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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第十八章 
571/664

大変な改変は異変!? 03『工場の襲撃者』


 ドワーフ。書物などでは鉱人と称され、背が低く筋肉質。蓄えた髭が男性のドワーフの特徴であり、女性型は全体的に恰幅のいい体格をしていると言われている。【ARMS・ONLINE】では獣人族に分類され、筋力や耐久力が優れる代わりに速度は劣る性能をしている。

 目の前にいる人物がそのドワーフだというリリィの言葉に耳を疑ったことは言うまでもない。なにせ目の前のホーラ・パッケスという男は筋肉質であるものの背は高くドワーフの特徴である髭も普通の無精髭といった程度しか見られなかったからだ。


「どうして気付いた?」


 一気に声色が低く変わった。

 射殺すような鋭い視線は机の上に座っている妖精猫のリリィを超えて俺に向けられている。


『な、なによ!? どうしてって言われても、アンタがドワーフなのは見ればわかるじゃない!!』


 フシャーと威嚇するように全身の毛を逆立てながら言い切ったリリィに続けてパッケスは俺の顔を一瞥する。知らないと首を横に振る俺にパッケスは大きく溜め息を吐くと身に付けていた指輪を一つ外して机の上に置いた。

 途端パッケスの姿が歪む。

 長身の男性だったパッケスは自分が思い描いていたドワーフ像そのままの姿に変わったのだ。


『どうして“変装”なんてしていたのさ?』


 パッケスが纏う怒気が和らいだことに気付いたリリィが問い掛ける。


「武器を作ることは随分と前に辞めたんだ。だというのに今もワシに武器を作って欲しいという依頼が後を絶たん、こうして工場すら畳んだというのに関わらずだ。ワシはそれに辟易しているんだ。そういうわけだから、お前達もワシに武器を作って欲しいというのなら早いこと諦めるんだな」


 自身の正体を晒したのは既にリリィが見抜いていたからか。

 元の姿に戻ったまま椅子に座るパッケスの顔には明らかな疲労の色が滲んでいた。


「や、確かに俺はここでとある物を作って欲しくて来たのは間違いないですけど、それ以前に受けたクエストの説明を聞きたくてここに来たんです」

「悪いが、その依頼ならキャンセルだ。スルにはワシから説明しておくし、ギルドにも事情は伝えておく。お前達にペナルティが課せられることはないはずだ」

「それで良いんですか?」

「何がだ」

「このクエストはスル・パッケスさんがホーラさんを思って出したものじゃないんですか」

「【隕鉄のゴーレム】から取れる素材で作れるものを知っているか?」

「えっと、【隕鉄】っていうくらいだから、刀とかですか?」

「外れてはいないな。それならば理解できるだろう。ワシはもう武器は作っていない。武器の素材など必要はないんだ。それに、お前達が受けたクエストの報酬はどうなっている?」

「確かクリアしたら一つ好きな物を作ってもらえるって……」

「だが、ワシは武器は作らない。つまり作ってもらえないということだ。それにしても、よくそんなあやふやな報酬でクエストを受けたものだ」


 呆れたというように椅子の背もたれに体を預け腕を組み何度目になる溜め息を吐いた。


「あの、一つ勘違いしているみたいですけど、俺は別に武器を作って貰うつもりはないですよ」


 そもそもからして武器は自身の専用武器だけで間に合っている。防具だって今はまだ困っていない。


「ああ、そういえばお前は“冒険者”だったか。それならなおさらだ。このクエストを受ける必要など無かったはずだ。どうして受けたりした?」

「武器は要らないといっても作って欲しいものがあったのは間違いないんです」

「ん?」


 はっきりと武器は要らないと伝えたからかパッケスが初めて俺の話に興味を示した。


「この大陸、というか、この国では個人で所有できる【魔導車(ビークル)】というものがありますよね。俺が欲しいのは“それ”です」


 アップデートで開示された新大陸のPV。そこにあったのは荒野を走る車によるレースの様子。僅かにワンカット、いくつもの新規要素の中の一つに過ぎない場面写真だったが、そこに映っていたものに、とりわけさらにいくつかの場面写真に混じって見えた一枚の画像が俺の興味を強く惹いたのだ。

