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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第十八章 
595/664

大変な改変は異変!? 27『キマイラ・フェイスレス』


 空に向かって炎の竜巻が逆巻いている闘技場を他の観客席よりも一段高い場所にある特別な観客席から見下ろしている二つの人影がある。

 一人はジルバ。もう一人は真紅の髪を持ち場違いなほど純白のドレスを纏った女性。


「おー、おー、随分と派手にやってるな、ディチャのヤツ」


 山の上から遠くを見るときのように目元の上に手を翳して言った。

 ディチャというのは舞台の上で戦っているキマイラ・フェイスレスその人の名である。正確にはフェイスレスになる前の人の頃の名前。舞台の上に現われた時どころか常日頃からフェイスレスとしての姿になっているために人の頃の名前や顔を知っている人は殆どいない。その数少ない知っている人というのがこの場にいるジルバと真紅の髪の女性。

 前面を見通せるように壁一面をくり抜いて作られている大きな窓にはガラスがなく吹き抜けの観客席では炎の竜巻が発する熱が直接感じられる。時折風に乗って飛び込んでくる火の粉を軽く手で払いながら笑みを浮かべて言ったジルバに真紅の髪の女性は顔を顰めながら大袈裟に溜め息を吐いた。


「ヤツにとってその名は棄てた名だ。呼んでやるな」

「わーってるよ。名実ともに“キマイラ・フェイスレス”だっていうんだろ」


 ジルバにとってはどうでもいいことでしかないとしてもキマイラ・フェイスレス当人にとっては大事な拘りである。

 軽口を叩いて名前を揶揄していた度に激高していたことを思えば名前はキマイラ・フェイスレスにとってはある種の地雷であることは明らか。それを理解しながらも敢えて地雷を自ら踏み抜くのがジルバという人物ではあるのだが。

 目を細めて弱まることのない炎の竜巻を眺めながら態とらしく嘲るように「あーあ」と声を大にして言って退けた。

 何事だと訝しむように真紅の髪の女性がジルバにジトっとした視線を向ける。


「折角集めたフェイスレスががっつり燃やされちまった」


 挙動の一つ一つで相手の神経を逆撫でする性格の悪いピエロのように振る舞うジルバに真紅の髪の女性は殊更強い侮蔑の視線を向けている。


「あー、勿体ない」

「思ってもないことを」


 一瞬顔を伏せてからゆっくり目を開けてなおも勢いが弱まっていない炎の竜巻を見つめている。

 キマイラ・フェイスレスは炎の竜巻の中にいる。そして対峙している相手も。


「にしても、あの炎を喰らえばあの男も無事では済まないだろうさ」


 ジルバが窓の縁に手を掛けて身を乗り出すように言った。

 凜とした姿勢のまま舞台を見つめている真紅の髪の女性は表情一つ崩すことなく口元だけを微かに動かして小さく「どうかな」と呟いていた。

 隣にいるジルバにも聞こえるかどうかというほどの微かな声ではあるが、ジルバは耳聡くその声に気付いたようでどういう意味だと一度振り返ると、バッと勢いよく舞台へと視線を戻す。

 耐えず渦を描いている炎の竜巻の一部にはっきりとした閃光が見えたのだ。

 腕を組んで立つ真紅の髪の女性は眉間に皺を寄せた。それに反してジルバは真紅の髪の女性からは見えない角度ではっきりとした笑みを浮かべている。

 すっと流し目でジルバを見る真紅の髪の女性があからさまに厳しい表情(かお)を向けていることを見た者もまたこの場にはいなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 炎の竜巻は勢いを強めながら観客席にいる有象無象のフェイスレスまでをも巻き込んでいく。

 歓声と喝采が混ざり合いその中にある僅かな悲鳴を爆発の轟音と一緒になって掻き消していった。


「<カノン>!!」


 射撃アーツを【フォースシールド】の奥から繰り返し発動させる。

 自身のMPの消耗具合など気に掛ける余裕もなくただ迫る爆発と炎から身を守るべく引き金を引き続けたことで俺は全身に感じる熱を本物の何億分の一程度で耐えることができていた。

 出現させては消える度に間を開けずに発動させる【フォースシールド】。繰り返し発動して撃ち続ける射撃アーツ<カノン>。その二つを併用することで自身の前に僅かな空間を作り出せたおかげで、どうにか自分が焼き尽くされることを防いでいた。

