大変な改変は異変!? 11『素材屋さんのお仕事場』
「ここがその素材屋さんのお仕事場なのですか?」
王都から工場に戻り合流したルミナを引き連れて再び転移ポータルを使い次なる目的地へと赴いた俺たち。
転移ポータルを使い連続して転移することで移動らしい移動を挟むことなく、また時間をかけずして到着することができたのだが、実際に仕事場とされている場所に立つとその違和感が際立つ。
ルミナが訝しむように訪ねてきたことがいい証拠だろう。
なにせ目の前には広大な敷地に、広大な畑や整地された何かの木々があるだけなのだ。
素材屋の仕事場は謂わばだだっ広いだけの農作地。
「んー、ここで間違ってはないみたいだね。ほら」
ムラマサが指差したのは自分たちが向いている方から左側にある大きな看板。この世界の文字で『クレセルファーム』と記されたそれはおそらくこの仕事場の持ち主の名前をとって名付けられているのだろう。
精細な写真のようにクレセルファーム内部を象った絵が描かれている看板はまさにこの先の光景をそのまま写しているようだ。
今の時間は始業前であるらしく、内部からは人の声はおろか気になるような物音一つ聞こえてこない。
「にしては平和すぎるだろ。確か最近は正体不明のモンスターに襲われているって話じゃなかったか?」
「その調査と解決がオレ達の仕事だね」
「ですが、この壁にさえも何かの襲撃を彷彿させる形跡すら見当たりませんが」
「とりあえず入ってみればわかるだろうさ。許可は貰っているんだからさ」
事前に話をつけて俺たちがここに来ること、例の正体不明のモンスターと戦闘になるかも知れないことは報知済みだ。その了承と仕事場に入る許可は得ている。
外界と仕事場を隔てている3メートルを超える高さの塀。一体どこまで広がっているのだろうと簡易マップを見るとどうやらこのクレセルファーム一帯を覆い囲んでいるようだ。
塀の一部に取り付けられているドアを潜り内部へと入っていく。
案の定とでも言うべきか、クレセルファームの中は平穏そのもの。木々が育てられている一角や広大な畑には異常は見受けられない。
「これは、素材屋の勘違いだったとか? いや、それはありえないか」
あまりにも平和な光景にそうではないと知りながらも思わずそう口に出してしまっていた。
この世界で何か問題が起きたという話をNPCが俺たちプレイヤーにしたということは、間違いなく何かが起こっているのだ。それを自分が発見できていないのはまだ何かしらのフラグを回収できていないからだ。
「それにしても、随分と広い敷地だね。向こう側にあるはずの壁がここからだと見えてこない」
目を細め遠くを見通そうとしているムラマサが言うように、広大なクレセルファームは果てがわからない。
まるで町の外れから近くの森や林までをも巻き込んで作られているかのような畑は幾ばくか自然の趣を残しているようだ。
「この感じだと疑わしいのは町側ではなくて森側かな?」
クレセルファームの形状をマップで確認しながら呟いたムラマサの予想は俺も同意だった。
「行ってみよう」
と提案して歩き出した俺たち。
肉体的な疲労を感じない俺やムラマサとは違い、ルミナは実際に疲労する。彼女の歩く速度に合わせてゆっくりと進みながら周囲の異常を注意深く探っていく。
この畑で育てられている作物の多くは食用の農作物。木々は果実が生るものの他は材木として活用されるものとなっているらしい。
ルミナが言うにはテレス王国このようなファームは多数存在しており、大抵の物は輸入に頼らずに賄えるようにするよう先代の国王が指示を出して作られている。何でも後10年も経たない内にこれらのファームは国主導から事業者主導へと切り替えていくつもりだとも言っていた。
結果としてどうなるかはわからないが、それでも現在は大きな問題は出てきていないみたいだ。
「この先は薬草とかを作っているみたいだな」
「はい。薬草は農作物に比べて栄養化の高い土壌を必要としますので、自然と森側に畑が作られているのです」
「なるほどね。だとすると、あの木もそうなのかい?」
