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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第一章 【はじまりの町】
6/659

♯.6 『岩山エリア』


「<ファイア・アロー>!!」


 サンド・スコーピオンの尻尾の急襲に対していち早く攻撃をしかけたのはツバキの魔法。

 空中に出現した魔法は一度に三本もの炎の矢。メラメラと燃えさかる炎の矢はツバキが木製の杖を振り下ろしたのを合図にサンド・スコーピオンに目掛けて三本が同時に飛んでいったのだ。


「…凄いな」


 思わず感嘆の声が漏れた。

 このゲーム内で俺は魔法というものを間近で目にしたことがない。せいぜい遠くから知らないプレイヤーが使っているのを目にした程度だが、正直に言えばその光景には驚きを禁じ得ない。

 熱気と火花を撒き散らして突き刺さった炎の矢は一瞬にして消え去り、炎の矢を受けその体の表層を焦がすサンド・スコーピオンのHPゲージが僅かに減少しているのが確認できた。


「ユウさん。早く追撃を」

「お、おう。任せろ」


 ツバキが炎の矢で狙ったのは複数ある脚の内の一本。その一本に集中して攻撃を受けたことでバランスを崩したサンド・スコーピオンを前にツバキが叫ぶ。

 それに対して俺は咄嗟に剣銃を剣形態へと変形させて駆け出しながら応えていた。

 ツバキの魔法によって生まれた隙を決して逃してはならない。それは数少ないボスモンスターとの戦闘の経験で言えること。片手で強く剣銃を握り気合い十分に飛び出した俺は突進の勢いその刃に載せて精いっぱい振り下ろした。


「ぐっ、硬い……けど!」


 サンド・スコーピオンなど昆虫型モンスターの特徴はその甲殻の硬さ。俺がそれを知るのは全くの無知では円滑にゲームを進められはしないと調べた最低限の情報の中にあった一般的なモンスターの種類による特徴の一つとして記されていたからだ。

 だが、その種族特有の甲殻の硬さも炎の矢を受けた場所のみが僅かながら軟らかくなっているようで、力一杯に振り降ろされた剣銃の刃は一度阻まれたものの、そのまま体重を掛けることでサンド・スコーピオンの足を一本、切り落とすことに成功した。

 ボスモンスターの部位破壊がこうも簡単にいくとは思っていなかったが、それもまた昆虫型モンスターの特徴の一つ。甲殻が硬いことで大抵の攻撃を防ぐが、反対に部位破壊が他の動物型に比べると容易い。

 例えるならば甲殻類の海産物だろうか。硬いが折れば食べやすい。とはいえこのサソリを食べようとは全く思わないが。


「よしっ」

「次は私!」


 先程に一度だけ見たサンド・スコーピオンが全身を駒のようにすることで繰り出す尻尾を使った攻撃は六本全ての足で地面に踏ん張ることでようやく成功する広範囲に向けた攻撃方法。故にたった一本でもその足を切り落とせたのならば、範囲攻撃とでも呼ぶべきその攻撃を妨害することが出来たと考えていいはずだ。


「もう一度くらいなさい。<ファイア・アロー>!!」


 ツバキが再び魔法の名前を叫ぶのと同時に杖を振るうと、またしても空中に三本の炎を矢が出現する。次の瞬間、炎の矢はまたしてもサンド・スコーピオンの別の脚に向かって降り注いだ。

 強引な方法ながらどうにか俺の剣銃の攻撃が通ったように、最初の炎の矢を受けたことで甲殻の強度を落としていたサンド・スコーピオンの脚の付け根の辺りに新たな炎の矢が深々と突き刺さる。

 昆虫型のモンスターは鳴かない。サンド・スコーピオンも同様に声にならない叫びをあげて痛みに悶えているかのように身体を動かすその姿は虫が苦手でもなくても気味が悪いと思ってしまう。しかし、この挙動がこちら側の攻撃が効いている証なのだとすれば、歓迎すべきもの。


「っても、まだまだ油断大敵だよな」


 どんなにこちらの攻撃が効いていると実感できる光景だったとしても、それを前に浮かれるわけにはいかない。未だにサンド・スコーピオンのHPゲージが半分以上残っているからこそ、いつ反撃を行うかという警戒心を解くわけにはいかないのだ。