 轟々と立ち込める黒煙。

 舞い踊る無数の火花。

 空を覆い尽くすような真っ赤な炎。

 遙か頭上で渦めく炎の先端。

 破壊されているはずの舞台は瞬く間に修復されていく。

 舞台の上にいるキマイラ・フェイスレスは炎の中に身を隠すように立ち、妖しく輝いて見えるその両の瞳の光と黒い全身のシルエットだけが離れた場所からでも覗えた。


「自爆技ってわけじゃないみたいだな」


 悠然と立つキマイラ・フェイスレスを見て独り言ちる。シルエットの合間に見えたその体には火傷一つ付いておらず最初に向かい会ったときのまま。当然のように頭上のHPゲージには微塵も変化が見られない。

 自身の攻撃であっても自分がダメージを受ける技というものは存在する。プレイヤーが使うその殆どの技が威力が高い決め技として使われていると聞くが、キマイラ・フェイスレスが放った炎の竜巻はどうにも違うらしい。

 敢えてカテゴライズするのならば“範囲技”だろうか。

 自身の周りの敵を一網打尽にするために使われる技だ。

 炎の竜巻を発生させた以後、キマイラ・フェイスレスにわずかに現われた変化は体の一部に見受けられる赤熱化。それがプレイヤーが使うアーツに発生するライトエフェクトのようなものだとすればすぐに元の状態に戻ることだろう。


「さすがに連発はしない…よな」


 というよりも連発されては困る。

 案の定、数秒後には元の体色に戻ったキマイラ・フェイスレスに向けて<カノン>を発動させた。

 銃口から光弾が放たれるも炎に呑まれ届かない。

 それでもと繰り返し攻撃を行っていると暫くしてようやく炎の竜巻の勢いが弱まってきた。

 炎に照らされて黒いシルエットのように見えていたキマイラ・フェイスレスの全身がはっきりと見えてくる。

 大槌を持つ手。

 赤く発光している頭部にある短い角。

 その巨体を支えている両脚。

 狙いを変えて外側から見て防御力が低そうな関節を撃ったというのに撃ち出された光弾の大半はキマイラ・フェイスレスに命中した瞬間に弾けるようにして掻き消えていった。


「…嘘、だろ……」


 唖然となる俺にキマイラ・フェイスレスは表情のない仮面のような頭部に隠された顔で嗤う。

 重低音の笑い声が響く最中、完全に炎の竜巻が消え去った。

 残っているのは微かな熱気だけ。

 舞台には傷一つ付いてはおらず綺麗なまま。まるで炎の竜巻など無かったと言わんばかりだ。

 感じる熱気もすぐに消えてどこからともなく涼しい風が吹き付けてきた。


「ふっ」


 無意識のうちに銃口を下げていた俺に向けてキマイラ・フェイスレスはその手にある大槌を投擲してきた。


「危なっ! ――へっ!?」


 即座にガンブレイズを操作して剣形態に変えて向かい打とうとするも指先が狂い変形に失敗してしまった。こんなことは初めてだ。武器の変形はゲームのシステムによってアシストされて失敗することなどありえないと思っていたのだが。とはいえ今はこの事を検証する暇はない。すぐにでも飛んでくる大槌に対処する必要があるのだ。

 変形に失敗したことで反撃に移るタイミングを逃してしまったことは別にしても迫る大槌の勢いに気圧されてしまい慌てて横に跳んで回避することにした。

 地面を転がるように避けた俺が元々立っていた場所に大槌が激突して舞台に小さなクレーターを作っている。

 身を起こしてキマイラ・フェイスレスを見据えた頃には作られたクレーターは綺麗さっぱり修復されいた。


「また――!」


 キマイラ・フェイスレスが再び大槌を投擲してきた。

 先程よりは幾許か余裕があるのか飛来する大槌を目で捉えることができていた。奇しくも銃形態のままであることが功を奏したようで飛んでくる大槌にターゲットマーカーが浮かんでいるのを発見することができた。すなわち迎撃することが可能な攻撃だということらしい。