「あれはモンスター除けとなる香木を育てている区画ですね」
「モンスター除け?」
「木炭のように精製することで独特な香りを放つ道具となります。行商人はお香のようにして身につけたりしますし、モンスター出没地域に建てられた建造物にはその外壁に粉砕した香木を混ぜ込んだ塗料を塗って使う物になります」
「だとすると、この木がある区画はモンスターが近寄って来ないのか?」
「いえ、精製すればその効果が強く発揮されますが、普通に生えている状態だと大人が軽く追い払えるくらいの弱いモンスターが近寄らなくなる程度にしかなりません」
「んー、つまり強いモンスターは関係なく襲ってくるということかい?」
「ファームの壁や塀には精製済みの香木を混ぜているので、その効果をものともしないモンスターには限られますけれど、大まかにはムラマサさんの言う通りです」
きっぱりと肯定するルミナにムラマサは思案顔を向けた。
「だとすればここを何者かが襲っていると言う話もあながち荒唐無稽ではないわけか」
「そもそもからして、俺たちが疑っているのはフェイスレスだろ? ハナから普通のモンスターじゃないわけじゃん」
「そうだったね」
ふふっと穏やかな笑みを浮かべ頷くムラマサ。言葉や態度とは裏腹に彼女の目は忙しなく周囲の気配を探っているようだ。
どれほど広大といえど、仕切られた区画に作られているクレセルファームには境界が存在する。それが積み立てられた塀であり壁だ。
ファームの中央を進んできたために左右の壁よりも行き当たりの壁の方が先に目に入ってきた。
一通り歩いていても何も起こらなかったと落胆なのか安堵なのかよくわからないため息をルミナが吐いて立ち止まった瞬間だった。まるでこちらの警戒が緩むのを待っていたかのように辺りの木々の上部から何かが一斉に飛び出して襲い掛かってきた。
「ユウ!」
ムラマサが刀を抜いてルミナを守るように前に立ち、俺は咄嗟に銃形態のガンブレイズの銃口を突然の襲撃者へと向けた。
「フェイスレス!?」
「いや、これは違う! ただのモンスターみたいだ」
緊張感が高まり叫ぶルミナの言葉をムラマサが瞬時に否定する。
十分に育った木々に囲まれているといっても万全に人の手が加わっている状態だ。陽の光を遮るものはなく、暖かい光が満ちている。
視界は良好。
冷静さを失わなければ襲撃者の正体を見誤ることはない。
ダンっと一発の銃声が響き渡る。
撃ち出された弾丸は正しく目標に命中するとそれは突然進路を変えて近くに落下してきた。
「コウモリ型のモンスターだね」
地面に激突して消える刹那、モンスターの形状を捉えたムラマサがいった。
襲撃者の正確な数は把握できていないが、その全てがこのコウモリのモンスターであることは間違いない。
素早く飛び回るモンスターに目を凝らすとようやく【バドバット】と言う名称が確認できた。
「初めて見るモンスターだな。ムラマサとルミナはどうだ?」
「形状は前にも戦ったことのある【ボムバット】に酷似しているみたいだけど、オレも初めて見るね」
「確認されている図鑑には載っていなかったと思います」
「だとすれば最近追加された新種なのか?」
バドバットの形は些か不格好なコウモリだ。胴体は風船のように膨らみ、脚は小さいが翼は大きい。胴体に比べて頭部はかなり小さく遠目で見るとまるでバレーボールに翼が生えているかのようだ。
物理的な攻撃手段は体当たりだけなのか、バドバットは素早く飛び回りながら攻撃の機会を計っている。
「さて、どうしようか?」
近付くバドバット目掛けて刀を振り上げたムラマサが問いかける。
両断されたバドバットが地面に落ちて消えるもそこには何も残されてはいない。
「襲ってきたなら対処するまでだ。それに俺にはどうにもコイツらが今回俺たちが倒すべき本当の相手だとは思えないからさ」
「同感だ。では素早く片付けてしまおうか!」
ムラマサの視線が鋭くなる。
接近してくる度に切り払われていくバドバットが次々と地面に落ちて消えていく。
目に付いた個体から撃ち落としていく。が、どんなに倒してもその数が減っている感じが全くしない。
「大元を絶たないと襲撃が終わらないとあり得るのか?」
