大変な改変は異変!? 16『王の間へ』
「なるほどのぅ。これは我が想像よりも良くない事態になっているみたいだな」
「貴方が死にかけるくらいですからねえ」
のほほんと微笑む王妃さまが腰掛けているベッドに胡座を掻いて座っている髭を蓄えた男性が国王さまであるのは間違いない。ないのだが、何故だろう。病に倒れ意識を失っていた時のほうが威厳があったような気がする。
しゃべり方。寝間着といえどかなり質の良い服。たった今まで病に倒れていたとは思えないほど筋肉質で健康的な肉体。だが、その頬が赤く腫れ上がっている。そう、まるで悪戯をした子供が親にこっぴどく叱られた時のように。
「にしても、ゴドウが主犯とな」
「意外ですか?」
顎に手を当てて考え込む国王さまの呟きに思わずといった感じで問い掛けていた。すると王妃さまと王さまの視線が俺に集まる。
「そうだな。あれは性根が臆病だからな。我を害するような大それたことをしでかすような度胸はないはずだ」
「貴方の目が曇っていたのでは? 実際に貴方は臥せっていたのですよ?」
「それを言われれば何も言えないのだが、我はどうも違和感を覚えるのだ」
そう言って王さまが立ち上がる。
よろめくこともなく、しっかりとした足取りでベッドから出た王さまはクローゼットの中から動きやすくも華美な服を取り出し、俺や王妃さまの目を憚ることなく着替え始めたのだ。
「ソウラはここに残れ」
「嫌です」
「危険だぞ?」
「その程度のことで私が怯むとでも?」
王さまがクローゼットの中から取りだしたのは華美な服だけではない。何故かそこに保管されていた鎧も身に付けていたのだ。
「では準備をするがいい。言っておくが時間は無いぞ」
「構いません。ここには私の装備も揃っているのですから」
と躊躇なくドレスを脱ぎ始めた王妃さまを前に俺は慌てて後ろを振り返り何もない壁を見つめ続けた。
そんな俺を王さまや王妃さまが何やら生暖かい視線で見ていることなど露知らず、聞こえてくる衣擦れの音を聞かないでおこうとして耳を塞ぐも、竜化した状態では五感が強化されているのか完全に遮断することはできなかった。
「終わりましたよ」
王妃さまの一言で振り返った先には完全武装とまではいかなくともしっかりとした鎧を纏い、二人の手にはそれぞれが使う武器がしっかりと握られていた。
準備を終えた王さまが問い掛けてくる。
「ゴドウは何処にいる?」
「この城のどこかにいることは確かだと思いますけど、どこにいるかまでは。それなら地下に向かったムラマサ、いえ、ルミナに合流してみてはどうですか?」
「それには及びません。貴方のお仲間と一緒ということは無事であることは間違いないはずですから」
俺の提案をきっぱりと否定する王妃さまが王さまに真剣な視線を向ける。
「ゴドウならばこの城で最も安全な場所にいるはず」
「となれば、王の間か」
「おそらく」
「では向かうとするか」
「あっ」
思わず歩き出そうとする二人を呼び止めた。
「何か?」
「あの、宰相のジルバ・ドムって人は何処にいるかわかりますか?」
「何故ジルバなのですか?」
「えっとゴドウに手を貸しているのがジルバって人だからなんですけど」
「それは確かか?」
「あ、はい」
「そうか」
目を伏せ、何か疑念を飲み込むように俯いた王さまは次の瞬間にも気持ちを切り替えたというように顔を上げた。
「行くぞ」
王さまが王の私室のドアを開ける。
できるだけ物音を立てないように慎重に、それでいて迅速に。
ドアの向こう。廊下側にいたのは複数の近衛兵たち。
侵入者である俺を追って来たのはいいが、王の私室に断りもなく足を踏み入れても良いのかどうか逡巡していたということか。
近衛兵たちがドアが開けられたのをこれ幸いと王の私室から現われた存在を取り囲むように並ぶ。
とはいえ気の毒に思わずにはいられない。何せ先陣を切って王の私室から出てきたのが侵入者である俺ではなく、この私室の持ち主である王さま本人だったのだから。
「下がれ!」
鎧を纏い、武装をしている王さまの出現に近衛兵たちは戸惑いながらもそれが本人であると理解すると即座に包囲を解き一定の距離を取った。
静かになった頃合いを見計らい王妃さまと俺が続いて現われる。
一瞬近衛兵たちが警戒心をこちらに向けてくるが王さまの静止する素振りを受けて動き出すことはなかった。
「ゴドウは何処にいる?」
王さまが誰か個人というわけではなく近衛兵全員に向けて問い掛ける。
「はっ。殿下ならば王の間にて今回の襲撃事件の陣頭指揮に立っていられます」
「襲撃事件か。ではそれをしている者の中にルミナがいることには気付いているのか」
「えっ!?」
「知らされておらぬわけではあるまい!」
「で、殿下からはルミナス様が陛下に謀反を企てたと」
「それを信じたのか……いや、そなたらの立場ではそうするしかないということか」
険しくなった王さまの顔がすぐにどこか諦観の表情に変わる。そんな王さまの心情を慮ってか王妃さまがその背中にそっと触れた。
「よいな。今、この瞬間から近衛兵は我の指揮に戻れ!」
「はっ」
「ゴドウを拘束し、此度の事の顛末を問い質さなければならん。……無論ジルバにもな」
最後は小声で後ろに立つ俺に向けて言ったようだ。
