大変な改変は異変!? 26『ノルアの町の象徴』
ノルアという町を象徴する場所と言えばこの町の中心に鎮座している闘技場だろう。歴史を感じさせる石材の劣化具合。闘技場の周囲を囲むようにある無数の柱にもいくつもの傷が刻まれていた。
真円を描く闘技場の舞台。
舞台の周りには大勢の観客が座ることのできる座席が一定の間隔で設置されている。
大勢の観客は奇妙なほどの熱狂を上げ、耳を劈くほどの歓声を上げている。
空は晴天。
風も穏やか。
一見平和そのものであるがこの状況、この現状が平和であるはずもない。
何よりも異質であるのは観客の姿形の大半が同じであること。しかもその姿は一様に黒一色の服を着て、目や鼻が描かれていない能面を付けているのだ。
その姿には覚えがある。というよりもここに至ってはある意味で“やはり”と納得させられるくらいだ。
マナーのなっていない格闘技の観戦客と同じように歓声や応援などとは言い難い罵詈雑言が飛び交っていた。
そんな罵声を浴びる闘技場の舞台に立っているのは二人。
一人は俺。
<竜化>を使い変身している状態で剣形態のガンブレイズを持っている。
そんな自分と向かい合っているのは先日邂逅した四体のフェイスレスの内の一体。重装甲に身を包んだ巨漢の男が無骨な大槌を携えて立ち、見えるはずのない表情はまるで嗤っているかのようだ。
「とっとと始めるぞ!」
巨漢の男が放つ大声が轟く。
空気が震え、声に乗った威圧感が観戦席まで届き周囲の人物を無作為に震え上がらせている。が、ここには普通の人はいないのだろう。怯えた様子を見せる人はいない。というよりも観客のほとんどがフェイスレスであると思っていたのだが、どうやらここにはフェイスレス以外はいないらしい。
巨漢の男が一声発すると観客のフェイスレスが湧き上がる。
向かい合っている俺にとってここは完璧なアウェーであることは間違いなさそうだ。
「ふぅんっ!」
どこからともなく聞こえてきた戦いの始まりを告げる鐘の音が鳴り止むよりも速く巨漢の男は動き出した。
大槌を軽々と持ち上げ、舞台の石畳に亀裂を生じさせるほど強い一歩で全く間に俺との距離を詰めてきたのだ。
咄嗟に後ろに下がって回避しようとしてもすぐに落ち着かれてしまう未来が浮かんでくる。
ならばと敢えて得物の違いを理解しながらも振り下ろされる大槌に向けてタイミングを合わせてガンブレイズを打ち付けた。
「――ぐっ」
重い。想像していたよりも遙かに。
完全に振り下ろされるよりも先に打ち付けたことで大槌による攻撃の威力が最大に発揮されることがなかったとしても、思わず武器を弾き飛ばされてしまいそうになるくらいに。
「せいやっ!」
気合いを込めて切り払う。
軌道が逸らされたことで大槌が地面を砕く。
自分の直ぐ真横の舞台上に大きなクレーターが現われた。
「ほーう」
返す刀で巨漢の男が大槌を振り上げる。
狙いは当然、俺。ガンブレイズを振り抜いた直後で無防備になった俺の腹。
「耐えられるか。あ?」
「ぐおっ」
直後感じる凄まじき衝撃。
半ば条件反射で発動させた【フォースシールド】すらも打ち砕きながら襲ってくる大槌が身構えたガントレットの上から俺を吹き飛ばした。
舞台の上を転がりながら視線だけは巨漢の男から外さない。
左手を舞台に突き立てて勢いを殺すことで停止した俺はすかさずにガンブレイズを銃形態に変えた。
うつ伏せになった格好のまま狙いを定めず乱射する。
がむしゃらに放たれた弾丸のいくつかが巨漢の男に命中した。しかしそれは巨漢の男の体にある頑強な装甲によって弾かれてしまった。
ゆっくりと身を起こす。
そして呼吸を整えながらしかっりと巨漢の男を見た。
前に見た時と同じで巨漢の男の頭には短く鋭い角があり、体は重厚な装甲に覆われている。巨漢の男がフェイスレスであることは間違いない。だとすればそれがどんな能力を持っているかが重要だ。
フェイスレスには必ずモチーフとなる存在がある。自分が出会ったものの多くが動物をモチーフにしていた。例外は最後に自壊してしまったナーガ・フェイスレスだけ。だが、ジルバは言っていた。ナーガ・フェイスレスは“失敗作”だったと。
ともすれば当然“成功作”も存在しているのではないか。
そして成功作というのが目の前の存在だとすれば。
「なるほどね。そういうわけか」
確かに巨漢の男の体には動物の特徴らしきものが見受けられた。
頭の角。
全身を覆っている装甲。いや、自分の予測通りならば甲殻、あるいは甲羅というべきか。
そして自重にも耐えうる肉体。
一つ一つを抽出すれば確かに何らかの動物なのだろう。しかしそれら全てを兼ね合わせているということを鑑みればその正体が想像できる。
「さしずめキメラ・フェイスレスってところか」
強引に既存の動物に当て嵌めるならば、頭部の角は“犀の角”。全身を覆っている装甲は“亀の甲羅”。自重にも耐えうる屈強な肉体は“象の体”だろうか。
小さく独り言ちると目の前の巨漢の男の頭上に変化が起きた。
それまで見えていたのは相手のHPゲージと黒く塗り潰されている名称部分のみ。しかし今では俺の呟きを否定するかのように“キマイラ・フェイスレス”という正式名称がはっきりと見えるようになっているのだ。
「何だ? ビビったのか。おれの正体が知りたかったんだろ。せっかく見えるようにしてやったんだからよ」
大槌を肩に担ぎゆっくりと歩み寄ってくる。
「もっと楽しませろやぁ」
俺に届く距離ではない。だが振り下ろされた大槌が舞台を砕いたことで飛び散った飛礫がこちらまで弾丸と見紛うような速度で飛来した。
「くっ」