 しかし瞬時に狙いを定めるにしては飛んでくる大槌は速く、撃ち落とすのは困難を極める。

 やはり回避した方が速く確実だと判断して動いた直後、またしても大槌が地面に激突した轟音が鳴り響いた。


「当たるかよ!」

「まだだ」

「え?」


 回避した俺の言葉を平然と返したキマイラ・フェイスレスがまたしても自身の体の装飾を掴み握り潰した。

 何度目かになる大槌の出現。

 それら全てを躊躇なく投擲してきた。

 子供の頃に遊んだ逃げ回る対象をハンマーで叩くといったゲームを思い出した。まさか自分が逃げ回る方の立場になるとは想像もしていなかったが。


「しつこいなっ」


 回避に次ぐ回避。

 舞台の地面に作られては修復されていく無数のクレーター。

 一方的なキマイラ・フェイスレスの攻勢が止んだ時にはもうどれだけの投擲を避けて、どれだけのクレーターが作られ修復されていたのか分からなくなっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


 一度でも当たるわけにはいかないと必死に避け続けたせいで疲労してしまい、いつしか肩で息をするようになっていた。

 それでも仮想の体はわずか数秒で元の状態に戻ることができる。

 息を整えて正面に立つキマイラ・フェイスレスを見ると大槌を投げていた方の肩を回し、首を鳴らすように動かしているその様は一見リラックスしているようにも見えるが、実際には何か苛立っているように感じられた。


「――ふぅ」


 短く息を吐いて今度は落ちついてガンブレイズを変形させる。

 一秒にも満たない時間で銃形態から剣形態に姿を変えたガンブレイズをビッと振り抜いて静かにいつもの構えを取った。

 またしても自身の装飾を握り潰したキマイラ・フェイスレスの挙動に新たな大槌の出現を予期した俺を嘲笑うように新しくその手の中に現われたものはそれまでの形状とは異なる姿を持っていた。

 新しい武器をこちらに見せ付けるかのように上から下へ勢いよく振り抜いた。

 ゴウッと一陣の風が吹き抜ける。

 キマイラ・フェイスレスの手にある武器が槌であることは間違いない。しかしそれまでに使っていたものに比べて柄が長く槍のようになっており穂先の槌の部分は一回り以上小型になっている。それに加えて槌の部分の両端には複数の鋭く太い棘が華道で使う剣山の如く備わっているのが見受けられた。

 棘が備わった槌は例えどちらの方向から打ち付けたとしても相手の体に無数の穴を開けてしまうことだろう。

 無論その形状はただ打撃を加えたときに比べてもより悲惨な傷痕を付けることを目的としていることは疑いようもない。

 打撃だけではなく刺突の一撃すら可能になった大槌に宿ったキマイラ・フェイスレスの暴力性を目の当たりにした気がして一段と強い警戒心が沸き立ってくる。


「行くぞ」


 合図を送りキマイラ・フェイスレスが前に出た。

 鈍重そうな見た目であるにも関わらず驚くべき素早さと身軽さを見せている。一歩が大きいというわけではあるまいにキマイラ・フェイスレスが歩みを踏み出す度に俺までの距離が瞬く間に縮まっていく。