 ご丁寧にもPVに流れていた場面写真を切り取って、情報を纏めたサイトというものがあった。リリースから数年が経ってもこうして話題になるのは【ARMS・ONLINE】に根強いファンが付いているからだろう。

 現実世界で荒野や砂漠を走るレースやサーキットを何百キロという速度で周回するようなレースは誰にでもできることじゃない。街の中や、漫画などにあるように街道を使ったレースともなればなおさらだ。

 しかし、ゲームなら、仮想世界なら現実のレースが含んでいるような危険はない。加えて免許も必要とせずに安全にレースを体験できて、同時に必要となる資金も現実に比べれば格段に少なくて済むとなれば遊びたいと思う人も少なくはないはず。

 フルダイブゲームにある既存のレースゲームのタイトルが【ARMS・ONLINE】と提携したと発表があった。元々かなりのプレイヤーを獲得していたタイトルだ。しかしフルダイブゲームのシステムという面では【ARMS・ONLINE】の方に一日の長がある。それを補うための提携だ。【ARMS・ONLINE】がファンタジー系のゲームであるからこそ、実際には作れないようなコースを作っても世界観を壊すことはないと判断したのかもしれない。

 おそらくは他にもいくつかの別ジャンルのフルダイブゲームが【ARMS・ONLINE】と合併したのだろう。根本且つ大元となる技術は【ARMS・ONLINE】、他のジャンルは専門家に任せたということだろうか。同一タイトルで別種のゲームを遊べるとなれば今までプレイしていなかった人たちまでも引き込めると考えたようだ。


「魔導車だあ!?」

「ここって魔導車を作っていた工場だったんですよね?」

「あ、ああ。それはそうだが」


 困惑するパッケスを余所に俺は人知れず小さくガッツポーズをとっていた。

 魔導車というものを端的に言い表すのならば現実の車。ただ動力がガソリンや電気ではなく魔力、つまりはプレイヤーが持つ“MP”に依存しているという違いがある。

 レベルが低いプレイヤーでも扱えるようにレース時にはMPの消費は必要としない。何でも魔力を溜めておける電池のようなものを使っているらしい。

 環境に優しく、人力で動くことを思えばある種、自転車のようなものなのかもしれない。そして自転車と言われて思い浮かべるのは当然四輪ではなく二輪。レースでもルール次第では参加可能となっているバイク型の魔導車こそがこの新大陸となって俺が真っ先に欲したものだった。

 しかし、魔導車の個人取得には幾許かのハードルが存在する。

 まずは資金。

 初心者であってもすぐにレースには参加できるが、その時に使用されるのはレース側が用意してある機種ばかり。個人で所有して自由に改造を施したりするためにはどこかで購入する必要があるのだがその金額が気軽に買えるものではない。ある程度現実の金額を参考にされているようで、魔導車を購入するには安くとも数百万単位の金額が必要となるのだった。

 次に所有したとして魔導車をメンテナンスできる場所の確保。

 個人でガレージを所有できるのが一番だが、それにはさらに多い資金が必要となる。これまた一朝一夕で用意できるものじゃない。

 総じて現段階で個人で魔導車を入手しているプレイヤーは少ない、かと思われていたが長年プレイしているプレイヤーは資金を余らせている人が多く、とりあえずと新しいコンテンツに手を出す人が多かった。

 かくいう俺も資金面だけで言えば所持金の大半を使えば魔導車もガレージにも問題なく手が届くわけだが。


『普通に買えばいいんじゃない?』


 クエストを受ける前にリリィにそう言われもしたが、俺からすればせっかくなのだから自作してみたいと思ったのだ。

 その為にはパーツを集める必要がある。

 パーツを買うことはできる。

 問題なのはそれを組み立てて調整する能力が自分にはないことだ。

 他のアイテムのように魔導車も作ろうとすれば専用の≪スキル≫が必要になるのだろう。将来的にそれを習得することは視野に入れているが、今はまだ手探りの状態。それならばと専門家に相談しようと考えていた矢先このクエストを見つけたというわけだった。