「ないとは言い切れないね。だとすればこうして闇雲にバドバットを倒しているだけでは事態は進展しないかもしれない」
「わかった。一気に駆け抜けるぞ」
自分たちの手でバドバットの数が減り、程なくしてまた元の数に戻る。虚空から突然出現するとでもいうのだろうかと注意深く周囲に気を配っていると、一秒にも満たない一瞬が目に付いた。
バドバットは突然何もない虚空から出現するのではなく、木々の陰に隠れた進路を辿って彼方から飛来しているのが見えたのだ。
視線を向けてアイコンタクトをする。
俺の意図を汲み取ったムラマサが偶然にも同じ光景を目撃したことで相談をするまでもなく俺たちの行動指針が決まった。
攻撃が届きそうな個体だけを的確に葬りながらストレージに収まっている完成したばかりの“それ”を取り出す。
俺の目の前、そしてムラマサの前に新品の魔導車が姿を現わした。
前輪に二つと後輪に一つ、それぞれ凹凸がはっきりとした太めのタイヤ。車体を覆う流線型のボディ。ゴツい印象を受ける二つの魔導車はそれぞれ白と黒に染められている。
俺の黒い魔導車に付けられた名前は【ウォーグ】。白いムラマサの魔導車に付けられた名前は【ヴィアンス】
「コイツのお披露目にはうってつけの状況だと思うだろう?」
「そうだな」
ウォーグに跨がってハンドルを掴む。
普通の魔導車の燃料は組み込まれている魔石だが、俺たちの魔導車のそれは使用者の魔力。潤沢なMPを持つプレイヤーだからこそ使うことのできる特別仕様だ。
ゲーム世界とはいえヘルメットを付けずにバイクに相当する車両を運転することは憚れるということらしく、視界が確保されている兜等を装着していない限りは跨がった瞬間に専用のヘルメットが出現し装着される。
俺の頭部に備わるそれはウォーグと同じ色をしたフルフェイス型のヘルメットだ。
「ルミナ。こっちへ」
「はい!」
ヴィアンスは俺のウォーグとは違い二人で乗り込むことを前提にした作りをしている。しかも同行者が乗り込む部分を取り付けたサイドカーではなく、もう一人分だけ座席が伸びている特殊な形状だ。
独特な甲高いエンジン音を響かせながら目を覚ましたそれぞれの魔導車が走り出す。
迫るバドバットを避けて、避けきれないものは撃ち落としてその出現地点と思わしき森とファームが重なっている地点へと向かう。
徐々に人の手が入っていない木々が増えてきたみたいで森独特の暗い雰囲気とじめっとした空気が漂い始めた。
砂埃を巻き上げながら大地を駆ける俺たちが行き着いた先に待ち構えていたのは影の中にいる一つの異形の人影。
こちらに気付いたその瞬間にその影が大きく両手を広げた。
『ガアアアッッッッッッッッッッッッッッ』
言葉ではないただの絶叫が大気を震わせる。
一斉に木々が揺れ、葉が舞い踊り、俺たちの視界を埋め尽くした。
急ブレーキを掛けて車体を滑らせるようにして急停止した。
停まったその瞬間にそれぞれが収めていた武器を手に取って舞い上がる葉っぱや土埃のなかで目を凝らす。
「バドバットを操っていたのがコウモリ型のフェイスレスとはね。随分と安直じゃないか」
挑発とも取れるような口振りでムラマサが独り言ちた。
さあっと風が吹き込み、舞い散る葉っぱがどこかへ流れ、木々に生い茂っている葉が減ったことで光が差し込んでくる。
闇の中に潜んでいたコウモリ型のフェイスレス――【ビバイトバット】が無表情のまま佇んでいた。
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レベル【21】ランク【3】
HP【9950】(+320)
MP【8840】(+770)
ATK【266】(+1810)
DEF【235】(+1880)
INT【261】(+900)
MND【188】(+1110)
AGI【294】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【7】
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