大変な改変は異変!? 31『坑道修行』
辿り着いた坑道の入り口は張り巡らされた棘突きの鋼線と打ち付けられた板で封をされている。
誰も通さないぞと言わんばかりのそれには少しだけ板が歪み、鋼線がたゆんでいる場所がある。歪んでいる板を押し上げて、たゆんでいる鋼線を跨げばさほど苦労することなく坑道のなかに侵入できそうだ。
「良からぬ輩はどこにでもいる、か」
オルヴァスが言っていたことを思い出すように呟きながら、先人に習い俺も坑道に入って行くことにした。
モンスターが生息するとは聞いていたが、入り口付近からモンスターに襲われることはない。
いくつもの足跡が付いて踏み荒らされた地面。
無造作に投げ捨てられている何かの欠片。
拾い集めても何にもならないゴミが散らばっているかのような光景を目の当たりにすると確かに柄の悪い連中にとっては絶好の集合場所となっていることが想像できた。
「だとすればかなり進まないとモンスターは見つけられないかもな」
人が集まるということはそこが安全であるという証でもある。
例えモンスターになんか負けないと豪語するような柄の悪い連中でも実際にモンスターに占拠されているような場所には寄り付かないものだ。
一応周囲を警戒しつつ坑道の中を突き進む。
入り口付近十数メートル程度にはあからさまとでもいうような人が居た形跡が残されていたが、Y字路に行き着いた頃にはどちらかといえば行き慣れたダンジョンの様相を呈し始めていた。
それでもモンスターと出会うことはなく、道中発見できたのは既に枯れた坑道の証とでもいうべき採掘跡がいくつか。
これでは目的を果たせないと焦りを感じ始めた頃、ようやくそれを見つけた。
通路の壁際にある崩れた形跡のある採掘跡。そこに積まれた石の山。
「坑道には付きもののモンスターだな」
石ころならば足元にいくらでも転がっている。その内の一つを拾い上げるとすかさずに石の山に向かって投げつけた。
カンッと硬い音を立てて跳ね返る小石。
全く意味が無い投石に見えるそれがもたらしたのは僅かな地響き共に起き上がったモンスターの出現だった。
大小様々ないくつもの石が繋がって作られている体。
黄色く発光する一つ目。
一般的にゴーレムと呼ばれる種類のモンスターである。
「『ストーン・ゴーレム』か。こう言ってはアレだけど、普通だな」
僅かながら落胆したのは仕方ないと思う。
強くなるためならと教えられた場所に出てくるモンスターはそこにだけ出現する固有種であることがある。固有種ならば総じてレアなドロップアイテムがあったり、普通のモンスターに比べると特殊な挙動を見せたりとプレイヤーにとって戦う旨味が強い場合が大抵なのだ。
だというのにようやく見つけたのが坑道に限らず周囲に石や岩が多い場所に出現するストーン・ゴーレム。
倒して手に入るドロップアイテムはありふれた鉱石素材くらいのもので、いまの自分には必要の無いものでしかない。
得られる経験値もそこまで多いわけではないことからも無意識のうちに心の中で“ハズレ”認定してしまうほど。
だとしても向かってくるのならば倒すしかない。
素早くガンブレイズを抜いて剣形態に変えるとストーン・ゴーレムが腕を振り上げた隙を狙って勢いよく斬り付けた。
「遅いっ!」
アーツを使わずともかなりのダメージが入った。
ストーン・ゴーレムの頭上に浮かぶHPゲージが大きく削られ、続け様に放った斬り返しの連撃で残るHPを一気に削り取った。
HPゲージがゼロになった瞬間、全身を光に包まれてストーン・ゴーレムは霧散した。
リザルト画面が浮かぶもそこに記されていたのは想像通りの文字ばかり。
例え必要ないと考えつつもドロップアイテムがなかったのが残念に感じるのはプレイヤーの性のようなものか。
「とりあえず奥に向かってみるか」
別のモンスターが出現する可能性に賭けて引き返すことをしないで暗闇へと突き進む。
使われなくなった坑道のは当然のように光源はない。次第に入り口から微かに差し込んでいた光も届かなくなり周囲は完全な闇に支配された。
