいえ再出現に至るまでにはまだ時間の猶予がある。その時間のなかでここから引き返すか先に進むかを決める必要が出てきた。
「…よしっ」
見据えるは先。
俺が選んだのは引き返すのではなく先に進むこと。
安全地帯を求めるにしてもこの先にある可能性も十分に残されているのだ。
「行くぞ」
「うん」
リリィに声を掛けて歩き出す。
スカル・オージャが住み着いている影響か少しばかり広がっている空間となっていたこの場所から先に進むとこれまで通りの二メートル弱程度の横幅しかない道が現われた。
暗い道を照らすリリィが灯した明かり。
暫く歩き続けて、ふと振り返った時には既にスカル・オージャと戦った空間は見えなくなっていた。
「ねえっ!」
「見えている!」
ぴょんと肩に飛び乗ったリリィが叫ぶのと同時に答え、ガンブレイズを素早く引き抜く。
銃形態から剣形態へ瞬時に変形させて構える。
視界の四方八方に動く影がある。大きさは三十センチ前後。黒い毛玉のようなそれが鋭い爪を立てて襲い掛かってきた。
「はっ」
タイミングを合わせて斬り払う。
ドサッと音を立ててそれが地面に落ちた。
瞬時に視線を地面に転がるそれに向ける。
一刀のもとに斬り捨てた思っていたが意外にもまだHPは残っているらしい。地面でピクピクと蠢くそれの頭上に浮かんでいる名前と殆どレッドラインに達しているHPゲージが目に入った。
「【ラド・ラット】。こういう洞窟みたいな場所に出てくる突然変異のネズミ型モンスターだったっけか」
残り体力が僅かなラド・ラットを蹴り飛ばす。
壁に当たりHPゲージがゼロになった瞬間に弾けて消えた。
「スカル・オージャに比べると入る経験値はかなり少なそうだな。ってことはやっぱりスカル・オージャはボスクラスのモンスターだったってことか。むしろそれを倒したってのに一つしかレベルが上がらないことの方が問題なようなきがしてきたぞ」
自分を取り囲んでいるラド・ラットの総数は六。先に倒した個体も合わせれば七体が一度に出現したということになるけど。ラド・ラットは集団で現われる類のモンスターみたいだな」
数ヶ月毎に数を増して、今や幾百と存在しているモンスターの情報を溢さずに把握することはできない。ラド・ラットも名前に見覚えがあったという程度の認識しかない。
別の個体が飛び掛かってくる。
咄嗟に身を翻して斬り飛ばす。
それだけでは倒せないことは実証済み。だからこそ斬られ落ちるラド・ラットに合わせて蹴り飛ばすことにした。
蹴りの威力と壁に激突したことによるダメージのどちらが決定打になったのかは分からないが、着実にラド・ラットはその数を減らしていった。
「残り一体」
モンスターの思考ルーチンはその種類によって様々。
総数を減らしたことで怯み退避していくモンスターもいれば、どんなに数を減らされようとも構わず襲い掛かってくるモンスターもいる。どうやらラド・ラットは後者であるらしい。
飛び掛かってくる最後の一体も同様に斬り伏せて蹴り飛ばすことで戦闘を終わらせた。
「おつかれさまー」
「ああ。リリィは怪我してないか?」
「うん。なんともないよ」
「そうか」
案の定とでもいうべきか。想像していた通り、ラド・ラットを倒したことで獲得できた経験値が少ない。この調子では次のレベルが上がるのはまだまだ先のこととなってしまうだろう。
「先があるみたいだよ」
「行ってみるか」
コンソールを消してリリィが見つけた道を行く。
暗く遙か地中の奥底にまで続いているような坑道はどこまでが実際に使われていたものなのか定かではない。
少し歩くだけで次のモンスターとエンカウントするようなことにならないのはよかったとしても、この延々と地中に潜っていくような感覚はどうにも不安を掻き立ててくる。
変わらない、あるいは既に変わってしまっているのか。
同じような景色が続く道を進むこと暫く、少しばかり開かれた場所に出た。
スカル・オージャと戦った場所よりは狭いが、リリィの明かりが必要ないほどの明るさがこの場所を満たしている。
「これが坑道のセーフティエリアか」
天井を見上げると鍾乳洞のように逆さまに伸びたクリスタル状の鉱石から光が放たれているらしい。
「どれくらいまで来たんだろうか」
手元に呼び出したマップを見る。
驚いたことに既にオルヴァスから渡された地図の範疇からは出てしまっているようだ。
「オルヴァスが言っていたのはあのスカル・オージャまでだったみたいだな。だとすれば、この先は本当に未知の道ってわけか」
いよいよ先送りにしていた決断を迫られる時がきたらしい。
「まあ、多分この坑道の雑魚モンスターであるラド・ラットすら一撃で倒せないのは困るからな」
