大変な改変は異変!? 08『魔導車設計』
ところ変わり隣町。
俺たちは日が変わらないうちにルミナの案内の下、テレス王国直営の工場へと訪れていた。
聞いた話ではこの工場で作られているのは本国で製作している道具の外装部や小さな部品等々。別の国で作って万が一にでも技術が流出しても問題のない部品ばかりということらしい。それでも何かしらの開発事業は行っているようだが、それに関しては話の一端すら聞くことは適わなかった。
「こちらです」
先陣を切って進むルミナが俺たちを案内したのは工場の一角に作られた作業場。現実における整備工場のような敷地と設備が丸々工場の中に作られたことに驚きを隠せない。
「一応一般的に魔導車に使う素材や機器は用意してありますが、足りないようなら言ってもらえればなるべく早く手配致します」
積み重ねられたコンテナの中にあるのがルミナが言うところの素材なのだろう。作成するための機器というのは言わずもがな目の前に広がっている見慣れない大型の機械そのものだ。
「んー、こうもお膳立てしてもらって悪いんだけどね」
「何でしょう?」
「オレはこれらの使い方がわからないんだけど、ユウはどうだい?」
困り顔で素材や機器を見回しているムラマサがルミナに答えながらもこちらを見た。
「えっっと、実は俺も自信ないかも」
「んー、どうしようか」
「誰か詳しい人を紹介してもらうことってできませんか?」
自分たちで叶わないのならば素直に助けを求めることが一番だ。幸いにもこの工場には数多の人が勤めている。作業を手伝ってくれる技術を持つ当人がいなくても誰かしら知り合いを紹介してもらえるかもしれないと訊ねてみたところ、ルミナはハッとしたように目を丸くして「すみませんっ」と大袈裟に謝ってから慌ててどこかへと走り去ってしまった。
残された俺たちはこの場で立ち尽くし、互いの顔を見合わせながら、周囲の機器や素材を眺めていると暫くしてルミナが一人の男性を連れてこの場に戻って来た。
「この方なら二人の力になってくれるはずです」
「彼は?」
「イミュース・ヨールトさん。この工場の技術開発部門の責任者です」
「あ、どうも…です」
胸を張って立つルミナから一歩下がった場所にいるイミュースが軽くぺこりと頭を下げた。
ルミナの立場は理解しているのだろうが、ルミナが連れてきた俺やムラマサのことは訝しんでいるという感じだ。ルミナの知り合いであることは間違いないために無下にするわけにはいかないが、外に漏らすわけにはいかない情報を取り扱っている以上は警戒を怠るわけがないということなのだろう。
「初めまして。イミュースさん。オレはムラマサ。今はルミナと共に“とある事件”を探っている、謂わば協力者という立場かな」
「はあ、協力者…ですか」
「ムラマサさんの言う通りです」
ちらりと確認したイミュースの視線に気付いたルミナはすぐにムラマサの言葉を肯定してみせる。
「彼もオレと同じでルミナの協力者さ」
「ユウです。よろしくお願いします、イミュースさん」
「あ、どうも」
ムラマサに続いて自分の名を告げる。
手を伸ばして握手を求めたのはほぼ無意識の行動だった。
軽く差し出した俺の手を掴んだイミュースが少しだけ警戒を解いたように表情を和らげた。
「ルミナス様の紹介にあったイミュース・ヨールトです。この工場では技術開発部門で新しい部品を作ったり、新しい技術の検証をしたりしています」
簡単な自己紹介をしたイミュースは積まれたコンテナや機材を見渡している。
「突然に何かを慌ただしく搬入していたとは思いましたけど、これを使うのが彼らなので?」
「はい」
「何に使うかお聞きしても?」
「勿論です」
にこやかな笑みを浮かべてルミナが俺たちを見た。どうやら実際に説明をするのはこちらに任せるつもりであるらしい。
それならばと俺は自身のストレージから件のエンジンを取り出して手頃な場所に置いた。
「このエンジンを使って魔導車を作りたいんです」
「えーと、お言葉ですけど、魔導車なら流通品を買った方が早いし安いですよ?」
「まあ、それはそうなんですけど。何て言うんですかね。その、ロマン的な」
「ロマン…ですか」
「ほら、自分専用の機体とかテンション上がりません?」
「まあ、それは理解できますね」
「でしょ!」
どことなくやる気のない素振りを見せているイミュースに淡々とした口調で肯定されると嬉しくなってしまい思わず身を乗り出してしまっていた。
「で、そちらの方は?」
「オレも彼と同じさ。まあ、専用車というよりはモノの序でに自分用の魔導車を作ろうくらいにしか思っていないからね。時間や素材が足りないようなら量産品をカスタマイズするだけでも構わないよ」
「や、時間はともかく素材は余るほど用意してあるみたいです」
「はい。頑張って集めてもらいました」