王さまは近衛兵たちに詳しい事情を説明することはない。必要がないと思っているのではなく、敢えて説明もせずに自分の下に付くようにと告げたのだ。王さまの代わりに国の運営を行っているゴドウではなく、本当の主、本来従うべき者が誰であるのか、それを心の底から理解させるために。
「付いて来い!」
先陣を切って歩き出そうとする王さまと並走する近衛兵たち。先ほどと同じように取り囲む形にはなっているが今度は包囲ではなく護衛を目的とした陣形のようだ。
その中に自分がいることに多少の場違い感があるが、ここで隊列を乱すようなことはするべきではない。
竜化して全身鎧を纏っているからこそ周囲の視線など感じていませんよという風に取り繕いながら歩いていると前方から近くにいる近衛兵たちと同じ格好をした人たちが現れた。
そういえばと王の私室に来るまでにいくつかの近衛兵たちを撒いたことを思い出していたのだ。
俺は合流できていなかった人たちが遅れて合流してきたのだろうと気にも留めなかったのだが、王さまはそうではなかったらしい。僅かな手振りだけで近衛兵たちを止めて近付いてくる別の近衛兵を警戒するように促していた。
「そこで止まれ!」
近衛兵の一人が槍を構えながら叫ぶ。
静止された近衛兵は訳が分からないという表情を浮かべて戸惑っているような素振りを見せている。
この場にいる全員が声を出すことすら憚れるような重い空気が漂い出す。
暫しの沈黙を経てそれは突然に起こった。
近付いて来た近衛兵たちが壊れたマリオネットのように頭をカタカタと震わせたかと思えば目や鼻、口から黒くドロッとした液体が流れ始めたのだ。
「ひっ」
短い悲鳴を上げて近衛兵たちがどよめき出す。
顔を顰めた王さまが驚愕している王妃さまの前に立つ。
流れ出した液体が重力に逆らい近衛兵たちの顔に張り付いていく。顔を覆い尽くして目も鼻のない仮面を付けたその姿は紛れもないフェイスレスそのものだった。
「あれが件のフェイスレスか。実際に見るのは初めてだが、確かに顔を隠しているというのに醜さが際立っているな」
眉間に皺を寄せた王さまが独り言ちる。
体は近衛兵、頭部がフェイスレス。
それが五体。
変貌したそれらを前にしていち早く動き出したのは意外なことに完全武装した王妃さまだった。
手にしている武器は槍。
刀身や棒の部分に歪みがなく余計な装飾もない。使用者にとって最も扱いやすく、最も威力が出る形状をした純白の槍だ。
強く踏み込み突き出した槍の一撃がフェイスレスの体を穿つ。
「ボサッとするな! 各自目の前の敵を屠れ!」
王さまが叫ぶ。
空気を振るわせた王さまの声を受けて近衛兵たちが目の前にいるフェイスレスに向かって行く。
「えっ!? どうして?」
出遅れてしまったと俺が急いで前に出ようとするのを王さまが止めた。
「あの程度の敵ならば戦力は足りている。だが、あれだけではないのだろう?」
「おそらくは。あの仮面を付けたフェイスレスは一度に複数出現するタイプですから」
「となればこの城にはあれら以外にも敵の手が入り込んでいると考えたほうが良さそうだな」
「そうなのかもしれません」
「ふむ」
腕を組み考え込む素振りを見せる王さま。
程なくしてフェイスレスたちはその場で崩れた。
顔に張り付いていた仮面が形状を維持できなくなってしまいドロリとした液体に戻り倒れた近衛兵たちの顔の周りに黒い水溜まりが出来ていた。
「彼らは最初から死んでいたのだね」
「それはわかりません。けど、一度フェイスレスになったら元に戻ることはないはずです」
「そうか」
王さまは神妙な面持ちで近付き、動かない近衛兵たちを見下ろす。
一瞬目を伏せて直ぐに前を向く。
声を出すこともなく歩き出した王さまの後に続く俺たち。
向かうは王の間。
王の私室がある王城の最上階から下り歩き回ること暫く。目的の場所に辿り着いた俺たちの前に聳え立つ巨大な門扉。
絵画の如く精彩な彫刻が施されている扉を王さまの指示で二人の近衛兵がそれぞれタイミングを合わせて開く。
常に入念なメンテナンスが施されているのか想像していたよりも静かに扉が開かれた。
開かれた扉の向こう。
玉座に座る一人の男。
金色の刺繍が施されている真紅のマントを纏うくすんだ金の髪の男。精悍な顔つきで巨大な真紅の宝石が埋め込まれている杖を持っているこの人物がゴドウ・オウラ・テレス・シャイニングなのだろう。
隣に立っているジルバ・ドムは以前に見た格好とは違う。目深にフードを被り、全身をすっぽり覆い隠す黒に近しい灰色のローブ。まるでその正体を隠しているかのような出で立ちは派手な衣装のゴドウに並ぶことでより闇に紛れているような印象を与えてくる。
「お待ちしていましたよ。陛下」
玉座から立ち上がることなく余裕のある口振りでそう言い放ったゴドウ。
彼が浮かべている不敵な笑みを前に王さまは無言のままゆっくりと歩き出した。
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レベル【21】ランク【3】
HP【9950】(+320)
MP【8840】(+770)
ATK【266】(+1810)
DEF【235】(+1880)
INT【261】(+900)
MND【188】(+1110)
AGI【294】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【7】
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