自身のパラメータがこの坑道に出現するモンスターを圧倒するには至っていないことを痛感した。
「俺が持っているスキルポイントは【9】。攻撃手段を増やすのなら≪剣銃≫のレベルを上げるか新しいスキルを習得するのが妥当なんだろうけどさ。多分取り急ぎ必要なのはそれじゃないよな」
基礎能力値を底上げするには装備の刷新が手っ取り早い。が、防具の更新や新規アクセサリの入手はダンジョンにいては不可能。専用武器の強化も同様。少なくとも人がいる近くの町に向かう必要があるのだ。
さらに問題がもう一つ。何故かわからないがこの坑道の戦闘で専用武器の強化に必要となるアイテムが一つも獲得できなかったのだ。当然それでは武器の強化は行えない。せめて強化素材アイテムを購入するための資金が多く得られているのならよかったのだが、坑道のモンスターを倒して得られる金額は同じようなダンジョンで似た程度のモンスターを討伐して手に入る金額と差異がなかった。
「ここでできるのはスキルを弄ることだけってわけだ」
仕方ないと息を吐いて自分のステータスを見る。
能力値を上げるスキルはいくつも存在している。それぞれの項目に対応したスキルがそれだ。自分も当初それを習得していてスキルレベルを上げることでその上位版とでもいうべきスキルを習得することも可能となるもの。
「≪全能力強化≫のスキルのレベルを上げれば能力値は上がるだろうけどさ。残り【9】ポイントしかないんだもんな。どうしよう」
悩んでいるのはスキルレベルを上昇させたことで増加する能力値がパラメータの数値に反映されて表記されないことが原因だった。
装備による上昇値はしっかり表記されているが、スキルによる変動は非表記となっている。昔見た『Q&A』では確かスキルによる能力値の変化は装備のように一定量上昇するというものではなく、対応する現時点のパラメータ量によって変動するために表記されていないということだった。勿論それでもしっかり表記して欲しいという要望はあったらしいが、運営は一貫として表記しないことを明言したのである。
穿った見方をするとはっきり明言されていない上昇値というのは調整しやすいという側面があったのだろう。ゲームバランス的に強ければ弱くして、弱ければ強くする。プレイヤーが作り上げた武器の能力がある日突然減少していたなんてことよりは反感を買いにくいのだろう。
つまりこの≪全能力強化≫というスキルのレベルを上げたとしてどこまで自身の基礎能力値が上昇するのかは実際に戦ってみないと分からないのである。
「大抵のスキルは“5”区切りで性能が上がるから、どうせ上げるのなら思い切って【95】にするんだけど」
習得してある大抵のスキルのスキルレベルは“5”で区切れる数値で止めていた。例外は≪剣銃≫スキルの【98】という数値だけ。
「こっちも切りの良い数値まで上げるのなら新しいスキルはほぼ諦めないといけなくなりそうだな」
所持している【9】のスキルポイントを≪剣銃≫に【2】ポイント≪全能力強化≫に【5】ポイントを使ったとすれば残りは僅かに【2】ポイント。新規スキルの習得はできるがそれだけという分しか残らない。
「スキルレベル【100】か」
≪剣銃≫のスキルを見ながら呟いた。
様々なゲームで“レベル100”というのは大きな区切りの数字である。例えばそれが上限であったり、例えば更なる上位スキルを習得するための到達点であったり。
知り合ったフレンドにはスキルレベルを100に到達させている人は何人も存在している。彼らの口から何かしらの不利益が出たという話を聞いたことがないことを思えばさほど躊躇する必要は無いのかもしれないが。
「他のスキルにめぼしいものがないのなら、これが一番なはずだ」
そう自分を鼓舞しながら≪剣銃≫スキルのレベルを上げた。
スキルレベル【98】から【99】へ。
この時、現われたのはアーツの性能向上の選択肢。必殺技を除く<セイヴァー>か<カノン>という二つのアーツの内どちらかの性能が一段階上げられる。
俺が選んだのは<カノン>。説明文に変化は見られなかったが、アーツ名の表記の下にあるゲージが少しだけ伸びているのが分かった。
「次だ」
いよいよだと少しばかり緊張しながらスキルポイントを消費する。
簡単な操作で呆気ないほど【100】に到達した≪剣銃≫スキル。
ここでも先程と同じように既存のアーツの性能上昇の選択肢が現われる。がそれに付随してもう一つ、新規アーツの獲得の選択肢が浮かび上がった。
「これは――」
真剣な面持ちで新規アーツの説明文を読み込んでいく。
新規アーツの名称は<アクセルブースト>。性能は発動後に使う物理攻撃系のアーツの威力が増加するというもの。
