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闘争の世界 ep.37 『準決勝その②』


 神速の勢いで繰り出された突きが<シーン・ボルト>迎撃のために足を止めたイッキに迫る。

 交差するように双剣を振り抜いた直後に合わせた攻撃のタイミングは絶妙だと言わざるを得ない。仮に俺がムラマサの攻撃を受ける立場だったのなら、できることは精々体勢を崩すことを厭わずに強引な回避くらいのものだろう。

 アーツを放った自分と入れ替わるように前に出たムラマサの後ろで俺は次の攻撃に備えていた。

 閃騎士の剣を構えて、双剣使いのイッキの後ろにいる弓矢使いのキュウキに狙いを付ける。


「掠っただけみたいだな」


 自分に当て嵌めて考えたのと同じようにイッキは強引に体勢を変えることでムラマサの突きのアーツを回避しようとしたらしい。しかし結果としては突きの速度の方が勝り左肩を穿つ結果となっていた。

 ダメージもさることならが、左肩に大きな損傷を受けたことでイッキは一時的に双剣を振るうことができなくなったようだ。


「このまま押し切らせてもらうよ」

「いや…下がれ、ムラマサ!」

「ん?」

「くっ、遅かったか」


 ダメージを受けたことで反撃に移れないイッキを攻め立てようとするムラマサを制止した俺が注意深く細かな挙動を窺っている相手はその二人ではなく後ろにいるキュウキだった。

 矢を番えた弓を天に向けて引く姿に気付き即座にムラマサに声を掛けたが、間に合わなかった。むしろ俺の声を合図にしたようにキュウキは空に向けて矢を放ったのだ。

 天高く昇る矢は光に包まれ、最高到達点に達した瞬間に無数の光の矢に分裂して降り注ぐ。

 おそらく俺もムラマサも攻撃の範囲に入っている。だが、中心地に近いのは明らかにムラマサの方だった。


「回避、いや、迎撃した方が確実か!」


 閃騎士の剣を天に向けてすかさず<シーン・ボルト>を放つ。

 放たれる鏃の砲撃が降り注ぐ矢の一部をごっそりと削り取っていた。


「足りない!?」

「いや、十分さ」


 直線に飛んでいく鏃によって作り出された一本の道。矢が振ってこない唯一の道がそこに生み出され、ムラマサは素早くその中を駆け出していた。

 走るムラマサのすぐ隣を無数の矢が降り注ぐ。

 しかし光の矢は一本たりとてムラマサの体に当たることはなかった。


「チィ!」


 イッキは動かない左腕を庇うこともしないで右手に持つ剣だけを迫ってくるムラマサに向けた。


「ふっ」


 白狼という名の刀を携えて駆けるムラマサは小さく笑みを浮かべて余裕の表情を浮かべてその横を通り過ぎていた。


「何!?」

「悪いね。狙いはキミじゃないんだ」

「まさか――!? キュウキ! 狙いはそっちだ!」


 咄嗟にムラマサの狙いに気付いたイッキが弓を構えているキュウキの名を呼んだ。その声を受けて自分が狙われていることに気が付いたキュウキは慌てて正面から近付いてくるムラマサに向けて矢を構えた。

 迫るムラマサに向けて何度も何度も繰り返しキュウキが矢を放つ。

 アーツは発動しないまま放たれた矢をムラマサは的確に、そして簡単に切り払っていく。

 止まることの無いムラマサの歩みはまさに死神が近付いてきているように見えたのだろう。徐々に焦りを露わにしていくキュウキがそれでも後ずさりすらしないのは、ここにまで勝ち残っているプレイヤーとしての胆力の成せる技だろうか。

 最接近を許し、いよいよ弓を剣の如く構えて対応するしかなくなったキュウキに振り上げられた白狼の刃が迫る。


「仕留めた!」

「やられる!?」


 ムラマサとキュウキの声が重なる。

 驚愕に目を見開き唯一動く右手を伸ばしているイッキの後方で俺は変わらず閃騎士の剣の切っ先を向け続けていた。

 一つの決着を迎える。そう予測した俺だったが視界の隅から迫る二つの巨大な塊が覆した。


「ユウ、そこを退け! 危ないぞ」

「避けてくれ、イッキ」


 槍とハルバードが切り結びながら移動と共に戦闘の舞台の上を駆け回っているハルと岬。近くに居る存在を踏み潰しながら進む獣の群れの如く戦っている二人が奇しくもキュウキに致命的な一撃を与えようとしているムラマサの間に割り込んだ。