 最初の一歩に比べると次の一歩の方が速い。

 次の一歩に比べてさらにその次の一歩がより距離を詰めてくる。

 闘技場の中はそれほど広くない。このままじっとしていたのではすぐに追い詰められてしまうだろう。右と左に軽く視線を送ってより空間が広い方へと駆け出した。

 思った通りキマイラ・フェイスレスは俺が動いた方へと合わせて進行方向を変えた。

 互いの距離がぐんぐん縮まっていく。

 ドンっと一際大きな音が響く。キマイラ・フェイスレスが自身の加速を止めるために強く地面を踏み抜いた音だ。

 舞台の上にピキッと広がる亀裂。

 続けて隆起する地面が水面に水滴が落ちる時のようにクラウン状になって現われた。

 キマイラ・フェイスレスが踏み締めたのとは反対の足を踏み出す。自身の重量だけではないだろう。踏み出した一歩が隆起する地面の一方向を平坦に均してしまった。

 作られる俺までの一本道。

 揺れに足を止められた俺はその一本道の先にいる。


「捉えた――」


 まるでその体が弾丸であるようにキマイラ・フェイスレスが跳躍する。地面をガリガリと削りながら迫りその勢いのままに大槌を振り上げた。

 空中にいるというのに何故か踏ん張りが聞いているらしく正確に俺の脳天を目掛けて大槌が振り下ろされる。


「今!」


 キマイラ・フェイスレスの後方、修復された地面に目掛けてガントレットを装備している左手を突き出す。

 掌から撃ち出される【アンカーショット】が突き刺さるのと同時に収縮を始めた。

 自身の体に押し掛かる急激な加速に身を任せる直前に強く前へと跳ぶ。

 前に飛び出たことによる加速と引っ張られることで掛かる加速が重なり、俺の体をこれまでにないほどの勢いで移動させる。

 直ぐ隣を過ぎ去るキマイラ・フェイスレス。

 振り下ろされた大槌が空を切り誰も居ない地面を打ち砕いた。


「くっ」


 左手を握り【アンカーショット】を強制的に消失させる。

 それでも殺しきれなかった勢いは続け様に放った新たな【アンカーショット】が生み出す横に向けた加速が塗り替える。


「逃がすかっ」

「逃げないよ!」


 自らの両脚で地面を踏み締めて急停止したキマイラ・フェイスレスが位置を変えた俺に向かって更なる突進を仕掛けてくる。

 だがそれも予測済みだ。

 二度に渡る【アンカーショット】による移動で自身に加速を付けたことで準備は整った。

 突進してくるキマイラ・フェイスレスがいる方向へ左手を突き出して新たな【アンカーショット】を撃ち出した。

 狙ったのはキマイラ・フェイスレスの遙か後方。

 先端が突き刺さった瞬間にまたしても急激な収縮による加速が発生する。

 キマイラ・フェイスレスの突進と【アンカーショット】による加速を伴った俺の攻撃が同時に繰り出された。


「<セイヴァー>」


 普通に斬ったのでは効果が薄い。ならば当然アーツを発動させるべきだ。

 ガンブレイズの刀身にライトエフェクトが宿り、俺という存在を一筋の流星へと変貌させる。

 振り下ろされる大槌。

 しかしその場に俺はいない。

 通過した流星が落ちた場所はキマイラ・フェイスレスの遙か後方。闘技場の舞台の端ギリギリだ。


「ぐおっ」


 キマイラ・フェイスレスが膝を付く。

 その腹部には大きな切り傷が刻まれ血の代わりなのかキラキラと煌めいた何かが止めどなく流れ出している。


「ぐ、がああああああああああああああ」


 痛み受けてか、あるいは攻撃を受けたことによる苛立ちか。

 絶叫を上げながらキマイラ・フェイスレスが立ち上がり自身の体に付けられた傷痕を握り潰すかのように爪を立てた。

 流れ出る光は止まり、付けたはずの傷が消えた。


「いや、回復したってわけじゃないみたいだな」


 キマイラ・フェイスレスの頭上に浮かぶHPゲージを見て呟く。傷が消えたとしても与えたダメージまで消えたわけではないようだ。


「あああああああああああああああああ」


 またしても響き渡る絶叫。

 咆吼を上げてキマイラ・フェイスレスの全身から噴き出したのは真っ赤に燃え上がる炎。

 先程の炎の竜巻を思い出して身構えた俺が見据える先でキマイラ・フェイスレスの体が炎を飲み込む形で固まり形を変えたのだ。

 炎を飲み込んだことで先が鋭利になった体の端々が赤く熱を帯びていく。

 本来の体色とは異なる赤に彩られたキマイラ・フェイスレスが持つ大槌に赤くドロリとした液体が流れ伝わっていく。それは高熱によって溶かされた自身の体の一部のようだ。


「嘘だろ。ダメージって言ったってまだ一回クリーンヒットさせただけだぞ!?」


 これまでにも戦闘中に姿を変えた相手は幾度となく見てきた。しかしわずか一回、攻撃を命中させただけでここまで激高して見せたのは俺の経験上キマイラ・フェイスレスだけだ。