夜目が利くというわけでもないが、プレイ環境が劣悪になりすぎることを防止するためにプレイヤーはどんなに暗闇でもある程度自身の周りを視認することができる。実際ここでも俺は自分の手や体をはっきりと見ることができているのだ。問題なのは先が全く見通せなく、進行方向さえも分からなくなっていること。
壁に手を付いて進めば迷うことはないだろうが、それではモンスターに襲われた時に対処することができない。
救済措置として洞窟のようなダンジョンには松明みたいな光源となるアイテムが用意されている。しかしこの坑道には自分が通ってきた道に限ればそういう類のアイテムを発見することはできなかった。
「ん?」
足を止めてどうするべきか考えていると突然首の後ろの方に重さが加わった。
首と背中に感じる重さがもごもごと動き、二つの小さな光が顔の横に来た。
「こんなところで何をしてるのさ?」
突然声を掛けられたことに驚かなかったのはその声の主のことを知っているから。
まるでそれ自体が猫型ロボットのお腹にあるポケットであるかのようにその存在がすっぽり姿を隠すことができるフードから身を乗り出してきたのは妖精猫のリリィである。
「えっと、レベル上げ?」
「ふぅん」
強くなるためにプレイヤーが取れる手段は大きく分けて二つ。自身のレベルを上げることと装備をより良いものに変えること。
武器は専用武器を使うゲームであるからこそ更新できる装備はあくまでも防具とアクセサリに限られているのだが。
「ってかさ、何も見えないじゃん」
「そうだ! リリィ、何か明かりになるもの持ってない?」
「はあ? アタシがそんなの持ってるわけないじゃん」
「だよね」
「必要ないし」
「んん?」
「アタシが“妖精猫”なの忘れてない? そんなの道具を使う必要なんてないの!」
肩の上で胸を張る猫、もといリリィ。
「頼む。明かりをつけてくれ」
「はいはい。わかったわよ。アタシも真っ暗なの嫌だし」
得意気な顔のリリィが聞き取れない言葉を紡ぐ。
するとリリィを中心に二つの光球が出現し、くるくると周りながら浮かび、俺たちの周囲を明るく照らしだした。
「ありがとう。これで先に進めるよ」
「いーえー。にしても用意もなくこんなトコに来るなんて、珍しいんじゃない」
「まあ、準備する時間はあったようでなかったから」
「何よそれ」
トンッと肩から降りたリリィが足元に着地した。
「で、ここはドコなのさ?」
「ノルアの近くにある廃坑道って所かな。いまではモンスターが出現するダンジョンみたいになっていてレベル上げには最適の場所、らしいんだけど……」
リリィに対する返答が尻窄みになっていく。
オルヴァスにそう勧められたというだけで実情は分かっていなかっただけに来てみて落胆したというのが現状だった。
「何回かここでモンスターと戦ったけどさ。出てくるのはストーン・ゴーレムばっかりだし、ドロップアイテムは皆無だし、経験値もそんなに多く貰えないし。これでどう強くなれっていうんだよ」
独り言のように愚痴を溢す俺を一瞥してリリィはトコトコ歩き回っている。
何かの匂いを探るように嗅ぎ回って、猫の手で壁に触れたりしているみたいだ。
「ねえ」
「どうした?」
「ここってさ。別の道があるんじゃないの?」
満足するまで周囲を見て回ったリリィが俺の肩に飛び乗って告げた。
「どういうこと?」
「なーんか変な感じがするんだよね、ここ。ほら、そことか、そことか、変な魔力を帯びているっていうか。変な魔法が掛かっているというか」
「変な魔法? ……隠し通路か!」
プレイヤーが使う魔法と同様にモンスターが使う魔法にも多種多様な効果がある。加えてダンジョンという場所にはそれ自体が魔法を用いてモンスターの姿を隠したり、罠が用意されていたりすることがあるのだ。
特別なスキルや道具を用いることで罠などは“看破”することができるのだが、普段あまりダンジョンのマップを埋めることを気にしない俺はそういう類のアイテムやスキルを常備してはいなかった。
ダンジョンをクリアするだけならば罠は乗り越えていけばいいし、隠されている通路などを通らなくても問題がないからだ。
「リリィはどこが変な感じがするのかわかる?」
「とーぜん」
「教えてくれ!」
