大変な改変は異変!? 06『ゲット、エンジン』
町の様子が先程までと変わらないことに違和感を強く覚えた。
突然に起きた追走劇と突然の特殊空間の出現。特殊な空間に飲み込まれた人たちが突然消えたというのに、消えたはずの人の一部がまた突然同じ場所に現われたというのに、誰一人としてまるで初めからそんなこと起きていなかったかのように不自然なくらいの無関心を貫いていた。
「とりあえず落ち着いて話ができる場所に移動しようか」
通りの向かい側にいるルミナに合図を送ってから提案してきたムラマサに応えようとして咄嗟に近くの物音がした方を見る。
そこにいたのは普段と変わらない町の中で唯一普段とは異なる態度を見せているホーラ・パッケスの姿。困惑と恐怖が入り混じった表情を浮かべて物陰に隠れているホーラが俺に気付くと焦ったように駆け寄ってきた。
「お、おい。無事か?! 無事なんだな!?」
「ふふっ」
「あ? どうしたんだよ?」
「いえ、何でもないです」
姿を誤魔化すこともなく本来の姿で心配してくれているホーラに思わず笑みが漏れた。
「怪我していませんか?」
「あ、ああ。ワシは怪我一つしてはいないが、お前さんはどうなんだ?」
「それならよかった。見ての通り、俺は大丈夫です」
「そうか」
「えーっと、彼は誰だい?」
ほっと胸を撫下ろしているホーラにムラマサが声を掛けてきた。
「まさか、あなたは……」
素直にホーラのことを説明しようと口を開き掛けた俺が声を発する前にムラマサの後ろを付いてきたルミナがはっと何かに気付いた声を出した。
「あいつらは何処に行った? それよりもあれは一体何なんだ?」
自分を襲ってきた男たちが消えてしまっていることを思い出したホーラが聞いてきた。
「えっと、実は俺もまだよく分かってなくて」
ちらりと近くに立つムラマサを見る。彼女ならば俺よりも事情に詳しいはずだ。しかしどういうわけかムラマサはホーラに事情を説明することを躊躇しているみたいだ。
「お前達のほうは事情が分かっているということか」
ホーラがじっと二人を見るが、口を硬く閉ざしているムラマサは尚も頑なに話そうとしない。
大きく溜め息を吐き出して事情を聞き出すことを諦めたホーラが再び俺を見た。
「助けてくれたことには礼を言う。だが、やっぱりお前さんが受けたクエストは破棄させてもらえんか?」
「でも……」
「お前さんが欲している物のことはわかっている。それに関してワシに考えがある。付いて来い」
そう言ってホーラはしっかりとした足取りで歩き出した。
「ちょっと待ってください」
彼の後ろ姿を見失ってしまう前に追い駆けなければ、そう思って歩き出そうとした俺を呼び止めたのは何やらムラマサと真剣な面持ちで話し合っていたルミナだった。
「私達も同行しても構いませんか?」
「俺は別に良いと思いますけど」
確認を取るのは俺ではなくホーラの方な気がする。しかしホーラは後ろを見ることもなくどんどん進んでしまっている。
「えっと、とりあえず追い駆けて、それから聞いてみませんか?」
「そうですね」
「話が決まったのなら急いで追い駆けようか。そろそろ本格的に見失ってしまいそうだ」
慌ててホーラを追い駆ける。
破壊の痕跡一つ残っていない町の中を走ること数分。辿り着いたのは俺が想像していた通りホーラの廃工場だった。
入り口のドアは破壊されたまま開きっぱなし。廃工場の中も男たちに襲われた時のまま荒れ放題な酷い有様だ。
壊された机や棚の破片を雑に蹴って避けながら工場の奥へと向かうホーラは工場の奥で壊れずに残っている棚の下に置かれている一際埃を被っている箱を引き摺りながら取り出した。
ホーラが軽く上側を手で払うだけでぶわっと埃が舞い上がる。
埃を払った当人であるホーラだけでなく、興味深そうに注視してた俺たちも揃って埃を吸い込んで咳き込んでしまった。
「傷はついていないみたいだな」
「それは?」
むせ返りながらも問い掛けたのはムラマサだ。
箱の中にあったのは薄汚れた布に包まれ丈夫そうな紐が何重にも巻き付けられている正体不明の塊。
ムラマサの問いには答えずにホーラはポケットの中から取りだしたナイフで紐を切って解き、グルグルと巻き付けられている布を外していく。黒く変色した布の表面とは対照的に内側はまだ白さが残っているように見える。慎重に、それでいて手際よく外されていく布によって硬く封じられていたのは無数のパーツが組み合わさって作られている何かの部品だった。
「これが“名工”と名高いホーラ・パッケスが作った“エンジン”ですか」
長らく放置されていたとは思えない輝きを放つ金属色びそれをエンジンと呼んだのはルミナだった。
「やはり、お前さんはワシのことを知っていたようだな」
「はい」
「だったらワシが技術者も鍛冶師も、いや、何もかもを引退したということも知っているのだろう」
「……はい」
目を伏せて重く肯定するルミナ。ホーラは小さく溜め息を吐くと「気にするな」と前置きをして目を伏せるルミナの顔を覗き込んだ。
「お前さんがあの連中を嗾けたわけではあるまいさ」
「それは、そうですが」
「だとすればお前さんは悪くない。悪いのはこんな老骨を捕まえて何かをさせようと企んでいる連中だ。違うか?」
「そう…ですね」
「とはいえだ。どこかの馬鹿が無理矢理に何か作らせるために強引な手法をとっているだけと思っていたが、どうやら違うみたいだな。説明くらいはしてくれるのだろう?」
ホーラがエンジンを軽々と持ち上げて瓦礫を退けたテーブルの上に置いた。