ハッとしたのは以前にも似たような能力のスキルを使っていたことを思い出したから。紆余曲折を経て自身のキャラクターが今の状態になったことで失っていたものだと感じたからだ。
この時の俺は知らなかったが、後に調べてみると専用スキルがレベル100に達することで習得可能になるアーツには三種類あるらしい。一つは<アクセルブースト>のように攻撃の威力を上昇させる補助的なもの。二つ目は<アクセルブースト>の魔法版とでもいうべき<コンセントレイト>というアーツ。そして三つ目が使用者に一度きりの絶対防御を与える<アマツ>。どれを習得するのかは対応した専用武器の種類によって決まる。もし仮に自分が装備しているガントレットに対応したスキルがレベル100になった場合、習得していたのは<アクセルブースト>ではなく<アマツ>だっただろう。
「これは流石に迷う必要はないよな」
既存のアーツの性能を上げるよりもここで初めて習得することが可能となったアーツを選ぶのが当然であるというように、俺は<アクセルブースト>を習得した。
「…っ!?」
ほっと安心したのか、それとも果てがないことに驚愕したのか。さらに息を呑んだのは≪剣銃≫スキルの上限が100ではなかったことを見たからだった。
「ま、まあ。今は置いといて、次はこっちだな」
スキルポイントを消費して≪全能力強化≫のスキルレベルを上げていく。このスキルではアーツの獲得はできず、淡々とスキルレベルだけが上昇していくことで静かに終わりを告げた。
「残り【2】ポイントか」
さて、どうしたものか。
このまま残しておいて次の機会に使うことも間違いではない。しかし、残したところではっきりとした使い道が出てくるかどうかはわからない。
自分の性格やプレイスタイルを考慮すれば限られたスキルを延々と鍛えていくほうが性に合っているように思えるのだ。
「あ、そうだ、そうだった」
何気なく視線に入った自身の左腕。そこに装備されたガントレットもまた自身の専用武器であることを。
普段から攻撃には使わず、スキルが無くとも発動できるガントレット自体に宿ったアビリティの活用で十分であるように感じていたために失念していた。
習得可能スキル一覧にははっきりと表記されているそれ。
≪魔導手甲≫。
専用武器ガントレットに対応したスキルだ。
専用スキルのスキルレベル【1】は初期値であり、現状有益なものに成り得ないことは分かっている。それでも折角スキルポイントが残っていて使い道がないのならば習得してみるのも悪い選択肢ではないはず。
一覧にあるスキルの名称に触れて習得を選ぶ。
習得済みスキル一覧に新たなスキルが追加された。
「へえ、もう使えるアーツがあるのか」
≪魔導手甲≫で使えるようになったアーツは<ブロウ>。説明文にはとてもシンプルなもので威力を上げたパンチを繰り出せるとあった。
「残り【1】ポイント」
残り僅かなスキルポイントを消費して行ったのは≪剣銃≫スキルの更なるレベルアップ。狙いは既存のアーツの性能の向上だ。
しかし残念なことに俺の狙いは外れてしまった。
アーツの性能上昇の選択肢は現われず、ただスキルポイントが消費されただけ。
がくりと肩を落とすも、こういうことも珍しいわけではないと自分に言い聞かす。実際アーツの性能上昇の選択肢は毎回出るわけではなく、体感としては三回に一回くらいがいいとこだろう。
気を取り直してコンソールを消した俺にリリィが声を掛けてくる。
「終わったの?」
「ああ」
「じゃあさ、先に進もうよ」
「そうだな。目指すは踏破だ」
「おー!!」
先程とは違い完全なセーフティエリアであるこの場所ではモンスターの出現や襲撃を警戒する必要はない。
十分な休憩を取ったと判断した俺はリリィに促されるままさらに坑道を進む。
いよいよ人の手が入った痕跡というものが見受けられなくなってきた。
まるで天然の洞窟であるかのような様相を露わにしたここはもはや坑道とは呼べないだろう。
ふと気になりマップで現地点の名称を確認してみた。
先程までいたのが『ノルア坑道』という名前で、今いるのが『ノレア坑道』。僅か一文字の違いだが、その一文字が別の場所であることを物語っている。
「ノレア? リリィ聞いたことあるか?」
「んーん。知らなーい」
「だよな」
自分もこの世界の地名などに詳しいわけではないが、先程までいた場所と似た名前であることには意味があるような気がした。
「世界観的なものなのか。今の俺の状況に関係しているのか。どっちだろうな」
何気なくリリィに問い掛けるもまるで興味が無いことだというようにそっぽを向いて、自身が発生させている明かりに照らされた坑道の先を見つめている。