「仕方ないなー。ついてきて」
ぴょんと肩から飛び降りたリリィが迷いのない足取りで進む後を追い掛ける。
浮かぶ二つの光球に照らされているおかげで先を行くリリィを見失うことはない。それでも離れすぎることはよくないだろうと一歩の大きさが異なるリリィの速度に合わせて進んで行く。
何気なく壁や天井を見回す。
剥き出しの岩肌や土の色。
この辺りまで来ると人の手が入っていた痕跡というものも随分古めかしいものになっている。壁際にボロボロになった千切れたロープの欠片のようなものを崩れた石のが積み重なっている中に見つけた。途中で千切れてしまっているらしく先は解けホウキの先のように広がってしまっている。
元はどこかと繋がっていたはずと目を凝らしてその痕跡らしきものを探すも見つけられない。
躍起になって探し続ければ発見できた可能性は残されているが歩を止めないリリィを見失ってはならないと中断し、少し駆け足でリリィの隣に並んだ。
「うーん。この辺だと思う」
道の途中で立ち止まったリリィが横に立つ俺に顔を向けずに告げた。
合わせて立ち止まった俺はリリィが示した壁へと手を伸ばす。
もしここが通路になっているのならば俺の手はスッと通り抜けるかもしれない。そんな風に思って躊躇なく手を伸ばした結果、硬い岩肌の壁に手がぶつかり、なるわけがないと知っているはずなのに伸ばした指を突き指してしまいそうになった。
「ただの壁みたいだけど」
実際に痛みは感じていないものの何となく手を軽く振って下を見る。
「そんなの知らないわよ。ここから変な感じするってだけなんだから」
不満そうにプイッとそっぽを向くリリィは自身でも確かめるように前脚を壁に伸ばしてペタペタと触感を確かめていた。
次第にどうしてというような表情になり、最後には小声で「ここだもん」としょんぼりしたように呟きだしている。
「リリィが言うなら本当なんだろうけどさ」
「うん?」
「多分何か手順を踏まないと通れないようになっているんじゃないかな」
落ち込むリリィを抱え上げ慰めるように告げる。
実際隠された道を通ろうとするのならば何かしらのフラグを立てる必要があることは往々にしてあり得ることだ。
「だから通るためのアイテムを見つけてから――」
またここに来よう。そう言おうとして言えなかった。
俺とリリィが見つめている壁が蜃気楼のように歪み消えてしまったからだ。
「な、何をしたのさ!?」
「いや。俺は何も……」
壁には一度触れたがそれ以外は触ってすらいない。
だというのに僅か数秒足らずで壁が消え、先へと続く道が姿を現わしていた。
「行くよね?」
「もちろん」
腕の中でにやっと楽しそうな笑みを浮かべるリリィに答えて歩き出す。
新しい道は過去にどんな目的で作られ、どんな理由で隠されているのか。好奇心に駆られ想像を巡らせているとそれは現われた。
「リリィ。隠れてて」
「うん!」
流れるようにフードの中に身を隠したリリィ。
出現したモンスターは先程のストーン・ゴーレムのようなものではなく、蠢く骸骨と言わんばかりの“スケルトン”。錆びた金属鎧を纏い、刃毀れを起こしている両手剣を携えたそれは遠目で見ればプレイヤーであるかのよう。
いつもならばスケルトンという名の前後に何らかの特徴を現わした単語が付随しているはずが、目の前のそれはただ単にスケルトンとだけ記されている。
「戦ってみればわかるはず」
浮かぶ疑問の答えは目の前にある。
筋肉のない体であるスケルトンが両手剣を構えたのを見計らいガンブレイズを抜いて駆け出した。
下から上へ、斬り上げの斬撃を繰り出す。
重い両手剣から繰り出される攻撃は振り下ろしと振り回しが基本となる。プレイヤーがその重さを感じさせない動きで自在に両手剣を操るのはそれを可能とするスキルやパラメータを有しているから。
スケルトンにそれを可能とする類の能力はないらしく、俺の攻撃を迎撃するためには両手剣を振り回すしかない。
剣形態のガンブレイズよりも重量のある両手剣。ぶつかり合えばどちらが有利なのかは明白。しかしその使い手の能力値はあからさまな差があった。
激突する剣同士が生む衝撃は閉鎖空間のような坑道に反響する。