「<シーン・ボルト>!」


 急ブレーキを掛けるように速度を落とした二人に向けて、正確にはその片方である岬に向けて砲撃のアーツを放つ。

 俺の存在を認知していながらもハルとの戦いに集中するあまり意識が薄れていた岬はまともに鏃の一撃を受けてしまう。

 衝撃を受けてよろめく岬。


「手を出しちゃまずかったか?」

「いや、こういう戦いだからな。何も問題ないさ」

「そうか」


 よろめいた岬をハルバードで殴り飛ばしたハルは軽い口振りで俺に合流してきた。


「全員集まったみたいだね」


 ハルと岬の介入によってキュウキに対する攻撃を中断させられたムラマサがゆっくりと周囲を警戒しながら駆け寄って来た。

 集合したムラマサに開口一番ハルが問い掛ける。


「無事か?」

「誰に言っているのさ。ハルこそ、随分派手に戦っていたみたいだけど」

「まあな。けっこう強いぞあいつ。今ひとつ攻めきれなかった」

「だろうね。ダメージは……問題無いみたいだね」

「誰に言ってるんだ。二人もまだやれるよな?」

「当然」

「ムラマサ見てくれ。イッキに与えた損傷が回復したみたいだぞ」

「んー、どうやらダメージはそのまま。成る程ね、戦い影響が出る程の損傷は一定時間で消えるようになっているのか」

「感心している場合かよ」

「構わないさ。ダメージレースではまだこちらに有利なままだからね。それに、最初と何も状況が変わっていないと思えばさほど困る問題ではないはずさ」


 背中合わせに三人で並ぶ。

 孤立しているイッキが前に、合流したキュウキと岬が後ろに位置するように俺たちを挟み込み立っている彼らを見るに中断してしまっている戦闘が再開される瞬間を待っているかのようだ。


「ユウ」

「わかった」


 号砲代わり、というよりも自分たちのタイミングで戦えるようにと先制攻撃を仕掛ける役割は俺だ。


「<シーン・ボルト>」


 二人並んでいるほうに目掛けて砲撃のアーツを放つ。

 だが、鏃が彼らに辿り着くよりも前にキュウキの持つ矢から放たれた一筋の光が俺たちの間を貫いた。

 それだけじゃない。自ら分立していた、あるいはされていて孤立していたイッキが驚くべき跳躍を以て背中合わせに立っている俺たちの中に降り立った。


「うそっ」


 声を引き攣らせて驚くハル。

 俺とムラマサは冷静にイッキに目掛けてそれぞれの武器を振り抜いた。


「避けられた!?」

「だろうね」


 俺とムラマサの同時攻撃を再び軽業のように跳躍することで回避したイッキにハルは先程以上に驚いていたが、ムラマサそれが当然のことであるというように受け止めている。


「あれがイッキってプレイヤーの本来の戦い方ってわけか」

「どうかな。オレが戦った時はまともな双剣使いに思えたけれど……」

「曲芸師って言われても納得するぞおれは」

「はははっ、同感だね」


 自分たちと同じように三人全員が合流したイッキたち。


「来る!」


 再開直後の俺のアーツで流れを掴んだつもりだったが、実際はキュウキの矢とイッキの曲芸混じりの動きで向こうに移ってしまった。

 そうして相手の攻撃が始まる。

 前衛を担うのは槍使いの岬。後衛は弓矢使いのキュウキ。双剣使いのイッキは遊撃として自由自在に動き回る。これが彼らの本来の戦いの組み立て方なのだろう。

 相対する俺たちはその対応に集中せざるを得なくなる。

 とはいえ一度対峙した相手だ。百八十度動きを変えたとしてもベースとなる動きを知っているからこそ、全くの初見で対応するのとは訳が違う。

 その為に先程まで岬と戦っていたハルではなくムラマサが対応してみせた。


「嬉しいね。今度は君が相手をしてくれるのか!」

「よろしく頼むよ」


 ムラマサは白狼を槍と打ち合わせることはしない。

 防御ではなく回避を念頭に動き、より接近した瞬間に白狼を振るう。そうして紙一重の攻防を繰り広げている二人のリズムを掻き乱すように立ち回るイッキの双剣に閃騎士の剣を打ち合わせた。