【フォースシールド】を発生させて命中しそうな飛礫を打ち払う
勢いが無くなり地面に転がった舞台の欠片は動きを止めた瞬間に消えていく。
それだけではない。破壊されたはずの舞台は瞬く間に綺麗な状態に戻っているではないか。思わずと最初に作られたクレーターを探して視線を動かした。しかし、案の定とでもいうべきかそのクレーターすら綺麗さっぱり消えてしまっている。
「守るだけか? あ?」
柄悪く挑発するような物言いで攻撃を続けているキマイラ・フェイスレスが近付いてくる度にその威圧感が増してくるようだ。
怯えて下がろうものならこれ以上対峙してなどいられないかもしれない。
戦意を失うという意味の他にも心の内で優劣が決まってしまうような気がするのだ。
だからこそ前に出る。
幸いにも【フォースシールド】で飛礫は完全に防御することができているのだから。
「そんなわけないだろ!」
自分を鼓舞するように叫んで俺は一気に駆け出した。
キマイラ・フェイスレスは屈強で力は自分よりも遙かに強いのかもしれない。けれどその動きは速いとは言い難く、速度勝負ならば明らかに自分の方に有利がある。
極めて短い距離を走りながらもすぐにトップスピードに到達した。
直線的な軌道では迎撃される。
キマイラ・フェイスレスの周りで円を描くように駆け巡りつつ、俺は引き金を引き続けた。
「くっ、このっ……鬱陶しいっ」
一発一発の弾丸が致命傷になることはキマイラ・フェイスレスの防御力を思えばあり得ない。しかしその全てが攻撃である以上は僅かなれどダメージを与えることができるはず。
ダメージを与えられるとなればキマイラ・フェイスレスも無視することはできないはずだ。
事実キマイラ・フェイスレスは迫る弾丸を前に防御の姿勢を取っていた。
腕を体の前で組み心臓を守るような体勢だ。
俺が【フォースシールド】を発生させて身を守っているのと違うのはキマイラ・フェイスレスの両腕に備わっている装甲と同等のものが全身にあるということ。本来ならば防御姿勢など取る必要がないはずなのに頑なに身を守るように腕を組み、銃撃の雨に耐えている姿は俺の目にはどこか奇妙に映った。
少し考えれば自然なことだった。フェイスレスになっていようとも元は普通の人なのだ。命を守るために身を屈めることも、腕を組み防御姿勢を取ることも当たり前のことなのだ。
人としてのタガが外れていないといえば聞こえはいいが、最初に会った頃からジルバたちとは異なりフェイスレスの姿を取り続けていたことを思えばどこかチグハグな印象を受ける。
僅かなダメージを受けて苛立ちを募らせたキマイラ・フェイスレスは地団駄を踏むようにその場で幾度となく足踏みを繰り返した。
舞台が揺れて、キマイラ・フェイスレスを中心に亀裂が広がっていく。
足場が壊されたことで移動に支障が出てしまい知らぬ間に走る速度が遅くなっていた。足を止めることはなかったが、遅くなれば捕捉される。
「そこか」
低く重い声で呟かれた一言に、ゾクッと背中に冷たいものを感じた。
舞台を破壊して作り出される飛礫よりも遙かに巨大な何かが眼前に飛び込んできた。
「嘘、だろっ」
慌てて急ブレーキを掛けて立ち止まり、その場に倒れ込むように身を伏せる。
立っていた俺の頭があった位置を通り抜けたのはキマイラ・フェイスレスが持っていた大槌。凄まじい回転をみせながら飛んでいくそれは舞台を外れ、闘技場の観客席の下の壁にめり込んで止まった。
唯一の武器を手放したのならば絶好の攻撃のチャンス。
素早く立ち上がり駆け出そうとして足を止めた。
キマイラ・フェイスレスが自身の体にある装飾の一つを引き千切り握り潰すと空だった手の中から再び大槌が出現していたのだ。
「おいおい、武器は自前だってか」
あれほどの重量のある大槌をいくつも用意しているとは思っていなかったが、その正体が自身の体の一部を変質させたものであるなどと誰が想像できようか。
自らの体を武器のように用いていたフェイスレスは見ていたが、キマイラ・フェイスレスのそれは文字通り自身の体の一部を武器として精製しているのだ。
これでは仮に武器破壊できたとしてもさほど効果があるとは思えない。
【不壊特性】を持つ専用武器とはまた異なる継戦能力を有するキマイラ・フェイスレスの恐るべき特性だ。
「ちょろちょろするな。目障りだ」
続けて別の装飾を引き千切り握り潰した。
手をゆっくりと開いて小さな粉を撒き散らす。
黒い粉が薄い霧のように辺りに充満していく。
キマイラ・フェイスレスの頭部の角が赤く発光し始めた。
無言のまま身構える。
いつでも【フォースシールド】を使えるように左手を前に腰を屈めてどのようにでも動けるように。
「――爆ぜろ」
大槌が勢いよく振り下ろされる。
地面を強く打ち付けた大槌から迸る無数の火花が充満する黒い粉に広がり、凄まじい爆発が起こり、螺旋を描く巨大な炎の竜巻が闘技場から青い空へと迸った。
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レベル【22】ランク【3】
HP【9960】(+320)
MP【8850】(+770)
ATK【276】(+1810)
DEF【238】(+1880)
INT【271】(+900)
MND【194】(+1110)
AGI【304】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【8】
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