「はあっ」
気合いを込めてスケルトンの両手剣を押し退ける。
バンザイする格好で鋤を晒したスケルトンに向けて横一線の切り払いを繰り出した。
細い骨の体は斬り裂かれるというよりも砕かれるといった感じでまるで糸の切れたマリオネットのようにその場で崩れ落ちた。
見た感じ崩れたスケルトンは倒されたというような印象をもたらすが、実際その頭上に浮かぶHPゲージはまだゼロになっていない。
起き上がってこない限り、こちらの攻撃は振り下ろしに限定されているも同然。
それでもと勢いを付けてガンブレイズを振り下ろすと崩れて山になった骨の最上段にあるスケルトンの頭蓋骨が叩き割られた。
「強くはないよな。やっぱり」
案の定というようにドロップアイテムはなし。得られた経験値もストーン・ゴーレムの大差はない。
これでは何のために隠し通路に足を踏み入れたのかわからなくなってしまう。
「ほら落ち込んでなんかいないでさ、先に進もうよ。まだまだ先はあるみたいだしさ」
「そうだね」
フードから出てきたリリィに励まされながら坑道の更に奥へと歩き出した。
暫く歩いて居るとモンスターに荒らされることもプレイヤーの手が入ることもなく綺麗な状態で地面に残されている線路を見つけた。
僅かに歪み錆び付いた程度で原型を留めているレールや所々抜けてしまっているものの等間隔で残っている枕木。
まるでこの線路が目的地まで自分を誘ってくれる道しるべであるかのように感じられた。
「一本道みたいだし、行き着くまで行ってみようよ」
「ああ」
線路を発見したあたりから採掘跡を見なくなった。
光球に照らされているおかげで隠されてでもいない限り脇道を見逃すことなくなった。つまりリリィが言うようにこの道は一本道。終着点まで進むか、来た道を戻るか。選べるのは二つに一つ。ならば俺は進む道を選ぶ。
道中何度かスケルトンの襲撃を受けつつ、見えてきたのは線路が敷かれた坑道の先にある開かれた空間。
どんな目的で、どのようにして作られたのわからないほど広大な空間には壊れてしまった採掘道具の数々が地面に乱雑に散らばっていた。
「何がいる?」
この光景はただ放棄されて長い時間を経たことでできたわけではないはず。
注意深く周囲の様子を窺っているとぱらりと壁から小さな石が剥がれて落ちた。
コツンと石の落ちる音が異様に大きく響く。
ハッと音のする方を見るもそこには何もない。
また別の場所で壁から石が剥がれ落ちる。今度は先程よりも大きな石の塊が落ちたのかコツンではなくゴロンとさらに大きな音が響き渡った。
連続して壁から大小様々な石が剥がれて落ちる。
落ちて地面を転がっている石が振動し少しずつ動いている。
ピタッと石の振動が止んだ。
シンッと痛いくらいの静寂が張り詰める。
僅かに後ずさった俺の右脚がじゃりっと地面を踏み締めた音が鳴る。
途端、大きな揺れが起こり、目の前の地面が激しく隆起した。
「――っ!?」
素早く後ろに跳んで身構える。
隆起した地面の中から姿を現わしたのは巨大な骸骨の頭部を持つ蛇“スカル・オージャ”だった。
「オージャ…王蛇か。なるほどコイツがこの坑道のボスモンスターってわけか!?」
全貌を露わにしたスカル・オージャは骸骨の頭をこちらへと向けてくる。
スケルトンの骸骨とは違うのは目の部分に該当する窪みが三つであること。この頭に肉が付いていれば人頭の蛇だっただろう。それはそれで恐怖を掻き立てる容姿をしているだろうが、目の前のそれはまた別の恐怖を与えてくる。
自分よりも遙かに大きな身体。
無数の胸骨が浮き出ているかのような鱗の柄。
尾の先にあるのはとぐろを巻き鋭く尖った剣のような部位。
カラカラカラと骨が鳴る。
地面を這って、壁を伝い、自由自在に動き回るスカル・オージャが大口を開けて迫ってくる。
スカル・オージャの攻撃範囲から逃れるために全力で駆け出す。
ドォンと轟音を立てて壁に激突するもスカル・オージャにダメージは無い。
壁を体で削りながら円を描き徐々に内側にあるものを押し潰していった。
「回避は難しいか。だったら――」
