大変な改変は異変!? 12『潜む蝙蝠人間』
素材屋の仕事場を離れ、森の闇に潜むビハイトバットがこちらの存在に気付いたその瞬間、奇妙な叫声と共に背中の翼を広げてふわりと浮かび上がった。
バット、コウモリの名の通り羽根ではなく翼膜を持つ翼は人型であるというビハイトバットの形状を思えば限りなく小さい。それこそ子供頃に絵本で見た子供の天使かと見紛うようなサイズなのだ。あの翼で自身を浮かせる揚力を得られていることが不思議でしかないが、実際その光景を目の当たりにすればそういうものなのだと理解するしかない。
問題というか意外だったのは浮かび上がったビハイトバットがこちらに攻撃を仕掛けてくるのではなく、百八十度方向転換して逃げるように飛び去ってしまったこと。
慌ててウォーグを使い追い駆けることにしたものの、ウォーグの速度に比べてビハイトバットの飛行速度の方が速いのか追いつくことができずにいた。それだけではない。先を行くビハイトバットは時折振り返る度に空いている両手を広げて自身の体から無数のバドバットを戦闘機がばらまくチャフのようにして追走する俺たちを妨害してきたのだ。
無数のバドバットを一体一体狙い定めていたのでは到底迎撃が間に合わない。多少くらいは被弾するのを覚悟して突っ込むべきかと身構えた俺の横からヴィアンスを駆るムラマサが器用にも片手でハンドルを持ち、もう片方の手で刀を構えながら前に出た。
「<一閃一掃>」
刀身を水平に振り抜いた一撃。本来届いていないはずの距離のバドバットすらも薙ぎ払っていく強力なアーツだ。
横一線の斬撃により切り払われていくバドバットはその身を地面に落下させるより早く霧散していく。
煙のように漂うバドバットの残滓を貫くように二体の魔導車が飛び出して行く。
「助かったよ。ありがとうムラマサ」
「いや、残念だけれど根本的な解決にはなっていないみたいだ」
「確かにな」
真っ直ぐ正面を見据えるムラマサが顔を顰めた通り、一掃したはずのバドバットが再び襲い掛かってきたのだ。
今度も切り払おうとするムラマサだったが森の奥に行くに連れて整備されていない悪路にハンドル操作を取られてしまいそうになる。これでは大振りな先程のアーツは使用することができないようで素早く刀を鞘に収め両手でヴィアンスを制御するのだった。
「くっ、どこまで行くつもりなんだ?」
ビハイトバットが振り返るのはバドバットをばらまく時だけ。残りは一目散に飛び続けている。まるで何かの目的があるかのように。
「なあ、俺たちをあのファームから引き離すことが目的とかあると思うか?」
「んー、どうかな。単純に逃げているだけということも大いに考えられるけど、どうするかな。念の為を思えばユウが言うようにオレかユウのどちらかが戻った方がいいのかもしれないけど、ビハイトバットがどのくらい強いのか今ひとつ掴めていないからね。不用意に戦力を分散させないほうが良いとは思うのだけれどね」
真剣な面持ちで告げるムラマサの意見はもっともだと思う。それでいて懸念すべき事案が発生していることもまた事実。
どうしたものかと考えている間も俺たちはビハイトバットを追って進み続けている。
「しかたない。ちょっと強引になるけど一気に追いついて、ビハイトバットをどうにかしてから急いで戻ろう。俺とムラマサならできるはずだ」
「わかった。ルミナ、身を屈めてしっかり掴まっていてくれよ」
「は、はい」
ウォーグとヴィアンスは安定性の高い三輪魔導車だ。前輪である二つのタイヤはそれぞれが独立可動することで多少の段差くらいではバランスを崩すことなく走ることができるようになっている。それでいてベースは二輪魔導車と同じで、かなりの加速性能を有することが可能。問題は自分たちがその加速やスピードを上げたことによる操作性の難度上昇に対応できるかどうか。できることなら整備されたサーキットに該当する設備を使い慣らし運転をしたかったところだが生憎とその時間は与えられなかった。
ぐっとグリップを回すことで速度を上昇させていく。
体にのし掛かる加速は現実のバイクに比べて遙かに速い、ある意味でレーシングバイク並みの速度が出ている証だ。
「ぐっ」
思わず声が漏れる。
手がハンドルから離れそうになる。
ちょっとした段差が何十倍もの高さを超えたような衝撃が襲う。
このままでは無理だ。そう思った俺はすかさず<竜化>を発動させた。
ウォーグに跨がったまま、俺の体は変貌を遂げる。
全身鎧を身に纏い、頭部を覆っているヘルメットもそれまでの物から竜化したことによる体と一体化している兜へと。
瞬間、体を襲っている加速や衝撃が著しく軽減された。
暴れそうになっていたウォーグすら何事もないかのように容易く操ることが可能となったのだ。
「これなら、いける!」
ぐっとさらにグリップを回す。
ウォーグの最高速度はかなりのものでそれまでの現実的な速度を超えて、謂わば空想特撮ものかと言わんばかりの速度が出た。
本来それは人の身で扱えるような代物ではない。しかし竜化という人外の力と仮想世界であるという二つの要因からそれは自分にとって紛うことのない現実として存在しているのだ。
気付けば後ろの方でムラマサが<鬼化>している。それでも自分と同様に速度を上げないのは同情しているルミナのことを気遣ってだろう。
ならばと俺がウォーグを使って一気に前に出た。
突然の変貌。
突然の加速に驚くビハイトバットだったが、ウォーグという道具を用いている俺とは違い自身の翼で飛んでいるためにここまでの急激な速度の変化は望めない。多少は飛行速度を上げたものの、急加速するウォーグには到底敵わない。
徐々に距離を詰めていき、遂には俺の駆るウォーグがビハイトバットを追い越した。