「うげっ」


 サンド・スコーピオンが蠢く様は頭では歓迎するべきだと理解していても実際にその光景は見ていて楽しいものじゃない。それでも仕方ないと半分諦めに近い感情で俺はその姿を真剣に見つめ続ける。


「っ、追撃…お願い……」

「了解!」


 炎の矢が消える刹那にツバキが叫ぶ。

 魔法の連続使用が堪えたのか先程よりも若干息を荒くした様子のツバキを一瞥して、俺はサンド・スコーピオンの別の脚を攻撃するべく駆け出した。

 柔らかくなっていた箇所に突き刺さった炎の矢が消えるまでの間に持続して与えられていたダメージのお陰か、サンド・スコーピオンのHPゲージは脚を切り落とした時よりもさらに減少している。

 雑魚モンスターであろうとボスモンスターであろうと、こうしてちゃんとHPを減らすことが出来るのならば戦闘が終わるのもそう遠くないことだろう。


「はあぁぁ!」


 カタカタ動く脚の一本を切り飛ばし、俺はそのまま別の場所に攻撃を仕掛けた。サンド・スコーピオンの挙動を阻害することに成功すれば次に狙うのはこのモンスターの最大の武器となっている尻尾。

 残念なことにユウというキャラクターは技らしい技を持っていない。使えるアーツは銃弾を込め直す<リロード>だけ。部位破壊を行い決して少なくないダメージを与えることができたとしても、決定打に欠ける俺の一撃ではサンド・スコーピオンの尻尾を切り落とすことは不可能。

 それならば、


「ツバキ! ここを狙え!」


 指示したのは斬り付けて傷が付いたサンド・スコーピオンの尻尾。

 息をあげていたツバキもここが分かれ目だと理解したのか、大きく息を吸い木製の杖を掲げ、


「はいっ! <ファイア・アロ->」


 渾身の三本の炎の矢を撃ち出した。

 傷が付き脆くなっていた尻尾に炎の矢が突き刺さる。

 この時、俺は初めて昆虫型モンスターであるサンド・スコーピオンの悲鳴を聞いた。声でも鳴き声でもない。甲殻同士を擦り合わせたかのような不協和音が響く最中、俺は炎の矢を受けて赤化している尻尾に気合いを込めた横一線を放った。


「ぐっ、まだ、もっと踏み込めぇ!」


 またしても甲殻に阻まれた刃を無理やり押し込む自分を鼓舞するかのように叫び放たれた横薙ぎの一閃はサンド・スコーピオンの尻尾の根元に大きな傷を付け、返す刀で同じ場所に斬りつけることでようやく切断することができた。

 再び聞こえてくるサンド・スコーピオンの悲鳴。

 俺が知るだけでも三回、俺が参戦するよりも前から幾度となく炎の矢を受けていたことによって減少した甲殻の強度になってようやくその最大の武器たる尻尾を切り落とすことができた。最初に斬り落とした脚一本に比べて、メイン武器ともいえる尻尾を斬り落としたことでサンド・スコーピオン攻撃手段はかなり限定されたのと同時にそのHP残量が遂に二割を下回った。


「これでラストだ。ツバキ、合わせてくれっ!」


 尻尾を切り落とされ倒れたまま体勢を立て直すことができずにいるサンド・スコーピオンを挟んで反対側にいるツバキに聞こえるように叫ぶのと同時に剣銃を銃形態に変形させる。サンド・スコーピオンの胴体の上に現れたターゲットマーカーを一瞬だけ確認して、俺は迷わずに剣銃のトリガーを引く。

 弾丸が撃ち出されるのと同じタイミングでツバキが発動させた炎の矢の魔法がサンド・スコーピオンへと突き刺さる。

 前方から俺の射撃を、後方からツバキの魔法を受けたサンド・スコーピオンは反撃の隙を与えられることなくそのHPを減らし続ける。<リロード>によって装填された弾丸までも惜しむことなく使われた射撃と途切れることなく発動された魔法を受けたサンド・スコーピオンは一瞬の静寂を挟み、細かな粒子となって弾け消えた。


「……勝てた、のか」


 俺の心配を払拭するかのように出現したリザルト画面が戦闘終了を告げる。ほっと胸を撫で折りした瞬間にサンド・スコーピオンがいた向こう側から大きな安堵の息が聞こえてきた。