自信満々にルミナが言うが、実際に動いたのは本人ではない。そのことを思うと若干申し訳なく思ってしまう。だからといって遠慮するつもりは毛頭ないが。
「はぁ、別に良いんですけどね」
大きく溜め息を吐いてイミュースは視線を再びエンジンに向ける。
「これで作るっていう魔導車はどんなモノにするか決めてあるんですか?」
「是非! バイクを!」
「バイクって言うと二輪か三輪になるってわけですか。これだけの大型エンジンを積むとなれば二輪だとコントロールが利かない可能性もありますから、ジブンがオススメするのは三輪ですかね」
「三輪っていうと三輪車?」
「まあ、そうですね」
「後ろにタイヤが二個付いている」
「いや、二つのタイヤは前ですね」
「前!?」
「はい。前…ですけど、何か変なこと言いました?」
キョトンとした顔をするイミュースにニコニコと笑っているルミナ。この時のルミナの気持ちを想像すると用意した素材が間に合ったことに安堵していたのかもしれない。
「なんでも無いです。ちょっと俺のイメージにあった三輪車とは形が違っていたもので」
「はあ…」
「んー、オレ達にとって馴染みがある三輪車と言えば子供の乗り物だものね」
「確かに!」
「へえ、そうなんですか。だったら一般的な三輪魔導車のカタログでも持って来ましょうかね。ちょっと待っててくださいよっと」
返事を待たずしてイミュースは背中を丸めてながら工場にある自身のデスクへと行ってしまった。
「で、ユウは彼が言っている三輪魔導車にするつもりなのかい?」
「実物を見てみないことには何とも言えないけどさ、コレの性能で二輪のコントロールが難しくなるっていうのは嘘じゃないだろうし」
「当然です。我が国の技術者の腕は確かですもの」
などと話をすること数分。両手に数冊のカタログを持ったイミュースが戻ってきた。
「全員分同じモノを用意してきましたので、こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
カタログを差し出してきたイミュースに礼を述べて受け取るルミナ。俺とムラマサもルミナの後に続いてお礼を言いつつカタログを受け取った。
手渡されたカタログは現実の車やバイクが載っている小さな冊子のようなものだった。名も知らないモデルが跨がっているバイクにはイミュースが言っていた通りに前輪が二つ付いている。前輪が二つのバイク型魔導車はこのカタログにも数パターンの車種が載っていた。
「さて、それで、どうします?」
カタログを見つめている俺にイミュースが声を掛けてきた。
既存の魔導車の殆どは基礎の形が統一されている。違うのはフレームや装飾、車体の色だろうか。それも現実の車と似通っていると感じられた。
「まずはあのエンジンを積むことを考えるとどのくらいのものになるのかわかりますか?」
ジブンの魔導車を作る上で欠かすことのできない前提条件を思い出したようにイミュースが「それなら」と言いながら俺が持つカタログのページを捲っていく。
カタログの後ろの方でイミュースの手が止まる。そこに載っていたのは前輪が二つあるバイク型の魔導車の中でも大型、あるいは中型に属する車種だった。でかでかと載っている写真を指差して、
「この辺りに載っている車種でしたら、あのエンジンのパワーにも対応できると思いますよ」
「どれですか?」
「こちらです」
指し示された右側のページにある写真をまじまじと見てみる。
スマートな車体のスタイリッシュな魔導車ではなくどんな悪路でも問題なく走ることができると思わしきゴツい車体が一際目立っている。次のページを捲るとレース用と思わしきスポーツタイプもあった。ざっと大まかに分けると馬力のあるタイプかかなりのスピードが出るタイプになるようだ。
「ユウさんが想定している使い方は移動だけですか?」
「あー、そうですね。移動に使うのは勿論ですけど、どんな場所でも問題なく行けるようなのがいいですね」
「なるほどなるほど」
「後は耐久力が高い方がいい気がします」
イメージしているのはバイク版の装甲車だろうか。
頑丈な装甲で覆い、大抵の攻撃を受けても歪んだりしないもの。カタログにある中では完全なオフロード車両がそれに当たる。しかし俺が求めているのはこれ以上の耐久力だ。
「ではこちらに来て素体を決めてしまいましょうか」
俺の中に明確なビジョンがあることを確認したイミュースは流れるような動作で移動を促した。
ものの数秒移動してルミナが用意した一つの機材の前で立ち止まる。
「今回のユウさんの魔導車に使うパーツの成形は全てこちらの機械で行います。これは大抵の物が作れる万能の形成機の最新型ですので」
「はぁ」
「それにしてもルミナス様もよくこれを手に入れられたと思いますよ。価格もさることながら希少性も高い機械ですからね」