「くっ、合わせてくるか」

「このくらいならね」

「言ってくれる」


 剣戟もさながら舌戦を繰り広げている俺たちの横をハルが突進していく。狙いは矢を放っているキュウキだ。

 近付けたのならハルが有利、距離を保てたのならキュウキが有利。

 互いに合流を果たしたというのに結局繰り広げられるのは個人同士の戦い。

 これまでと異なるのはそれぞれが戦っている位置が離れすぎていないこと。

 攻防していると自然と移動することになる。そうして別の人たちが戦っている場所に近付いた瞬間には、自然と呼吸を合わせて戦うことになる。

 決定打に欠けたまま小さなダメージだけが積み重なっていく。

 そんな拮抗状態を破ったのはハルだった。驚くことに自らに向かって放たれた矢を避けることなくその身体で受け止めて、怯むこともなく前進し続けたのだ。

 あまりの光景に俺やイッキは思わず戦いの手を止めてしまう。それはムラマサと岬も同じだった。


「おおおおおおおおおっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」


 獣のような咆吼を上げてハルが大きくハルバードを振り抜いた。

 彼が使用したアーツは<剛切轟断(ごうせつごうだん)>。それはハルが使える中で最も威力が高いアーツだ。

 避けられないと悟ったキュウキは最後の抵抗だというように意を決して弓のアーツ<弓技・猛る星・恒星>を放った。

 ハルが使ったのと同じでこの弓のアーツはキュウキが使えるアーツの中も最も威力の高い。しかしその目的はハルの<剛切轟断>を迎撃するのではなく、ハル自身に残るHPを全て削り取ること。自身の敗北とハルを倒すことを天秤に掛けて、より自分たちの勝利に繋がる方を選んだのだろう。

 決死の激突は凄まじい衝撃波を伴って一拍の空白を作り出した。

 息を呑んで無言になる俺たち。

 キュウキはハルバードの一撃によって胸に大きな切り傷が刻まれ、ハルは弓矢の一撃によって心臓の位置に拳ほどの大きさの穴が開けられてしまった。

 はっと上を見上げる。

 戦いの舞台の上空に表示されている六人分のHPゲージ。その中の二つが、ほぼ同時にゼロになった。


「よくも、キュウキを!」


 双剣を振りかざして仕掛けてきたイッキに閃騎士の剣を打ち合わせることで対応してみせる。

 仲間が倒されることに慣れていないのか、イッキは頭に血が上ってしまったかのように駆け引きも何も無いまま双剣を振り回し続けている。


「させるかよっ」


 二本の剣に俺はただ一つの閃騎士の剣で打ち合わせなければならない。

 しかし先程までみたいに冷静に動かれている時とは異なり、今ならば対処することもそう難しくはなかった。

 右、左、また右と繰り出される双剣を的確に打ち払う。

 次第に防御混じりの打ち払いから、攻撃混じりの打ち払いへと変化していくのだった。


「そこだっ。<マグナ>」

「うぐっ」


 両手の剣を弾き上げてガラ空きになった腹にアーツの光を宿した拳を叩き込む。

 前屈みになって呻くイッキを俺は再び<マグナ>を発動させて殴り付けた。

 次に狙ったのはその横っ腹。

 剣を持たない左の拳で連続して打ち付けることで徐々にイッキのHPゲージはゼロに近付きつつあった。


「くっそ、しつこい!」

「だろうな。だから、これが最後の一撃だ」


 キッパリと言い切った俺をイッキが目を精一杯見開いて見定めると、両脚で舞台を踏み締めて双剣を構えた。

 この状況からイッキが俺を倒すには最大の攻撃を行う必要がある。

 アーツ発動の予兆に細心の注意を払っていると案の定、二つの剣の刀身に光が灯された。


「<アンフェス・バイト>!」


 刀身を包む光が蛇の頭のような形に変わり、それが左右から俺を狙っている。


「俺の方が速い! <イグナイト>!」


 迫る双頭の蛇の顎を眼前にしてもなお怯えることなく、冷静に、そして最大のダメージを与えられるように狙い澄まして閃騎士の剣を振り抜いた。


「それでも、ギリギリか」


 仮に双頭の蛇が生物だったのなら、それは鼻息が俺の顔に当たるほどに近付いている。

 右と左、同じ距離で、同じ形をした蛇の頭が徐々にその色を薄くしていく。

 まるで蜃気楼の如く揺らめいた双頭の蛇は、それを生み出したイッキと一緒にこの場から姿を消した。


「……ふぃ」


 閃騎士の剣の切っ先を下げて深く深呼吸をして目を閉じる。

 再びカッと目を見開いて残す最後の戦闘に視線を送った。


「ムラマサはどうなった?」



ユウ レベル【21】


武器


【閃騎士の剣】――とある極東の剣を学んだ亡国の騎士が携えたと言われている剣。白銀に輝く刀身は命無き者を葬り去る。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


【成竜の鎧】――成長を遂げた竜が身を守る鱗の如き鎧。成竜の脚は数多の地形に適応する。


習得スキル


≪闘士剣・1≫――<イグナイト>発動が速い中威力の斬撃を放つ。効果は攻撃が命中するまで持続する

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。

≪竜冠・1≫――<竜冠>自身の背後に竜を象った紋様を出現させる。紋様が出現している間は攻撃力が増加する。効果時間【スキルレベル×3秒】


残スキルポイント【1】


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