「このクエストの報酬は“アイテムの作成”となっていました。ここには貴方が熟練の技術者だと記されています。そんなホーラさんだからこそ俺の魔導車を組み上げて欲しいと思ったんです」


 熟練のと評したのは依頼主のスル・パッケスだろう。身内だからこそ評価が甘くなると言えなくもないが、第三者であるギルドはそれを認めた。つまり名実共にホーラ・パッケスは技術が認められているような人なのだ。


「腕の良い技術者を紹介してやる」

「ホーラさん!」


 俺の言葉にも揺らぐことなくホーラは目を伏せて告げた。

 自分の目的を果たすだけならその提案を受ければ良い。受けたクエストはホーラの言葉通りにキャンセルされるだろう。それでも問題ない。しかしどこかモヤっとする。

 どうすればホーラを説得できるのか。そんな風に考えていると工場の外が騒がしくなった。自分以外にもここを訪れた人が現われたのだろう、などと呑気に考えていると目の前にいるホーラの顔がみるみる青ざめていった。


「どうしたんですか?」


 立ち尽くすホーラに問い掛けたその瞬間、工場のドアが乱暴に蹴り破られた。


「!?」


 ビクッと体を震わせたホーラ。

 話をしている奥部屋から音のした方へと向かう。

 そこに居たのは三人の男たちだった。


(プレイヤーか? いや、違うっぽいな)


 三人の装備に共通点は見られない。

 それぞれが別々の鎧を装備して、異なる武器を持っているようだ。


「おい! 何処に隠れてる!?」


 男の一人が叫ぶ。

 手にしているのは赤黒い刀身の大剣。装備から見ても相当レベルが高そうだ。


「探し出せ!」

「はい」

「はい!」


 男が指示を出すと後ろに控えていた二人が近くの机や棚を乱暴に倒したりしている。

 布が被せられた機材は蹴り倒すことができなかったのか、具足を装備している足による蹴りが起こした轟音が鳴り響いた。

 ちらりと後ろを振り返る。

 ドワーフの体を縮こませて怯えているホーラを心配しているリリィがそこにいた。


「彼らは何者ですか?」


 声を潜めて訊ねる。

 するとホーラは首を横に振り詳しくはわからないと前置きをして口を開いた。


「奴らは少し前からワシにしつこく何かを作れと言ってくる奴らだ。当然最初に断った。だが、奴らはそれで引かなかった。“俺たちにはちゃんとした理由がある”と言って工場を荒らし、襲い掛かってきた。ワシ一人ならどうにか逃げ回ることもできる。だが、この町にはワシの家族がいる。まだ手を出されてはいないが、いずれ……」

『その何かってのをさっさと作っちゃえばいいんじゃないの?』

「それができればそうしている、かもしれん。だが、できん」

「もしかして、どこか怪我を?」

「手を、な。傍から見ただけではわからんだろうが、最近は細かな動作が上手くできんのだ」


 頑なに話さなかったクエストを断っていた理由が怪我だったとは。


『それでも適当に何か作っちゃえば満足したんじゃない?』

「どうかな。ああいう奴らは自分たちの基準を少しでも満たさないと手を抜いたとか言って暴れ回ったりするかもだ」

『うわぁ。やっかい』

「それに奴らがホーラさんを襲うのには明確な目的があるはずだ」


 現在プレイヤーのPK行為――対象はプレイヤーもNPCも問わない――は罰則がキツくなっている。それだけではなく街の中外問わず一方的な攻撃というものは禁止されるようになったのだ。

 それに関わらず彼らはここを襲撃してきた。NPCだからこその行動だというのならその理由は何だというのか。


(何かのイベントが発生した? というか、このクエストが進んだのか。内容は関係ないはずだけど)