「そうなんですか!?」
「はい。本国に導入予定だったものを急遽こちらに運び入れてもらいました」
なんでも無いことのように話すルミナに目を丸くしてしまう。自身の立場を利用した中々に強引なことをしたものだ。誰かしらに反感を買ってしまいそうな事柄ながらも、事情を説明したからこそ受け入れられたことであると思いたい。
目の前の機械はイミュースの説明では入力したデータ通りに投入した素材を用いて成形する機械であるらしい。3Dプリンターのようなものと考えれば分かりやすいだろう。勿論ここが仮想世界であり現実の常識を外れたことが可能である世界であるからこそ機械のサイズを超えるような大きなものであっても形成できることで、現実で同じ規模をするには素材の耐久度の他にも様々な要因が関係して困難であるとどこかで聞いたことがある。
「素体にも手を加える必要があると思いますが、まずは既存の設計図を元にして都度調整を加えていくことにしましょう」
「はい」
機械に付属しているコンソールを操作して既に入力済みの設計図をいくつか表示させていた。
「素体を選んでもらうのですけど、その前にエンジンのデータを取り込んでしまいますね」
適当な場所に置かれているエンジンを専用の場所に持っていきスキャンしてその詳細を機械に入力していくとエンジン部分が既存の物から俺が持つエンジンへと切り替わり、自動的に細かな配線の差異が修正されていく。
この時点でエンジンが発揮する性能に耐えられないと思わしき設計図は消されてしまい、残ったのは僅かに二通りの設計図だけとなってしまった。
「えっと、どっちにします?」
一つは重量級の車種。もう一つは高排気量を誇るレース用の車種だ。困ったことに俺が求めているものは前者に近いが素体のデザインや完成するであろう車体の大きさを鑑みると使い勝手が悪いように思えてきて仕方ない。
「どうせならこの二つをベースにして一から新しい素体を作ってみたらどうだい?」
困った顔をして返答を迷っているとムラマサが助け船を出してくれた。
無論既存の設計図をそのまま使った方が確実で堅実だ。しかし、それが違うと感じているのならばムラマサが言う方法を選ぶのも一つの手段だろう。問題なのはそれができるかどうかということだけ。
「できますか?」
「まあ、やれないことも無いと思いますけど…やりますか?」
「是非!」
「わかりました」
前のめりになる俺に頷いてイミュースは既存の二つの設計図を残したまま新しい設計図を作るために別のコンソールを用意したのだった。
新しい設計図の中心には既に例のエンジンが鎮座している。
「機体の大きさとか、形とかざっくりとしたもので良いんでユウさんのイメージを教えてください」
「えっと、大きさはこっちのレース用くらいで。デザインは、そうですね、カタログで言えばコレに近い感じが良いです」
先程カタログを見た時に気になっていた車種の写真を見せる。それはエンジンのパワーを考慮したときに最初に排除された車種だった。
「ではこういう感じでどうですかね」
軽い口調で言いながらイミュースがもの凄い速さでコンソールのキーボードを叩いていく。俺の意見を取り入れつつ完成させた素体の設計図は既存の重量級のそれをかなり簡略、軽量化させたものだった。
「ルミナス様が用意した希少な素材あってのものですけど、これなら十分な耐久力が持てるはずです。まあ、既存の重量級で作った方がより耐久力は高く出来るんですけど。小回りを利かそうとするのならこっちのほうがいいのは間違いないと思います
「おお!」
思わず感嘆の声が出た。
まだ外装は一切取り付けられていないが、それでも大まかな魔導車の形は出来上がっていた。
「凄い! これでお願いします!」
「喜んでもらえてよかったです。外装はどうします? 一応素体はこの設計図の通りに成型を始めますけど、その間に外装なんかの設計をしますので」
「あ、はい。それだったら……」
と自分の要望を伝えていると例の機械がゴウンゴウンと轟音を立てながら動き出した。
用意されている素材が入っているコンテナと機械が繋がれ、ゆっくりと素材が機械の中に流れ込んでいく。
潤沢な素材を用いて何かを作るというのは物作りにおいて当然のことであるように思えるが、その実中々にして難しいことでもあった。普段ならばどこかで妥協することが出てくる。それは素材が足りなくなったや技術的に不可能なことになったなどという理由がその都度出てきてしまうからだ。しかし今回はそれがない。ルミナという協力者によって素材が揃い、イミュースという協力者によって自分に足りない技術を補うことができた。俺に取ってこの上ない製作環境であるといえるだろう。