「にしても、ここも坑道だってか」
ぐるりと辺りを見回すもそれらしき痕跡は見当たらない。
元は何かしらの設備が搬入されていたものの長い年月が経ち朽ち果ててしまっているのだろうか。
足を止め、目を凝らして入念にそれらしきものを探すもやはり見えるのは周囲の岩肌と足元に転がっている石ころくらいだった。
「ユウ!」
バッと飛び乗ってきたリリィが叫びながらフードに飛び込んできた。
プレイヤーである自分よりもリリィの方がモンスターの察知能力が高い。大概にして俺が気付くよりも早くモンスターの襲撃を知らせてくれるのだ。
「さーて、今度はどんなやつだ」
身構えて前方を睨み付ける。
聞こえてきたのは特徴的な羽音。
一メートルほどの灰色の身体を持つ巨大なカマキリが三体、連続して現われた。
【グロット・マンティス】。
正確には生物ではなくゴーレムのように鉱物の身体を持つモンスターである。
耳障りな羽音もその正体を思えば幾許か重く本来のカマキリのそれとは異なっていることが分かる。
甲殻よりも硬い鉱石の鎌を振り上げて放ってくるのは断続的な衝撃波。
鎌を振る度に身体に付いている砂が舞っているのか、その衝撃波は視認することが可能で、簡単に回避することができていた。
「ってもああいうやつは大概」
飛んでいるグロット・マンティスを撃ち落とすこともできるだろうが、俺は敢えてガンブレイズを剣形態のまま使い続けていた。
自分の経験上、ゴーレムのようなモンスターは遠距離よりも近距離の攻撃のほうが威力が高く、危険なものが多かったからだ。
警戒していた通り、放たれる衝撃波を回避し続けていた俺に一体のグロット・マンティスが接近して遅い掛かってきた。
両手の鎌を振り上げ斬り裂こうとしてくる。
一撃目はさっとバックステップで躱すと続け様に繰り出される斬撃を切り上げで打ち払った。
ガギンッと一際大きな音が響く。
圧倒的な質量で繰り出される攻撃を相殺したことに俺は心の中で笑みを浮かべていた。
「せいやっ」
気合いを込めて鍔迫り合いをしているグロット・マンティスを押し返す。
「<ブロウ>!」
左手で拳を作り振り抜いて勢いよく体勢を崩したグロット・マンティスを打ち付ける。
アーツ自体の威力が低いとしても使っている俺の能力値が高ければ程々に威力は高くなる。狙い以上の効果があったらしく、拳を受けたグロット・マンティスの腹部には拳大のクレーターができ、ぱらぱらと砂を撒き散らしながら、フラフラと覚束ない飛行で下がっていった。
「へぇ」
追撃に出たかったがそれを阻んだのが他のグロット・マンティスによる衝撃波の攻撃だ。
迫る衝撃波を全て回避してガンブレイズを銃形態に変える。
狙いはダメージを受けている個体。
射撃では撃ち抜くことができないだろうと考えて近接攻撃を仕掛けようとしていたのだが、アーツを使って殴り付けた時の感触を思い返せば、十分にダメージを与えられるのではないかと思えてくる。
ものは試しだと狙いを付けて引き金を引く。
銃口から撃ち出される魔力の弾丸が狙い通りにフラフラ飛ぶグロット・マンティスを撃ち抜いた。
落下するグロット・マンティスに合わせてもう一度狙い撃つ。
最初の一発は腹部にできたクレーターを穿ち、二発目はその頭部を射貫いていた。
地面に激突する寸前、グロット・マンティスは砕け散った。
自分が考えていたよりも余裕を以て戦えていることに、先程上げた≪全能力強化≫の影響を自覚した。想定していたよりもはっきりと力を増したといえる現状に俺は笑みを浮かべ、残る二体のグロット・マンティスに攻撃を仕掛けていった。
「二体目!」
射撃はわかった。ならば斬撃はどうか。
もう一度ガンブレイズを剣形態に変えて近くのグロット・マンティスに一気に接近するとアーツを使わずに思い切り振り抜いた。
ガンブレイズの刃が捉えたのはグロット・マンティスの羽根。
鉱石でできているとは思えないほど薄く鋭いそれが根元から切られて砕けていた。
飛行能力を失って地面に落下するだろうと先読みして待ち構えている俺の目の前で空中にいる状態のままグロット・マンティスが砕け散った。
「嘘ぉ」
ここまで攻撃力が上がっているのかと驚いてしまう。
さっき一撃で倒せなかったのは威力の低いガントレットを使ったからだろうか。その後に二発撃ったのももしやオーバーキルだったのかもしれない。
浮かんだ懸念を解消するために再びガンブレイズを銃形態にする。
近付いたのでは一蹴されると学習したのか最後のグロット・マンティスは離れた場所から繰り返し衝撃波を放ってくるばかり。
とはいえ自分も近付くつもりはないと回避しながら銃口を向けた。