エンジンは自分が想像していたよりも軽いのかと思ったが、テーブルの上に置かれた瞬間に重いドスッという音と僅かにテーブルの脚や天板が軋む音が聞こえたことからも見た目通りにそれなり重量はあるらしい。
「話を聞く前にだ。これをお前さんに譲ることにした」
「えっ!?」
「ワシはもう何も作らない。この信念は変えられん。それがこいつを一緒に作った相棒と交わした最後の約束だからな。理由を知りたければそこのルミナという嬢ちゃんにでも聞いてみるといい。おそらく知っているはずだ」
眉間に皺を寄せて言い放ったホーラの言葉に驚いて振り返ってみるとルミナは神妙な面持ちで頷いていた。
「だからこれを使ってお前さんが望むものを作ってやることはできん。だが、お前さんが欲しているものを作るのにこれは大いに役立つはずだ」
「良いんですか?」
「なに。体を張って助けてくれた恩義を無視するほど腐ってはおらんよ」
「では、ありがたく受け取らせてもらいます」
「固いな」
「は?」
「ワシが言うことではないかもしれんが、大変なのはこれからだぞ。お前さんはこいつに相応しいパーツを集めなければならんのだからな」
「わかっています。けど、自分が望んでいるものを手に入れるにはそれくらいの障害があったほうが手に入れた時の喜びも格別ですから」
「ほう。お前さんも技術者みたいだな」
「ホーラさんと同じで“元”ですけどね」
作ってやることはできないが知識ならば貸せると、ホーラは俺に望む魔導車を作るのに必要な素材の情報を教えてくれた。その多くは希少金属アイテムに属するもので必要数を手に入れるにはかなりの手間が掛かることは容易に想像がついた。
目標到達に至る道筋がはっきりしたことに内心喜んでいると傍に立つルミナが一歩前に出た。
背筋をピンッと伸ばし、深く息を吸い込む。
真っ直ぐホーラと俺を見てルミナが言った。
「彼らは元々何も特別な力を持っていない、ただの市民でした」
「フェイスレスというのは何です?」
断言するルミナに返す刀で問い掛ける。
「んー、オレやユウが変身しているのと似たようなもの・・・らしい」
「どういう意味だ?」
「オレ達の変身は自分の体に別の存在の力を宿す、となっているのは知っているね?」
「昔と変わってなければ」
「変わっていないともさ。フェイスレスはその存在が画一化されているのさ。謂わば量産型だね」
「スカル・スパイダーとかいう奴はどうなんだ?」
「あれも同じ、とは言えないかな。ルミナたちが言うには異なる二つの要素を混ぜ合わせた変身だということだからね」
「二つの要素?」
「異なる種の魔物を掻き合わせたと聞いています」
「聞いている? 誰からですか?」
「我が国の第二騎士団副団長にして研究部隊隊長の傑物。グレイス・ブラッド」
「そうか!」
知らない男の名を告げたルミナを指差してホーラが大きな声を出した。
「どこかで見たことがある顔だと思ったんだ! お前さん、ルミナ、いや……ルミナス・ミュウ・テレス・シャイニング。テレス国の第三王女か!」
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レベル【21】ランク【3】
HP【9950】(+500)
MP【8840】(+620)
ATK【266】(+465)
DEF【235】(+745)
INT【261】(+540)
MND【188】(+500)
AGI【294】(+390)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Lv73】(ATK+360 INT+360)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv1】(ATK+5 DEF+5)
↳アビリティ――【なし】
防具
頭――【黒曜石のカフス】(MP+120 INT+80 MND+200)
胴――【ディーブルーワイバーンレザーコート】(DEF+200 MND+200 火耐性+30 雷耐性+20)
腕――【ディーブルーワイバーンレザーグローブ】(DEF+140 火耐性+30 雷耐性+20)
脚――【ディーブルーコンバットボトム】(DEF+120 AGI+130 火耐性+30 雷耐性+20)
足――【ダークメタルグリーブブーツ】(DEF+200 AGI+160 水耐性+20)
アクセサリ
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗視耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳〈セイヴァー〉――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳〈カノン〉――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳〈ブレイジング・エッジ〉――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳〈ブレイジング・ノヴァ〉――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv80】――武器レベル“80”までの武器を錬成強化することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【28】
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