唯一残っている懸念は飛行する高度を上げられることだったが、それを防ぐためにも敢えて追い越して暫くはそのまま走り続けることにした。
どうするのが最適かと迷っているのか忙しなく首を動かしているビハイトバット。
目の前を防ぐ俺に上昇することを決めたのか大きく翼をはためかせるが、それは悪手でしかない。緩やかに上昇するには俺が邪魔で距離を取ることができない。急上昇するには半ばその場で止まる必要がある。ほんの一瞬とはいえ止まってしまえば絶好の攻撃のチャンスをこちらに与えることになるからだ。
「<カノン>」
射撃アーツを発動させて急上昇する瞬間のビハイトバットを狙い撃つ。
銃口から放たれる光弾が一瞬にして到達し、ビハイトバットの体に命中することで小規模な爆発を引き起こす。
それまでの高速飛行に加えて急上昇するためにかけた急ブレーキ。加えて上昇するために翼を大きく羽ばたかせたこと。本来ならば全て制御可能だったはずの力が光弾が引き起こした爆発によってあらぬ方向へと抜けていく。
バランスを崩して落ちるだけではない。
ビハイトバットは錐揉み回転しながら地面と激突したが、前方にいる俺、後方から追いかけてくるムラマサから逃れるために自ら左側へと逸れて生い茂る木々と雑草の中へと突っ込んでいた。
「グ、ググッ」
呻きながら身を起こしたビハイトバット。
闇に潜むための暗い体色ながらも存在を際立たせている全身の形状。蝙蝠の特徴が色濃く出ている頭部にはおどろおどろしく鋭い不揃いの牙が目立つ口。
目は暗いバイザーのようなもので覆われており、その奥にかすかに見える瞳からは狂気を孕んだ印象を受ける。
「ユウ!」
「来たか」
「ビハイトバットは?」
「あそこだ」
茂みを指差し答えた。
ムラマサの姿は俺に比べれば人の印象が残っている。どちらかといえば氷の装甲を纏った変化とでもいうべきか、鬼の意匠を含めた狐面だけが俺と同じように変身していることを強く物語っている。
「お、おお、お前たちは、何だ?」
落下のダメージが想定以上だったのか、ビハイトバットよろめきながら訊ねてくる。
声は加工が施され、男性か女性か、年齢の程すら読み取ることができない。
「その姿…お前も同胞なのだろう?」
ヴィアンスに隠れているルミナの存在には気付いていないのか、ビハイトバットは俺とムラマサを交互に見比べて、その視線が俺で止まった。
竜化という変身は全身を人のそれから大きく変える。
全身鎧という装甲を纏い、顔を覆い隠す仮面のような兜を被る。
人から逸脱したパーツはないはずだが、ガントレットを装備して一回り以上大きくなっている左腕や生物的な装甲を思えば確かに俺もフェイスレスと似た存在に思われても仕方ないのかもしれない。
「何故、おれの邪魔をする?」
落下のダメージが抜けたのか、ビハイトバットはかなり流暢に話し始めていた。
「邪魔…ね」
思わず嘲笑するように答えてしまう。そんな俺の態度に違和感を覚えたビハイトバットはバイザーに隠れた目でこちらを睨んできた。
「こっちの質問にも答えてくれるかな? どうしてキミはあのファームを襲ったんだい?」
俺の隣に並んでいるムラマサが問い掛ける。
それが決定的だった。ビハイトバットはこちらを敵と見定めて体から無数のバドバットを放ってきたのだ。
「お前たちは……敵!」
互いの質問にはお互いに答えない。
ムラマサは仮面の奥で小さく「今更だね」と呟くと素早く抜き身の刀を振り抜いた。
変身している状態ではアーツを使わずとも剣を振り抜いた軌跡を辿ってたちどころに凍り付く。氷の中に封じ込められたバドバットが空中で停止してその場で砕け散る。
透明な氷の欠片と黒いバドバットの欠片が舞い散るなか、俺は銃形態のガンブレイズをビハイトバットに向けた。
「<カノン>」
攻撃を躊躇するつもりはない。
本来ならば拘束なり何なりをして情報を聞き出すことが最前なのは理解しているが、スカル・スパイダーの時を思い出すとそれはできないような気がしていた。
ビハイトバットは迫る光弾を避けることもしないで胸に命中した瞬間に巻き起こる爆発をまともに受けていた。
よろめき、倒れそうになるも両手を近くの木の幹につくことで耐える。
しかしそれはこちらに攻撃することができなることと同義。
ムラマサが素早く突きを放つ。無論アーツを使ってだ。
威力を上げた突きによって発生する氷の鏃が木に掴まっているビハイトバットを吹き飛ばした。
アーツに貫かれなかったのはビハイトバットの体の丈夫さ故だろう。
「何か変だな」
思わずそう呟いたムラマサ。
彼女が感じている違和感は何となくだが理解できる。
そう。
先に戦ったスカル・スパイダーに比べてビハイトバットはあまりにも戦いという行為に慣れていない。というよりもまともな戦いなどしたことがないとでもいうような感じが見受けられたのだ。
氷の鏃を受けた痛みにもんどりを打っていることが何よりの証拠。
こちらの戦意を削ぐことが目的ならば成功しているとすら思えるような態度を隠そうともしないビハイトバットを俺たちは呆然と見つめ続けていた。
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レベル【21】ランク【3】
HP【9950】(+320)
MP【8840】(+770)
ATK【266】(+1810)
DEF【235】(+1880)
INT【261】(+900)
MND【188】(+1110)
AGI【294】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【7】
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