放たれた弾丸が正確にグロット・マンティスの腹部を貫く。
さっきはここでもう一回撃った。しかしそれが必要なかった攻撃だったのならば。
グロット・マンティスの頭上に浮かぶHPゲージを注視していると瞬く間に減少してゼロになった瞬間に砕け散ったのだ。
「なるほどね」
想定外に強くなったと思った俺は浮かぶリザルト画面の確認も程々にぐっと拳を握っていた。
これならばジルバたちとも戦える。そのような思いが湧き上がり、一刻も早く確かめたいと考えた俺は振り返り来た道を戻ることを選択肢に入れたのだ。
未踏破の区画はマップに記されていない。
この先どこまでノレア坑道が続いているかも分からない。
だったら引き返した方が確実ではないかとリリィを見ると、彼女は先に続く道を進むこと以外選ぶつもりはないと、視線と態度で俺に伝えてきた。
「そっか。そうだよな。ここまで来たら行けるとこまで行くのが一番だよな」
「ほら、はやく行こうよ」
「ああ」
リリィの先導で坑道を進む。
道中現われるモンスターはラド・ラットやグロット・マンティス、グレイ・ゴーレムなどという洞窟に生息している種類ばかり。どれもこれも珍しいものではなく、あくまでも一般的なモンスターではあるが、軽く数回の攻撃で倒せるようになるとあまり気にすることもなくなっていた。
モンスターの襲撃を殆ど歯牙にも掛けず進んで行った先で行き当たったのは扉などはない広大なフロア。
セーフティエリアのように天井から伸びるクリスタルの光に満ちたそこにまるで番人のようなモンスターが鎮座している。
【ゴスペル・マンティコア】
獅子の身体に蠍の尾、蝙蝠の翼を持つ怪物だ。
たてがみの色は黒。尾の色は赤。胴体と翼は灰色。
天井を埋め尽くしているクリスタルが虹色に輝いているからこそ、その光を浴びているゴスペル・マンティコアの黒さが一層際立っている。
「あれがここのボスモンスターか」
フロアの外からでも分かる巨体。
足を踏み入れればすぐに始まるであろう戦闘に備えて俺は自身のHPとMPを確認した。
「体力もMPも全快。状態異常も無し、装備に損傷も無し」
声に出して確認しつつ意識を戦闘に切り替えていく。
ホルダーから抜いた銃形態のガンブレイズを強く握り、ガントレットを装備した左手を軽く振る。
緊張感は高めながらも、リラックスしてそれに挑む。
リリィにフードの中に隠れるように促して歩き出す。
一歩、二歩。
ゴスペル・マンティコアが待ち受けるフロアに完全に入ったその瞬間、天井から巨大なクリスタルが出口を防ぐように降り注ぎ、地面に突き刺さった。
突然の轟音に驚き振り返る。
クリスタルの落下による衝撃波が発生させる突風を全身で受けてから、ハッと素早く振り返りゴスペル・マンティコアを見た。
侵入者を察知してそれが瞳を開ける。
目を瞑っていた時は普通の獅子の頭だと思っていたが、目を開いた瞬間、その異形さを目の当たりにした。
結晶のように煌めく二対三連、計六つの瞳。
それぞれ一対毎に赤、緑、黄色と異なる色をしたそれが俺の姿を映す。
『ゴオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
凄まじき咆吼と共に戦闘の火蓋が切って落とされた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レベル【23】ランク【3】
HP【10040】(+320)
MP【8950】(+770)
ATK【286】(+1810)
DEF【248】(+1880)
INT【276】(+900)
MND【204】(+1110)
AGI【324】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv101】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<アクセルブースト>――次に発動する物理攻撃アーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv1】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――威力を高めた拳で殴り付ける。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv95】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【0】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