この挙動を見せているスカル・オージャに斬り付けるのは困難を極める。それならばと銃形態に変えたガンブレイズで撃つも与えられるダメージは思っていたよりも少ない。
「硬いといよりも、回転している間はずっと障壁を纏っているような感じなのか」
冷静に分析しつつ狭まってくるスカル・オージャを睨み付ける。
こちらの視線など全く意に介した様子を見せずになおもガリガリと地面を削りながら範囲を狭め続けていた。
せめてもう少しスカル・オージャの身体が細ければどうにかこうにか飛び越えられたかもしれない。しかしその身体の幅は俺の身長を軽く超えている。
俺が潰されるまで猶予はあまり残されていない。
どうにか退避方向を探るもやはり三百六十度取り囲まれているようだ。
「こうなったら賭けだ。天井がどこにあるかは分からないけど」
左手を真上に突き出す。
発動したガントレットのアビリティ【アンカーショット】が闇に覆われた天井の何かに突き刺さり固定された。
「ふっ」
ぐっと身を屈め全力で飛ぶ。
【アンカーショット】が自動で収縮し俺の体を天高く引き上げた。
ぐるぐる渦を巻くスカル・オージャの身体の内側にある空間が潰される。
巨大な岩のように全身を固めた格好で技後硬直のように動きを止めたスカル・オージャが動き出す前に壁際にまで移動したい。
左手を引いたことで天井に突き刺さっていた【アンカーショット】が消えて、今度は別の壁に向けて新たな【アンカーショット】を撃ち出した。
急激な方向転換を行いながら地面で固まっているスカル・オージャを飛び越える。
余裕の出来た壁際に着地した瞬間、すかさず動かないスカル・オージャを狙い撃った。
硬い岩肌のようなスカル・オージャの身体を撃ち出された弾丸が穿つ。
与えられたダメージも回転しているときに比べてあからさまに多く、これがスカル・オージャに射撃攻撃で与えられる本来のダメージ量ということなのだろう。
数回射撃を繰り返しているとスカル・オージャは再び動き出した。丸めていた身体を伸ばし、地面を滑るように攻撃を行っている俺に目掛けて突進を仕掛けてきたのだ。
「遅くはないけど、このくらいの速度なら」
敢えてスカル・オージャに飛び込むように近付いていく。
ガンブレイズを前面に構えて繰り返し引き金を引きながらギリギリまで引き付ける。
タイミングを見計らい大きく横に跳ぶ。
「ここっ!!」
素早く剣形態に変えて渾身の力でガンブレイズを突き立てる。
「うおおおおおおおっっっっっっっっっっっ」
絶叫しながら両脚に思い切り力を込めて吹き飛ばされないように堪えて踏ん張る。
すぐ横を通り過ぎるスカル・オージャの勢いを利用して綺麗な一筋の切り傷を刻み付けた。
「くぅっ!?」
身体を捩ったスカル・オージャの尾が眼前に迫る。
ガンブレイズを引き抜いた直後、敢えて軽く身を浮かして吹き飛ばされるように離れる。
左腕を構えて【フォースシールド】を出現させるとそれを思い切り通過するスカル・オージャの身体に叩きつける。
急速に飛んでいった俺が居た場所をスカル・オージャの尾が叩き潰した。
横にした細長い円柱状に窪む地面を眺めながら今度は地面に向けて左手の甲を翳した。発生した【フォースシールド】がクッションの代わりになってくれればいいが、半透明の盾にどれくらいの緩衝性能があるか検証不足も甚だしい。
だがこれが最も安全な方法のはず。
「ぐっ」
身体を捻り着地した瞬間バリンッと大きな音を立てて【フォースシールド】が砕けた。
狙い通り、あるいはそれ以上に俺が受けるダメージは軽減されたようだ。
「よしっ。狙い通り」
心の中でガッツポーズをして素早く身を起こす。
モンスターであるスカル・オージャが自身の攻撃が空振り続けていることに苛立ちを覚えたのか身体の半分ほどを起こして暗く光る三ツ目を向けてきた。
「何だ? 俺がこうして無事なのが気にくわないとでも言いたげだな」
挑発的な笑みを浮かべて告げる。
「だったら来いよ。俺はここに居る」
『シャッッッッッッッッーーーーーーーーー』
スカル・オージャが大口を開けて吼えた。
「煩いよ」
銃口から放たれた二発の光弾が吼えるスカル・オージャの頭で弾ける。