 撃ち尽くした銃弾を<リロード>することもしないでそのまま剣銃を腰のホルダーに収める。


「…ユウさん」


 コンソールに記されているリザルト画面で今回の戦闘で獲得したアイテムを確認する。サンド・スコーピオンから獲得出来るアイテムは『砂蠍の針』と『サンドストーン』という二種。この二種類のアイテムの詳細を見ようとする俺にツバキが声を掛けてきた。


「ありがとうございました」

「え、あっ」


 ツバキが急に畏まった口調で礼を述べ深々と頭を下げてきたのだ。


「その……ユウさんのおかげで助かりました」


 ツバキもこの戦闘に勝てたことは純粋に嬉しいのだろう。しかしその直ぐ後にツバキの表情は曇ってしまう。


「ここにもう一人いたんだよな?」

「え?」


 驚き聞き返すツバキに俺はサンド・スコーピオンとの戦闘に介入する寸前に耳にしたことを告げた。聞いたのは顔も名前も知らないプレイヤーの最後の悲鳴。そして、俺がそれを聞いて駆け付けた場所にいたのはツバキ一人とサンド・スコーピオンというモンスターだけだったこと。

 それから後のことはツバキも知っているはずだ。俺が混ざったこの戦闘が再開し、終わり今に至る。


「そうなんですか…」

「えっと、その、大丈夫なのか? ツバキの仲間のプレイヤーは」

「はい、大丈夫です。町に死に戻りしていたとしても、まだそんなに痛手にはなりませんから」

「そっか」


 それでも心配なことには変わらないのだろう。ツバキの声は相変わらず沈んだまま。けれど、たった一度だけ、それも偶然戦闘に介入しただけの俺がツバキに掛けられる言葉はもうない。ツバキ本人が大丈夫だというのならば、そうなのだろうと納得する以外にはないのだ。

 思えばツバキは口調を改めたというのに俺はそれ正すのを忘れていた。とはいえ戦闘中にああもざっくばらんに喋っていたから今更だとも言える。

 何よりも掛けるべき言葉が無くなった俺は手持ち無沙汰にキョロキョロと辺りを見渡した。

 微妙な空気の中で佇むよりもこの岩山のエリアに来た当初の目的を優先することに決めたのだ。サンド・スコーピオンが消えて平穏になったこの辺りを適当に歩き回っていると程なくして岩山の隅に目的の場所を見つけられた。


「ここか」


 ストレージからピッケルを取り出す。


「よっと」

「何してるんです?」


 ピッケルを振り上げる俺を見てツバキが訪ねてきた。


「これか? ここで採掘するのさ」


 短く答え振り上げていたピッケルを採掘ポイントに向けて勢いを付けて振り降ろす。岩壁にピッケルが激突しひび割れた場所から足下にゴロゴロといくつかの石の塊が転がった。足下の鉱石の中から一つを拾い、その種類を確認し目的の物とそうじゃないものを選別してゆく。


「ユウさんは生産職なんですか?」

「いや、違うよ」

「そうなんですか? でも、普通は採掘なんてこんな序盤には普通はしないですよね」

「かもな」


 真剣に鉱石を選別してる俺を見て抱いたツバキの疑問に曖昧な笑みを返す。


「確かにこれは生産スキル取得のためのクエストの一環なんだけどさ、まだはっきりと生産職になるって決めたわけじゃないんだ」


 掘り出した全ての鉱石を確認し終えた後にもう一度ピッケルを振り上げで再び同じ場所目掛けて振り降ろす。

 またしても足下にゴロゴロと転がった鉱石の数は一回目よりも少ない。この一つの採掘ポイントでの試行回数がそんなにあるわけではないのだろうが、それでもまだ残っているはずだ。実際、これまでの採掘で判明したことが一つある。同じ採掘ポイントでの採掘の出来る回数は限られており、また一度の採掘で獲得できる鉱石の数も完全にランダムとなっているらしい。そのようなことを漠然と考えている俺にツバキが再び問いかけてきた。