魔導車の外装、とりわけ素体を覆うボディのパーツはできるだけ角を減らした流線型になるようにした。三つのタイヤはオンオフ両用を選ぶ。魔導車という名の通り動力は魔力を使うためか排気口に当たるパーツは必要ないらしい。ハンドル周りは奇を衒わずに既存のバイクと同じ形状に。クラッチ等の細かな操作が必要となる機構は軒並みオミットされ、運転するイメージはコントローラーで操作する類のゲームに近くなるみたいだ。
自分にとって想定外だったのは魔導車に搭載する機能に関すること。
俺は特別な機能など一切必要ないと思っていた。余計な機能を与えたせいで耐久度が減ったり、使い勝手が悪くなることを忌避したからだ。しかし、イミュースやムラマサはここまで拘ったのだからこそある程度の武装を搭載した方が良いと言ってきたのだ。
“いる”“いらない”の論争を繰り広げた結果、両者の妥協案として前方のボディの一部を展開式にしてその内部に魔法によるシールド発生装置を取り付けることになった。
「ちょっといいかい?」
「どうした?」
設計図上で完成した自分の魔導車に満足しながら実際に完成する瞬間を機械の前で待っているとふとムラマサに声を掛けられた。
少しずつではあるが着実に完成に向かっている魔導車のパーツ形成の様子から目を逸らさずに答えた。
「気になっていたことがあるんだ」
真剣な声色で話すムラマサに思わず顔を向ける。
「こっちは完成の目処が立ったみたいだからね。良い機会だと思って聞いておきたかったことがあるんだ」
「なんだ、改まって」
「ユウが使っているこっちの専用武器のことさ」
とムラマサが俺の左手、正確には左腕に装備したガントレットを指した。
「いや、それだけじゃない。ユウの装備全般に関してだね」
「なにか変か? 別におかしな防具を使っているつもりはないんだけど」
「おかしくはないさ。だけど、オレにはまだ強化できる余地を残しているように見えるのさ」
ああ、と思わず深く頷いていた。今の自分の装備は過去に使っていたものを現在に復元したものだ。真っ先にムラマサが指摘した“ガントレット”は無強化状態そのもの。時間を見つけて後から強化しようと思っていたのだが、残念なことに今に至るまでそのチャンスには恵まれなかった。
「提案なんだけどさ。ここはイミュースさんに任せることにして、ユウはこれを機に装備を整えてみたらどうだい?」
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レベル【21】ランク【3】
HP【9950】(+500)
MP【8840】(+620)
ATK【266】(+465)
DEF【235】(+745)
INT【261】(+540)
MND【188】(+500)
AGI【294】(+390)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Lv73】(ATK+360 INT+360)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv1】(ATK+5 DEF+5)
↳アビリティ――【なし】
防具
頭――【黒曜石のカフス】(MP+120 INT+80 MND+200)
胴――【ディーブルーワイバーンレザーコート】(DEF+200 MND+200 火耐性+30 雷耐性+20)
腕――【ディーブルーワイバーンレザーグローブ】(DEF+140 火耐性+30 雷耐性+20)
脚――【ディーブルーコンバットボトム】(DEF+120 AGI+130 火耐性+30 雷耐性+20)
足――【ダークメタルグリーブブーツ】(DEF+200 AGI+160 水耐性+20)
アクセサリ
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗視耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳〈セイヴァー〉――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳〈カノン〉――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳〈ブレイジング・エッジ〉――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳〈ブレイジング・ノヴァ〉――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv80】――武器レベル“80”までの武器を錬成強化することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【28】
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