 驚愕する俺にキマイラ・フェイスレスがその牙を向ける。

 下から上へ地面の表面を削ぎ取るように大槌を振り抜いたのだ。

 二人の距離で攻撃が届くわけがない。しかしその行動が無駄なモーションであるはずがないと俺は瞬時に考えを切り替えてその場から駆け出していた。

 キマイラ・フェイスレスから直線上に放たれた一撃。それは大槌に流れる赤く溶解した自身の体が引き起こす無数の棘の出現だった。

 指向性を持って地面から生えた棘は誰に当でもなく自壊する。

 そして棘が消えるのと同時に同じ攻撃が繰り返し放たれた。

 走る足を止めるわけにはいかない。幸いにもキマイラ・フェイスレスの攻撃は直線的でその体の向きからある程度の攻撃範囲の予測は可能だった。


「とはいえ近付けないか。だったら――」


 効果は薄いとはいえ全く手を出さないわけにはいかない。ガンブレイズを銃形態に変えて走りながら足を止めているキマイラ・フェイスレスを狙い撃った。

 最初はアーツを使わずに。

 攻撃が命中したことで何かしら挙動が変わるかもしれないと思ったからだ。

 だが、撃ち出された弾丸はキマイラ・フェイスレスに僅かなダメージも与えていない。

 俺が繰り出す射撃の威力が低いというわけではないのは着弾した瞬間を見逃さなかったことで知ることができた。

 現在のキマイラ・フェイスレスは炎を纏ったように体の形を変えたと思ったのが正しかったらしく、弾丸画素の体に命中する前に纏う熱によって溶かされてしまったのだ。

 実弾ではない、MPを魔力の弾丸として撃ち出しているガンブレイズであるにも関わらずだ。

 この熱の鎧を打ち破るにはそれ以上の熱量を持つ攻撃を繰り出さなければならない。俺の手札でそれができるのはアーツだけ。

 最悪の場合、切り札とでもいうべき必殺技(エスペシャルアーツ)を使わざるを得ないが、それではこちらの攻撃回数が限りなく制限されているも同然の状況になってしまう。アーツにはMPの上限という使用制限があるとはいえ、必殺技(エスペシャルアーツ)に比べると気軽に使えるものだ。この戦闘においてそこまでの制限が掛けられるとは思えないことからも、ダメージを与えるにはアーツ攻撃が適しているだけに変化していると信じたい。

 生み出されては消えていく棘を避けながら舞台に螺旋を描きキマイラ・フェイスレスへと近付いて行く。

 大槌による攻撃が繰り出される直後にだけ立ち止まり<カノン>を放つ。

 その都度引き起こされる小規模な爆発はキマイラ・フェイスレスの体表を砕きながらダメージを与えていく。

 先程の一撃に比べると些か威力が劣って見えるのはキマイラ・フェイスレスの変化が理由だろう。

 それでも着実にダメージを与えられているのは減っているHPゲージからも明らか。

 このまま同じ事を続けていれば確実に勝てるとわかっているのに、どうにも首元に切っ先が突き付けられているように感じてならない。

 同じ軌道を描き近付いていけば斬り付けることもできるはず。

 だというのに俺はある一定の距離からキマイラ・フェイスレスに近付くことができなくなっていた。


「まるで先日手だな」


 決め手に欠ける状況に痺れを切らしたほうが負ける。そんな直感に苛まれながら動くことは止めない、止められない。

 自分を通り過ぎて生成され消失していく棘を一瞥することもなく駆け抜けるとアーツを発動させて引き金を引く。

 変わらない。

 それまでと同じ一連の流れだ。

 これでは駄目だとわかっているはずなのに変えられない。

 足を止めたら状況は変わる。自分の敗北という結末を以て。


「――あっ」


 後ろ向きな考えが俺のリズムを狂わせた。

 攻撃に移るのが一瞬速かったのだ。

 足を止めるのは相手の攻撃が終わったのを見計らってから。そう理解していたというのに攻撃が終わる前に足を止めてしまった。

 キマイラ・フェイスレスは正確に攻撃の方向を変える。

 それだけではない。タイミングがズレたことで急速で近付いて来たキマイラ・フェイスレスが直接俺に攻撃を仕掛けて来たのだ。

 身構える暇も無く、俺の視界いっぱいに振り上げられたキマイラ・フェイスレスの棘の付いた大槌が広がった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【22】ランク【3】


HP【9960】(+320)

MP【8850】(+770)

ATK【276】(+1810)

DEF【238】(+1880)

INT【271】(+900)

MND【194】(+1110)

AGI【304】(+1130)


【火耐性】(+10)

【水耐性】(+50)

【土耐性】(+50)

【氷耐性】(+150)

【雷耐性】(+100)

【毒耐性】(+100)

【麻痺耐性】(+200)

【暗闇耐性】(+150)

【裂傷耐性】(+40)


専用武器


剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)

↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】


防具


頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】

胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】

腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】

脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】

足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】

一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】


アクセサリ【10/10】

↳【大命のリング】(HP+500)

↳【魔力のお守り】(MP+500)

↳【強力の腕輪】(ATK+100)

↳【知恵の腕輪】(INT+100)

↳【精神の腕輪】(MND+100)

↳【健脚の腕輪】(AGI+100)

↳【地の護石】(地耐性+50)

↳【水の護石】(水耐性+50)

↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)

↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)


所持スキル


≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。

↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。

≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。

≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。

≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【8】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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