「それなのにどうして?」

「秘密だ。というかツバキは生産職になりたいのか?」

「別になりたいわけじゃないんですけど。ユウさんもそうなんですよね」

「まあな」


 ツバキの口から出た質問は当然のことだと思ったが俺はそれに対しても曖昧に答えることしか出来なかった。


「でも、このクエストのことは…」

「わかってます。習得したいなら自分で調べるべきって言いたいんですよね」

「あ、ああ」


 仮に誰でも知っている生産スキルの取得方法だとしても、それを知るために調べることは自分でした方が良いし、何よりも楽しいはずだ。もしツバキが生産職を目指すのならばこの俺との出会いがきっかけになったとしてもいいと思ったが、そうでは無い様子を鑑みてやはり俺は口を噤んだ。


「さて……」


 転がっている全ての鉱石の確認を終えて三度ピッケルを振り下ろすも残念ながら一つも鉱石は手に入らなかった。これは採掘ポイントの採掘可能回数がゼロになったという証。再び同じ場所で採掘をしようとするのなら一定時間空けなければならないのだが、その時間がどれくらい必要なのか俺は知らない。だから俺の場合は一つの採掘ポイントで最大回数まで採掘をしたら他の採掘ポイントを探した方が建設的なのだ。


「俺は上に行くけどさ。ツバキは一度町に戻るんだろ?」


 ピッケルはストレージに戻したしここで採れた鉱石の数も種類も確認した。さらに言えばこの近くに別の採掘ポイントも見当たらない以上はこの場所には用が無くなったも同然。


「そうですね。わたしの仲間も生き返っている町で待ってると思いますから、そうさせて貰います」

「ああ。そうした方が良いさ」


 仲間が町で復活して待っているというのならばツバキはその人を迎えに行くべきだと思う。


「それじゃ、ここでお別れですね」


 そう言いつつもどういうわけかツバキはここから立ち去ろうとしない。


「何だ? まだ何か用があるのか?」


 ツバキを見送るつもりなどなかったのだが、ジッと俺の顔を見つめたまま動こうとしないツバキを無視して先に行くというのはどうも後味が悪い。


「いえ、その……」

「言いたいことがあるのなら言ってくれ。もし、ないようなら俺はもう行くぞ」


 だからといっていつまでもここにいるつもりはない。俺には先に進む理由も、手に入れるべき物もあるのだから。

 何よりも俺が問題視しているのはサンド・スコーピオンを筆頭に、倒した、あるいは姿を消していた雑魚モンスターが戻ってこないかだ。この岩山のエリアに雑魚モンスターがいるのなばらいつか出現する可能性がある。

 『砂蠍の針』や『サンドストーン』というアイテムを集めてるわけではないのだから、散策の時ならまだしも同じ場所に留まったせいで再び同種のモンスターと戦闘になるなんてこと無駄でしかない。


「あのっ本当にありがとうございました!」

「別にいいさ。ツバキこそ気をつけて戻るんだぞ。道中で死に戻りしたんじゃ折角サンド・スコーピオンに勝ったのに意味なくなるからさ」

「はいっ」

「それじゃあな」


 満面の笑みを見せて頷くツバキに別れを告げ、俺は岩山エリアの山頂を目指し歩きだした。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





キャラクターネーム『ユウ』

レベル『7』



【実数値】[基礎能力値](装備加算値)《スキル加算値》



HP 【480/590】 [570] 《+20》

MP 【160/290】 [280] 《+10》

ATK 【85】 [75] (+10)

DEF 【55】 [65] (-10)

INT 【60】 [60]

MIND 【50】 [50]

SPEED 【85】 [75] (+10)

LUK 【10】 [10]

AGI 【60】 [60]

DEX 【60】 [60]



『装備・武器』



専用武器・【剣銃】

――(ATK+10)



『装備・防具』



頭・【なし】

首・【なし】

外着・【初心者装備・最軽装・ジャケット】

――(DEF-10)(SPEED+10)

内着・【初心者装備・最軽装・半袖シャツ】

腕・【なし】

腰・【なし】

脚・【初心者装備・最軽装・ズボン】

靴・【初心者装備・最軽装・ブーツ】



『アクセサリ』 装備重量【0/10】



なし



≪所持スキル一覧≫ 保有スキルポイント【8】



≪剣銃≫レベル・1

≪体力強化≫レベル・1

――《+20》

≪魔力強化≫レベル・1

――《+10》



<所持アーツ一覧>



<リロード>





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





17/5/9 改稿

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