「ん?」
光弾が弾けて生み出された極細の光の粒がスカル・オージャの顔の周りに漂っているがそこに紫色をした光が混ざる。
俺が繰り出す全ての攻撃にあの色はない。つまりあれは自分ではなくスカル・オージャの攻撃というわけだ。
すかさずに【フォースシールド】を発動させて身を守る。
しかしどんなに待ってもスカル・オージャの攻撃が来ることはなかった。その代わりに光の粒が消えた中に体色を変えたスカル・オージャが居た。
灰色がかっていた骨に当たる部位の色が全て鮮やかな紫に。
その内側の部位が澱んだ池の水みたいな緑色へ。
三ツ目の光は血のように赤く。
体躯に大きな変化は見られない。
色を変えただけだというのに受ける威圧感が増していた。
「なるほど。アンタも本気になったってわけだ」
竜化するかどうか悩み、ここはいつもの状態で戦うことに決めた。
フェイスレスが相手ならまだしも、純然たるモンスターであるスカル・オージャを相手に竜化していたのでは、竜化の使用制限によっては戦えないということになってしまう。
「行くぞ」
意を決して駆け出す。
紫色の柄を持つスカル・オージャが大口を開けて俺を呑み込まんと迫る。
口の中ならば多少防御力は低いかもしれないとバックステップしながら連続して引き金を引く。
しかし思っていたほどダメージを与えることもなくサイドに回避した俺をスカル・オージャが通過した。
「ここから削るのならアーツを使わざるを得ないというわけか。上等だ」
射撃にもMPは消費する。が、アーツを常用するつもりならばよりMPの管理に気を配るべきだ。とはいえアーツを主軸にした戦い方はフェイスレスとの戦闘経験を経て熟れてきたと言える。
挨拶代わりだと<カノン>を発動させてスカル・オージャの目を狙う。
「どうだ? さっきより痛いだろ」
より大きな爆発がスカル・オージャの頭を巻き込んで起こる。
がむしゃらな迎撃だというようにスカル・オージャが尾を振り回してきた。
防御よりも回避が得策と【アンカーショット】を使い壁や天井を使い縦横無尽に飛び巡る。
連続して<カノン>を発動させてスカル・オージャのHPを削っていく。
スカル・オージャの攻撃の底は見えた。
後はそのHPを削り取るだけだ。
撃つ。
飛ぶ。
撃つ。
遂に追い詰められたスカル・オージャが全身の紫色を頭部に集中させた。
「何をする気だ?」
初めて見せるスカル・オージャの挙動に攻撃の手を止める。
灰色に戻る鱗の色に反比例するように頭部の紫色がより濃くなっていく。それだけじゃない。頭蓋骨のようである頭部の色も灰色に戻った。
「失敗? いや、あれは――」
色を戻した頭部で唯一紫色を残している部位があった。
鋭く尖った二つの牙。
スカル・オージャのモチーフである蛇を思えば文字通りの毒牙であることは想像に難くない。
ぽたりと紫色の牙から光が垂れる。
重力に従って落ちた光が地面に当たるとジュッと音を立てて解けた。
「それがアンタの必殺技ってわけか。いいだろう。付き合ってやるよ」
普通のアーツでも倒せる。しかしここでトドメを刺すつもりならば必殺技を使うのが手っ取り早い。
「いくぞ。<ブレイジング・ノヴァ>」
大口を開けたスカル・オージャが紫色をした水流を放ってきたのに合わせて必殺技を放つ。
光線と激突して弾けた水流の飛沫が周囲の地面や壁を溶かしていく。
プレイヤーとモンスター、二者の必殺の一撃がせめぎ合う均衡が破られる。
赤色の光と紫色の飛沫が辺り一面に広がった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レベル【22】ランク【3】
HP【9960】(+320)
MP【8850】(+770)
ATK【276】(+1810)
DEF【238】(+1880)
INT【271】(+900)
MND【194】(+1110)
AGI【304】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【8】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