 声に出さず考えている最中も工場の中では男たちが手当たり次第に周囲の物を壊している。

 人を探しているというにはあまりにも相応しくもない行動ばかりをする男たち。それは俺の警戒心を高めるのに十分な効果を発揮していた。


『どうするの?』

「今はとりあえずここから出ようか。ホーラさんが工場を守りたいっていうのなら別の手段を考えますけど」

「いや、ここにあるものはどうせ使わなくなった物ばかりだ。それにあそこまで壊されていては修理する方が手間が掛かるというものだ」

「わかりました。ここから近い出入り口はありますか?」

「こっちだ。裏口がある」

「行きましょう」


 工場の中の様子を窺いながら移動を始める。

 工場の裏口はかつて資材の搬入口として使われていたものだ。壁一面の大きなシャッターが降りており、その横に小さなドアが一つ。

 幸いにも暴れ回ることに集中するあまり男たちはこちらのことに気付いてはいない。

 寧ろ暴れることを楽しんでいるようにも見える。

 まるでホーラを探すことなどどうでも良いというように。

 足音を潜めて素早く移動する。

 リリィは既に彼方の世界に送還済みだ。


「な、何だ!?」

「やはりか」


 俺とホーラの二人が揃って工場の外に出るとそこで待っていたのは工場の中にいた三人を大きく上回る十人の男たち。

 男たちが全員ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべて、持っている武器を見せ付けてくる。


「何か用ですか?」


 一歩前に出て語気を強めて訊ねる。

 そんな俺の様子を見た男たちは一際不快な笑みを浮かべていた。


「そこを通してください」


 歩き出そうとする俺の前にニタニタ笑う男たちが立ち塞がった。

 後ろを一瞥して小さく隠れているようにホーラに告げると素早く腰のホルダーに手を伸ばす。

 戦闘が始まる直前の一触即発の空気が漂い始めるかと思えば、この場に流れるのは妙に弛緩した空気だった。

 男たちが一斉に俺を取り囲む。

 ホーラには手を出すつもりはないようで、誰一人として探しに行くことはなかった。


「やれ!」


 リーダーらしき男が叫ぶ。

 途端に奇妙な光景が繰り広げられる。

 十人全員が獣のように吼えてみせたのだ。

 そしてそれは起こる。

 男たちの体を白い蒸気が包み込み、中から現われたのは人族でも、獣人族のそれでも、魔人族のものでもない、異形の姿をした十人の人型の“何か”だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【20】ランク【3】


HP【9850】(+500)

MP【8790】(+620)

ATK【261】(+465)

DEF【232】(+745)

INT【259】(+540)

MND【187】(+500)

AGI【289】(+390)


専用武器


剣銃――ガンブレイズ【Lv73】(ATK+360 INT+360)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲――ガントレット【Lv1】(ATK+5 DEF+5)

↳アビリティ――【なし】


防具


頭――【黒曜石のカフス】(MP+120 INT+80 MND+200)

胴――【ディーブルーワイバーンレザーコート】(DEF+200 MND+200 火耐性+30 雷耐性+20)

腕――【ディーブルーワイバーンレザーグローブ】(DEF+140 火耐性+30 雷耐性+20)

脚――【ディーブルーコンバットボトム】(DEF+120 AGI+130 火耐性+30 雷耐性+20)

足――【ダークメタルグリーブブーツ】(DEF+200 AGI+160 水耐性+20)

アクセサリ

↳【大命のリング】(HP+500)

↳【魔力のお守り】(MP+500)

↳【強力の腕輪】(ATK+100)

↳【知恵の腕輪】(INT+100)

↳【精神の腕輪】(MND+100)

↳【健脚の腕輪】(AGI+100)

↳【地の護石】(地耐性+50)

↳【水の護石】(水耐性+50)

↳【暗視の護符】(暗視耐性+100)

↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)


所持スキル


≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳〈セイヴァー〉――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

↳〈カノン〉――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

↳〈ブレイジング・エッジ〉――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。

↳〈ブレイジング・ノヴァ〉――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。

≪錬成強化≫【Lv80】――武器レベル“80”までの武器を錬成強化することができる。

≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【27】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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